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☆☆☆


3日前。

「高校生か〜」「めんどい〜」

など、数々の言葉を耳にしながら俺は指定の席に座っていた。


今日は入学式当日である。まぁ入学式とは言っても通う学校は変わらないわけであり、また友達という名の者もあまり変わらない。なぜそんなに騒ぐのか俺には理解不能だ。


入学式まではあと10分程度しかない。普通は静かに座って待つのか当たり前なはずだが、周りは立ち歩きべちゃくちゃ騒いでいる。しかも巨大な体育館なので、その騒ぎがよく響く。10分前にも関わらず教師が誰1人いないのもどうかとは思うが、高校生にまでなって時間を見て行動できないのもどうかと思う。


1クラス約40人で、俺の出席番号は13番だ。体育館を2等分して、半分男子半分女子という風に座る。前から1組2組と計15組まで。クラスごとに右から横列に並ぶので、俺は1番前の右から13番目に座っている。俺のクラスで静かに座っているのは、俺を含めて16人。半分しか座っていない。他のクラスも大体同じぐらいで、全体で約240人程度しか座っていない。約500人いるうちの約半分しか座っていないというのは、俺にとっては恥ずかしいものだ。なぜ立って喋るのかよく分からない。座って喋ればいいものを。


と、隣に誰か座ってきた。いや、誰かは知っているのだが、あまり関わりたくない奴。


「よぉ龍将!高校になっても同じクラスだな!とても残念だ!」


「うん、なら俺の視界から消えて」


この男子版ツンデレ野郎――津田周治つだしゅうじはいつも通りに話しかけてくる。俺の、唯一の男子友達であるのだがあまりにツンデレすぎるので、ほぼ放置状態。こいつもこんな性格だから友達は俺のみ。『ぼっち同士』と言って方が妥当だろうか。いや、俺は正確には『ぼっち』ではないのだが。


「ほう……?そんなことを言ってもいいのかな?」


「お前が最初に言ったんだろ」


「ムム……われぬしの秘密を知っておるのだぞ」


こいつは自分のことを『われ』といい、人のことを名前か『ぬし』と呼ぶ。ちょっとそこは痛々しいかな。


秘密……俺は常にオープントーストだから秘密なんてない――っ!?


「ヌフフ」


周治の手には3枚の写真が!


「これは主が2年前、帰り道に寄った本屋さんで買ったエロほ――」


「黙れぇぇぇぇぇぇぇ!」


1枚目は、俺がエロ本を買っている写真。いつの間に撮りやがった!?


「これは主が去年、帰り道に寄った本屋さんで買ったエロほ――」


「やめてくれぇぇぇぇぇぇぇ!」


2枚目は、俺がまたまたエロ本を買っている写真。マジこいつストーカーかよ!?


「これを見ると、2年前はヒップ全集、去年は巨乳全集と、好みが変わったことが確認される」


「冷静に解説するのやめてくれませんかね!?」


なんだこいつ……マジ消えてくれ……。


「これは、今年主が買ってきた、コンド――」


「なんちゅーもん学校に持ってきてんだ!?」


「なんちゅーもん買ってんだ!?」


「買ってねぇよ!」


「嘘つけ……我は見たぞ……主がドン・ホーテでこれを、男性器に装着する避妊道具を買っているところを」


「そんな卑猥な言葉を真顔で、しかもキメ顔を言える周治さん、マジぱねっす」


俺はさげすむように周治を見た。依然、周治はキメ顔。


「……というより、俺がドン・ホーテで買ったのはただの『ゴム』だ。お前いい加減訴えるぞ」


「……そんな嘘みたいな弁明日本語で言えるお猿さん、マジモンキーだね!」


「お前俺のことなんだと思ってんだ!」


「お猿(笑)」


「絶交だわ!」


なんだよこいつ……英語わかってんのかよ。なんだよマジモンキーって。マジ猿ってなんだよ。猿が日本語で言えても猿のままなのかよ。せめて人間にしてやれよ。


というかこいつはなんでコンド――男性器に装着する避妊道具を買って学校持ってきて、堂々と体育館で出すなんてワイルドすぎるだろ。


いつの間にかだんだんと席が埋まっていく。

その時。1人の女子と目が合ってしまった。その女子は、俺と目が合うとニコリと笑った。すぐに席に座ったが、俺はその短い時間が長く感じた。


俺と同じクラスだ。座った席が1組のところだから間違いない。でも誰だろうか?小学校からいるのなら知っているはずなのだが、見覚えが一切ない。まぁこのマンモス校において全員を覚えることはほぼ不可能であるのだが。多分、高校から入ってきた者だろう。

と、瞬時にすべての考えを捨てて前に集中した。それと同時に入学式が始まった。


また龍将りゅうしょうと呼ばれた……ありえない……振り仮名ぐらい書いとけよ……何年目だよいい加減にしてくれよ……てか俺の戸籍どうなってんだよ……実はりょうしょうだったりするのか?え?マジ?


入学式が終わり、教室に戻って帰りの準備をしている時。5、6人の男子の集団が俺に近づいてきた。


体格が良さそうなリーダー格の少年が不気味に笑いながら近づいてきた。


「おい龍将。少しツラ貸せ」


なんだそのかっこよく言ってみました感は!というツッコミは入ることは無い。こいつは違うのだ……いや、俺以外全員違う。正確には俺が他とは違う、と言った方が妥当かもしれない。


大人しく俺は着いていく。


連れて来られたのは、テンプレとも言える屋上。なんだよ、そんなに屋上好きなのか?


「てめぇーまたりゅうしょうとか呼ばれてたな!ハハハ!」


「……」


なんだそんな事で俺はここに呼ばれたのか。


「なんだその目は?の分際でに刃向かうのか?」


「……っ!」


「おいおい犯罪者はこえーな……」


うるせぇな。


「さすがはだ」


それ以上言うんじゃねぇよ。

いや、俺も挑発に乗るな。乗ったら俺の負けだ。


「なんか言えよゴルァ」


すねを足で軽く蹴ってきた。わりと痛い。

周りの男子はケラケラ笑っている。

言うことなんてお前らにはない。お前らと話す権利もない。


「……そうやって黙ってれば見逃されると思ってんじゃねーぞゴルァ」


「――せぇよ……」


「もっと大きな声で喋れよ人殺し」


「うるせぇって言ってんだよ、この人間のクズが」


「んだとゴルァ!やっちまえ!」


瞬間、5、6人の男子が一斉に殴りにかかってきた。

俺も殴りにかかった。


6対1で勝てるわけがないことぐらい分かっていたのに。何故だろうか、俺は挑発に乗ってしまった。いつもいつもそうだ。小学校の頃から何も変わらない。小学校の頃から毎日のようにこれだ。もういい加減慣れた。


――これがだ。


これが人間社会というものだ。強い者が弱い者を支配する。これはこれから先、絶対に覆ることはない定め。


ボコボコにやられた俺は空を見ながら、そんなことを頭の中で言っていた。

そして、立ち上がろうとした時。


「あの〜大丈夫?」


と、青空の中に人の顔が現れる。

こいつ入学式の時に目が合った女だ。同じクラスで名前は……えーなんだっけな……


「私、筧藍里かけひあいりって言うの」


あーそうそう。なんか名字と名前が合ってないやつな。なんか言いにくいんだよね。かけひあいりって。


「それより……」


「いや、気にしないで――ぬお!?」


「ど、どうしたのっ!?」


吐血してしまった。

だってパンツ丸見えだもん。可愛らしいピンクと白のボーダー柄パンツ丸見え。こんにちわ〜!


この女……反則級な天然ドジっ子だ!マジか……俺の1番大嫌いなタイプのやつだ。こういうやつこそ、作りものだしブリっ子っぽいからな。嫌いなタイプの女だよこいつ。


だが、健全な男としてはパンツが見れただけでも死ぬ。

藍里は気づいてないようだ。今ならガン見し放題だぞ、龍将。


「大丈夫!?」


「ご、ごめん……」


というよりこういう学園ラブコメみたいな展開俺にはいらねーんだよ。そんなものあるだけで無駄だ。


「さっきの人達酷いね」


見てたなら助けろや!

って女子が男子6人に敵うはずないか……それはさすがに理不尽か。


「はい」


と、藍里は手を差し伸べてきた。


――そんな嘘の優しさ俺にはいらない。


俺はその手を取ることなく立ち上がった。

藍里は少し戸惑ったが、すぐに話しかけてくる。


「……い、いつもあんな感じなの?」


「あぁ……だからなんだ」


「いや……その……」


「……あまり俺と関わらない方がいいぞ。それがお前の身のためだ」


「……」


そうだ。それでいい。

俺は藍里に背を向けて扉へと向かう。

俺と関わる者は全員不幸になる。そう、全員。

だから、俺とは関わらない方がいいのだ。

俺は1人で生きていかなければならない。それが俺の運命だ。


「……でも」


その言葉で俺は立ち止まってしまった。

なんでだろう。別に、立ち止まる理由はないはずなのに。


「でも、困った時は私に相談してね……」


「初対面なのになぜそんな事が言える……?」


俺と藍里は体育館では目は合ったものの、これがほぼ初対面となる。

初対面の相手に、こんな言葉を言うなんて非常識なのか、ただのバカなのか。


「さぁなんでだろうね……アハハ……」


俺は振り返る。


「……お前……そういえばなぜここに?」


「ちょっと気になったから……君の後をついてきたんだ……そしたら、あんなボコボコに……」


「いわゆるストーカーというやつか」


「えぇっ!?」


素っ頓狂な声を発する。

いや、だってそれストーカーだろ。周治と同レベルのやつかよ……。


「冗談冗談」


「びっくりしたぁ〜……でもごめんね。勝手に後ついてきちゃって」


びっくりしたぁ〜ってこっちがびっくりだわストーカーめ。


「いや、別にいいよ……お前が助けにこなかっただけありがたい」


「え……?」


それはそうだ。こいつが助けに来たらこいつの学園生活が台無しになってしまう。あいつらは俺の味方をする奴全員が標的だ。だからこいつが介入した時点でこいつは標的。つまり、俺のように容赦なくボコボコにされる。

……いや、物理的にはしないかもしれないが、精神的に追い詰めるだろう。


――いわゆるイジメとかいうやつだ。


イジメというのは、やられている本人がイジメと思ったら、その時点でその行為はイジメとなる。逆を言えば、やられてる本人がイジメと思わず、遊びだと思っていたら、それはイジメにはならない。第3者がなんと思おうが、やられている本人が認めない限りイジメにはならない。俺はそう思っている。


だが、1つだけ確実的なことがある。


――イジメは絶対にやってはいけないもの。


だから俺は、こいつを巻き込みたくない。俺以外の奴がイジメられているのを見るのはもうゴメンだ。


──俺だけで十分だ……。


「お前が助けに来ていたら、お前がイジメられていた」


「……アハハ……君優しいね……」


「どこがだ……俺は……俺はだ……」


「そういえば、さっきもそのような事言っていたけど……」


まぁいい。こんぐらい話しておかないと俺から離れないだろう。そうだ。俺から引き離すために話すんだ。


「……」


「?」


だが、話したところでどうなるのだろうか?こいつの場合何か変わるか?


……やっぱりやめておこう。

こいつには、そんな話よりも俺から強制的に引き離せばいいだけの話だろ。


「……なぁお前はなぜ俺に話しかけてくる?こんないじめられっ子に話しかけて、お前は何を得する?評判か?私いじめられっ子と喋ってみんな平等に話してます〜!とかいうくだらねぇことか?」


「そ、そんなつもりは……」


ふん……。


「どうせお前もあいつらと同じなんだよ。傍観者もいじめっ子に入るんだよ。なぁいじめっ子さんよ?」


「……ふざけないで……」


「あん?」


「ふざけないでよ!」


その言葉に俺はなぜか口が開かなくなった。


「何自分を犠牲にして私をいじめられないようにしようとしてるのよ……何被害妄想してるのよ……辛いのは君だけじゃないんだよ……世の中にはご飯だってロクに食べれない子だっているんだよ……」


「そんなの知ってるけど……」


「だったら!なんで自分を追い詰めるようなことするの!?……そんなんじゃ……そんなんじゃいつか自殺しちゃうよ……」


「何言ってんだ。俺はそんなことしない」


「あぁもう!なんで君は……君は……なんでそんなに優しいのよ!」


「……」


「私は、ただあなたと友達になりたいだけなのに……なのに……」


「おいおい……俺ら初対面だろ?初対面の相手とこんなシリアスみたいな展開になる理由がわからん」


「……初対面じゃないのよ」


「は……?」


「だけど、君がいつまでもそんなのなら教えられない……」


「は?何を言って――」


「津我龍将!小学校1B2C3E4O5N6A!中学校1B2B3F!誕生日は1/31!血液型はA!性格はひねくれぼっちだけど優しい!」


次々と俺の情報を言っていく。やっぱストーカーかこいつ。

ちなみに、AとかBとか言っているが、11と言いにくいので、Aを1組Bを2組と言いかえている。


「どうよ……これでも初対面じゃないと言いきれる?」


なんだよこいつ……。


「……言いきれない……」


ストーカーだけど。


「……じゃあ私の事を思い出すまで、私は君に付き纏うわよ!」


「な……!」


なんなんだこいつ……急に現れて怒られてシリアスモードになるわ、そしたら初対面じゃないとかよくわからないこと言ってくるわ……頭の中がごちゃごちゃになってきた。

その前に、俺が言葉で負けたのはこいつが初めてだ……。


急にシリアスになりやがって……俺は認めんぞ……こんな非常識なやつが昔会ったことがあるなんて……。


いや、そもそもなんなのこの学園ラブコメ入りました〜!とかいう感じは。そんなの必要ない!


絶対にさっさと思い出して、今まで通りの生活を送るぞ……。


「こう見えて、私小悪魔だからね……!」


このストーカー…………………胸がでかい!

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