学園ラブコメなんて俺は認めない
高橋創将
1章 学園ラブコメ?何それおいしーの?
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――学園ラブコメ?何それおいしーの?
一昔前に少し流行った言葉を、脳内で連呼する。
いや、だって学園ラブコメってなんなの?「俺モテるんだわ〜!」とか「ハーレムな俺かっけぇ〜!」とかいう自己中かつ頭おかしい人がやるものだろ。
そもそも、『ラブコメ』って『コメディー』いれる必要あるのかよ。『ラブ』だけで充分だ。いやさ、確かに『コメディー』あった方が作品的にはいいよ?『コメディー』ない作品だったら俺そんな作品買わねーもん。でもさ、それ『現実世界』で必要ですかね?いらないよね!
――学生は勉学に励むべし!
『学園ラブコメ』なんてものをしてたら人生おしめーだよ?人生バラ色にしたいなら勉学に励め!それが俺からの……言葉だぁぁぁぁぁぁぁぁ!
☆☆☆
「
「はぁ」
生徒指導室で、ロングヘアーに黒い額縁メガネ、猫みたいに可愛らしい顔をした女教師。
その教師とワンツーマン状態になっている俺は、目の前に並べられた紙に視線を落としながら脳内で18禁を考えていた。いや、説教を喰らっていた。
「だがなんだこれは……」
先生は1つの紙に指を落とす。
「この自己紹介カード……『特技・1人鬼ごっこ』……『自慢できること・1人鬼ごっこ』……『好きなこと・1人鬼ごっこ』……全部1人鬼ごっこじゃないか!」
「1人鬼ごっこ大好きなんで」
特技と自慢できることって似ているような気がするのだが。
そもそも、1人鬼ごっこの何が悪いのだろうか?特技なんだからしょうがない。好きなんだからしょうがないじゃないか。別に、ぼっちとかそういう理由ではない。ただ、特技であり好きであるというだけだ。そうだかんな!?橋本か〇な!?
「そしてこっち」
その次に、隣の紙に指を落とす。
これも自己紹介カードなのだが、その書く内容が違う。
「『みんなに言いたいこと・学園ラブコメなんてしてねーで勉学励め!』……『これからみんなとしたいこと・勉学』……確かにお前の言う通りだが……ユーモアというか、もっと違う言葉があるだろ?」
「高校生は勉学に励むべし……それは当然だと思いますけど?」
高校生だけではない。中学生も小学生でもだ。学生は勉強を学ぶための時間である。だから、学園ラブコメなどと言うくだらないことに時間を費すのには勿体ない。
教師なのだから、それくらいわかるはずだ。というか教師は勉強を教えるための存在であるのではないか?ならば俺に賛同するべきである。なのに何でこの教師は俺を否定しているのだろうか?
「いや、そうなのだが……」
ほら、言い返せない。というかわざわざこんなことだけの為に俺は家でアニメを見る時間が削られてるのか……(いや、お前こそ勉強しろよ(笑)
「お前なぁ……まだ入学して3日目だぞ……」
「そうですけど……?」
実はまだ高校生活始まって3日目である。一昨日入学式、昨日いろいろやって、今日もいろいろやった(いろいろってなんだよ……)。
「……お前……イジメられてるのか?」
「率直すぎませんかね!?」
なんだこの教師。もう少し配慮ってもんをしろよ。
イジメられてるわけないだろ……うん。そんな言葉も使ってはいけないと思う。俺はそんな言葉は大嫌いだ。
「いや、あまりにも内容が……アレだったもんでな」
「なんか卑猥にしか聞こえないんだけど!?」
「……すまなかった!」
急に土下座をする先生。
「まさか……まさか……お前がホモだったとは思ってもいなかったよ……!」
「どこからそうなった!?」
「いや、お前いじられてんだろ?」
「1語抜けてるわ!」
「……ところで――」
この人急に話かえがった。スルーしやがった。
この教師――
「津我、お前の下の名前なんだ?」
「あんた本当に教師か!?」
普通、覚えるはずだろ。わからんけれども。
でもこれが普通なのかもしれない。所詮俺はその程度の人間というわけだ。そして、所詮人間というものはこういう生き物であるのだ。興味のない奴のことなんて頭に入れようともしないし、覚えようとすらしない。いや頭にも入れるし覚えようとはするのだが、脳がそれを拒絶して消させるのだ。
だから、新学年始まっての恒例〈自己紹介タイム〜♪〉などというものは無意味なものである。誰も俺の自己紹介なんて、興味ないし聞いてすらいない。
……ひねくれている、とかよく言われるが、俺は事実を言っているだけだ。まぁ人によって受取り方は違うのでどう思われようと知ったこっちゃーないが、俺の意見をひねくれている、とかいう一言で片付けるのはやめてほしい。もっと深く深く考えてみようではないか。
「……
偽名を名乗っていたわけではないのだが、なんとなく「本名です」と言ってしまった。
俺の名前は正直ダサいと思う。まず漢字。下の名前のほうさ、
俺は
「へぇ……案外かっこいい名前だな」
一言余計だっつーの。案外、ってなんだよ。俺そんなような名前に見えないの?
「……ところで岡先生、説教の続きはいいんですか?」
「あぁそうだったな」
と言いながら、さっきの土下座でズレた机やイスを元に戻す。そういうところは人間なんだな。
みんな先生の呼び方はそれぞれだ。俺は『岡先生』と呼んでいる。人によっては、『岡ザエル』とか『岡えもん』とか『岡っち』なんて呼んでいる。ほとんどパクリですけどね。
「……お前、本当に小学校の頃から変わってないな……」
「いや、だいぶ変わってると思いますけど……」
「小学校の頃に何があったんだ?」
「……先生には関係の無いことです」
「そうか……」
小学校の頃。先生は俺の事を小学校の頃から知っている。いやそれが普通。
この
小学校はそこらへんの小学校と何も変わらない。中学生も高校もだ。ただ、高等学校に関しては少しだけ違う。この学園、一貫なのに高等学校は別のところに行ってもいいらしい。つまり通常はそのまま上がれるが、希望があれば他の高等学校に行ってもいいし、他の中学から生徒も受け入れる。他の中学から来る場合、入試というものを受けなければならないが、中学生からそのままの上がりであれば入試の結果に関わらず入学ができる(入試は必ず受けなければならない)。小学校から入ってる者は得をする。
この学園、普通の小学校とは違い私立小学校である為入学するのには何百万というとてつもないお金が必要になる。俺は『推薦』という形で入学した。つまりお金はタダ。こんなにお金がかかるので、誰もこないかと思いきや全国各地から押し寄せてきて、今や小中高合わせて4000人近くいるマンモス校になっている。その為かこの学園はちょー金持ちだ。
今、俺の学年は約500人の全15クラスある状態だ。一応、俺は1年1組だ。このクラス配分、実は入試の点数でクラスが振り分けられている。どんな風になのかはわからないが、多分均等になるようにされていると思う。そうでもしないとイジメとか起きる心配があるからだと思う。
教師もそれなりにもいるわけで、高校生まで着いてくるのはありえないのだが、この岡先生は小1からずっと俺のクラスの担任だ。もう今年で10年目になる。なのに名前覚えてねーのかよ!どんだけ興味なかったんだよ!
「まぁなんかあったら私に言いたまえ。なんでも解決してやるよ、
「
なんか絶対わざとなんだけど、ちょームカつくし、なぜかツッコミをしてしまう。
「……さて、説教はここまでだ。さっさと帰れよ」
「はい」
先生はそう言いながら、机に広げてあった紙をまとめ始めた。
俺も帰る準備をして、席を立つ。そして、ドアを開けて出て行こうとした時、先生から声がかかった。
「津我……1個聞きたいことがある」
「なんでしょうか?」
「……君は一体何を信じて生きているんだ?」
「……自分とある一部の人間だけです」
「なぜだ?」
「――人間が残酷な生き物だからです」
そう言って、俺は1度やってみたかった「メガネをくいっと上げて」生徒指導室を出て行った。
俺の言葉を聞いた先生が、笑っているように見えたのは気のせいだと思う。
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