第2話 アジアの平和


次の日、会議は午後4時の定刻に始まった。議題としてはアジア圏に影響が多い内容に絞られた。従って、9・11事件のアルカイダ問題や ヒンズー教とイスラム教を起因としたインド・パキスタンの紛争などの参加国の極東アジア地区に影響の懸念が薄い問題は別部会が設けられて話し合われることが決まっていた。議題としては、重要視されている北朝鮮の政権交代後の混乱、および麻薬・偽造紙幣とテロ活動などの五つの議題を中心に話し合われた。

各国は政府の決定権を持つ代表ではないので、各問題を解決する討議ではなく、それぞれの問題が今後もある程度継続して起こることを前提に国際犯罪やテロの防止策を協議するのが今回の会議の目的である。いわゆる、実務者レベルの会議ということになる。

会議ではテロ対策のほか資金洗浄(マネーロンダリング)、麻薬、武器の密輸などの議題を協議する。米国代表のマイケルや国防省の連中は、殆どすべてに何らかの関係を持っているし、世界の見地に立った相対的な解決を求めるのに対して、その他の各国は自国の関与することを中心とすることを主眼としていた。したがって、対米国姿勢をとる各国に対して米国がいかに包括的な強調を引き出せるかが会議の焦点となっていた。

翌日、会議が始まった。

大きく分けて、宗教や領土問題に関係するテロ、といわゆる商業的なテロ、つまりシンジケートや違法行為に絡む問題に分けられて討議される。国際テロと言っても国内や異宗教間のテロと、国籍、宗教、人種などに関係なく無差別攻撃目標を計画するグループに分かれ話合われるが、国際協調の足並みが問われるのは後者である。さらに、最近は無差別に攻撃するケースが多々みられ、今回の会議の場合、アジアにおける情報網の確立と連携活動が仔細に討議された。

西暦2025年の今日でも、アルカイダ、武装イスラムグループ、ハマス(イスラム抵抗運動)、ハラカト・ムジャヒディン、アル・ジハード、中東諸国に点在するテログループの活動が報告されており、会議参加各国の協力体制が急務となったわけである。特に、過去からの諸問題に起因してテロ国家という位置づけの北朝鮮が大きな議題となった。

北朝鮮は長きに亘ったキム・ウンテの独裁支配に基づくテロ行為が意外のほかアジア全体に及んでいることが確認された。アジアを中心に約500名の工作員が確認されており、スリーパー(休眠工作員)と呼ばれる潜伏中の工作員は1000名以上だといわれている。また、無差別爆破テロや薬物テロの実行犯と思われている工作員が19名確認された。問題なのが、「顔が割れていない」 連中が殆どであるということである。各国は関与する国々への情報開示を早急に行うことで合意した。

北朝鮮は国内のクーデターによる内戦が約5年間続いたもの、2015年に新政権のキム・ソンナム指導になった後も、総書記制度を維持しており、大統領制、首相制などの国民の選挙による選出でないところが、いずれの共産主義国家でも同じであるが、どうもきな匂い。キム・ソンナムは一応、暫定的に総書記職に従事している旨の海外宣伝を展開しているし、巧妙な平和活動を展開・遂行しているとしているとしたプロパガンダに余念がない。情報統制を維持しながら、しかし、スポーツや音楽会、演劇などの文化交流を都合のよい国とだけ展開し、その光景を配信している。日本や韓国に対し生存確認が出来ないものが三割程度あったものの、拉致被害者の送還を行ったし、国連にも国際的にも、平和的国家をアピールし続けている。確かに北朝鮮は、一見友好的な活動を展開いてはいるが、ODA(政府開発援助)を日本や米国から引き出すためのものであるという見方が多く、事実は軍主導で金品が分配されるなど殆ど旧態依然とした独裁国家の内容が新政権後も続いている。 


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さらに、今回の議題は北朝鮮による外貨獲得のために新政権発足以前と同様に、ヘロインを中心とした麻薬、ドル札を中心とした紙幣偽造、さらに、アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、ドイツ、中国の順で6大武器輸出大国に続き、今では7位に北朝鮮が台頭してきており、このままでは一気にフランスとドイツを抜く勢いである。瀬戸際外交も一段磨きがかかってきた、と言える。

北朝鮮の新政権は安全友好国家である事を前面に打ち出したいが、テロ行為や麻薬輸出、ドル紙幣偽造とマネーロンダリーなどの反国際活動が表面化する事を阻止しようと必死になっている。

日本では北朝鮮と直接交戦となったのは21年前の1999年3月23日に起きた不審船侵入事件である。能登半島沖の日本領海内に北朝鮮のものとみられる不審船が侵入する事件が発生しており、特殊警備隊が出動し追跡中の巡視船で待機している最中に事件は起きた。その後の2001年12月22日奄美沖で、船籍不明の不審船が海上保安庁の巡視船「いなさ」と銃撃戦の末、沈没するという事件が起こった。

「海上保安庁巡視船、不審船と銃撃戦!!」とテレビ速報で流れ、緊張を持って国民はそのニュースに見入った。

実際にロケットランチャーと自動小銃による迫撃を受け、銃撃戦となった。日本からの追撃は20ミリ機関砲が火を噴き、186発の銃弾を浴びせた。銃撃戦が始まって1、2分たった時、突然、不審船に爆発が起きた。海保航空機の赤外線監視装置(IR)には、不審船内の2か所で爆発が起こり沈没する映像が映し出されて、全国ネットのテレビで放映されていた。船体に穴が開き、大量の海水が入ったのである。その直後不審船は海に沈んだ。最終的には、不審船の自爆で幕は閉じたが、所持していた武器と船体以外、北朝鮮への抗議に必要な十分な証拠は残らなかった。

もちろんある程度の証拠は発見されている。潜水調査の結果ハングル文字が書かれた救命胴衣も発見されている。しかし、日本国による「でっち上げ」として、絶対に非を認めず、不審船の存在自体も認めなかったため政府による効果のある交渉が出来ないまま、問題は忘れ去られた。北はそういう国なのである。しかし、拉致問題と並行して、北朝鮮の日本国に対するテロ的行為を国民がはっきり意識できるきっかけとなり、それ以外の日本国の国内の政治や治安混乱を狙った行為に対し、国民全体の強行的な意見が増えてきた。

日本政府も法整備を進め、国家公安委員会や自衛隊、さらに警察庁に指示し、あらゆる角度からの防御体制を確立してきた。その過程で、米国との強調が不可欠であり、再三、協議会や連絡会議が実施された。そのたび重なる会議の中でマイケルと雅人は出会ったのである。

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