第11話『クビになるОL』

 藪から飛び出してくる。そのタイミングを合わせ、透子は聖剣を思いっきり振り下ろした。

「おどりゃあ!」

「のわっ!」

 甲高い金属音が響く。確実に脳天をかち割るつもりで振るった聖剣は、また別の剣によって止められていた。

 その相手を視認し、透子は心底驚いた。

「あ、あんた冒険者の……」

「いきなり何しやがる! って、ダンジョンの姉さんじゃないか」

 その相手は、以前ダンジョンに来た冒険者――テオバルトだった。

「な、何でこんな所にいるのよ」

「それはこっちのセリフだっての。とりあえず剣を下ろしてくれるか。――お前もな、オスカー」

「へ?」

 間抜けな声を出すと同時、透子は首もとに当てられた冷ややかな感触に気づいた。

「わっ、わわわわわ!」

 慌てて飛び退く。つい今まで透子が立っていた場所、その背後に、冒険者パーティーの一人だったスカウトの女が立っていた。

オスカーと呼ばれたその小柄なスカウトは、何も言わずに短剣を鞘に納めた。

 胸部にはスポーツブラのような防具を身につけているが、面積も厚さも体したものではない。防御力よりも、動き易さを重視しているようだ。その傾向は下半身にも現れており、短いタイトスカートのようなものをはいている。そこからのぞく足は少し細いがとてもしなやかで、よく鍛え上げられているのがわかった。

 防具や衣服の下には、全身を包むようにタイツを着込んでるた。その全てが黒で統一されており、まるで黒猫のようだ。タイツのために顔くらいしか露出していないが、これはこれで扇情的と言えなくもない。体の凹凸は少なく髪も短いせいで、下手したら線の細い男に見える。

(アイエエエ……まるでニンジャね)

 ともあれ、殺されかけたのは間違いない。

「い、いつの間に背後にいたのよ」

 冷や汗をかきつつ尋ねるがオスカーは何も答えず、足音一つ立てずにテオバルトの背後に隠れた。そして透子の方をちらちらと伺っている。

「人見知りで不器用なんだ、すまねえな」

 がははと笑うテオバルトを後目に、透子は釈然としない気持ちで聖剣をベルトに差した。

「まったく、不意打ちなんて卑怯じゃない」

「その言葉そっくりお返しするが」

「私はいいの」

「ムチャクチャな女だ……」

 テオバルトの言葉に、オーク三兄弟もうんうんとうなずく。

 と、オスカーがテオバルトの肩をちょんちょんとつついた。

「おう、そうだったな。おういお前ら、こっち来ていいぞ!」

 どうやら他のメンバーは後方に待機させていたようだ。テオバルトの呼びかけに、残りの二人――巨乳僧侶のカーヤと全身鎧が姿を現した。

「一体何だったんですか? って、ダンジョンの方たちじゃないですか」

 カーヤが目を丸くする。全身鎧は何も言わない。

「ど、どうしてこんな所にいるんですか?」

「それはこっちのセリフだっての。あんたたちもハグレ魔物を討伐しにきたの?」

「ハグレ魔物?」

 カーヤたちは、頭に疑問符を浮かべて顔を見合わせた。そうして返ってきた言葉は、透子の予期していないものだった。

「私たちは、ただこの辺りを散策していただけです。そもそも、ハグレの出現報告なんて聞いてないですよ?」

「……は?」

 わけがわからなかった。ホルガーからは、ハグレ魔物が出たと確かに聞いた。それが書面で回っていることも。

「あ~、わかった。あんたたちが知らないだけでしょ。こっちの業界では回覧板が回ってるのよ」

「それはそうかも知れないが、俺だって冒険者の端くれだ。気配で大体わかる」

「そんなの曖昧なものでしょ? 信じるに値しない。情報の価値に勝るものじゃないわ。いい? 今の時代、情報ってのはすごく大切なの。私は気配なんていう、幽霊みたいな曖昧なものに頼らないし、頼るつもりもない。情報こそが有益な判断材料なのよ」

「ん~、お前はどうだ、オスカー。ハグレの気配を感じるか?」

 テオバルトは、未だに背後に隠れているオスカーに目を向けた。その問いかけに、オスカーは小さく顔を横に振った。

「なるほど、やっぱりいないのね」

「いやおい、あんたさっき気配なんて信じるに値しないって言ったじゃねえか」

「可愛い子の言葉なら別よ」

「ムチャクチャな女だ……」

 テオバルトの言葉に、オーク三兄弟もうんうんとうなずく。デジャブである。

「ともあれ、いないんじゃあ徒労だわ。あの回覧板が間違ってたのかしら。ホルガーも嘘情報に踊らされることがあるのねえ」

 そう言ってみたものの、透子は自身の言葉に釈然としない思いを抱いていた。何か、根本的な勘違いをしているような。

(そうよ、あのホルガーがあっさり情報を鵜呑みにするかしら……)

 つ、と頬を汗が流れ落ちた。

「チーフ、どないしたんです? ハグレ魔物がおらへんのやったら、さっさと帰りまひょ」

「そう、なんだけど……」

 違和感。奥歯にものがはさまったような感覚。その答えは、カーヤがあっさり口にした。

「その、ホルガーさん? が、嘘をついているってことはないんですか?」

「ホルガーが、嘘……?」

 ありえなくはない、と透子は直感で思った。だが、そうすることの必要性がわからない。

 そんな嘘をついても、透子たちが城を出ていくだけだ。城はかなり手薄になる。メリットどころかデメリットしかない。

(いや、違う。私たちを城から遠ざけるのが目的だとしたら……?)

 その仮定にたどり着いた瞬間、透子は全速力で駆けだしていた。背後からモルタやテオバルトたちが何か言っているが、全く耳に入っていない。

 透子たちを城から遠ざけたとして、その目的がわからない。だが、これが一番つじつまが合う。

(嫌な予感がする……!)

 脳裏に浮かぶ、ある人の笑顔。その笑顔が、今は亡き妹と重なって見えた。やせこけ、生気が感じられなくなった、あの顔と。

(ダメよ)

 嫌な想像を振り払うように、透子は頭を振った。

 尖った枝だが、透子の頬を僅かに裂く。だがそんな痛みは、大切なものをなくした痛みと比べものにならない。

(もう二度と、大切な人はなくさない!)

 決意を胸に、透子は城に向けて有らん限り走った。


「行っちゃいましたね」

 透子たちを呆然と見送りつつ、カーヤが呟いた。

「これからどうします?」

「そうだなぁ」ざり、とテオバルトは無精ひげをなぞった。「どうやらあの城で面白いことが起こりそうだし、冷やかしに行ってみるか」

 そもそもここに来たのだって、目的があったわけでもない。散策しているところに妙な気配を感じたので探ったところ、透子から殴られそうになっただけだ。

 テオバルトの提案に他のメンバーもうなずいた瞬間、

「その必要はないよ」

 妙に耳に障る男の声がした。

「やれやれ、彼女たちは城に戻ったのかい? 一足遅かったか」

 草をかきわけて現れた男の眩しさに、テオバルトは目を瞬かせた。

 さりげなく、パーティは立ち位置を戦闘用に入れ替える。

「おい、オスカー」

 テオバルトは小声で話しかけた。

「どうしてこいつの接近を知らせなかった」

「敵意がなかった」

 何か問題? とばかりに小首を傾げるオスカー。

「そういう問題じゃないんだが」

 ぼやきつつ、テオバルトは〝その男〟に向き直った。

「あんたは?」

「ベルンシュタイン城の招待客さ。生憎もうパーティは定員でね、君たち招かれざる客は遠慮してもらえるかい?」

 それ以上、無駄な問答をするつもりはないらしい。「ハバァナイスデイ」などと軽口を叩きつつ、の男は城の方へ歩いていった。

「……何だったんでしょう」

「さぁ」

 呆然とするカーヤに気のない返事をしつつ、テオバルトはまた髭をなぞった。

 かなり面白いことになる。

 テオバルトの直感が、そう告げていた。


                *     *     *


 思ったよりも、城から離れた所まで行っていたらしい。城門に着いたときには息も絶え絶えになり、爆発するんじゃないかと思うほど心臓が激しく暴れ回っていた。

「……ッハァ……ったく、体力には自身があったんだけどね……おぇっ」

 肺と心臓を落ち着けつつ、城を見上げる。別段、何も変わったところはない。

(杞憂、だったのかしら……)

 だが結果として、やはり杞憂ではなかった。

「……ちょっと、何で開かないの!?」

 城門、ではなく、その横の従業員用の出入り口。そこをいつものように開けようとしたが、ドアところかノブさえ微動だにしなかった。

 力を込めても、蹴飛ばしてもびくともしない。ふと初めてこの城に来たときのことがフラッシュバックしたが、今は思い出に浸っているときではない。

「ど、どないしたんですか、チーフ……おえっ」

 遅れていた黒豚オークたちも城に着いたらしい。全員膝に手を当ててえずいているが、透子は無視した。

 インターホンを高○名人よろしく連打する。こちらの反応もないのではと思ったが、意外なことにすぐ声が聞こえてきた。

『一回押せば聞こえます。透子さんですか?』

「そうよ! 透子さんよ! 門のドアが開かないの! 開けなさい!」

 もし声の主が目の前にいたら、胸ぐらを掴みあげていただろう。それほどの剣幕だったが、インターホン越しのその人物――ホルガーは気圧された様子もなく、一言だけを言い放った。

『それはできません』

「はぁ!?」爪楊枝を挟めるんじゃないかと思うほど、透子は思いっきり眉根を寄せる。「ふざけんじゃないわよ! そんな下らないことを言うために、ハグレ魔物がいるなんて嘘をついたわけ!?」

『さて、何のことでしょう』

「すっとぼけるんじゃないわよ! クーデターのつもり!? 理由を言いなさい!」

『クーデター、ですって?』

 ここからではホルガーの顔は見えない。だがその声からは、嘲りの感情がありありと読みとれた。

『それは貴女のことではないのですか、透子さん』

「は? 意味がわからないわ」

『そうですか、ならこう呼び方を変えましょうか、ギルドの勇者、古迫透子さん』

 息をのむ気配を、透子は背後から感じた。

「チーフが勇者、だと……?」

 動揺の声は長男モルタのもの。透子は内心で舌を打った。

 隠していたつもりはない。聞かれなかったし、言わなかっただけだ。元はただのOLだった透子にとって、勇者だの魔族だと大して気にすることではなかった。

 だが、今更ながらそれが誤りだったと気づいた。ホルガーがこれから言うことが容易に想像できる。

『魔王様や姫様のような魔族にとって、勇者などというものは不倶戴天の敵であり、唯一にして最大の天敵なのです。私のようなただの人間ならいざ知らず、そんな者を城に置くわけにはいきません。ですので、追放させていただきます。何か反論はありますか?』

 いつものような、事務的な口調。だがその背後からは、隠しきれない優越感を感じた。それが、こそこそと城に潜り込んだ勇者を出し抜いたからなのか、それとも――。

 反論が思いつかない。不倶戴天の敵とまで言い放つなら、それはきっときのことたけのこのようなものなのだろう。両者の間にある亀裂は、海よりも深く透子の心より広い。

 ふと、大切な人の顔が脳裏をよぎった。

「……エーファ様も、その意見に賛成なの?」

 ホルガーはともかく、エーファは心優しいお姫様だ。あるいは、透子のことをかばってくれるかも知れない。

 だが、そんな透子の希望もあっさり砕かれた。

『もちろん、姫様も私と同意見ですよ』

「そ、んな……」

 絶望しかけるが、いや、と透子は首を振る。

「あんたの言葉なんて信じられないわ。エーファ様の言葉を直接聞かせなさい!」

『それであなたが納得するなら』

 あっさりとホルガーはそう答え、インターホンの向こうから人の動く気配がした。

『トーコさん……』

 悲嘆に暮れたような声。それは間違いなく、透子が愛してやまないエーファのものだった。

「エーファ様! その……私は確かに勇者です。ですが、決してあなたたちを裏切るつもりはありません。ですから――」

『トーコさんは……』

 必死に訴えかける透子の言葉をさえぎり、エーファは言った。

『私たちを、騙していたんですね』

 言葉がつまる。

 隠していたつもりがないように、騙していたつもりもなかった。だが、それは透子の主観でしかない。透子にそのつもりがなくとも、エーファたちからすればそうではなかったのだ。

 仮に透子が友人の家に居候したとして、借りた部屋に黒い悪魔が出たとしよう。「うん、出るよ。でもほら、聞かれなかったし」などとその友人が言ったなら、透子はその友人をタコ殴りにした上でバ○サンを焚くだろう。

 それだけの怒りと絶望を、エーファに与えてしまった。裏切り者と言われたことよりも、エーファを傷つけてしまったことを透子は悔やんだ。

『勇者なんて人と、一緒にいたくありません。出て行ってください』

 普段のエーファからは考えられない辛辣な言葉。だが、逃げることなく透子はそれを受け止めた。

「そうすれば、エーファ様は幸せになれますか?」

 すぐに返事はこない。インターホンの向こうで流れた、一瞬の緊張感。透子の気のせいでなければ、それは息をのむ気配だった。

『……ええ、そうですね。勇者と一緒にいる。それが幸せなわけがありません。だから、出て行ってください』

 少し早口な言葉。押し殺そうとしているが、つらさが隠し切れていない、そんな声だった。無理もない。心優しいエーファに、こんなことを言わせているのだ。つらくないわけがない。

「わかりました」

 これ以上食い下がれば、さらに辛辣な言葉を重ねさせてしまうことになる。故に、透子はあっさりとエーファの言葉を受け入れた。

「それでエーファ様が幸せになるのなら、私は喜んで出て行きます。今までお世話になりました」

『っ……』

 何度目かの、息をのむ気配。だがその気配はすぐに、足音とともに遠ざかっていった。

『これで満足ですか?』

 代わりにインターホンから流れてくる、ホルガーの声。もはや腹立たしくも思わない。これから改めて下されるであろう裁決を粛々と受け入れるだけだったが、

『では、古迫透子、モルタ、ラルド、ロースの四名は、このベルンシュタイン城より追放とします』

「なっ!?」

 到底納得できない内容に、透子はインターホンに向かって大声を上げた。

「ちょっと待ちなさい! 私はともかく、どうしてモルタたちまで追放なの!?」

 そう怒鳴って透子はモルタたちを見やる。当然のように、彼らも目を白黒させていた。

『どうしても何も、彼らは透子さんの部下です。クーデターに荷担していると見るのが当然でしょう』

「ふざけんじゃないわよ! 確かにこいつらは私の部下だけど、私が勇者だってことは知らなかったわ。騙されてたって言い方になるなら、こいつらも同じよ!」

『疑わしきは罰せよ、です。これ以上の議論は無駄です。ではさようなら。ああ、ちなみに、壁をよじ登って侵入しようなんて思わないでくださいね。城全体を覆うように結界を張っているので、下手に触れるとビリっときますよ。悪しからず』

「ちょっ……!」

 取り付く島もない。ブツン、とインターホンの通信が切れた。動作させる魔力そのものを切ったらしく、チャイムを押してもうんともすんとも言わなくなった。

「あの陰湿クソロリコン!」

 罵声とともにインターホンを思い切り殴りつけ、透子は深いため息をついた。そしてヒリヒリする拳をさすりながら振り返る。その視線の先には、どうしようどうしようと狼狽えていたモルタたちがいる。なぜかロースの姿が見えないが、モルタとラルドは混乱の極みにいるようだった。

「あんたたち……」

 ざ、と透子はモルタたちに向かって一歩踏み出す。すわ殴られるのではないかと、モルタたち二人は一瞬で身構えた。

 だが、透子のとった行動は、彼らの想像の斜め上だった。

「悪かったわ」透子は頭を下げた。「確かに私は勇者、なんだと思う。今更それを否定するつもりもないし、黙っていたことについては悪いとは思っていない。けれど、私の判断ミスにあんたたちを巻き込んじゃったのは私の責任だわ。ごめんなさい」

 そう言って顔を上げると、モルタたちは目を大きく見開いたまま顔を見合わせていた。

「……何よ、その反応」

「いや……」

 言葉を濁し、モルタとラルドはひそひそと内緒話を始めてしまった。

「何なのよ。最近内緒話が多いんじゃないの。文句や恨み言があるなら直接言いなさい」

 そんな透子の言葉にも反応せず、モルタたちはまだ何か話し合っている。だがそれもしばらくして終わり、(豚頭なのでわかりにくいが)神妙な顔で透子に向き直った。

「なら聞かせてもらおう。あなたは、それでいいのか?」

 透子は露骨に眉根を寄せる。言葉の内容もそうだが、モルタの雰囲気に戸惑った。敬語ではないのはともかく、透子に対する今までのモルタはおどおどしているばかりだった。だがなぜか今は堂々と――それこそ彼の目標とする騎士のように――透子と正対していた。

「言っている意味がわからないわね」

「では質問の内容を変えよう。さっきのエーファ様の言葉が、本当に彼女の本心だと思っているのか?」

「本心か、ですって?」ハ、と透子は鼻で笑った。「そんなこと、考えてないわけないじゃない」

「なら――」

「でもそんなこと関係ないのよ」

 モルタの言葉を遮り、透子は表情を変える。

「私はエーファ様の剣であり盾なの。あの子の言葉を疑うことも深読みすることも否定することも邪推することも、その一切があってはいけないのよ」

 淡々と言い切る。いつもの、いい意味で人間くさい表情ではなく、一切の感情が読めない無表情だった。

 そんな透子に、モルタは歯ぎしりする。

「バカな。それは単なる妄信だ」

 でしょうね、と透子は自分を嘲るように笑い、歩き出した。

「どこへ行く」

「決まってるでしょ、ここではないとこか、よ。あの子がそう望んでいるのだから」

「待っ……」

 透子の足取りに迷いはない。話はまだ終わってないとばかりに、モルタが透子を呼び止めようとした、そのときだった。

「ん? この音は……」

 モルタは眉をひそめる。同じくして、透子も足を止めた。

「ピアノ、か?」

 目の前の城壁のせいで見えないが、確かにピアノの音色が城の方から聞こえてきていた。エーファの母が作った『希望』という曲だ。なぜか小さな違和感を覚えたが、幾度となく聞いた曲だ、その旋律を間違えようがない。

「あんなことを言った直後にピアノ、か。やはりあの言葉は本心だったのかも知れないな」

 その自嘲めいた呟きは透子に向いているものでもあったが、彼女は全く反応しなかった。

 視線を城壁の向こうから透子へと向け、モルタはぞくりと背筋が冷たくなった。

 憤怒。

 透子の表情を一言で表すなら、まさしくそれだった。ピアノの音色が聞こえてくる先、エーファの部屋を恐ろしいまでの目力で睨みつけている。間には城壁があってエーファの部屋は見えていないはずだが、その城壁に穴を開けそうなほどの眼力だ。

「絶対に、許さない……」

 低く、暗い、地獄を思わせるような透子の呟きに、次男ラルドは泡を吹いて倒れた。

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