第14話 ふりだし
こうして、私の恋愛も、そして結婚もふりだしに戻った。
帰りの新幹線を待ってる間に、心配しているであろうミユに電話をかける。
ミユはすぐに携帯に出てくれた。
「どうだった?」
「ん-。とりあえずタツヤと会えてよかった、ってとこかな。」
「・・・それは、やっぱりそういうことかな。」
「はは、きっとそういうこと。」
他人が聞いたら、きっとこの二人は何をしゃべってるのか理解できないかもしれないけど、私たちは通じ合っていた。
私のちょっとした口調や言葉のトーンで、全てを語らなくてもわかってくれるミユ。
こういうときはいつも以上にありがたかった。
「思い切って会いに行ってよかったね。ハルナ。」
「うん。」
「とにかく、気をつけて帰ってきなよ。」
「わかった。今まで色々とありがとうね。本当にミユがいてくれて心丈夫だったよ。」
「ん。」
電話の向こうで、ミユは少し涙ぐんでいるようだった。
来週末、会いに行く約束をして、言葉少なに電話を切った。
30歳で、全てがふりだしってのも、なんだかなーって。
でも、これから先、本当に縁のある男性に出会える楽しみが増えたってことで。
自分自身、どうしてこんなにポジティブになれるのか不思議だった。
きっと完全燃焼できたからだね。
時計を見ると、そろそろ新幹線に乗らないといけない時間が迫っていた。
慌てて、エスカレーターを駆け上がる。
チケットをバッグから取り出して、自分の座席を確認した。
「結局一泊二日で帰りの新幹線か。」
そんな滑稽な自分に誰にも気付かれないように一人笑った。
新幹線に乗り込み、自分の座席に座った。
ふぅ。
落ち着く。
やっぱり帰りも通路側。
帰りの窓側はどんな人が座るのかなぁ。
意外とこういうのがご縁でハッピーエンドになることもあるかもよ。
って、どこまでポジティブなんだか。
買ってきた雑誌を広げた時、
「すみません。」
なんとなく聞き覚えのある声が頭上に響いた。
見上げると・・・
行きの新幹線で隣だった眼鏡の男性だった。
思わず、持っていた雑誌を床に落とす。
「すみません、いや、びっくりした。」
慌てて、雑誌を拾い上げて、その男性が通りやすいように通路に立った。
男性は眼鏡を人差し指であげると、会釈をしながら私の前を通り窓際の席に座った。
動揺を隠せないながらも、私も座席に腰を下ろす。
「ほんと、びっくりですよね。帰りもお隣なんて。」
男性は微笑んだ。
「こんなこともあるんですね。」
私も笑った。
なんだか久しぶりに胸のあたりがほっこりと温かい。
男性は、優しい声で聞いてきた。
「いい旅でしたか?」
私ははっきりと答えた。
「ええ、とても。」
幸せな気持ちも、辛い気持ちも、全て消化できた先に本当の出会いが待ってるような気がした。
今は失ったものより、得たものの方がたくさんあったと思える。
人生、何が起こるかわからないからおもしろい。
結婚相手もタイミング。
自然に身を任せていれば、訪れる巡り合わせ。
いつか私もきっと・・・
「通路側がお好きなんですね。僕はいつも窓際取るんですけど。」
「はい、断然通路側です。通路の方がすぐ立てるし、気分的に落ち着くんです。」
「そうですか。今日は終着駅まで乗られますか?」
「はい。」
「僕もです。あの・・・着くまで先も長いですし、もしよかったら、お名前教えて頂けませんか?」
「あ、はい・・・私、三浦ハルナです。あなたは?」
「僕は、」
そして、新幹線はゆっくりと走り始めた。
結婚事情 KEI☆P @puta7321
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