第27話
翌朝、僕達はワシントンD.C.に降り立った。ベニーとオリヴィア、そして戌とアーノルド、それと僕の四人と一匹がノーマンを殺す為の部隊だ。
[こちらゴーン1、
[こちら
カレンの声が少し緊張気味に思える。
[敵が巡回している気配はない。どうやらホワイトハウス内にいるようだね]
[了解、私達は一度隠れるわ。
幸運を、と返し僕達は作戦行動に移る。
昨夜、僕は黒子達との親睦を深めた後自分の部屋に戻った。どうしてもやっておかなくてはいけない事があるからだ。
オズの研究データを総司令官という立場を利用して全て抑えていた僕は最悪の場合に備える準備をする必要があった。
もうこんな無益な争いが生まれないように。生者が死者を弄び、死者が生者を喰い殺さないように。
この時代で死を利用するという行為そのものを消し去らなければならない。その為に僕達はノーマンを殺し、もう一度世界を平和に導く必要があるのだ。
「君がパソコンなんか使って何をする気だい?」
電子機器と一体になったオズが話しかけてくるのを他所に僕は作業を続ける。
「別に何でもいいだろ?君には関係がない事だ」
「そう言われてしまえばそうなんだけど……一体何をするつもりなんだい?」
「
電子機器により出現したホログラフィックで作られたキーボードを使い、システムを打ち込み続ける何とも地味な作業だ。
「ふむ、君達の邪魔になりそうだから黙っておくよ、おやすみ」
オズの模造品は通信機能をオフにしたようだ。
「一人でこそこそ何してるの?いけない事かしら?」
「そんな暇もないし、そんな事をするつもりもないよ……」
「いけない事って何の事だと思ってるの?」
沈黙。
「とにかく、今はそれどころじゃないんだ。早く仕上げないと」
考えたくはない、しかし考えなければならない。全てがうまくいった後のこの先の世界の事を。
「なるほど、そういう事ね。貴方も変わったって事か」
「これが出来るだけ使わなくても済む世界であって欲しいよね」
そして今、僕達の眼前にはホワイトハウスが待ち構えている。敵の姿無し。
[生者の傀儡共、待ってたぞ!]
[大統領を助け俺を止める気か、やれるものならやってみろ!このホワイトハウスが俺とお前達の最後の戦場だ!]
[大佐、アーノルドだ。あんたは間違ってる。それに気づかせてくれたのはルーク達だ。俺達はあんたを殺す]
[育てた恩を仇で返すか、まぁいい。SG《サイレントゴーン》の子供達よ、かかって来い!]
通信が切れると共に開戦の狼煙が上がる。何処からともなく躍り出てきた赤備えが四方から僕達を取り囲む。
「SG《サイレントゴーン》!迎え撃て!」
僕の号令と共に戦いが始まる。双頭の狼が敵の囲みを突破、隊列を崩した赤備えをオリヴィアとベニーが始末する。彼等とは別行動で僕は館内を目指す。飛び交う弾丸の中を駆け抜け、中央にある噴水を飛び越すと正面に赤備えが待ち構えていた。
小鳥達を解き放ち二人を殺した。
「戌!アーノルド!!」
僕の声に双頭の狼が咆哮で応え僕と対峙している赤備えに横槍を入れる形で薙ぎ倒した。
「先に死に還れ!」
戌とアーノルドの声が混ざり合い赤備えを噛み砕き踏み潰した。
ベニーとオリヴィアが合流する前に僕はドアをぶち破り中に入る。呼吸を整えると館内を走り回る足音が聞こえる。敵の数は大体五十人程だろうか。
[こちらゴーン1、ホワイトハウス館内に潜入。アーノルド達を殿にオリヴィア、ベニーも入って来てくれ、僕は地下を調べる]
通信を切り僕は潜入に戻る。上へと続く階段から敵が一人降りて来た。それも殺意は無い。
恐る恐る銃口を向けると武装を解いて降りてきている事に気がついた。
「ジャン、大佐が呼んでる。」
「……ジョー?」
僕の中の記憶が呼び起こされる。
「アーノルドも、お前の仲間もここに入っては来れない」
ジョーはそう言うと右手に握られているスイッチを押した。すると、大きな壁がホワイトハウスの直ぐ外に突如せり上がり、外と中が分断された。
「この
ついて来い、ジョーの誘いを甘んじて受ける。
[こちらゴーン1聴こえるか?]
声は返ってこない。外と完全に隔離された空間のようだ。
僕は大人しく、階段を上がる事にした。
かくして、僕はまんまとノーマンの罠に引っ掛かかったというわけだが、階段を上る間もジョーには殺意を感じる事がなかった。
ホワイトハウスの内装や、刻んできた歴史に思いをはせる事もなく僕等は階段を上がる。
「大佐、ジャンをお連れしました」
そこに獅子がいた。僕達が殺したくてやまない、世界の敵にして最恐の愛国者。
「ノーマン、どういうつもり?」
「落ち着け。大統領閣下、客人だぞ」
マーカス・ブライアン大統領がスーツ姿で僕の前に現れる。そして一礼すると、奥の席に引っ込んで行った。
「奴を助けるつもりだろ?別に構わん。持って行け」
大統領の給仕もさる事ながら、ノーマンのこの態度に僕は面食らってしまう。
「大人しく投降する気かノーマン・ラングレン」
「馬鹿を言うな!そんな惨めな最期は御免だ。いいか、お前達はここにいる閣下と政府全体に良いように使われてるだけだ。何故それを甘んじて受け入れる」
「どれ程彼等が狂っているかは分かってる、でも……だからって生者全員を敵に回す必要があるのか?」
大袈裟に笑うノーマンに合わせて大統領が愛想笑いをする。
「馬鹿者が、俺が生者相手に戦争を仕掛けると?そんな馬鹿な真似はしない。生者共に戦う自由も権利もやらん」
生者への反逆、死者による意思の伝達と言う名の戦争を起こす物だと思っていたが、飛んだ的外れだったのだと気がつき、
「何をするつもりだ?」
「生きとし生けるもの全てを死に返し、選ばれた者だけをバイオロイドとして蘇らせる!そして俺達は真の意味で
それが彼の答えなのだ。何もかもを消し飛ばし、そして自ら立て直す。誰も信じず一人で全てを成す事こそ彼の真の目的だった。
世界が一だったらこんな馬鹿げた事は起こらなかっただろうか、死者が跋扈する世界。機械が人を襲う世界。その全てが人間の愚かさが導き出した世紀末。
「生者共は死者を弄んでいる。そうは思わないか?こちらに居られる大統領閣下もその一人だ。死者を利用し新たな死体を創り上げる。その為に死者の名前を兵器に付けたりする。お前も利用された口だろ?英雄を超えろ、そんな見え透いたスローガンで人を集める為の客寄せパンダにされたんだからな」
「……僕は」
そうだ。その通りだ。ジャンの意志も僕自身の意志も関係なく利用され続ける僕達。ノーマンの言っている事は正論でしかない。
「それでも、我々は他人を思いやる事が出来る。死者の遺志を伝える為にあらゆる方法を使う事が間違っているのかね?」
「黙れ!」
大統領が壁に吹っ飛んだ。
ノーマンの蹴りをまともに食らったのだろう。しかし、その蹴りは残像すら見えなかった。
「正義が自分にあると思うなマーカス・ブライアン。お前達が死者を墓から引きずり上げたその時から、生きる資格も正義も朽ち果てたわ!」
ひぃ、と情けない声を出しながら大統領は気絶した。無理もない。
「さて、邪魔者は消えた。既に蘇らせるべき死者のリストは出来ている。後はアンドロイド達を全世界に放つだけだ」
「確かにこの世界は間違いだらけだ……でも、それだけじゃないよ」
僕の元に集った若者達も、オリヴィアや戌達だって死者に縋って生きるつもりなんてなかった。彼等は気付かないうちに死者を利用していただけなんだ。
ただ自分の研究を極めたかった橘家。国の為に全てを捨てて守り続けた愛国者達。純粋にして無垢なる彼等を利用した奴らは誰か、利用した彼等だけが罪に問われ罰せられるべきなのではないだろうか。
「僕は見て来た、必死に生きる人達を。希望を捨てない人達を。そんな彼等も巻き込んで僕達みたいにするなんて貴方は間違ってる!」
「大義名分は出来たか?良いだろう。正しいのはお前か俺か決着を付けよう」
「いいだろう、貴方を殺して全てを終わらせる」
僕はこの時思った。
ああ、こうやって戦争は起こるんだな、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます