第20話
アメリカ合衆国カリフォルニア州のサンフランシスコの湾内に浮かぶ孤島。アルカトラズ島。
この島は灯台、軍事要塞、軍事監獄、連邦刑務所と姿を変え現在は裏切り者達の根城となっている。
懐かしい感じだ。
過去多くの人々が此処で終わりを迎えたんだろう、こう言った場所特有の空気が漂っている。
まるで換気されていない締め切った部屋の様に、其処此処に何かがこもっている様な空気だ。
脱獄を企てたとしても島の一帯の警備もしやすく、天然の要塞と化したこの島から例え銃弾を逃れられたとしても荒れ狂う海の中を無事生きて帰れた者はいないはずだ。
そして今僕はその海域を小型潜水艦で進んでいる。
本来何かあった場合に備えてボロを使う方が良いところだが、今回は最新の装備をもって事にあたる事にした。大自然を浮上させ僕は上陸した。
[こちらゴーン2、無事上陸した。そっちは?]
問題無いと答え、辺りを警戒しながらゆっくりと進む。カラスが鳴いている。それもかなりの数でこの場所の異様さをより助長させている。
これならあの子達も潜入は楽だろうなと少しだけ安心した。まだ敵の動きは無い気が付かれていない。そう僕は思った。
今ここに立てこもっているのはチャイニーズマフィアでも、CIAやシールズなどと言った過去の遺物達ではなくノーマンとアーノルド、赤備えの連中と黒の子供達そして土塊。
今回の
[こちらゴーン1、国賊狩りを始める]
[了解、新しい
島を大きく迂回して螺旋状になった天然要塞を駆け上がって行くよりも切り立った崖を登る選択をしたのには理由がある。
迂回すれば必ず待ち伏せにあうからだ。アクション映画やゲームさながら崖の窪みに足を掛け、腕の力だけで登り始める。
オリヴィア博士のお陰で飛躍的に進化した各種兵装は
本作戦で導入された新型バトルスーツはマッスルスーツも兼ねており、最新兵装はこれまでに無く人間離れした行動を可能にした。
崖を登りきり頭を少し出して
四体と六人、殺気と規則的な機会音から敵の数を感覚する。
息を吐くそして大きく吸い込みそしてまた吐く。繰り返していく毎に全てが一つになっていく感覚が僕を満たす。
感覚に身を委ねると手に取るように敵の位置を把握する事が出来た。
[ゴーン3、聞こえるか?]
[こちらゴーン3聞こえてるよ]
[多分十二時の方向に二体いる、奥の一体を頼んで良い?]
かしこまりました。とキザっぽく彼が言ったのを確認してから通信を切る。それと同時に僕は支持した方向に走り出す。
後三秒後には一体が沈むだろう。その前に手前の土塊に狙いをつけないといけない。細心の注意を払いながら全速力で駆け抜ける。
[ゴーン1、こちらゴーン3。聞こえますか?]
[聞こえてる]
時間ですとだけ告げ通信を終える。それと同時に目標の姿が見えた。
走りながら狙いを定める。敵もこちらに気がついた様子で手持ちの銃を構えようとするが遅かった。小鳥は正確に銃をはたき落し、すかさず接近戦に持ち込もうとすると相手も同じ考えだったらしく回し蹴りを繰り出してきた。
上体を仰け反らせて上手くかわし、その足にしがみついて逆回転を加え脚を破壊。
先に地面に激突したアンドロイドの脳天に踵を振り下ろし終わらせた。
[ゴーン4です!流石ですゴーン1!双眼鏡で見てましたよー!]
[ゴーン3、見事な射撃だった。ゴーン4もゴーン3のサポートご苦労様。気を緩めないでね?ポイントを変えて後方支援(バックアップ)頼むよ]
地上をノーマン達に気付かれずに制圧するまでに掛かった時間は約十分。
まずまずの出だしだ。地上を守るのはアンドロイドだけで赤備えの集団も黒達も居なかった。妙な静けさを感じるが、これはブランクが原因で単純に身体が適応していない事からくる不安による物だと気を紛らわす事にした。
入り口付近で待つ事二分、漸くオリヴィアと新人三人組が到着した。
「随分と早いですねゴーン1、流石我々のリーダーって所ね、どうやってここまでの時間の差を作り出したのかしら?」
「何て事はないさ、新型バトルスーツの性能を確かめる為にもあの崖を登って来ただけだから」
新人三人は顔を見合わせてここは笑う所なのかどうかを確かめている。
冗談ではなく本当に登って来た僕からしたら笑われても返す言葉は無いから笑わないで聞いてくれた彼等に心の底で感謝した。
「アニメやゲームじゃ無いんだから……そんな事してもし崖から落ちたらどうするのよ」
その兵装にいくらかかってると思うの、ゴーン2の説教じみた講義が数分間開講された。
気を取り直して僕達は地下に続く大きなエレベーターを使い、下へ下へと降りていく。見上げるとさっきまで地上から大分離れている事が分かる。エレベーターの駆動音だけが響いている中、新人達は
リーランドは初めてBKで敵を仕留めた際の体験談を
観測手として側にいたミーアは面白おかしくその時の出来事に付け加えて説明し、二人の話をベニーは関心を持ちながら聞いている。
彼等はまだ若い。本当なら大学に行っている歳だ。こんな所で国の為に戦って命を危険にさらす事なんて無いんだ。
この子達を僕は守らないといけない。
[この子達、微笑ましいわね]
オリヴィアも同じ事を考えていたらしい。
辺りの空気が少し淀んだ。敵だ。僕がHBを構え直すとさっきまでの団欒が嘘のように無色透明な殺気を全員が身に纏う。
丁度エレベーターが地下に到着するとBKが乱射された。僕等がさっきまでたって場所は穴だらけになり暫くして銃撃を止めた敵達が僕達の痕跡を調べに来た。
敵の数は僕らと同じく五人。
僕達五人は重力とJRの推進力により急降下で敵の頭上から襲い掛かる。
赤備えの連中が今度は相手の様だ。僕は正確に敵の急所を切り裂き息の根を止める。
感触から赤備えが人間である事に気がついたが容赦はしない。
三人のフォローにまわろうと視線を移すと赤備えとオリヴィアがJRで切り結んでいるのが目に入った。彼等もSGの武器を扱えると言う
JRを一本、オリヴィアと交戦中の赤備えに向けて投げると断末魔を上げて沈黙した。それを確認する間も無くミーアの援護にあたる。
ミーア得意の可変迷彩も交戦時には意味をなさない。奇襲で一太刀敵に与えていたらしく、赤備えの腹から血が滴り落ち、呼吸が荒い。このまま数十分戦っていれば恐らく出血多量が原因で赤備えは死ぬが、その前に体格差で押し切られるのは目に見えていた。
もう一本のJRで加速をつけ僕は弾丸の様に飛んで行く。
凄まじい速度の中で敵の喉笛を掻っ切った。
「ふぅ、ありがとうございます」
ミーアは腰の力が抜けたのかへなへなと床に崩れた。少し休んでなとだけ伝え僕が敵の姿を捉えた時にはリーランドとベニーは事を済ましていた。
二人共敵の血を浴びている。自分が殺したという事実を受け入れられていない彼等にオリヴィアが声を掛ける。貴方達は悪くない。
悪いのはキング達だと。
それは彼等を勇気付ける為の言葉であり、人間性を見失わせる言葉でもあった。
僕達は慎重に通路を進む。
殺す為に、守る為に。
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