第11話
傷だらけの身体に鞭を打って進む事三十分前後で僕等は長く細い通路を抜けた。そこはとても大きな空間で何一つ無い部屋だ申し訳程度に照明が二、三個辺りを照らしてくれている。
気配は無い。けれどただ広いだけの部屋なはずが無いと
理解出来ない事もある。それでも僕が歩みを止めない。今は自分よりも世界の事を考えるべきだからだ。
[ルーク!やっと見つけた!]
いきなり個人回線に木霊する声に驚き心拍数が上がる。オリヴィアからだ。
「オリヴィア、どうやってこの周波数を?」
[ふん、なめてもらっては困るわ。私はただ此処に居るだけじゃ無いの、あの人の為に生きてるんだから!]
という事らしい。ただそれだけで僕等の回線を突き止め侵入する事が出来る物だろうか、相当な手練れだ。でも彼女の声、そして言葉は不思議とオズやカレンより何故か信頼出来てしまう。
「あの人あの人って残念だけど僕が倒したのは人間じゃなかったよ、ただのアンドロイドだった」
そう、オリヴィアがあの人と慕い抱き付いたのはただの土塊だった。オリヴィアにも見分けが付かなかった。オリヴィアが知らないあの人の土塊。そういう事なのだろうか。
[分かってるわよ、不覚にも見誤ったわよ……偽物だなんて気がつかなかった]
「君の言うその人の名前は?」
[ノーマン・ラングレン。元SG所属で階級は大佐]
「ノーマン・ラングレン……実在するの?」
勿論よと自信満々にオリヴィアは言う。オズは僕に嘘をついたのか、いやオズだけでは無い。キングに聞いた時も知らないと言われたのだ。僕は何を信じればいい。
[あの人が私とお父様を助けてくれるの。その昔この国を救ってくれた時のようにね。そうそう、別に置いていった事に腹を立ててわざわざ連絡したわけじゃ無いの、勘違いはしない様に]
この国をノーマンは救った。そんな歴史は何処にも存在しない筈だ。かつてのSGは中国政府の作り出したアンドロイドにより敗北。そして捕虜となった隊員達は
「この国を救ったって言うけれどノーマンなんて人間は存在しない。彼の事は何も聞かされてない」
[お堅いわね、ルーク。いい?私達の国は数百年前確かに嘘の国だったわ。全てを嘘で覆い隠しそれまでの歴史に背を向け、頑に虚勢を張り続けた。でもねルーク、嘘が上手いのは私達の国だけじゃ無いわ。貴方の国だってそうよ噓偽りを作り上げ戦争を始める。そしてその戦争は大義名分の元に誰に止められる事も無く始まり、莫大な利益を上げて憎しみだけを国に植え付けて消えて行く]
「それでも僕達の国は戦争を終わらせる為に戦ってた。それは今も変わらない。君達の国とは違う」
彼女は無言になった。僕の反論に対してオリヴィアがどう返してくるか少し楽しみにしていた自分がいた。でも返事は返ってこない。
少しすると電子機器の
[いい?貴方のその小さな視野と戦う事しか考えられない脳味噌でも理解出来るように教えてあげるわ、自分達は違う、自分達は正義だって言う考え方が、意識が、貴方達の罪よ。そして……それは中国も同じ。これを見て]
オリヴィアの声に共鳴して部屋がうめき声を上げ始める部屋の床から大きな卵型のカプセルが何個もせり上がってくる。
[見れてるわね?そこはただの部屋じゃ無いわ、
卵は半透明で胎児のように丸まった人間がぷかぷかと浮いている。
「凄い数だ、それにこれは……」
僕は息を呑んだ。よく見るとこの半透明の卵の中で眠っているのは全て僕が倒した土塊だ。
[まるで怪獣映画のワンシーンみたい。これは冒涜だわ、私達の英雄を複製するなんて]
オリヴィアは怒りの余り小刻みに震えている。自分の敬愛する人物が複製されたアンドロイドだった。それも一体では無く数百体はいる。冒涜とオリヴィアが言った意味が分かった気がした。
僕はこの事をオズ達に伝えるべきか迷った。頼れる相棒も今は眠っていて相談すら出来ない。少し考えてから僕はこの事を言わない事にした。
[少し調べてみたの、この偽者達が製造された理由は分からないけれど、開発者は分かりそう]
キーボードを操作する音が絶えず聞こえていてオリヴィアの大きな瞳はパソコンの文字を追っているのがこちらにも分かる。
眉間にしわを寄せたり前髪が目の前にかかるのを鬱陶しそうに払い退けながらひたすら睨めっこをするオリヴィア。
僕に見られている事を忘れているのだろうかと思いきや、いきなり此方を向いて何見てるのよと怒られてしまった。
一応謝りオリヴィアに呼ばれるまではモニタを見ないと心に決め辺りを再び警戒しようとした時、オリヴィアに呼ばれた。
[お待たせ!名前は橘宗麟。日本人ね。世界で初めて人型アンドロイドを創り上げた技術者みたい。始めは医療用、介護用に作られたんだけどそれに目を付けた各国のお偉いさん達が戦争用に作り変えたって言うのが悲劇の始まり、機械からしたら一番の悪はこの地球を壊し続ける私達。制御しきれると思っていたご老人達の浅はかで古臭い考え方が彼らに付け入る隙を与えてしまったってわけ]
キングとノーマン。橘という名前。妙な所でリンクが付きそうになる。あと少しで謎が解けて僕が仲間を疑わなくても良くなるかも知れない。初の任務で気が動転していて疑心暗鬼になっているだけかも知れない。
「SGとの関係は?」
僕の問いに対してオリヴィアは頷いて答える。
[橘宗麟はアンドロイドによるパンデミックを引き起こした張本人として指名手配された。アンドロイドも、人間も彼を殺そうとしたみたい。そして彼は日本から亡命する為にある組織に依頼した]
「それがSG?」
[そうよ。橘宗麟は命の保証と引き換えにその技術を惜しみなくSGに提供した。あらゆる技術の土台を築いたのは彼と言っても過言でないわね]
英雄の顔に泥を塗った最低の人間よと最後に付け加え、オリヴィアは再びキーボードを叩き始める。
[後の情報は強力なプロテクトがかかってるみたいね、全部は暴けなかった……でも、SGが関わっているのは事実よ。何も知らされてないの?]
「僕は何も。自分の任務だけだよ」
[
天真爛漫というか、おてんば娘というか、とにかく彼女はそんな笑顔を僕に向けてくれた。
「でも何故?君がここまでする意味はない筈だよ?」
[貴方にお父様を助け出して貰って、あの人の真実を聞く為よ。お父様はきっと何かを隠してるんだわ。それに貴方だってお仲間を信じるのは難しいでしょ?]
オリヴィアの言う通りだ。僕はもう仲間を信じる事が困難になっている。ジョナサンもオズもカレンも、キングだって僕に隠してる事がある。そんな中で何故僕は戦い続けなければならないのか、戦う理由が無くなりかけていたのだ。一先ず僕はオリヴィアの為に闘う事にした。それが僕の為にも現段階ではなる気がしたからだ。
急に照れ臭くなり話題を転換する事にした。
「オリヴィア、ありがとう。一つ聞いていいかな?」
首を傾げるオリヴィア。
「
[知らないわ]
今迄の感情表現豊かな彼女から想像できない程の低い声と無表情がそこにはあった。
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