第7話

 圧倒的な存在感を押し殺しても押し殺しても内包しきれず、その威厳と風格ある精悍な顔つきで男が空を見上げている。


 何かに苛立っている様子でその獅子の鬣の様に猛々しい金色の髪をかき上げ、ふぅと溜息を吐いた。


 キング・スクラップエッグかと見間違う程の彼の風体。キングと違うのはこの獅子の眼には精気が感じられないと言う事だ。身に纏っているのは確かにバトルスーツ。


 しかし、僕らが身につけているそれと比べとても痛んだいる。


「どうしてだ……」


 そう呟いて獅子は自分の拳を強く握りしめ、先程よりも遠く、宇宙をも見透かす様な瞳で空を見つめた。


交信コールを入れる獅子、しばらくすると相手が出たようで彼の鬣は逆立ち全ての矛先が電話をしている相手へ向けられるのが分かる。


米国政府ホワイトハウスからの回答は?……なに!?馬鹿な!あれ程俺が言ったのにも関わらずか?……っく、老耄アンクル共め!!」


 彼の怒りは尚も収まる事は無く、そしてその怒りは彼の思考回路を一瞬停止させかけた。


「分かった。俺達はもう清寂ヴァーチャスを消失する。」


 獅子は吼えた。その咆哮が画面を全て覆い尽くし包み込み、暗転した。そしてまた灯りがつき、静寂が訪れると獅子の姿は二人の男の前にあった。


 獅子はスクリーンに背中を向けていてその前の二人はまるで今起きたての様な寝ぼけ眼で獅子を見つめている。そして獅子の一言に二人の顔が一変。二人は兵士ソルジャーの顔を取り戻した。


「今の、本当ですか?」


 茶髪に碧眼、見覚えがある男が獅子に問いかけると獅子は今度は彼らに背を向けて歩き出す。


「答えてくださいよ大佐、SGが解体?何故ですか?」


「そう熱くなるなよジャン。大佐も爬虫類カメレオン達のせいで参ってるんだ。冗談の一つでも言いたかっただけだろ、なぁ大佐」


 軽いノリの陽気な男はそう言って熱くなったジャンと獅子の間に入った。


 ヘラヘラとした顔が印象的だが中々の美男子である。どうやら彼がジャンと大佐の間に彼が入って仲裁する。


 これがいつもの構図なのだろうジャンも少し落ち着きを取り戻し行き場のない思いを抑えた。


 この潤滑油になったこの男にも見覚えがある。


「アーノルド、悪いが今回は冗談じゃない。」


 えっ、と美男子ことアーノルドは素っ頓狂な声を上げヘラヘラしていた顔から血の気が引いていく。


「そんな顔をするな。知っての通り、俺達はこの狂乱した世界に残された最後の砦だ。世界は、日本が重い腰を上げ戦争にのめり込む事になってからと言うもの、政府が予想していたよりも遥かに想像を超えた次元で戦争経済は発展した」


「今更なんだよ」


 ジャンが不貞腐れたように吐き棄てると、まぁ聞け、獅子は一言ジャンに言うと話し始めた。


「日本政府が始めたのは直接戦争をする事で無くその戦争を最新鋭の技術と最高峰の医療でサポートする事による戦争介入。戦争の内側インサイドでは無く外側アウトサイドからの戦争への参加に我々の政府は満足していた。軍事国家になるのでは無く、軍事支援国家となった彼等は少子高齢化社会で風前の灯火だった所から這い上がった」


 そうなのだ。日本の軍事支援国家としての活躍は世界をさらなる戦争へと推し進めた。あらゆる国を支援し、経済を回し続け時には日本の支援が戦争している国同士に提供される事もあった。


 一度は戦争はするものではないと言う過去の教訓から日本政府のこの政策は酷いバッシングを受けたが直接的に戦争をしている訳では無く、ましてや核を持っている訳でも無いという事から新たな日本の姿を世界に提示して見せた。


 それをこの大佐と呼ばれる獅子は何故このタイミングで僕達に問いかけて来たのか、その意図が、分からず僕は|この話(ムービー)にのめり込んでいた。


「やがて、激化した戦争の中で核を誰かが撃った。しかしそれは誰かの意思センスでは無く、誤射だった。軍事支援国家日本の経済的安定を羨ましがった米国国防相ペンタゴンは民間軍事会社PMCに目を付けその活動を補助し直接的に戦闘員を派遣する事で利益を得ようとした……だがその、急造的な戦闘員達は精神統制も無く、只々駆り出された素人アマチュアばかり。そんな奴らが誤って小型の核弾頭を発射してしまった」


 獅子は尚も語り続ける。痺れを切らしたのは意外にもジャンでは無くアーノルドだった。


「分かってるよ大佐、それで国々は待ってましたと撃ち合いを始めたんだろ?その尻拭いの為に作られたのが俺達、SGだろ?」


「その通り。静寂サイレント消失ゴーンした世界に安定を取り戻す為に作られた組織だ。そしてジャン、アーノルド、お前達は俺が実の息子の様に全ての技術スキルを惜しみなく叩き込んだ最高傑作だ。だからお前達二人、そしてSGの同胞達のその後を俺は心配していた。お前達が退役後どんな人生を送れるのか……政府とも約束はしていたんだが、裏切られた。」


 そう言った獅子の眼には綺麗な滴が見えた。

気付くと手にはハンドガンが握られている。


「大佐……何を考えているんですか?」


 ぱあん。


 ジャンの言葉に銃声が答えた。アーノルドの頭から脳味噌がぼとぼと音を立てて零れ落ちる。


 ぱあん。ぱあん。


 ジャンに向け獅子の牙が爪が襲い掛かるがそれを交わし反撃に出る。


 直ぐさま電子機器を起動させHBを選択、箱は動き出し構えた時には既に銃は獅子を捉えていた。


「いい動きだぞ!」


 獅子が吼えるとほぼ同時に獅子の発した言葉の語尾がHBに吸い込まれた。


 当たらなかった事を確認するとジャンは遮蔽物に隠れる。


「なんでこんな事を……あんた狂人マッドハッターにでもなったか?」


「若いな、ジャン・ホライゾン!大局を見ろ!ずっと人を殺し続ける気か?その先にある物を見ようとした事は無いのか?」


「僕にはこの生き方しかない!そう育てたのはあんただろ!?」


 ジャンは遮蔽物から素早く飛び出し声がした方向に銃を向けたが、そこに獅子は居なかった。


「何処に……」


 此処だ。低く唸る様な声の方を向こうとするとそこには銃口を、既に向けた獅子が立っている。


「終わりだ、ジャン。」


「ノーマン・ラングレン!!」



 撃鉄。






 fin















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