【道連れ】
「どのくらい屋敷の中を歩いたの」
「出口を探して、ずいぶん長いこと歩きました」
「そうだったのか……」
痛ましい話だ。
「階段はあった?」
「はい。何度か上ったり下りたりした気がします」
いったいここは何階なんだろう。僕は一度しか階段を下りていないからずっと地下一階だと思っていたけれど、この屋敷のこと、ヘタするとぜんぜん違うのかもしれない。
「とりあえずこの屋敷から出ないか? 携帯を探すのはいったん外に出てからでもいいだろう」
こんなところをウロウロしてたって見つかるはずもない。
「そうですよね……」未弥は同意した。
紗織さんやめぐみを探すのも大事だが、かといってこのままこの子をほったらかしにすることはできないと思った。例の怪物も徘徊している。優先的に未弥をこの屋敷から脱出させる選択肢以外にはありえないんじゃないだろうか。
実は僕も目の前の未弥と同じく、昔イジメにあっていた時期があるからなおさらのことだった。
僕の場合は小学生のころだったが、イジメにあうたびにめぐみのやつがすっ飛んできて、そのつど相手を蹴散らせてくれたものだった。
でもそれが高学年にもなってくると、めぐみのやつはイジメっ子を追い払ったあと、僕のことをさらに軽蔑のまなざしで見るようになっていったものだ。
「もっとしっかりしなさいよ」とか「今のままでいいの」とか「あんたってどうしようもないよね」とかいちいち嫌味をいわれた。
家では家で親父に「せっかく俺が大作戦っていう名前をつけてやったのに名前負けもいいところだな」などとバカにされ(酔ったいきおいでつけたくせに)、それから僕は奮起して心と体を強くしようと固く誓ったのだ。
それである日のこと、僕はイジメのリーダーを自力でねじ伏せ、イジメられっ子の汚名を返上することに成功したのだった。自分の中におおいなる自信が生まれ、以来僕はそれまでとは真逆のベクトルに極端なまでに突っ走るようになっていったってわけだ。それが今の僕「煮凝大作戦」だ。困っているやつ、悲しみに沈んでいるやつがいたら見過ごすことはできない。それはそれでまた、めぐみから見たらとても鼻につくようだったが……。
「よし、じゃ未弥、ここから電車で帰ろう」僕は未弥に提案した。
「えっ」
「電車に乗ってこの屋敷から出るんだよ。ほら、これ見ろよ」
僕は得意げにポケットから二枚の路線図を出すと、畳の上に広げて並べた。
「未弥、きみが屋敷ん中ウロウロしてるあいだに廊下を電車が通りがからなかった?」
「あ、そういえば一回だけ。すごくビックリしました。廊下に線路が敷かれてますよね。あれは何なんですか」
「お屋敷列車、かな」
「え」
「ここから一番近いのが『荻風駅』だから、ここから電車に乗って……(中略)……で、この『六条西中門前』って駅で降りればこの屋敷から堂々と出て行けるってわけだよ」と、二枚の路線図を指さし、数度の乗り換えを自分じしんにも確認しながら辿っていきつつ、僕は未弥に屋敷周遊電車旅の説明をした。
未弥は感心しながら熱心に僕の説明に耳を傾け、食い入るように二枚の路線図を見つめている。
「スゴイですね。こんなふうになってるんですね」
「な。スゴイだろう」まるで自分の電車ででもあるかのように僕は未弥に自慢した。
「荻風の駅はこっちにあるんだ。廊下に面した部屋が駅になってるんだ。そうと決まったらさっそく行こう」
「あ、はい」
僕たちは立ち上がると、元来たルートを引き返した。未弥にとってはまだ未知のルートだったが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます