1話 幕開け①
宇宙空間のような場所に4つの存在があった。魔王を滅ぼした勇者3人と、あきらかに人とは違う雰囲気を持つ女神と呼ばれる存在。
そして今、女神からある問いが投げかけられていた。勇者として必要以上の力を得た3人の、今後の身の振り方について。
女神は名指しでセレナにその答えを求める。銀の髪の少女セレナは、とまどいながらその問いの返事を口にした。
「――やっと、今やっと魔王を倒し終えたばかりなのに。やっと目的を果たしたばかりなのに。分からない……この先どうするかなんて」
セレナの発言を受け、女神はその顔に笑みを浮かべる。そして、3人にやさしく諭すように語りかけた。
「確かに、戦い終えたばかりのあなたたちには少し酷な質問だったかもしれません。けれど、あなたたちの力は、明確な意思もなく元の世界で暮らしていけるレベルを遥かに超えているのです。しばらくは魔王を倒した功労者として人々の厚い信頼を受けるでしょう。しかし時が経ち、皆が平和を実感し始めた時。その時人々はあなたたちの力を、その存在を、果たしてどのようにとらえるでしょうか? あなたたちは自ら意図しないにもかかわらず、その意思を通してしまうことがないでしょうか? 戦争の道具となってしまうことがないでしょうか? よく考えてみてください。この世界のバランスを崩すほどの力を、あなたたちが持っているということを」
しばしの沈黙が流れた。女神の問いに明確な答えを出せる者は誰もいなかった。
その時、苦悶の表情を浮かべながら、セレナが女神に問いかけた。
「じゃあ、私たちどうすれば……」
搾り出すように口にしたセレナの疑問。誰もがセレナと同じ思いを胸中に抱いていた。
特にアグア(仮)は大きく頷きセレナの言葉に賛同しながら、なお女神の発した問いの意味を考えていた。
まったくもってセレナの言う通りだ。実感はないが、一般の人間を遥かに超える能力。それを身につけたのは、それだけ魔王が強大な力を持っていた証拠じゃないか。
話を聞く限り装備品の威力に頼ったり、魔王を倒すためだけに作用する力ではないらしいし、そうだとすれば力を身につけるまでにそれ相応の苦労もあった筈だ。
対魔王の構図を考えた場合、女神はおそらくこちら側の存在だろうから、そんなことは承知しての発言だと思うが、だとしたら、このタイミングでの問いかけは、ずいぶん意地が悪いとしか言いようがない。
女神の杞憂も分かるが、必ずしも問題が起きるとは限らないし、もし起こったとしてもその時対処すれば済む話。それでは遅すぎるケースもあるかもしれないが、そんなことまで考えていては……?
いや、待て。女神は何か、それを打開できる秘策を持ってるんじゃないのか?
言葉で労いを受けたあと、さあ、今からご褒美タイムが始まるという状況から、こんな質問はおかしすぎる。この質問は俺たち3人に対する戒めのようなもので、アメを与える前に先ずムチを。そういう考えのもとの発言ではないのか?
……いや、そうだ。きっとそうに決まってる!
アグア(仮)は自らの考察の末、確信に近い思いで女神の問いの意図を探り当てていた。そして、自信満々にその後の様子を窺っていると、女神はその考えを裏づけるように穏やかな表情を浮かべた。
「選択肢はそんなに多くはありません。けれど、あなたたちに考えがないのであれば、私が1つ策を授けましょう」
やはり女神は、秘策を持っていたんだ!
女神の言葉を聞いた途端、アグア(仮)は顔を上気させながら心の中で小躍りした。予想が当たりすっかりご機嫌になったアグア(仮)を含む3人に向け、女神は慈愛溢れる微笑みと共に、その秘策を告げた。
「ここで命を絶ちなさい」
瞬間、衝撃が走る。おそらくは、ここに並ぶ3人すべてに同様に。
いや、全く逆の思考を展開していたアグア(仮)こそが、最もその衝撃が大きかったかもしれない。
動揺のうちにありながら、アグア(仮)は、女神が話した言葉の意味について考えていた。
えっ? 今、女神は何と言ったんだ?
ここでいのちをたちなさい?
まさか座っているのか? ココデイ・ノチオさんが……
『ノチオさん。ココデイ・ノチオさん。何を座っているの? ココデイ・ノチオ立ちなさい』
ってな可能性は……ないか。
だいたい、女神がそんなくだらない冗談を言うわけがない。
だとしたら直訳?
命を絶つってことは『死ね』ってことか……?
って、そんなバカなっ!?
俺たちは魔王を倒した功労者じゃないのか!?
記憶には無いが、つい今しがたそれを終えたばかりっぽいこの状況で、授かるべき言葉か!? 噛んだのか? 女神は噛んで、口がすべってそんなセリフが出てしまったのか!?
咄嗟に湧き起こる疑問を遮るように、エルフ族の男、おそらくルカキス(仮)が、烈火のごとく怒号を響き渡らせた。
「おいっ! 黙って聞いてりゃ、いい気になりやがって! 魔王さえいなくなったら、俺らは用済みだってのか!」
あまりの怒りにルカキス(仮)の体は打ち震え、みるみる顔が高揚し、周りに憚ることのない殺気を放ち始めた。
動転していたアグア(仮)も、ここに来てようやく女神の言葉はそのまま受け止めるしかないとの見解に達していたが、記憶が無い上に自分の強さに実感を持てないせいで、ルカキス(仮)に同調しかねていた。
……気持ちはわかる。だが、この発言といい、女神のような風貌。状況を完全に把握したわけじゃないが、俺たちの力でどうこうできる相手でない可能性が高い。
早まるな。ここはもう少し様子を見るんだ……ルカキス。
「許せねぇ! これがお前の筋書きかっ!? 俺がどんな思いで魔王と、あいつと戦ったと思ってるんだっ!?」
「…………」
「おもしれえ。殺れるもんなら殺ってみやがれっ! だが、俺も無敵のアグアと呼ばれた男、そう簡単にはくたばらないぜっ!」
「やはり、わかってもらえなかったようですね」
「わかるかよっ!」
捨て台詞とともに、即座に女神との間合いを詰めたエルフ族のアグアは、目にも留まらぬ速さの一閃を繰り出した。
ガキンッ
だが、その時辺りに鳴り響いたのは、女神を斬りつけたとは思えない硬質な音色だった。微動だにせず、受け止める所作さえ見せなかった女神に、アグアの剣は届かなかったのだ。
「何っ……神の防御フィールドか!?」
その刹那、女神の背後から射す後光が、鮮やかな色彩からドス黒い闇の色へと変化した。
「……アグア。これほどまでの業を背負っているとは。お前は自らのカルマの重みで生命の糸を断ち切ってしまった」
「――!?」
「己の運命を呪いながら、カリ・ユガの地で永遠の苦痛と共に過ごしなさい」
女神の言葉と共に、場の空気は瞬時に氷つく。
闇の光をまとう女神の表情は、闇と同化し読み取ることができない。その時、アグアの額から一筋の汗がつたい落ちた。
「お前と話すことは、もう何もありません」
女神がそう言い放った途端、アグアの周りを無数の白い光体がとりまき始めた。
それらは瞬く間に数を増やし、アグアを視認できないほどの量で覆ってゆく。さながらアグア自身が白い光の球と化したように、アグアの周囲はついには白い光体で埋め尽くされてしまった。
「なっ、何!?」
「アグア!」
アグアの驚きの声。
セレナの悲痛な叫び。
それを合図に白い光体は、アグアを引きつれ遥か彼方へ飛び去ってしまう。
「うわああああああぁぁぁぁぁ…………」
虚しくアグアの声がこだまし、闇に飲み込まれていく。
「アグア……」
セレナの漏らすか細い声と、繰り広げられた予想もしなかった出来事。だが、それを間近で目撃しながらも、その展開の理解に苦しむ者がそこにはいた。
いったいなんなんだよ、さっきから!
俺はここにいるのに、アグア、アグアって、まるであいつがアグアみたいに、みんなで会話して……
……ん?
……えっ!? あっ! あああああああああああああっっ!
ま、まさか……まさか、あいつがアグアだったというのか!?
ってことは、俺がルカキスなのかっ!?
ち、ち、ちょっと待て。すぐには頭も心も整理できない。いや、整理したくもない!
だって、ありえないから! そんなことある筈ないから!
俺は俺の持つ、絶対の信頼と確かな安心でおなじみの、卓越した状況察知能力に導かれて名前を決定したんだから!
それが間違っていただと? 誤りだっただと?
バカなっ!? そんな現実、あるわけがない!
…………いや。
だが、奴は自らアグアを名乗っただけじゃない。奴がアグアであることを、女神もそう呼びかけることで肯定していた。そして、セレナも……
くそぅ! この矛盾を解き明かす、何か画期的な結論はないのか!?
ま、まさか!? 俺も奴も2人ともアグアだったのか!?
ダブル・アグアなのか!?
……いや、それはない。アグアとルカキスは表裏一体。共にアグアなら、ルカキスがいないことに新たな矛盾が生じてしまう。だから、奴が真にアグアだったとしたら、俺は……俺はルカキスを選択せざるをえないんだ!
くぅ、なんてことだ! 究極の二択を掻い潜って手にした名を捨て『実はルカキスでした』という事実を、今更俺に受け入れろというのか!?
どうするんだよ。この俺の気持ちは……
すっかりそうだと思い込んでいたのに!
すっかりアグアだと思い込んでいたのに!
俺は、俺は百人斬りのアグアじゃなかったのかよ……
しかも、あいつ言うに事欠いて、自分のことを『無敵のアグア』だなんて言ってたし。言い過ぎだよっ! ちっとも無敵じゃなかったし!
……いや。だが、悩んでいても始まらない。忘れよう、アグアのことは。
楽しかった思い出をいっぱい、ありがとう。俺がアグアだったことは一生忘れない!(今、忘れるって言ったばっかりだけど、やっぱり忘れない)
さようならアグアだった俺……また逢う日まで。
よしっ! そうと判ったからには今から俺はルカキスだ!
だが、ルカキスはルカキスでも普通のルカキスとはわけが違う! 幾多の試練を乗り越えルカキスとなった俺は、もはやルカキスであってルカキスでないっ!
そう、俺はルカキスを超えた全く新しいルカキス……『ネオ・ルカキス』なんだっ!
名前が判明したルカキス(確定)は、少し心が晴れ、明るい表情になっていた。
だが、ルカキスが明るくなったからといって、状況がそれに合わせて変わる筈もない。依然として暗く不穏な空気が辺りを包んでいた。
「……アグアはどうなったの?」
恐る恐るそう尋ねたセレナに、女神が冷徹な視線を投げかける。
「その質問に答える必要はありません。なぜなら、お前もすぐにあとを追うことになるのですから」
女神の言葉を待たずに、セレナの足元の闇から生まれた無数の白い光体が、螺旋状に上方へ向かいながらセレナを包み始める。次第に数を増やす白い光体は、外からセレナを視認できない量で取り囲み、アグアと同じように1つの光の球体と化し完全に覆い尽くしてしまう。
「い、いやぁ……助けて……」
その光景を言葉もなく、ただぼぉーと見つめるルカキス。
「助けて、ルカキス! いや、いやああああああぁぁぁぁ…………」
そんな悲痛な声だけを残し、無情にもアグアと同じように彼方へ消え去ってしまうセレナ。それを見届けたルカキスは、ただ1人満足感を覚えていた。
状況的に考えて、あの言葉は俺に向けられたもの。だとすると、疑っていたわけじゃないが、やはり俺の名前はルカキス。そう考えて間違いなさそうだ。
フッ、音の響きからして疑う余地はなかったんだが、俺もどうかしていた。
かわいい子には旅をさせろと言うし、そういう意味で敢えてアグアを選んだ……というところかな、フフフ。
だが、セレナもわかってないな。ルカキスに助けを求めても、ここにルカキスはもういない。そう、ルカキスは死んだ。そして、ここに立つ俺はルカキスの屍を乗り越え立ち上がった全く新しいルカキス……ネオ・ルカキスなんだからな!
……少しくどいか? まあそれはいいとして、状況はあまり良くないようだ。
あの光、殺傷能力は無いようだが、あれに包まれると有無を言わせずどこかへ運ばれてしまう。
カリ・ユガの地とか言ってたっけ? 2人の反応を見る限りあまりいいところではなさそうだし、俺は遠慮したいところだが……
そんな思いをあざ笑うかのように、ルカキスの足元からは白い光体が立ち上り、周囲をとりまき始めていた。
しかし、タイミングを同じくして後光から闇が取り払われた女神の表情には、意外にも苦悩と表現していい複雑なものが浮かんでいた。
「ルカキス。本当はあなたに、こんなことをしたくはなかった。でも、こうするより他に方法はないのです」
女神の発した言葉はルカキスを驚かせた。後光が正常な色彩に戻ったことも含め、前の2人とはあきらかに対応が違っていたからである。
ルカキスはその意味するところについて、猛烈なスピードで思考をめぐらせ始めた。
『あなたにはしたくない?』
『こうするより他にない?』
ちょっと待て! 何だ、その意味深な発言は!?
まさか、俺と女神は何か特別な関係にあるとでもいうのかっ!?
俺が忘れている、女神と俺の関係性……
アグアとセレナよりも深い、俺と女神の間柄……
そんなものがあって、それさえ思い出せばこの状況を打開できるんじゃないのか!?
思い出せ! 思い出すんだ、ルカキスっ! いや、ネオ・ルカキスっ!
ルカキスは必至になってそれを思い出そうとしていた。だが、普通の物忘れとは違いルカキスからは大幅に記憶が失われている。さらに、それが実際ただの記憶喪失なのかも定かでないのである。
自分の名前すら自分のものと実感できないルカキスにとって、すべてを思い出すにはあまりに時間が短すぎた。そして、その時間もついに尽き果てることが、ルカキスを視認できない量で取り囲む光の群隊が教えてくれていた。
思い出せ……思い出すんだ、ネオ・ルカキッスッッ! それさえ思い出せれば、きっとこの危機を回避できる!
ザザー、ザザザー
そこは夕暮れの海岸。
打ち寄せるさざ波の音に耳を傾けながら、浜辺のオープンカフェでルカキスは熱い紅茶で喉を潤している。優雅な所作でカップを置くと、テーブルに両肘をついて、組んだ両手の上にそっとアゴをのせる。
すずしい。とてもすずしい目をしながら、ルカキスは誰にともなく語り始める。
「僕はね、時折思うんですよ……」
言葉を切ったあとのたっぷりとした間を、さざ波の音が埋めてくれる。潮風を肌で感じながら、ルカキスはそっと両の瞼を閉じた。
「記憶って、どこから来るのかなって。だってそうでしょう? 必死に思い出そうと頭はどこかにアクセスしてるんだけど、実際それが頭のどの辺りなのかは、何だか漠然としていてピンポイントに場所を特定できない。結局、思い出せたとしてもポンと出てくる感じじゃなくて、なんだかジワッと滲み出てくるような感じ? 思い出せたことにはスッキリするんだけど、それがどこから来たのかは結局わからない。スッキリしたようなスッキリしないような。……僕だけかな? こんな風に思ってるのは」
――って、長いわっ! 何をまったり考えてるんだっ!
そんな悠長に構えてられる時間はない!
俺はバカかっ!? そんなことを考えてる間に、いつアグア達のようになったとしても――
その刹那、突如訪れたわずかな浮遊感。ルカキスの心は一瞬にして恐怖に鷲掴みにされる。
「い、いやだっ! うわあああああああああああぁぁぁぁっっ!」
押し寄せたあまりの恐怖に、ルカキスはなりふり構わず、可能な限りの往生際の悪さを発揮する。だが、ルカキスの必死の努力も報われぬまま、浮遊した光の球は、ルカキスを伴い遥か彼方へ消え去ってしまう。そして、この空間に残るのは、女神ただ1人だけとなった。
……かに見えた。
だが、実際に飛び去ったのは光の球だけであり、ルカキスは依然としてその場にとどまっていた。
しかし、ルカキスは、なお声を上げ続ける。恐怖のあまり目も開けられぬまま。
「うわあああああああああああああああああああぁぁぁぁっっ!」
「うっわあああああああぁぁ! ワオオオオオオオオォォォォ!」
「ウッヒョォォォォォォォォォ ムヒョォォォォォォォォッッ!」
「……えっ!?」
先に状況に気づき、声を上げたのは女神だった。女神は光の飛び去るのを見届けず、節目がちにその場に佇んでいた。先ほどのセリフにあったように、何か自分の行為に対する後悔。そんなものに苛まれているようにも見受けられた。
だが、いつまでたっても鳴りやまない、ルカキスのうるさい悲鳴。それを不審に思い、開いた目でとらえたルカキスの姿。それがそこにまだあることに対する、ある筈のないものを見た驚きの声であったのは間違いない。
そして、その声でようやくルカキスも貝のように張り付いたままだった瞼を開き、現状を確認した。
「えっ!? あ、あれっ? なんともないじゃんっ!」
「…………」
「俺、なんともないじゃんっ!」
ルカキスは同じセリフを2度続けて口にした。1度目は自分に言い聞かせるように。2度目は女神に問いかけるように。
「なぜ……どういうこと……?」
女神の声はわずかにうわずって聞こえた。そして、その顔には焦りの色がありありと浮かんでいた。
―――― 自ら神を称する君が『なぜ』とはまた、おかしなことを言うもんだ。全知全能ではないということかな? フフフ ――――
突如、空間に誰かの声が響き渡る。そして、その声に少し遅れて、女神とルカキスのちょうど中間地点に虹色の光の帯が立ち昇った。
光の帯が消えそこに現れたのは、先ほど彼方へと飛んでいったアグアだった。
「お、お前はアグア!……なぜ!?」
「フフフ、カリ・ユガから舞い戻って来たぜ……なんてね。そうだったら非常に面白いが、残念ながら私はアグアではない。演出的に彼の姿で登場すれば場が盛り上がるんじゃないかと期待したんだが……どうやらうまくいったようだ。フフフ」
一瞬たじろいだ女神だったが、何かに気づいたのか、すぐさまその謎の存在を敵意のこもった目で睨みつける。
「この空間……ここには通常手段はおろか、たとえ魔法を使っても入っては来れない筈だ! 貴様はいったい――」
「ハッハッハ、どうやら私の演出はあまり歓迎されなかったようだね。それにしても声音が全く変わっているよ。そんな風に話していると、お前が魔王と対比される立場に立つ者だとは、とても思えないがね? フフフ。まあ、そんなことはどうでもいい。ルカキスはもらって行くぞ!」
「させるかっ!」
女神は手にした杓杖を、即座に足元で打ち鳴らす。すると、女神を中心に生じた強烈な衝撃波が、瞬く間に空間全域に広がった。
それは触れたものを跡形も残さず消し去る、絶大な威力を伴う力の波動。それが証拠にその衝撃波に触れた途端、アグアそっくりの謎の存在は、ズタズタに切り裂かれてその場から消え去った。
しかし、一瞬早く虹色の光の帯に包まれたルカキスは、衝撃波がたどり着くわずかの差で、この空間より姿を消していた。
「何!?」
その事実に驚く女神。
だが、彼女を更に驚かせる声がその耳に届いた。
「フフフ……」
不敵な笑い声と共に姿を現したのは、先ほどと変わらぬ場所に立っている謎の存在だった。謎の存在は衝撃波が行き過ぎた途端、何事もなかったようにその場に復活していたのだ。
いや、正確には初めから消えてなどいなかったのかもしれない。衝撃波の影響でノイズが走り見えなくなっていた映像が、それが過ぎ去って再度見えるようになった。そんな風に謎の存在はこの空間から姿を消し、そしてまた現れたのだ。まるでここにはその実体が無いとでも言わんばかりに。
「同じことだから、別に消えたままでも良かったんだけどね。礼儀として正式にお暇させてもらうよ。フフフ……」
その言葉を最後に残し、謎の存在もまた来た時と同様、虹色の光の帯と共に姿を消した。今度こそ本当にこの空間には女神1人を残すだけとなった。
1人になり、少し冷静さを取り戻した女神は、今起こった出来事。こと更アグアの姿で現れた謎の存在について考えを巡らせる。
「まさか今のは? いや、だとしても早過ぎる……」
ただ1人、その空間に佇む女神は、そのまましばらく結論の出ぬ思考の迷路を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます