閑話


 カリ・ユガ調査団全滅の報を受け、エルフがエタリナから排除されてのち、それを称賛する国民の声とは別に、国内からは長年この国を支え続けてきたエルフの相次ぐ裏切りに、疑問を抱く声も上がっていた。

 地方の軍の中には、個人的にエルフと親交を持つ者もいて、中央に対して抗議を申し立てたり、公の事実の裏に隠された、真相を探ろうと動きを見せる者も出てきた。

 しかし、そのことごとくが裏組織サウスフェラトゥの暗躍で、闇に葬られた。

 暗殺や国外退去の憂き目を見るだけでなく、濡れ衣を着せられ組織犯罪の首謀者に祭り上げられたあげく、その討伐に立ちあがった勇者ルカキスが名声を得るのに利用されたりもした。

 一方で、偽ルカキスと協力関係にあったエルフを国から排除したことで、当面魔王の脅威は退けられたと打ち出し、勇者たちが町を巡るパレードなども行われた。

 女神は次第に国王を無視して国の権力に介入するようになっていったが、ついには国王もそんな女神の動きを訝しみ始めていた。

 だが、国王派の勢力もまた、そのことごとくが罠に嵌められた。一部の表沙汰となった案件には勇者ルカキスが解決に乗り出し、大義を背負ってそれを鎮圧することで、国民からの人気を不動のものにした。

 そんな世論の後押しを受け、ルカキスは黄金騎士にまで上り詰めた。そこに国王はますます不信感を強めていた。

 自分の思惑を度外視して、どんどん変化してゆく体制に強い不安を抱いた王は、ある時女神にこう尋ねた。


「――女神よ、1つお尋ねしたい。もうかれこれ2年以上の時が経つが、魔王はすっかりナリを潜め、偽ルカキスの噂を耳にすることもない。もはや脅威は去ったと考えてもよいのではなかろうか?」


 国王の問いに、女神が冷徹な視線でそれに応じた。


「……何が言いたいのですか? 私がこの地に留まっているのが、それほど不服なのですか?」

「い、いやいや、滅相もない!……ただ、女神はお忙しい身の上。ここエナリナにかかりきりなっていては滞る案件もありましょう。本来なら、何かが起きた時に再度ご降臨いただくのが適正かと思われるが、この国にお留まりになる何か他の理由があるのかと……」

「だとすれば、何だと言うのですか?」

「はい。もし、叶うなら――」

「叶いません」

「えっ!?」

「神の思惑を、人が理解出来ると考えるのは傲慢な思い上がりです。ルカキスも黄金騎士に就任し、既にあなたも役を終えました」

「……そ、それはいったい、どういう意味であろうか?」


 そう問いかける国王に、女神は妖艶な笑みを浮かべながら答えた。


「それを私の口から聞く必要はありません。その答えが自らの思考より導かれる十分な時間を、あなたには与えるつもりですから。……ドレントフ」

「ハッ!」

「この者を牢へ」

「えっ!? め、女神……そのようなお戯れを」


 しかし、ドレントフに捕縛された国王は、牢へと引っ立てられてゆく。


「ま、待てっ! 余は王であるぞ!」

「私は女神です。神と王。どちらの意志が優先されるべきかは、問うまでもないことです」

「そ、そんな!? 女神! な、なぜっ!? 離せ! 離せこの無礼者! 女神! 女神よ!」


 国王はそのまま幽閉されたが、その事実が外部に漏れ出ることはなかった。

 内政は既に女神の息がかかったドルニア家が取り仕切り、軍事的権力は黄金騎士ルカキスが保有している。女神は国の全権力をその手に握っていた。

 アバネはゲート付近に設けていた研究施設を引き上げ、王城内に新たに築いた設備を使い堂々とサイボーグを量産した。

 そして、女神の企みは、いよいよ実行間近となっていた。

 3年の時は、このように過ぎていたのだった。

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