44話 抜け穴を抜けると、そこは……


 レンピを案内に立てた一行は、2年以上の歳月をかけて掘ったという抜け穴に向かっていた。

 その最後尾を、重い足取りでついて歩くロボ。

 それを見たルカキスが、速度を落として隣に並んだ。


「どうした? 元気がないじゃないか、ロボ」


 笑みを浮かべて、そう語りかけるルカキス。ロボはそれを一瞥しただけで、返事は返さず深いため息をついた。

 それを見て、目を細めながらルカキスが続けた。


「みすみす相手の企みに乗るのが、そんなに嫌か?」


 その言葉に、ロボは目を見開いてルカキスを見返した。


「なんだよそれ……お前まさか、知ってて――」

「知ってても何も、あんな話を真面目に受け止めるのは、カリューくらいしかいないだろう?」


 そう小声で耳打ちされたロボは、ルカキスも自分と同じようにレンピに疑念を抱いていることに気づいた。

 しかし、そうだとすれば、先ほどルカキスの取った態度の意味が分からない。ロボは声を荒げてそこを問い詰めた。


「じゃー、何でさっきはオレの意見に反論したんだよ!? あのまま説得すりゃー、カリューだって――」


 大声で訴えかけてくるロボの口を塞いだルカキスは、前を歩く2人に話を聞かれないよう、更に距離を取ってから理由を語り始めた。


「相手の目的を知るためにも、あそこで追い込むのはうまくなかった。それよりも奴を泳がせて、意図を突きとめる方がベターと考えたんだ。あんな間の抜けた奴が女神や軍に関係しているとは思えないが、素性を暴き無関係と知るだけでも安心できる。それにお前がついてるんだ。たとえこの先に罠があったとしても、問題が生じることはないだろう。……俺はそう考えていたんだが?」


 そう言って信頼の目を向けるルカキスに、ロボは一気に相好を崩した。


「ガ、ガハッ……ガーハッハッハッ! お前がそこまで考えてるとは夢にも思わなかったぜ!」

「フフッ、まあな。だが、相手を欺くためとはいえ、さっきは少し言い過ぎたかもしれない。ロボ、すまなかったな――」

「なに言ってやがる! 謝らなきゃならねーのはこっちの方だ! オレこそ悪かったぜ、ネオ・ルカキス! そーだ、あんな映像を持ってるから、クズみてーな真似しちまったんだ! ついでにあのデータは今すぐ消去しておくぜ!」

「そ、そうか……それは助かる」


 クールにそう答えながら、ルカキスは内心ほくそ笑んでいた。完全に自分の思惑通りに事が運んでいたからだ。

 カリューから学習ラーニングした『おだて作戦』のおかげで、ルカキスはカリューに続き、ロボとの関係も無事修復することができた。

 しかも、データ消去というおまけまで付いた今回の結果は、ルカキスにとても大きな満足感をもたらしていた。


 残す問題はレンピが何を企んでいるかだけだったが、そこにルカキスは大きな懸念を抱いてはいなかった。なぜなら、レンピのおつむがそれほど良くないことは、先ほどの会話からも分かっている。だとすれば無理に暴き立てるまでもなく、いずれボロを出すのは目に見えていたからだ。

 それに何らかの罠が待ち受けていたとしても、それはロボの実力を検証できる良い機会になる。願わくばできるだけハデなものであって欲しい。そんなことを密かに期待してもいた。


「2人とも、遅れないように着いてきてくれよ」


 前方から、ルカキスとロボにそう声をかけるカリュー。どうやら抜け穴に着いたようで、既に中に入っていたレンピに続きカリューも穴の中に消えた。

 残りの2人も抜け穴に辿り着くと、そのまま中に飛び込む。5メートルほどの縦穴を降りた先には横穴が伸びていた。

 縦穴は何とか2人が並んで立てるくらい広さがあったが、横穴は四つん這いで進まねばならないほど狭くなっていた。そこに首を突っ込んだルカキスは「中は真っ暗じゃないか!」と即座にロボを振り返った。

 それに呼応するようにロボの目が眩しい光を放つ。それを見て無言で向き直ったルカキスは、ライトの光を頼りにゆっくりと進みだした。


 ある程度進むと、ルカキスはすぐにカリューに追いついた。穴はところどころで別の穴に分岐しており、迷わないようカリューが待っていてくれたのだ。

 しかし、なぜこの抜け穴には分岐があるのか?

 レンピが掘り進めたという事実を考えれば、非効率に幾つも穴を開けているのは、はなはだ疑問である。

 だが、レンピをハナから信用していないロボとルカキスは、別段それを気に留めることもなく、レンピを信用していたカリューはそこを勘ぐらなかった。


 ルカキスは、ほとんど隙間なくカリューの後ろに続いたが、カリューの前方はそれほど明るくなかった。カリューも疑似照明魔法シュード・ライトを使って前方を照らしていたのだが、魔法はその前を行くレンピのために使われていたからだ。

 連なって穴を進む中、なぜかカリューは時折急停止する。ロボの光が届いている時は良かったが、角を曲った先の暗がりで止まっていた時に、ルカキスは勢い余ってカリューの尻に突っ込みそうになった。

 あわやのところで何とか踏みとどまると、自分の反射神経を誇らしげに思いながら、こんな心の声を漏らした。


 ふ~危ない、危ない。もう少しで、1人罰ゲームに及ぶところだった。

 なぜ俺が好き好んで、男のケツに顔を擦りつけねばならんのだ。

 前をゆくのが、かわい子ちゃんならむしろ大歓迎だが、正常な嗜好を有する俺は、カリューのケツになど全く興味は――


 そこでルカキスは、はたと思考を止めた。なぜなら、止めねばならない重大な事実に気づいたからだ。


 待てよ。俺が見たくもないカリューの尻を拝んでいるのだとすれば、カリューはいったい誰の尻を拝んでるんだ…………!?


 その時、ある疑念がルカキスの頭を過った。


 そういえば、あの狐娘はどこだ? もしかして、カリューの前には彼女の尻があるんじゃないのか!?


 そこに思い至ったルカキスは、カリューの体に遮られた隙間から、必死になって前方を覗き見る。するとそこには、やわらかそうな肢体が見え隠れするのが見えた。

 それは紛れもない女体の造詣。当然その持ち主は、レンピ以外に考えられなかった。

 それを知ったルカキスは、瞬間的に激怒していた。


 カリュー! 貴様という奴はっ!


 心に湧き起こった怒りと共に、怨みがましくカリューの尻を睨みつけるルカキス。

 ルカキスの罵倒は続いた。


 カリュー、お前は何という、何というハレンチ極りないゲス野郎なんだ!

 俺に何の相談もなく、狐娘のあとに勝手について入ってしまうとは。誰が2番目に入るかは、最低でもジャンケンで決めるべきじゃなかったのか!?

 ……いや違う。優先権は俺にあった筈だ。なぜなら、俺はフリーだからだ! クライングフリーマンだからだ!

 確かに、あの狐娘は男好きのするエロティックなボディをしていたし、それに心動かされたお前の気持ちも分からないではない。

 だが、カリュー! お前にはミラバ邸で出会い、将来を固く誓い合った清廉清楚な彼女がいたじゃないか!


『俺には重大な使命がある。だから、お前と共に行くわけにはいかない』

『……では、もうあなたとお会いすることはできないのですか?』

『そんなことはないさ(ニコリ)全てを終えた暁には、必ずお前を迎えにいく。なぜなら、俺はお前を愛しているからだ』

『カリュー様……』


 ――とか何とか言って、別れて来たんじゃないのか!?(ルカキスの想像)

 それを何だ!? 尻につられて我先にと抜け駆けするとは!?

 とんだ裏切り行為だ!

 俺とお前の彼女に、申し訳ないとは思わないのか!?

 それ以前に、あの狐娘は俺たちを罠に嵌めようとしてるかもしれないんだ!

 それを顧みず、お前は仲間の危険より自分の欲望を優先させるのか!?

 自分さえ気持ち良ければそれでいいのかっ!?

 みそこなったぞ、カリュー!


 つい最近、自分も同じようなことをしたばかりだというのに、そんなことは露ほども思い出さないルカキスなのである。

 だが、そこに怒りを覚えているところを見ると、その行為が糾弾され非難されるべきものだと、ルカキス自身ちゃんと理解している。

 しかし、それを他人がすることは許されないのだ。


『それはそれ。これはこれ!』


 ルカキスが座右の銘とする大好きな言葉であり、ルカキスの超絶利己的思考を可能にする原動力である。

 実際、カリューがルカキスの考えるようなゲスい動機を持っていたかは関係なかった。

 なぜなら、カリューはシュード・ライトをレンピより前方に配置して、自分とレンピの間にわざと照明を置かないよう配慮していたし、可能な限り距離をとるよう心がけていたからだ。

 ただ、なぜか時折レンピが止まって待っているせいで、気づけば目の前に尻があるという状況に陥りはしていたが……


 しかし、ルカキスはそんなカリューの事情を省みない。得られた情報に自分なりの解釈をつけ加え、勝手な事実を構築する。それは限りなく先入観に影響を受けた虚構の世界である。

 だが、世界とはこのようにして、断片的情報をもとに各個人の中で不足部分が補完されてしまう。事実に則していようがいまいが関係なく、それが現実となってしまうのだ。

 それは誤解を生み、齟齬を生み、冤罪を生む温床となるが、この問題を解決する手段はない。あらゆる存在は主観でしか世界を認識できないし、どれほど客観性を持たせたところで、それが主観の域を出ることはないからだ。

 つまりは人が真実に即した受け止め方をするのは、不可能ということなのである。


 いや、そもそも事象に真実など含まれていない。そこに含まれる要素は、視点と共にいかようにも姿を変えるからだ。

 従って、どれほど善意を向けられようが、一般的に好事と言われる渦中にいようが、受け手がそう受け止めなければそれはそうならない。

 裏を返せば、受け取り方ひとつで悪意も善意にすり変わるし、凶事をラッキーととらえることもできるが、ことさらうがった見方をするルカキスが、そんな観点に立つ筈もなかった。


 その時、ルカキスの怒りの炎にさらなる油を注ぐように、レンピの声が聞こえた。


「あん……カリューさん! そんなところに顔を突っ込まれたら――」


 その艶めいた口調にルカキスは思わず目を見開く。そして、必死になって前方を確認しようとする。だが、カリューの正面は薄暗くて何が起きているのか判然としない。

 やむなく、その光景を頭に想像したルカキスは、心の中で『くそうっ!」と叫びながら、力任せに土壁を殴っていた。


「いや、俺はお前に触れてもないが……」


 一方、カリューは冷静にそう応じるが、レンピの言葉は止まらない。さらにエスカレートしていた。


「あん……ダメ! そんなにされたら……私もう……あ~ん、来て! カリュー!」

「いや、意味が分からないんだが……」


 ひとしきりそんな会話を楽しんだあと、レンピはペロリと舌を出す。だが、それに気づいた者はレンピを除いて他にいなかった。

 単調な道中を和ますレンピなりの配慮だったが、カリューは戸惑い、ルカキスはあらぬ想像を1人で加速させる。そこには、3人全員がボタンをかけ違うという奇跡が生まれていた。


 割合長かった穴ぐら生活から解放され、先ずはレンピがそこから這い出した。

 レンピは自分の体の汚れを払い落としながら、続けて出てきたカリューのことを熱い眼差しで見つめる。どうやら、途中の一方的なコミュニケーションのせいで、カリューを異性として意識してしまったようである。

 しかし、カリューが同じような感情を抱いている筈もなく、土埃を払いながら鋭い視線をのぞかせる。警戒しながら辺りの状況を確認しているようだった。

 そして、次に出て来たルカキスの視線もまた鋭かった。しかし、それはカリューのように周りを警戒したものではなく、ただ1点だけに向けられていた。そこには、激しい嫉妬と憎悪の念が渦巻いて見えた。

 最後に穴から出たロボの目つきも、これまた鋭いものだった。だが、当然それがルカキスと同じである筈もなく、穴を出るなりレンピに詰め寄ったロボは、いきなり怒鳴り声を浴びせかけた。


「って、何で抜け穴の出口がここなんだよ!」


 先に出ていたカリューも、現在地については疑念を抱いていた。同じく問い質すような視線をレンピに向けた。

 2人がそんな態度に出るのも無理はなかった。抜け穴の出口はゲートにはほど遠い、まったく見当違いの場所に繋がっていたからだ。

 そこはロボとカリューがもともとルートとして考えていた、ゲートの南に広がる雑木林の中ではあった。しかし、警備の兵に見つからないよう迂回したとしても、もっと近いコースがとれた。そう確信できるくらいゲートと離れた場所に通じていたのだ。

 怒りの収まらないロボの暴言は続いた。


「お前、方向音痴かよ!? こんなに離れてちゃー、何のために抜け穴を掘ったのか分からねーじゃねーかっ!」


 ロボの勢いにたじろぎながら、助けを求めるようにカリューを見つめるレンピ。

 しかし、残念ながら今回はカリューの不評も買っており、加勢を得られそうになかった。

 ハナからルカキスなど眼中になかったレンピは、やむなく自分で場を取り繕ろうために切り出した。


「な、なるほど。それは鋭い指摘ですね。でも、実際この穴を用意したのは私では……って、いやいや、掘ってしまった穴の出口をいまさら変更することはできません! それに元いた場所に戻るのも、今さら面倒だとは思いませんか? 幸いこの林を突っ切って行けば警備に見つかることもないですし、木々が発するマイナスイオンをたっぷりと浴びながら、ゆったりゲートを目指そうじゃありませんか!」


 たいして説得力のないこのレンピの理屈が、ロボを納得させられる筈もなかった。


「あのな~。そんな気分で、のんびり行けるわけがねーだろうが? お前、何でこの辺りが警戒されてねーかわかって言ってんのか?」


 その問いに、レンピが自信満々に答えた。


「当然です! なぜならこの周辺は、王国軍の魔法使いたちが作った魔術回路の実験用地になっているからです! 一見何も無いように見えるこの場所には、至るところに魔法が仕掛けられています! 勘のいい者ならすぐにもその事実に気づくでしょう。辺りには獣人はおろか、動物の姿が影も無いのですから! 従って、敢えて見張りを立てずとも、不用意に侵入した者は一網打尽にできます! ここは警備にとって労せず防御結界の役割を果たす、トラップ満載地獄なのですっ!」

「って、アホかっ! 偉そうに言うことかよっ!」


 即座にそう返したロボのツッコミにもへこたれず、レンピはまだなお言い訳を続けた。


「で・す・が、ご心配には及びません。実はこの罠を発動させない画期的な方法を私は知っているのです。それはズバリ……木の上をサルのように移動する方法です!」

「…………」

「多少の運動神経は要しますが、獣人の私は木登りが大の得意なのです。その私が通ったルートを同じようについて来ていただければ、安全にここを抜けることができます。どーです、私の提案は? 驚きましたか? 私についてきて良かったと思ってるでしょう?」


 得意げにそう話すレンピに、ロボが冷たく応じた。


「ほ~う。そいつは画期的な提案だな。オレがお前について木の上を行けるかどうかも疑問だが、それじゃーひとつ手本を見せてもらおーじゃねーか。道案内はあそこから始めてくれるか?」


 そう告げたロボは、ある1本の木を手で指し示した。それを確認したレンピは、満面の笑みでこう答えた。


「そんなのはお安いご用です! 私の華麗なる木登り術を、そこからゆっくりとご覧になっていてください!」


 ノースリーブなのに腕まくりの仕草を見せたレンピは、意気揚々と木に向かって歩き始める。だが、その直後、ロボがこんなセリフを漏らした。


「お前の言う通り、トラップは地面に仕掛けられてるのが主だが、木の上からゲートに迫るという、お前でも考えつくことを、よもや軍の人間が気づかねーと思ってんじゃねーだろーな?」


 その言葉がレンピの耳に入った途端、レンピは高々と足を上げ木に向かっていた姿勢で、ピタリと止まった。


「この辺りのトラップはまだ疎らだ。あの木に辿り着くまでの地面に罠はねーから安心しな。だが、もしあの木に登っちまったら、命の保証はできねー。それでもお前が自分の意見を変えずにそう言い張るのなら、止めはしねーけどな」


 続けられたロボの言葉が、レンピに追い打ちをかける。冷や汗を流し、顔を青ざめさせながら、レンピはロボの言動について考えていた。


 な、なんなんだろう。まるでトラップが全部見えているかのような、自信満々の発言は。

 まさか本当に、仕掛けられたトラップの場所が分かってるとか?

 いや、待って! すっかり忘れてたけど、このロボットについては、力量を侮ってはいけないと事前に警告を受けてたんだった!

 そんな相手が自信タップリに告げてきた言葉が、ハッタリなわけがない!

 だとしたら、あの木に登った瞬間私は……


 直後にレンピの脳裏には、トラップに引っ掛かり木端微塵に砕け散る自分の姿が、鮮明に映し出されていた。


 いやいや、ダメじゃんっ! 

 手とか足とか取れてるじゃんっ!

 このまま行ったら、私間違いなく死ぬじゃんっ!

 ……って、アレ?

 じゃあ、なんで私進んじゃってるの?


 これ以上、絶対に進んではいけないと理解しながらも、レンピの身体は既に歩き出していた。考えるより体を動かすのが得意なレンピは、パニクッた拍子に自分の動作スイッチをONに切り替えてしまったのだ。


 ち、ちょっと待って! 早く言い訳して止まらなきゃ!

 で、でも何て言えば?

 あのロボットの力量を知る筈もない私が、急に忠告を受け入れるのも不自然だし、そのせいでもし怪しまれたら、私の計画が――

 って考えてる間に、もう木のすぐそばまで来ちゃってるし!

 ダメ! 結論が出る前に身体が勝手に木に登っちゃう!  

 待って! 誰か私を助けて……お願い!


 ――来て~、カリュー!――


 その思いが通じたのか、レンピの肩に誰かの手が触れたことで、ようやくレンピは止まることができた。


「やめておけ。ロボの見立てに間違いはない。お前の計画性の無さにはほとほと呆れるが、そんな無謀を決行する前にお前に会うことができて、俺は心底良かったと思っている」

「……カリューさん」


 振り返ったそこにカリューの優しい眼差しを見たレンピは、神に感謝のお祈りを捧げるように、胸の前で手を組み涙を浮かべながら歓喜を表現した。


「ケッ、バカらしい。まだ、そんな奴のことを信用してやがるのかよ」


 吐き捨てるようにそう漏らすロボに、カリューは慈愛溢れる眼差しで応じた。


「そう言うな、ロボ。誰もがお前のように完璧である筈もないだろう?」

「……そ、そりゃーそうだが――」

「俺にはこの狐人族の、頑張ってもカラ回りしてしまう感じが痛いほど分かる。もとより俺たちもここからゲートを目指す予定だったんだ。想定していたより少し遠くはなったが、それくらい別にいいじゃないか」


 先ほどまでのロボなら、それでもカリューに食い下がっただろう。しかし、今のロボにはそれを受け流せるだけの心の余裕があった。


「まあ、お前たちにはこのオレ様がついてんだ。そいつが何かを企んでたとしても、別に構やしねーがな」


 ルカキスを流し見ながら、そんな言葉で会話を締めくくったロボは「じゃー、こっから先はオレが先導する。トラップを解除しながら道を作るから、ルートをそれないよう気をつけてついてこいよ」と上機嫌で進み始めた。


 しかし、そんなロボの視線をガン無視したルカキスは、未だカリューに嫉妬の眼差しを向け続けていた。

 その蓄積された不満が、この中の誰かに向けられることになるのだが……


 とまあ、それは一旦置いておき、ひと先ず予定通り事が運んだことに、ほっと胸を撫で下ろしているレンピの事情を知るために、またもや時は少しだけ過去へと遡るのだった。

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