5

 俺は裸に剥かれて、大の字にベッドの上に寝かされていた。手足は固定されている。

 首を巡らすと、部屋は広く、恐らく最上部の管理室だろう。通信機などそれらしい機器が並んでいる。

 レイの姿を見つけた。やや上方の窓の外にいる。青い宝石を散りばめた様なドレスに着替えている。

 窓と反対側に扉がある。逃げるならそこしかない。

 首をもたげて、前方を見ると、男が一人倒れている。

「ミド」

 叫んだが、反応がない。

「無駄よ。坊やは死んでるわ。その子は、もろ過ぎたのよ。ちょっと、いたぶったら死んじゃったの」

 ミドを良く見ると、体のあちこちに、針金の様な物が刺さっている。レイの玩具にされたのだ。

「相変わらず、良い趣味だな。その内お前も同じ目にあうぞ」

 無駄な抵抗とは思いつつも、憎まれ口でも吐かないと気が収まらない。それにしても、伝助の奴は何をしているんだ。早く助けに来い。

「さっきも言ったけど、助けが来るまでの二週間、あなたには私の相手をしてもらうわ。私だけのショーをね」

「俺は病気には、ならないんじゃなかったのか」

「残念だけどあんなのは嘘よ。あれは、あなたを囮にして、氾濫分子をおびき出して、一掃するためのデマよ。確かに、あなたの免疫力は強いけど驚く程じゃないわ。下じゃ今頃あなたを追って来た氾濫分子が始末されていはずよ。あのうるさい蠅どもを抹殺するために総統が考えた作戦なの」

 それじゃ、俺達の行動は全て監視されていたと言う事か。

「下で俺が兵士達を殺したのも、知ってて見ていたのか」

「それくらいしないと、真実味が出ないでしょ。世界中の氾濫分子をおびき寄せるためだもの、多少の犠牲はしょうがないわ。それに、最近、人工も増加しているし、たまには間引かないとね。一石二鳥かしら」

 レイの実に楽しそうな様子に、苛立ちを感じていると、誰かが静かに近寄って来る気配がした。伝助かと期待して気配の方に目をやると、伝助ではなかったが懐かしい顔がそこにあった。

「やあ、リンデ。久しぶりだね」

「はい、正夢さんもお元気そうでなによりです」

 この状況で、元気そうだもないもんだ。それより、俺が気になるのはリンデの手の中にある注射器だ。

「あなたの体は、総統から自由にして良いって言われてるの。だから、助けが来るまでの二週間、たっぷり時間を掛けて、殺してあげる。注射器の中身は、狂犬病ウイルスよ。感染すると、ウイルスは約30日間潜伏して、その間に体中を駆け回って、脳の神経細胞に達して増殖するの。でもそんな時間は無いから、直接、脳に打ち込んであげるわ。発病するとね、不安感や発熱、水を飲もうとした時の喉の痙攣、泡を吹いて最後には呼吸麻痺で死んでしまうのよ。致死率は100%。楼欄の人間なら、あっと言う間だけど、あなたはしぶといから大丈夫よね。せいぜい長生きして私を楽しませてね」

 レイは異様な瞳の輝きを放ちながら、ひきつる様な笑い声を、響かせた。完全にキレテやがる。

 リンデが注射器を構えた。

「直ぐに終わりますから、おとなしくしてて下さいね」

 以前はあれ程、魅力的だったリンデの笑顔が今は魔女の微笑みに見える。

 俺は必死で腕や足を引っ張るが、固定されたまま動かない。

「あなたの嫌いな注射だけど、これが最後だから辛抱してね。大好きなリンデちゃんにしてもらえるんだから、本望で………」

 突然レイが咳き込んで、言葉が途切れた。それも尋常な咳ではない。激しく発作的な咳だ。

「何これ……、熱が高い、間接も痛い……、どうして、リンパ線が腫れてるの。まさか……、風邪……」

 咳き込みながらも診断する。さすがに腐っても医者だ。

 扉が開く音に、首を動かすと、白い物体が飛び込んで来た。

「それは、風邪ではありませんよ」

 伝助だった。伝助はすかさず、リンデの注射器を取り上げた。

「風邪に似ているが、そうではない。それは、結核だ。伝助に命じて、私が散布させた」

 伝助に戒めを解いてもらい、声の主を見た俺は言葉を失った。

「聖王様……どうしてあなたが、ここにいるの……」

枯れた声でレイが叫んだ。

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