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 部屋の扉が閉められると、電子錠を操作する音が聞こえた。

 中は狭くて汚い。ベッドが一つと、簡易トイレ、扉に付いた廊下に面した窓だがあるだけで、他には地下なので窓は無い。正真正銘の独房だ。

 窓から右側を見ると、俺達が入って来た扉が斜め前方に何とかうかがえる。扉の先は行き止まりだ。左側は真っ直ぐ行くと、突き当たりになっていて、そこから左右に廊下が分かれている。

 俺の見張りは、左側の突き当たりに陣取っている。右側に逃げるには、さっき話しをしていた部屋を通らなければならなので、逃げるのは無理。だから突き当たりで見張っていれば大丈夫だと思っているのだろう。

「どうして、あんな奴等の言いなりに、なっちゃうんですか」

 人の気配がなくなると、伝助がいきなり、噛みついて来た。

 俺はその伝助の頭を殴り付けた。手が痛かったがそれどころではない。

「静かにしろ。バカ。それより、この部屋、盗聴なんてされてないだろうな」

「あっ。それは大丈夫です。確認済みです」

 俺が声をひそめたので、伝助も音量を下げて答えた。

「取り合えず、俺達に残されたの時間は三日も無い。それまでに何とか逃げ出す方法を考えるんだ」

「やっぱり。旦那様が、すんなり言う通りにすると思ったら、裏があったんですね。そうでしょう、旦那様みたいに、狡智に長けた、ゾウリ虫なみの生命力を持ったしぶとい人が、このまま引き下がるとは思えませんものね」

 言葉のはしばしが引っかかるが、この際不問に付する。

 試行錯誤の末、決行は今夜に決めた。敵もまさか、初日から脱走するとは思っていないはずだ。

 脱走するためにも敵の動きを観察する。見張りの交代周期、この地下にいる人間のおおよその数、脱走経路は伝助が探知機の類を駆使して調べている。

 観察していて感じたが、どうも、ここの連中は統制が取れていない。規律が存在しないかのように、皆、てんで勝手に振る舞っているみたいだ。俺の見張りもいない時もあれば、酒を飲みながら見張っている奴もいる。

 ゲリラなんて、所詮こんなものかも知れないが、俺のいた組織の方がまだ統率力があったと思う。

 それに、緊張感とか注意力と言ったものも欠けているらしい。伝助と俺を一緒の部屋に入れておくのが、そもそも間違いで、伝助がいれば、電子錠も外せるし、いざとなれは、レイに連絡をとって、一先ず助けてもらう事も可能だ。伝助もこれまでに何度も連絡をとろうとしたらしいが、ここに来るまでに入れられていた袋、車や部屋に電波遮蔽をしているらしく、出来なかったようだが、そんなものは、何とか破れるはずである。全てにおいて、いい加減と言うか、やり方が乱暴で不用心なのだ。

 まあ、何れにせよ、こちらとしては、有難い。これなら逃げ出すのも案外、楽に行くかも知れない。

 集められるだけの情報を集めて、深夜になるのをじっと待った。

 深夜になり、部屋の明かりをおとして、扉の窓から廊下の様子をうかがうと、見張りがいない。その代わりに、何を言っているのか分からないが、人が叫ぶ声が聞こえる。声の調子からいくとかなり混乱している。

 何か、事故があったのかも知れない。とにかく、こっちにとっては、またとない好機だ。これを逃す手はない。

 伝助が電子錠の解除をし始めた時、誰かが近づいて来る足音が聞こえた。足音から推測すると一人だ。

 俺と伝助が扉の左右に分かれて、様子をうかがう。

 足音は俺の部屋の前で止まり電子錠を操作する。

 こうなったら、こいつを倒して、逃げ出すしかない。この機会を逃がすと、逃げ出せる可能性が低くなってしまう。

 扉が開き黒い影が入って来た。廊下の照明で逆光になっているので、顔は分からないが、体格からして若い男のようだ。

 俺に気づかず、暗い部屋の中を模索する男。その後ろに俺が付ける。気配を察した男が振り向こうとした瞬間、俺はしゃがみ込み、左足を軸にして体を回転させて男の両足を払う。不意を突かれた男は、そのまま小さな声をあげて、前のめりに倒れた。

 俺が男の背中に馬乗りになると同時に、伝助が扉を閉める。

 男の顎と頭に手をかけ、上半身だけを後ろにそらし、首をへし折ろうとした刹那、伝助の言葉に動きが止まった。

「待って下さい。その人、プラスミドさんですよ。ハイドロフ先生のお屋敷にいた」

 プラスミド。俺がレイの屋敷から逃がしてやった男だ。確か、代赭楼に爆弾を仕掛けようとして、捕まり、結構いい男なので、レイの奴隷として飼われていたのだ。

 伝助の奴め、逃がしてやった時の記憶は、消去しておけと言っておいたのに、消してなかったな。しかし、時間が無いので、それを問いつめている場合ではない。

「痛い。離して下さいよ。助けに来たんですから」

 俺は慌てて、ミドの背中かから降りて、起こしてやった。

「何で、お前がここにいるんだ」

「話しは後です。ついて来て下さい。逃げますよ」

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