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 二、三日過ぎた頃、レイが用事で来られないので俺一人でテレビに出演する羽目になってしまった。

 さすがに一人では緊張する。しかし、伝助に助けを乞うのもしゃくにさわる。

 取り合えず、質問の内容はいつも通りなので心配はいらない。レイもそれが分かっているから俺を一人で行かせたんだろう。

 ところで、俺がテレビに出る度に南極にペンギンを見に行ったと言うので、巷ではペンギンブームだそうだ。俺もたくさんペンギンの縫いぐるみをもらった。

 何とか、役割を終え、伝助に予定を確認する。

「次の仕事は」

「今日は、これで終わりです。局の人に送ってもらう様にたのんで来ますね」

「待て、たまには、寄り道して帰ろう」

 テレビ局と家の往復では、飽きて来る。

「でも、危ないですよ。もしもって事があるし」

「そのために、君がいるんじゃないか。君の様な優秀な電子頭脳が付いてて、何の危ない事があるんだね」

 俺は伝助の頭を優しく撫でてやった。

「やっと、私の実力を認めてくれたんですね。任せてください、何があっても、旦那様には、指一本触れさせませんから。大船に乗った気でいて下さい。カッカッカッ」

 最近、こいつの扱い方が分かってきた。

「何してるんです。置いて行きますよ」

 急に張り切り出した伝助の後を追う。外はまだ、明るかった。こんなに明るいうちに仕事が終わるのは初めてだ。

 局を出る時に、伝助にサングラスを渡された。

「旦那様は、有名ですから、顔を隠していて下さい」

「こんな物、何処から持って来た」

「さっき、小道具室から失敬して来ました。今度また来た時に返しときます」

 抜け目のない奴だ。

 テレビ局の近くとあって、どこも賑やかだ。俺の家の近所とは大分と違う。

 首をめぐらせると、いろんな店が目につく。その中でも特に目を引いたのが、大勢の人だかりが出来ている小さな店だ。

「何だ、あの店は」

「ああ、あれは、薬屋ですよ」

「薬屋が何で、あんなに流行ってるんだ。大体、病気は無くなったんだろ」

「疑似的に病気になる薬なんです。若い人の間で流行っているんですよ、病弱なふりをするのが。カッコイイとかで」

 言われれば、確かに若い子が多い。それにしても、何とも終末思想的な現象だ。分からない事ではない。俺もついこの間まで、同じ様なものだった。

 その店を横目で見ながら、通り過ぎた。

「くれぐれも、勝手な行動をして、私から離れないで下さいね」

 注意を受けるが、そう言われると逆らいたくなるのが、人間だ。

 賑やかな通りとは、逆に一本道をはずれると、急に寂しくなる。俺はどう言う訳か、そんな危ない所に行きたがる癖がある。

「駄目ですって。そっちは治安が悪いんですよ」

「何で」

「下層階級の居住区の近くなんですから。市民不適格者なんかも、うろうろしてますし」

「そんな奴等がいるのか。初めて聞いたぞ」

「結構、貧富の差が激しくて、貴族階級以上の人達中心に世の中回っていますから。下層階級の人達って、ゴミ扱いなんですよ。だから旦那様みたいな人がのこのこ入って行ったら、何されるか分かりませんよ」

 最後は人に聞かれるのを配慮してか、小声になっていた。

 目を凝らして前方を見ると、確かに遠くの方に、がらの悪そうな奴等が何人か地面に座り込んでいる。向こうも俺を見ている様だ。

 俺を見ていた奴がゆらゆらと立ち上がって、こちらに近づいて来る。これは本当にヤバそうだ。

「ほら、早く行きましょうよ。危ないですよ」

 伝助が俺を引っ張る。

 さすがに、俺も身の危険を感じて、引き返そうとしたその時。背中に衝撃を感じたかと思うと、そのまま前に転んでしまった。

 俺の背中に誰かが乗っかる。

 その誰かを払いのけて立ち上がろうとする俺の耳に、車の動力音が聞こえて来た。それと同時に、数人の走る靴音が辺りに響いた。

「二人とも、寝ていろ」

 頭に固い細い物が押し付けられた。想像するに、銃の類いではないかと思う。おまけに、背中を足で踏み付けられている。

「ゆっくり、立て。おかしな真似はするなよ」

 言われた通りにする。

 俺を倒した奴を見る。若い男だ。身なりは汚い。多分、下層階級の人間の様だ。何かを叫んでいるが、混乱しているので内容が分からない。

 銃を突き付けているのは警察だ。

「この人は関係ないんですよ。ぶつかった、だけなんですよ」

 伝助が必死で釈明している。

「身分証明書はこれです。身元引受人はレイビー・ハイドロフ先生です」

 レイの名前を聞いた途端に警官の態度が一変した。

「失礼しました」

 今まで俺に向かって銃を突き付けていた警官が直立不動で敬礼た。

「おい、そいつを早く連れて行け」

 別の警官が若い男を指差しながら、そう言い、俺の服に付いた汚れを払ってくれた。

「白河様には先程、ハイドロフ先生から捜索願いが出されいます」

 レイにはバレていたみたいだ。

「お送りします。どうぞこちらへ」

 パトカーに案内されながら、逮捕された男を見ると、まだ抵抗しているので、警官に銃底で殴られていた。

「あいつは、何をしたんだ」

「住民管理局に放火したんですよ。大した事はなかったんですが。よくいるんですよ、あんな手合いが、待遇を改善しろとかなんとか言って」

「どんな処分を受けるんだ」

「そうですねぇ。被害は少なかったんですが、事が事だけに神経除去手術でしょうかね。あれをやると、体が思う様に動かなくなって、もう二度と馬鹿なまねはしなくなるでしょうね」

 犯罪者とはいえ、惨い事をするもんだ。人権なんてあったものじゃない、これでは、下層階級の不満がつのるのも無理はない。

「それよりも、先程の失礼の数々は、何とぞハイドロフ先生にはご内密にお願いいたします」

 相当レイを怖がっている様だ。それにしても、レイはこの楼欄でどれ程の実権をにぎっているのだろうか。

 警官隊の隊長が俺に何やらカードを差し出した。

「ここに連絡して下されば、私用であろうと何だろうと、二四時間いつでも、駆けつけますので宜しくお願いします。今度、楽しい場所にご案内しますから」

 口止め料の積もりらしい。楽しい場所と言うのが気になる。隊長のいやらしい表情から大体の察しはつくが。

 俺は買収されたみたいで、嫌だったが、これで隊長の気がすむならとカードを受け取った。

「これからは、人を見て対応して下さいよ」

 伝助が偉そうに説教している。

 家に着くと、既にレイが待っていた。

 予定を全て取りやめて、来たらしい。それ程、大層な問題ではないと思うのだが。

「あんたは何のために正夢にくっいてるのよ」

 レイは伝助の前に仁王立ちだ。

「すいません。以後気を付けます」

 謝りながら、俺を恨めしそうに睨む。

 俺は気にしながらも、素知らぬ顔をする。

「貴方もよ正夢。勝手な行動は慎んで頂戴」

「でも、早くここの事を知りたいしさ。レイは何も教えてくれないじゃないか」

「それは、一度に言っても、理解出来ないと思ったからよ。今度、こんな事件を起こしたら承知しないわよ」

 この後、二時間も怒鳴り散らし、俺と伝助はレイの前に正座をしてそれを聞いていた。それにしても、飯ぐらい食わせて欲しい。

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