第9話 遺跡探索

「いてて。大丈夫か、二人とも」

「私は大丈夫です。リラン君と毛布がクッションになってくれたので。っは!すみません!今すぐ降りますので!」


 別に女性一人分を持つぐらいの重さなら問題は無いのだが。とりあえず、みんなの無事を確認したところで、これからのことを考える。


「しかし、結構深いとこまで落ちたな。もう蟲はいないみたいだし」

 話せないと不便だから、さっき書き写した文字を消して話す。

【どうしようか、ここもあの広間と一緒で今まで見つからなかった場所みたいだし】

「でも、上に階段なんてありませんでしたよ?」


 そう、上の広間には階段なんて無かったのだ。なので、今ここで上を目指したところでどこに出るかなんて分からないのだ。それに、落ちてきた穴を上る手立てもない。幸い、入念な荷物確認をしてきたおかげで、しばらくは困らないだろうが。

 上を見上げると穴が続いているだけで、光も見えない。見えないぐらいに落ちたのか、蟲が原因で穴がふさがったのかはわからない。


【とりあえず、ここから離れようか。さっきの蟲がここに来るかもしれないし】

「そうだな、だが、道が左右に分かれてるんだよな」

「どちらの道も先のほうが見えませんし」

【どちらに行っても、ここから出れなければ結果は一緒だよ。だから、右から行こうか】

「何で右から?」

【なんとなく】


 実際ここから移動しなければ死を待つしかないのだから。上から救援が来るのは絶望的だといっても良いだろう。まず、ここに降りるための道具が無い。それに加え、蟲がいることを確認されたのだからここはまもなく封鎖されるだろう。ライラはきっとそれを知っているからここを移動することに反対しないのだ。ノアが反対しないのは分からないが。

 光が無く、明かり確保のために光石を使いながら落ちた穴から右側に進んでみたところ、特に変化は無い。たまに曲がり角があるくらいだ。最初のほうはこれからのことやちょっとした世間話をしていたのだが、何も無ければすぐに話が途切れてしまう。そんな中先行く道に見えてきたものは、丸い形状をしたものが部屋一杯に敷き詰められている場所だった。

 衝撃から真っ先に立ち直ったのはライラだった。


「なんだ、ここは」

「この丸いもの、半透明ですね。それに、中に何か入ってますし」


 俺は、二人の制止の声も聞かず二人の手を引きこの場を急いで離れていった。しばらく来た道を戻ってきたところで立ち止まる。


「どうしたんだ急に、あの部屋に何かあったのか。あの丸い玉以外に」

【あの丸い玉がダメなんだ。あそこは、蟲の産卵所だと思う】

「産卵所ですか!なんであんなところにあるんですか」


 ライラが真剣な顔をして俺に質問してくる。


「リラン、他に聞きたいことはあるがこっちを先に聞いておく。本当にあの場所が産卵所なんだな?」


 俺はその質問に頷いて答える。


「ノア、今すぐここから離れるぞ」

「ちょっと待ってください、何がどうなっているのか分からないんですけど。あの場所はそんなに危険な場所なんですか?」

【ノア、例えば牧場にいる動物を思い出してみて。それぞれ多少違いはあれど、皆出産の後は気が立っているだろう?蟲も同じようなことがあるんだ】

「つまり、卵があるってことは卵を守るために凶暴になっているかもしれないんですか。危険じゃないですか!今すぐここから離れましょう!」

「ノア、そこまで騒ぐ必要は無い。逆に騒げば蟲に場所がばれる。ここは一本道だけど。他に道はあるかもしれないだろ?少しでも居場所がばれる心配を減らしたい」

「すみません」


 右側の道は蟲の卵で通れなかったため、一旦来た道を引き返す。


「とりあえず、落ちてきた穴まで戻ってきたわけだが。上に変化がねえな」

「上の方で何かあったんでしょうか」

【たぶんだけど、しばらく様子を見て戻っていったんだと思うよ】

「だな。ずっとあの場所にいてもしょうがないし、戻って何かしらの準備をしたほうが効率的だ」

「ただ、これから何をしたら良いかですけど。左側の道を行ってみますか?」

「それ以外に選択肢はないし、行くしかないな」


 戻ってきた俺達は、上の様子を見てから左側の道を進んでいった。途中、地面や壁が金属質のものに変わっていった。突き当りは壁になっている。けれど下に人が通れるだけの隙間があった。その先に見えてきたのは格子状になっている空間だった。壁には、少しだけへこんでいる部分がある。


「この壁はなんだろうな。傷は付けることはできるが、へこんでいる部分が何を示しているのかわからねえ」

「それに、たまにですけど壁に文字が書いてあります。読めないですけど」

【どこか部屋になっているところを探そう】


 格子状の道を進んでいるうちに一つだけ開いている部屋があった。中を確認しながらも入ってみると、多くの机と椅子が置いている部屋だった。


「何の部屋なんでしょう」

「机と椅子が大量にあるが、上で見つけたものと一緒か?」

【でも、ここで休憩が出来そうだからしようか】


 実際、いろんなことがありすぎて肉体的にも精神的にも疲れ果てているのだ。この部屋の存在は嬉しいものだ。それぞれ椅子に座り、各々の楽な体制をしながら休憩を取る。


「しっかし、これからどうするよ。この部屋がある場所だってしばらく歩いた先だぞ。上に行く道もみつけていないし」

「休憩を取ったらここを中心に周っていきましょうよ」

【それが良いと思う。そういえば、ここって食堂みたいな部屋だよね】

「そうかもな。村と同じつくりをしているし」

「もしかして、食料があったりして」


 ノアがそう言ったとたんライラが勢いよく起き上がり、奥のほうに向かっていった。俺もノアもその後に続いていく。


「何かありました?」

「小さな扉が大量にある。ただ、開けていいのか分からない」

【今、俺棍持ってるけどこれで開ける?】

「ああ、じゃあ貸してくれ」


 俺は背負っていた棍をライラに渡す。ライラは受け取った棍を小さな扉に引っ掛け、勢いよく開ける。

 中に入っていたのは凍っている肉や魚、後は緑色のものである。


「肉や魚は分かるけど、この緑色のものは何だ?リラン知ってるか?」


棍を返してもらいながら質問をかけてくる。


【それ、野菜ってやつだと思う。今の俺達はまず目にかかれないものだろうね】

「そうなのか」


 ライラはふ~んとした顔で、それを元に戻す。それから肉や魚を取り出し、溶かすための火と水を探す。


「でも、それ大丈夫なんですか?昔のものなんですよねそれ。そうとう前の」

「火に掛けりゃ大丈夫だろ。しかし、井戸も石炭も見あたらねえな。昔の人はどうやって料理をしたんだ?」

【ここだよ】


 そういって、部屋の隅にある中心を抉り取っている机から出ている棒を示す。棒の横に捻るものがあり、それを捻ると最初は弱いが時間が経つにつれて水が絶えず流れ出てくる。


「おお!すげえ!この水ってどこから来てるんだ?まあそんなこと気にしても意味無いか。なべはさっき見つけたからその中に水と肉を入れて。リラン、火はどこだ?」

【今探してる】


 さすがに何でも知っているわけではないので、ノアと一緒に探しているところだ。しかし、案外あっさり見つかるもので、水が出る棒の二つとなりに捻るものがあった。


「これですかね?さっきの水と一緒で捻ればいいんですよね」

【これが火じゃなかったらお手上げだよ】


 ノアが意を決して捻る、すると大きな音を出し火が出る。しかし、音に驚いてしまいすぐに手を離してしまう。


「なんだ、どうした!なにか問題があったか!」

「びっくりしました、あんなに大きな音を出すとは思いもしませんでしたよ」


 ノアが少し涙目で訴えてきた。


【俺もそこまで知らないよ。でも、一瞬見えたあれは火であってると思う。今度は離さずにずっと捻っていれば大丈夫だと思う】


 今度は俺が火を出すためのものを捻る。先と同様大きな音を立て火が出る。音が出ることが分かっていたので、多少驚きはしたものの手は離さなかった。火はその間燃え続ける。


「おお、火が出たな!じゃあその上にこのなべを置いてと。なあ、その手はなせないのか?火が消えたらまたやれば良いだろうし」


 言われてみればそうだ。二回目も問題なく火をつけることは出来たのだから。俺はライラに言われたとおり一回手を離してみる。すると、火はそのまま燃え続けているではないか。火を付ける取っ手も捻った状態のままだ。


「火をかけることは出来たんだ。後は待つだけだな」

「じゃあ、わたしここに椅子を持ってきますね」

【俺は、器みたいなものが無いか探してくる】


 三人は自分が思いつくことをし始める。ノアはここで待つための椅子を持ってきて、ライラは料理を見る。俺はその料理を入れるための器を探しに行く。

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