第7話 歴史の物語
「あの、二人とも今は絵の具の材料が無いという結論でいいんではないでしょうか?」
「ん、ああ。すまねえ、少し熱くなっちまった」
【ごめん】
「反省しているようですしこれで、話は終わりましょう。次にすべきなのは何が描かれているかでしょう?」
【そうだね。絵の具のことは今はわからないんだし、絵のことに移ろうか】
絵の具のことは分からずじまいだけれど、絵から分かることもあるだろうし。次は絵を調べよう。今まで見つけてきた絵も、すべてを解読できたわけではないけど。絵の雰囲気から分かることもあるだろうから。
「しっかし、本当に大きいよな」
「そうですね~。いったいどれぐらいの時間と労力を掛けたんでしょう」
【たぶん、このぐらいの規模だと数百人ぐらいだと思う。時間に関しては個々の労力の問題もあるからわからないけど】
「数百人!?そんなにですか。村の全員を数えても1000人を越えたぐらいなのに」
「問題はここに何が描かれているかだ。リラン、ぱっと見分かることはあるか?」
【上のほうは薄暗くて分かりにくいけど下のほうは光を近づければいける。下に描かれているのは人かな?畑を耕してる】
「俺は絵のことに関しては分からないが、言われてみれば人に見えなくも無い」
「でも、畑って何ですか?」
【畑っていうのは植物を食べるために育てる場所のことを言うんだよ】
「へえ、知りませんでした」
【知らなくても当然だよ、ここに畑はないんだから】
「畑の上の絵は太陽か?」
【そうだね、橙の色で書かれている丸。太陽だと思う。畑には水と太陽の光が必要だから。ほら、畑の隣に水色の川が描かれている】
「ということは、この部分の絵は植物を育てている絵なんですね」
「この絵だけで2mあるぞ、全部の絵がこの大きさならどれだけの絵があるんだよ」
親方が驚いて周りの絵を見渡している。奥まで100mぐらい、高いところは薄暗い。天井を支えるための柱にも絵が描かれている。何のためにこんなものを描いたんだろう。
俺は、時間を掛けて絵のことを調べていった。何日も掛けて。家がいくつかある村のような絵もあり、それよりも多い絵もあった。人が武具を持ち、人同士が争い、血を流し、空に祈りを上げ、死んでいく。今はもう残ってはいないが森の絵もあった。弱肉強食の世界だ。その森を切り倒し、焼き、地を均していった。
この絵の軍は人の歴史を表しているんだ。そう気がついたのは絵を調べてから一週間が経ったころだ。最初は何なのか分からないものばかりだったが、人の歴史だと思えば全部が繋がっていく。
その間にも遺跡の探索は進み、左右の道の先も調べられた。道の途中に小さな部屋があったらしいのだが全部、もぬけの殻だったそうだ。最終的に両方の道とも、大広間に着いた。親方たちはそこを調べている。今のところ、他に続く道は見つかっていない。
「リラン君、絵について何か分かったことある?」
ノアに質問されたのは3日目のことだ。
【たぶんだけれど、この絵は人の歴史を表しているんだと思う。ほとんどの絵に人が描かれているからね】
「人の歴史、ということは私たちの祖先の話ですか?」
そんなことは考えもしなかった、僕たちも人間だ。絵の中の人と同じ人間ならたしかに、そうとも考えられる。そう考えるなら見方も変わってくる。この絵の軍は俺たちに残したメッセージなのではないのかと。
【ありがとうノア!ノアの発想で調べるのが進むかもしれない】
「ど、どういたしまして?力になれたなら、うれしいです」
それからというもの、見方を変えて一から見直した。すると、少しだけだが絵の意味が分かってきた。この絵が伝えたかったものは、どれだけ人間が愚かなことをしてきたかを伝えるためなんだと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます