第6話 壁画の絵の具
「ほんとにごめんさない。私がバックの中に入れておけば」
【別にそこまで落ち込む必要間ないよ。俺が入れておけばよかったんだから】
「リラン君、気を使ってくれてありがとうございます」
親方に促されて空洞の中から出た俺たちはまっすぐに石版を取りに行った。途中、待機組とすれ違ったが特に問題は無いと返しておいた。
【取るもの取ったし早く戻ろう】
「たしかにそうですね。他になにかいるものとかありませんか?」
【たぶん無いと思う。入ってすぐの場所は広いけど蟲がいないことがわかっているんだ。取りに戻ることが出来るから大丈夫だよ】
「わかりました、では戻りましょうか」
俺とノアは走らない程度のスピードで空洞内に入っていった。
空洞に入った二人がまず見たのは、出る以前よりも明るくなった空洞だ。昔に発掘された光石を使って明るくしているんだろう。そのため、上のほうまで明るくなり、ここがドーム状の場所だということがわかる。
壁には絵が描かれており、たまに発見される壁画に似ている。いや、壁画なのだろう。しかし、天井まで30mはあるのにもかかわらず隙間無く描かれているのだ。
【ある意味すごい場所ですね、ここは】
「ああ、確かにすごい場所だ。いままで見たことも無い。今までは1mもあれば良いほうだったが、コレを見るとな、今までのがかすんで見えるぜ」
「親方さん、ひとまず明るくしたようですけどこれからどうするんですか?」
「続いている通路の先に少しだけ行って問題が無いか確認してくるのが最優先だ。その後、この壁画を調べる。もしかしたら、今まで見つけた壁画と同じものがあるかもしれん」
【じゃあ、通路の先の確認に行ってきてもいいですか?】
「いや、リランにはここに残ってもらい。壁画を調べてくれ。こいつら皆細かいことが苦手でな。耐え切れず壁画を壊してしまうかもしれん」
「さすがにそこまではしないですよ」
近くにいた男が反論した。小さなプライドにでも障っただろうか。すると親方はすかさずこう言った。
「でも、仕事は放棄するだろう」
男は反論できずに、吹けもしない口笛を吹きながら仕事に戻っていった。
「こういうことだから、お前がやってくれ。女ならまだ出来るだろうから、手が足りなかったら頼んどけ」
【わかりました、では今すぐ取り掛かりますね】
俺は早速道具を取り出し調べ始める。壁画を調べる要点は描かれている模様の形、色、他には壁の材質などを主に調べる。壁はここの入り口を開けるときに多少調べたから後に回して、今は模様について調べよう。
模様を描く絵の具は少しだけ削りだし、水に溶かす。これにより水性か油性かがある程度わかる。もちろん誤差はあるけれど。
今回は水に溶けたため水性のものだ。
「何しているんですか?」
【絵の具を水に溶かしてる】
今は調べるのに力を入れているため返答は短文だ。おざなりになってしまうが仕方が無い。
次にやる事は、削りだした絵の具にもっとも近い顔料を探す。こればかりは手と目で探すしかないので時間がかかる。そこでノアに手伝ってもらおう。
俺からは話しかけることが出来ないので肩を叩く。
「ひゃっ!なんですか、リラン君ですか。どうしました?」
【絵の具の色に似た顔料を探すのを手伝ってほしい】
驚いたことには触れないで置こう。
顔料の探し方は少々面倒くさいものだ。まず鉱石などを砕いてから水に溶かし、岩に描く。そして乾いた色を確かめて色を近づけていく。最初は大雑把に、後半は精密にやっていく。水の量、顔料の量で色が多少変わるため根気の要る作業だ。
しかし、何回やっても似た色が出てこない。どういうことだ?
「でませんね、似た色」
【そうだね。でも、どういうことだろう?】
「親方さん!ちょっとこっちに来てもらえませんか?」
親方は今話をしていたようだが、切り上げてきてこっちに来てくれた。
【取り込み中でしたか?】
「別に、気にすることじゃねえよ。で、どうしたんだ?」
「いま、リラン君と絵の具を調べていたんですけど。壁に描かれている絵の具と似た色が見つからないんです」
「どういうことだ?」
【つまり、この壁画に使われている絵の具は、少なくともここらで取れる鉱石を使っていないんだ】
「てことは、これを描いた先人たちは遠く離れたところから来たのか?」
【たぶん】
俺でもよくわからないんだ。どれだけ分量を変えてみても近づかない。
【あるいは、もうひとつの可能性がある】
「それってなんだ」
【力のある鉱石】
そう、その鉱石ならまた別の色が出るのではないのだろうか。そう思ったのだが、今俺たちの村はその絶対数が少ない。採れないからだ。なので、この鉱石で絵の具を作ることが出来ない。
「しかし、その鉱石で絵の具を作ったとしてもだ。ここにある壁画の大きさは半端なものじゃない。その分だけ鉱石の数が必要になるぞ」
【だからこそ、可能性のひとつでしかない】
「二人の会話についていけないです」
俺と親方は盛り上がっていき、若干一人は落ち込んでいた。
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