第5話 空洞調査開始

「お前ら、準備はいいか?穴を開けたら一気に入って火を焚け。村長の家にあった石版の隅っこのほうに書いてあったんだ。わかったな?」


 皆が一斉に頷く。皆の背にはこれから先必要であろう物が入っているバックがある。手には火を焚くためであろう火打石と火種の小さな石炭、あと油を入れてあるビンを持っている。


「リラン、ドリルを動かせ」


 親方に言われて頷く。ドリルのスイッチを入れて回転させる。後ろの人に向かって少し下がるように手を振る。気づいてくれたのか少しばかり下がってくれた。

 穴を塞いだ土は塞ぐときは水分を多量に含んでいたが今はすっかり乾いてしまい、硬い壁になってしまっている。ドリルで穴を開けようとしたら土の破片が派手に飛ぶだろう。俺は目を守るためのゴーグルをし、ドリルを前に進ませる。先端が壁に当たったとたんものすごい音を立てて土ぼこりが舞う。

 5分ぐらい経ったらだろうか、壁が完全に開いた。そこに親方が号令を掛ける。


「いけ!」


 皆がぞろぞろと中に入っていく。俺はそれの邪魔にならないようにドリルを下げていく。車輪がついているが一人だとそれでも時間がかかる。そのとき隣にもう一人、ドリルを引いてくれる人がついてくれた。ノアだ。


「私も引くよ、同じ組だしね」


 ありがとう、心の中で言っておく。ノアはそれが伝わったのか前を向いて一緒に引っ張ってくれる。中でもう油に火をつけたのか、明るくなっている。


【ありがとう。さっさと俺らも中に入るよ】

「わかった。じゃあ、はいコレ」


 ノアに渡されたのは俺のバックだった。いまさらながら、ドリルの調整に夢中になっていたためバックの準備なんて頭の片隅にも無かった。冷や汗がたれる。


【本当にありがとう】

「どういたしまして。ほら、行くよ」


 先頭集団に置いて行かれない様にノアと俺は急いで追いかけていく。

 中はとても広いようで、散漫に広がっている。油のビンも距離を開けて置いている様だ。大体奥まで100mぐらいだろうか。

 親方はまだ警戒を解いていないようだ、ここに入って左右にまだ先に続く道があるからだろう。

 ここは何なのだろうか。床も石畳でしっかりとしている。蟲が作った場所なら地面は土むき出しの筈だ。しかし、困ったことになった。地面が土で無いとなると書くものが無い。言葉を伝えることが出来ない。


「リラン、ここをどう思う?」


 親方は俺の考え事など露知らず、話しかけてきた。俺は返答に困りうろたえるばかりだ。


「どうしたリラン、書くものが無いのか?」


 俺はそれに頷く。拠点はすぐ近くだがここを離れるのは不味い気がするのでここに留まる。


「弱ったな。リランあれだろ?蟲の住処だと思っていたから地面が土だと思ったんだろ」


 ただただ頷くことしかできない。


「う~ん、ノアが持っていたりしないか?」

「私も土だと思っていたので、持って来ていません」

「そうだ、左右の道の確認が終わったら一旦お前らだけ戻って取って来い」

「わかりました親方さん。リラン君、あとで一緒に戻ろうね。私も考えなかったから。ごめんね?」


 とんでもない。慌てて俺は首を振る。今はこれしか表現方法が無いのでしょうがないが。後できちんと話をしよう。


「親方、左右の道の確認が終わりました。これからどうしますか?考えていた作戦がほとんど無駄になってしまいましたので」


 ライラが報告に来たようだ。左右の道の確認は終わったらしい。もちろん手前のほうだろうが。


「なら、監視を付けながらここを調べるぞ。リランとノア、一旦戻って石版をもってこい」

「わかりました、じゃあ行こうかリラン君」


 ノアに促されて出口に向かう。心なしかライラに笑われているような気がするがきっと気のせいだろう。

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