第4話 空洞調査の前準備
今日は朝から慌ただしい。なぜなら今日は空洞の中に入るからだ。なので、中がどれだけ広いかわからないため食料や連絡手段の準備をしている。
中に入るメンバーは、不寝番のときに決めた番号で決める。1から7番までは空洞の中に入り、8・9番は拠点の見張り。10・11番は食料や水、消耗した道具などの調達に穴の外に取りに行く役目だ。これを二日ごとに回していくらしい。
今俺がしているのは、整備士としての仕事。空洞を塞いでいる土を開けるための機械を調整している。調査隊に来ている中で整備士は俺一人しかいないから必然的に俺がやることになる。
「リラン、機械の整備終わったか?」
【大丈夫です、親方。今すぐにでも動かすことはできます】
「そうか、じゃあ設置してきてくれ」
【わかりました、ならライラを呼んできてもらってもいいですか】
「ライラを呼んでくればいいんだな?わかった」
機械というのものは一つ一つ重いから男手が必要なのだ。程なくして機械を整備しているテントの前に影が浮かび上がった。
「あの~、リラン君?入ってもいいですか?」
ノアの声だった。とりあえず中に入れることにしよう。
【ライラは?】
「えっと、ライラさんは親方と一緒に作戦を練っているらしいです。リラン君は私を呼んだんですよね?」
【いや、ライラを親方に呼んでもらったはずなんだけどな?まあ、ただ運ぶだけだから誰でもいいんだけどな】
「そうですか」
ノアはなぜか安堵と落胆の声を出した。何か気に障っただろうか?
「そういえば、呼ばれてきたのはいいのですけど。何をすればいいですか?」
【今からコレを空洞の穴の前まで運ぶんだよ。本当はライラとの方が楽だったんだけど、ノアでも別に問題なく運ぶことはできるから。ということで、後ろのほうを肩に担いでくれる?】
「重そうですけど、がんばります。肩に乗せればいいんですよね」
【そう、せーのでやるよ。声掛けノアよろしく】
そう言ったら、二人して肩に担ぐ準備をする。今から運ぶのは設置型のドリルだ。長さが1m半もするのだが見た目に反してそこまで重くない材質でできているので、二人だけでも運べるのだ。
「では、せーの!」
ノアの掛け声でドリルを担ぐ。持ち上げるときに少しぐらついたが問題なく持ち上げることができた。後は、これを目的の場所まで運ぶだけだ。ほかに問題があるとすれば、俺は声が出ないので会話ができないことぐらいか。
「あの、リラン君?前に進まないと」
そうだった、俺が前に進まなきゃノアも進めない。文字を書くことはできないけれど、何とか行動で示そう。
俺は後ろを振り向き頷く。
「じゃあ、前に進みましょうか」
テントを開けて外にでる。人にぶつからないようにしながら進んでいく。たまに話しかけられることもあるがノアが対処してくれた。
穴の前に着いた。だが、ドリルを下ろす合図を決めていない。どうすればいいか悩んでいるときにノアがこんな提案をしてくれた。
「では、また私が言いますので。一緒に下ろしましょう」
俺はまた後ろをを振り向いて頷く。
「せーの!」
重いものをした荷を下ろす時は腰の位置を低くしなければいけない。なので下ろす時は注意が必要だ。荷物運びなんかは皆下っ端のときに経験しているから問題なく下ろすことができた。
「とりあえず、荷物はこれだけですか?」
【まだ、細々としたものがあるけど。手伝ってくれるなら早く終わる】
「なら、今から何かやることを探しても意味が無いと思うので。手伝わせていただきます」
【じゃあ、さっきのテントまで戻ろうか】
ドリルは一旦ここに置いといて、先ほどまでいたテントまで戻る。
空洞の穴とテントを行き来している間、不寝番のときに話した蟲のことについて話す。荷物は背負って石版を手に持ち話す。
【不寝番のときの話し、覚えてる?】
「はい、覚えてますけど。それがどうしたんですか?」
【うん、そのときは種類について話したけど、今度は生態について軽く知っていたほうがいいと思うから】
「生態ですか。なにやら難しそうな話ですね」
【確かに難しい話ではあるけど、理解ができれば納得がいくと思う】
「話は聞いておこうと思います」
【それがいいよ。では話します】
リランは石版を持って書きながら話しているため会話が途切れ途切れになってしまうが、ノアは真剣に聞こうとしてくれていた。
【蟲が基本的に食べるのは力を持った鉱石だ】
「力を持つ鉱石というのは石炭や鉄とかではないんですよね」
【そう、この村は場所が悪いのか全然採れることは無いけどね。力を持つというのは水を出したり、風を起こしたりするもののことだ。蟲はそれらを食べる】
「石を食べるんですか?」
この話は以外だったようで非常に驚いている様子だった。人間には石を食べる発想がもともと無いし、食べるための筋力も無い。蟲は非常に強い顎の筋力を使い、石を壊しているのだ。
【もちろん、すべての蟲がすべての種類の石を食べるわけではない。蟲の中にも好き嫌いがあるんだよ】
「蟲も好き嫌いするんですね。少しおかしな感じがします」
【蟲についてはあまり知られてないらしいからね。では、続きを話すよ。どれの石を食べるかは、夜に話した種類のことが関わってくるんだ】
「種類というと甲殻があるとか羽があるとか?」
【そう。甲殻があるものは非常に硬い鉱物を食べる傾向にある。羽を持つものは風を起こす鉱物。ほかにも軟体系は水を食べるね】
「軟体もいるんですね。蟲によっても食べるものが変わるなんて不思議です」
【食べるものはほかにもいろいろある。蟲同士が争うときもあるし、俺たち人間を食べることだってある。蟲は土以外は何でも食うんだ】
そう、蟲が石しか食べないのであれば何も問題は無いのだが。蟲は雑食のため肉も食べるのだ。つまり人間も狙われる。だから今回の調査はこんなに警戒しているのだ。
【最後に、これだけは覚えてほしいんだ】
「何ですか?」
【蟲が人間を見つける方法】
ノアの顔が真剣になった。聞き逃してはいけないというように。
【蟲は土の中ですごしているから目が不自由なんだ。だから目以外の感覚が鋭くなっているんだ】
「鋭くですか」
【聴覚触覚嗅覚。この三つが高くなるんだ。一つずつ説明していくね】
「わかりました」
【聴覚、これは音を反響させて動くものを探しているんだ。対処の仕方は音を吸収するものを被るか、動かないようにする。次に触覚、これは聴覚にも似ているけど少しだけ違う。音を聴くのではなく音を感じるんだ。つまり感覚が鋭いんだよ。これの対処は少々めんどくさい。息遣いでも気づかれる可能性があるから音をできるだけ発しないようにするんだ】
ここで一呼吸。ノアは頭の中で反芻しているようだ、真剣に無視の事を考えてくれて嬉しい。命は一つしかないのだから、知らないでは済まされないのだ。
【最後に嗅覚。これもめんどくさい。人間には元々体臭がある。誤魔化すのが難しいんだ。出遭ったなら出来るだけ荷物を捨て水を被るんだ。水が臭いを洗い流してくれる。他は例外的に熱を感知するやつもいるらしいけどこればかりは俺もよく知らないんだ。聞く限り熱を何とかすればいいんだけど、熱を下げる方法なんて知らないしな】
「そこまで話してくれてありがとう。とても勉強になるよ」
【こっちこそ真剣に聞いてくれてありがとう】
蟲はまだまだ知られていないことが多い。俺は昔からの経験で学んだが、蟲に出遭ったのが無いやつは厳しいことになるだろう。
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