空洞調査
第1話 空洞の探索準備
「よーし、到着。今すぐテントを張れ!じゃなきゃ土の上で寝ることになるぞ」
親方の冗談のようでそうでない冗談を聞きながら採掘者たちはテントを張っていく。しばらくはここを探索の拠点とするからだ。
この空洞の入り口自体穴の入り口からかなりの距離がある。一日ほど掛かる距離なのでここで寝泊りをする。そのためのテントだ。
俺は棍を片手に持ち、地面に向かって文字を書く。
【親方、ここから先どうするんですか?】
「お前、意外と器用なことするんだな。ここからは何が起こるかわからねえから慎重に行く。まずは空洞の入り口の監視だ。いつ蟲が通るとも限らんからな」
【わかった、なら俺はまず腹ごしらえに飯を作ってくるよ】
「初日だしな。パーっとやろうぜ。食料はあまり使わないようにしながらな」
俺は親方に向かって腕を振り上げて行ってきますというように合図をした。
ここは水が貴重だ。22人の採掘者が来ているが、一人5日分と調理用の水しか持ってこれていない。なので3日ごとにここを出て水の補給に向かう。空洞で水の調達ができればいいのだが。
調理場となる場所に来たはいいがなにやら不審な人物がいるようだ。
【ライラ、何してるの?】
「ん?ああリランか。別に、食料の確認に来たんだよ。つまみ食いをしようってんじゃねえ」
ライラは嘘をついている様子は無い。本当に確認にしにきたようだ。
「リランは何しにきたんだ?まさかお前がつまみ食いをするわけもねえから、何か用事があるんだろう」
【うん、晩御飯の準備しに来た。下味とかは時間が掛かるから】
「そうか、リランは整備士だから最初のほうは暇だモンな。なら俺も手伝ってやるよ」
【仕事は?】
「もう終わった。塞いだ穴の確認だけだったからな」
【じゃあ、バケツ一杯の水で今夜の分の野菜を洗って】
「おうさ」
ライラとは親方に連れられたときからの顔馴染みで、気軽なく話す?ことができる相手だ。だから、ご飯を作っている間も、こっちからしゃべることは無くても表情から汲み取ってくれるからありがたい。
***
ご飯を食べ終わった後に皆を集め、明日に関することを話し出した。
「これから、明日のことについて話す。聞き逃すなよ」
皆真剣に聞いている。当然だ。一歩間違えたら自分や周りの仲間が死ぬんだから。一字一句聞き逃さないように親方に耳を傾けている。
「明日の朝、飯を食った後に穴を塞いだ土をどける。どけるときはできるだけ静かに、運び出せ。どけたらすばやく穴の中に入りまわりの安全の確保、そしてその場の探索だ。概要はこんなもんだが、質問があるやつ」
一人、手を上げた。
「どけた土はどこに置いたらいい」
「それは脇に積み上げておいてくれ。万が一蟲が出たときに備えて塞ぐことができるようにしてくれ」
それから先、細々とした質問を親方は答えて言った。やっぱり皆、不安だったのだろう。何もかも初めての経験だ。何をしたらいいのかもわからない。親方はそんな不安を取り除くためか、きちんと答えていく。
「よし、こんなもんか。では皆、明日に備えて睡眠を取ろう。だがいまここで決めておくことがある。ここは蟲が出るかも知れねえから不寝番を決めておく。二人一組だ。テントもその二人で入ってもらうからな」
親方はそうは言っているが、22人中7人は女性だ。メンバー分けはどうするのだろう。
そんな不安を知ってか知らずか、親方は俺の隣に立ち声をかけてきた。
「リラン、お前には大切な仕事を任せる」
【大事な仕事?】
「そう、大事な仕事だ。ここには飢える獣が一杯いるからな。お前ならまだ安心だ」
【親方、まさか】
俺は冷や汗をかくのを感じた。
「お前には一人外れる女と組になってもらう」
考えていたことが的中した。しかし何でだろう、ほかにも方法があるはずなのに。一組だけ3人にするとか。
「じゃ、そういうことだから。がんばれ」
親方は颯爽といなくなった。そのとき後ろから声をかけられた。男性の低い声ではなく、女性のような高い声である。
親方と話しているうちに決まったのだろう。
「リランさん。これからよろしくお願いしますね」
【こちらこそよろしくお願いします。ノア】
地面に文字を書くのを少し手間取ったが何とか書けた。相手は普段話すことのできる相手だったからだ。
ノアという名前を持っていて、栗色の髪の毛をゆるい三つ編みにしている。スカイブルーのたれ目。身長は160を超えたぐらい。
ノアもライラと同様に昔から一緒にいる。まだ安心して過ごせるだろう。
「い、一緒のペアになりましたね。調査隊が出ている間よろしくお願いします」
【ノア、さっきも似たようなことを言ってるよ】
「す、すいません!」
ノアは勢いよく頭を下げた。こんなに謝られる事も無かったからどうしたらいいかわからず。頭を上げさせたらいいのか、謝罪はいいといえばいいのか。
「ノア、そこまでにしといてやれ。リランが困ってる」
俺たちのことを見かねたのかライラがこっちに来てくれた。
「ライラ、すみません。私、自分で言うのもなんですが気が小さいじゃないですか」
「確かに自分で言っちゃ世話ねえが、相手を困らせるのはやめとけ。な、リラン」
【そうそう。だからそこまで謝らなくていいんだからね?】
ノアは少し話をして落ち着いてきたようだ。ライラがここに来てくれて本当に助かった。ここから先問題がおきなければいいが。
「じゃあ、不寝番を決めるぞ。一組2時間半分を担当してもらう。どう決めるかはくじで決める。文句はねえな」
親方が石を丸く削って番号を振り分けたモノを皮袋の中に入れて中身を振った。そこにペアの片方が手を突っ込んで取り出すようだ。番号が若いほど早めに来るらしい。つまり、1番はこの後すぐだ。
【俺が行ってくるよ】
「あ、お願いします」
親方の前に来て皮袋の中に手を突っ込んだ。出てきた数字は、『2番』だった。いきなり問題発生。本当はこれから先仕事をしながらノアとの関係を計ろうと思っていたのに、初日に2人だけとは。そのとき、親方の目が怪しく光っていたのは、不寝番のことについて考えていた俺は気づかなかった。
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