第6話 前夜祭と武器選び

 決意の日から2日経ち、広場からの志願者は一人も出なかった。このまま後1日経てば出発の日だ。


「まあ、あまり気にするなリラン。命がかかってんだ。逆に出たほうが可笑しい」

【じゃあ、俺たち皆は可笑しい集団なのか?】

「まあ、似たようなもんだ」


 親方は、いや隊長は笑いながら荷物の最終確認を始めた。俺はその横につき手伝いを始める。


「ん?手伝ってくれるのか」


 当たり前だ、と言うように頷く。


「そうかそうか。ならすぐに終わらせて皆で出立の宴でも開くとするか」


 隊長はこちらに笑い掛けゆっくりと、無駄なく確認を始めた。


***


 荷物の確認はそう時間はかからずに終わった。次は宴の準備らしい。確認の途中でライラたちに買出しに行ってもらっていた。


「親方、買って来ましたよ。なんか村の皆調査隊の話が広がっているらしく。たくさんオマケをつけて貰いました」

「おお、そうか。なら少しだけ保存食にするか。臭いがあまり無いやつにしとけよ。蟲のやつ等が寄ってくるからな」

「わかりました」

【俺も作るの手伝うよ】

「ああ、ありがとな。貰いもんだけで数がすでに多いから助かるよ」


 俺はライラと一緒に水場に行って保存食作りをはじめた。半分も作り終わったころにライラがこんなことを言い始めた。


「そういえばおめえ、武器とかは持ってんのか?」


 俺は水で文字を書いた。


【武器?】

「そう、その武器だ。空洞の中に入って中を調べるんだ。蟲と出遭う可能性だってある。そのときに少しでも生存率を上げるために武器を持っていく」


 そんなこと、考えもしなかった。蟲に遭うかもしれないことは知っていたけど、それを対処するなんてことは。


【俺、そんなの持ってないよ】

「う~ん、まあ持っていたところで0だったものが1に変わるかどうかの違いだけどな。持っていたに越したことはねえが。ああそうだ!倉庫にいくつかあったはずだ。昔からあるやつが。前は何に使うかわからなかったが、今ならわかる。あれは蟲に対する武器だ。いろいろあったはずだからこれ作り終わった後にでも見に行けよ」

【わかった】


 ライラは話をしている途中にもかかわらず、手をまったく止めずに保存食を作っていった。作り終わったのは始めて一時間半後だ。


「ライラとリラン、宴を始めるぞ!」

「もうそんな時間か、日も完全に落ちたし。リラン、早く行かねえと全部なくなるぞ」


 親方に呼ばれた二人は急いで工場前に出て行った。工場は壁一階海の手前にある。夜でも月明かりがきれいな場所だ。


「さっさと来い二人とも。なくなるぞ!」

「ちょっと待てい!俺たちの分も残してくれてるよな?な!」

「大丈夫だ、後1分遅かったら容赦なく食えって皆に言ってある」


 なんて容赦ないことを言う親方だ。ライラはホッとした様子でいる。


「なにホッとしてるんだ、どちらにせよこのままの勢いだったら無くなっていくぞ」


 ライラと俺はあわてて自分の分を取り始める。皆残しておくことをしないからな。

 自分の分をとった後に倉庫のことを親方に聞いた。


「倉庫にある武器か。あったような無かったような。あるならもっていけ。ただし、あまり邪魔にならないやつを選べよ」

【わかった】


 俺は飯を食った後に親方に断りを入れ倉庫に向かった。

 倉庫は工場の奥のほうにある。普段は鉱石や石炭を置く場所だが、道具をおいたりもする。たぶんその辺りにあるだろう。

 比較的手前にある3番倉庫を開きその中を開く。暗がりのためランタンを持ってきたのは正解だったようだ。明かりが無くちゃ奥のほうが見えない。

 倉庫の中の手前には武器らしきものは無いようだ。工具ばかりが置いてある。となると、あるなら奥のほうだ。奥にランタンを近づけると武器らしいものがあった。10個や20じゃ足りない。軽く60くらいは超えてるだろう。それだけの数がこの中に入っていたのだ。


(何でこんなに武器があったのに気づかなかったんだろう。あ、普段は手前にしか来ないからか。しかし、たくさんあるな。何を選んだらいいだろう。基準がわからない、邪魔にならないやつって言われてもどれだけ動くかわからないもんな)


 倉庫の中には両刃のモノや片刃のモノだったり、斧や槌がある。その中で俺の目に付いたものは2m弱ある棍だった。

 これは、いいものではないのか。半ばで折れ曲がるようで背負ってみても邪魔にはならないようだし。蟲の大きさは3m以上と聞くが、あまり近づかなくても済む。


 いいものを見つけたといわんばかりに棍を持ち外に出る。いつの間にか時間が経っており、外で起きているのは親方一人だった。


「戻ってきたか。また珍しいモンを選んだな。大方距離を稼げるって考えたんだろうが、まあ無いよりはマシだ」

【あたり。でも距離はあったほうがいいでしょ?】

「言っただろ、マシだと。そのぐらいだ。でも着眼点はいい。剣や槌を持ったところで大して意味が無いからな。リーチが短い分悪い」

【その言い方だと、蟲に遭ったことあるの?】


 親方は苦虫を潰したように言った。


「ああ、昔に一回だけな。悪夢のようだったよ。穴の道の途中で蟲が出てきてな、皆必死に逃げたもんさ。幸いだったのはそこがいろいろなところに繋がる中継地点だったことだ、散り散りに散って命からがら逃げてきた。犠牲者は15人。腹がいっぱいになったのかその後は帰って行った。その穴は土で隙間無く埋めて塞いだ」

【そんなことがあったのか。でも、聞いてもよかったの?】

「いいさ、50年も前の話さ」


 そんなにも前の話だったのかと驚く。そこでふと、ひとつ疑問を覚えた。なので親方に聞いてみた。


【親方】

「ん?何だ」

【親方っていったい何歳?】

「それを聞くってのは野暮ってモンだ」


 親方は笑ってごまかした。聞いたところで何も変わらないだろうが。

 明日はついに調査隊の出発だ。今夜は早めに寝よう。

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