第3話 長との挨拶

 親方は穴から出るなりまっすぐにとある家に向かった。


「村長、失礼するぜ」

「おぬしには礼儀というものを知らんのか」

「そんなもの蟲にでも食わせてしまえ」


 ここは壁に作った村を治めるものが住む家、つまり村長が住む家だ。何しにここに来たかといえば、穴にできた空洞の話をしにきたのだ。


「今回は何のようだ」

「ちと面倒なことになってな。穴で空洞を見つけた」


 村長は目を飛び出さんばかりに見開いた。


「空洞を見つけたのか。その先は見たのか?」

「いや、まだ見てねえ。それよりも村長に話しておくべきだと思ってな。真っ先にここに来た」

「そうか、せめて空洞の大きさぐらいは知りたかったがな。まあ過ぎたことは気にしてもしょうがない。今は空洞に蟲が棲んでいるかが問題だ」


 すると村長は部屋の奥にある5mmの厚さがある石版いくつかを持ってきた。


「村長、なんだそれは」

「蟲に関する資料だ。種類や大きさ、好んで食うものや繁殖力。つまるところ蟲の図鑑だ」

「図鑑?何でそんなものがここにあるんだよ」

「われわれが今まで何もせずにすごしてきたとでも言うのかね」


 村長は親方に挑発するように言った。親方は納得したように頷き、「じゃあ、早くそれを見せろよ」と言った。


「そうせかすな、石版は脆いんだから。えっと、あったあった。『空洞を見つけたときの対処方法』」

「なんて書いてあるんだ?」

「まてまて、今から読むから」


 空洞を見たけたときの対処方法は実に簡単だった。


「『空洞を即刻埋め、そこにつながる穴も埋めること』って書いてあるが」

「それだけか?もっと書いてねえのか、こう、空洞内のこととか」

「ない。空洞に関することはこの一文だけだ。それ以外には見当たらん」


 親方は肩を落とした。期待したものと違ったらしい。


「して、そこにいるものはいったい誰じゃ?」

「ああ、こいつか。こいつはリランといってな、俺んとこの整備士だ」

「ほう、整備士か。なかなか珍しい。最近ではあまり見かけんからの」


 村長はこちらに近づいてきた。すると、こちらに手を差し出してきて、


「わしはこの村を治めるアウロという。皆はアウロ村長かただ村長というがな」


 俺はかばんの中から15cm、10cmほどの長方形の形をした小さい石版と石筆を取り出し、【初めまして、俺はリランと言います】と書いた。村長はそんな俺に驚き、


「ナイチに聞いてはいたが、ほんとに喋れないのか?」


 俺は頷く。


「そうか、まあその状態でも生きていられてんだ。大丈夫だろう」


 俺は村長の手を取り、握手を交わした。それと、親方と一緒に働いてしばらくするが、今ここでナイチという名前を知った。なにせ、出会いがしらに『お前、家がねえんなら俺の家に来い!』とか言って半ば無理やり連れて来られたからな。

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