第26話 プロットを練り、シーンに分ける。

 小説の執筆ノウハウで、非常に重要視されるのが、プロットを練る作業です。多くの有名な作家が、メモ用紙にああでもないこうでもないと書きなぐり、徹夜をし昼寝をし、悩みに悩んで、プロットを練ります。でも、本当にそんな作業が必要でしょうか?

 既にあらすじはできており、背景設定とキャラクターはできており、敵の登場の順番も決まっており、エンディングまで想定しているというのに?


 ここはあえて言い切りますが、ファンタジー作品に一般文芸作品にあるような、そんな高尚なプロットは要りません。どんどん強くなる敵を倒していくくらいで十分です。

 たとえばソードワールドRPGやソードワールド2.0のプレイ風景は、それだけで立派な作品となるようなものばかりです。しかし一体、TRPGテーブルトークアールピージーのリプレイが、何千個、何万個作成されたか考えてください。ファンタジー作品とは量産されるものなのです(※)。

 主人公がどんどん強くなって敵を倒す。以上。おわり。それでいいのです。それが王道というものです。


 それでもどうしてもプロットを練りたいのであれば、あらすじを噛み砕き、起承転結にします。次に起承転結をさらに噛み砕き、プロットにします。この段階で、裏切りや陰謀、嘘の情報や劇的な勝利などのエピソードを盛り込むのもいいでしょう。

 書きたいシーンや、言わせたい台詞を妄想できるのもこの時だけです。実際に書き下していくと、書きたいシーンを飛ばしたり、言わせたい台詞が空振りしてしまったりします。徹底的に妄想しましょう。そして、プロットの下にアイデアをどんどんぶら下げていきましょう。書き留めたアイデアのうち、全部を使う必要はありません。書いた中の、半分も採用できれば十分です。


アイデアの例)


 起 精霊によって異世界に召喚された少年コータが、そのへんの傭兵の死体を漁って武装し(このとき伝説の剣を引き抜く)、没落貴族の娘フラーウムを助ける。

  ・主人公コータは謎の遺跡に召喚される。周囲は死体だらけである。

  ・盾や鎧を死体から剥ぎ取る

  ・岩に剣が刺さっている。引き抜くと、銘が刻まれた立派な剣である。

  ・コータはいつのまにかアーランド語を喋れるようになっている。

  ・コータが遺跡から出ると、すぐに悲鳴が聞こえてくる。

  ・フラーウムたちの商隊は狼の群れに襲われている。

  ・コータは無我夢中で剣を振るう。その剣は驚くほどの切れ味を持つ。

  ・「汝の名は!」そう問われ「コータ!」と返す。


 承 するとなぜか懐かれて、傭兵ヴォルフガングと共に迷宮探索にいく。その冒険でファイアドレイクを倒し、勇者の名を得る。

  ・フラーウムは剣技ひとすじで、恋というものをしたことがなかった。

  ・だが、コータを見て、運命というものを信じるようになる。

  ・コータはフラーウムの仲間、ヴォルフガングに会い、さすらい人であることを明かす。

  ・とりあえず飯をおごってもらう。

  ・剣には古い言葉で「我こそ伝説」と刻まれている→「祝福と呪いの剣」では?

  ・伝説の剣を持つさすらい人、すなわちコータこそが勇者ではないかという仮説を聞かされる。

  ・フラーウムに剣技を習う。驚くほど早く上達する。

  ・第二次ファイアドレイク討伐に参加する。

  ○ファイアドレイク編

  ・空を飛び、雷光を操るファイアドレイク。

  ・しかし身を低くしたコータらは全滅を免れる。

  ・地に降り立ったファイアドレイクは、無数の矢によって射抜かれる。

  ・それでも歩みを止めないファイアドレイク。

  ・コータの剣が、首を切り落とし、それがとどめとなる。

  ・勇者と呼ばれるコータ。


 転 しかしファイアドレイクは魔王軍の尖兵に過ぎなかった。デーモンやヴァンパイア、人狼など、闇の勢力が台頭する。勇者の名を得た少年は、それを力と知恵でねじ伏せる。

  ○デーモン編

  ・デーモンは夢の中に現れ、コータの願いを叶えることでコータの魂を奪おうとする。

  ・だが、「今のところは願いが無い」「必要なら自力で叶える」という力強い断言のせいで近付くことさえできない。

  ・ヴォルフガングやフラーウムも、事前にコータからデーモンの来襲を聞かされていたため、願いを口にすることはない。

  ・再びコータの前に現れるデーモンだが、「全てのデーモンを消し去れ。それができないなら、お前は役立たずだ」と断言され、デーモンは消えうせる。

  ○ヴァンパイア編

  ・ヴァンパイアは夜闇の中を蝙蝠の群れとなって現れる。

  ・一度はコータたちは敗れそうになるが、「もう朝が来るぞ!」「コケコッコー!」との台詞によって撃退に成功する。

  ・ヴァンパイアは屈辱を味わう。

  ・フラーウムの家に伝わる「希望」と呼ばれる小さなランプが盗賊エフトによって盗まれる。

  ・銀貨計二枚を払うという口約束で、それを取り戻すコータ。

  ・ヴァンパイアは星の光さえかき消す黒い霧になって襲い掛かる。

  ・闇が最も深くなったときに輝き出す「希望」の光。

  ・ヴァンパイアはその光によって滅ぼされる。

  ・「命を助けた俺たちに金を請求するのか? お前の命はそんなに安いのか?」

   と、エフトからの請求を退けるコータ。

  ○人狼編

  ・人狼は人間に化けて傭兵たちを騙し、次々と殺してゆく。

  ・人狼はヴォルフガングがあらかじめゴーシュに頼んで作成してもらった銀の弾丸を喰らい、いったんは敗退する。

  ・翌日、腕に怪我をした人間を探し出そうとするも、多くの傭兵が腕に怪我をしている。

  ・人狼をペテンにかけ、正体を見破るコータ。人狼はコータに飛び掛る。

  ・最後の一撃は不発に終わり、ヴォルフガングの銀弾が頭を吹き飛ばす。

  ○魔王編

  ・アーサーとエフトが仲間に加わり、かつて魔王を打ち破った勇者の伝説を聞かされる。

  ・かつて勇者はその剣を投げて、魔王の目を射抜いたという。

  ・魔王は黒いドラゴンの姿になって現れる。

  ・暴風と雷雨によって多くの家々が崩される。

  ・マグタイト・バリスタによって祝福された矢を射ち出すも、傷一つつけられない。

  ・コータは伝説の剣そのものをバリスタで撃ち出すことを提案する。

  ・剣の魔力によって、黒いドラゴンはあとかたもなく消し飛ぶ。

  ・雲にぽっかりと穴が開き、太陽が顔を覗かせる。

  ・コータは英雄となり、罪人一人を釈放する権利を与えられる。

  ・銀弾を作成したゴーシュが指名手配されていることを知り、その撤回を要求するコータ。

  ・貴族たちはしぶしぶその案を飲む。


 結 英雄となったコータは精霊の力によって元の世界に戻るが、そのとき一緒にフラーウムが付いてきてしまい、開かれた門は閉じるどころかコータの部屋の壁に定着してしまうのであった(オチ)

  ・アーサーの知り合い「オールエー」の全面協力で精霊門を開くことに成功するコータ。

  ・フラーウムがついてこないように内緒にしていたが、酔ったヴォルフガングがばらしてしまう。

  ・フラーウムはその場に飛び込み、コータの後を追うように門をくぐる。

  ・お茶菓子でごまかそうとするコータ。これが裏目に出る。

  ・フラーウムは現代もなかなか悪くないと評し、気に入ってしまう。

  ・開かれた門は閉じるどころかコータの部屋の壁に定着してしまう。

  ・責任を取らされて、門の管理者に指名されるコータ。一生実家暮らし確定。


 プロットが決まったら、今度は視点を決めて、シーンを作っていきます。ここは一人称で、僕視点で、召喚されたところを描写する。ここは三人称で、フラーウムが盗賊に襲われているところを書く。などと決めていきます。

 もし、かっこいいシーンの連続でお話になるようなレベルにまで書き下せれば、素晴らしいことです。あとは設定に矛盾しないように、細やかな描写を加えていくだけです。


 あるいは、それは圧縮されすぎた物語で、本来三十話かけるところを、駆け足で十五話にしてしまっているかもしれません。それとも、逆に間延びした物語で、十五話で済ませるところを三十話に延ばしてしまったのかもしれません。

 でも、とりあえず完結の見込みが立ちました。何度でも言いますが、完結させること。これが重要です。


 次は文章に書き起こす段階です。


※ もちろんGMゲームマスターは毎回「普通とはちょっと違う」クエストを苦労して準備しているわけですので、その偉大さはいうまでもありませんが……


2012/11/28追記

このプロットは、実際に拙作「マグタイトサーガ」を書いている途中で、いろいろ改変され、洗練されました。しかしここでは勉強のために、あえて改変前のプロットを載せています。もしプロットの変遷に興味があるようでしたら、「マグタイトサーガ」と突き比べて、どこがどう変わったのか、確認してみてください。

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