第12話 地の文を書こう。

 地の文。これが嫌いな作者がいます。これが嫌いな読者もいます。しかし地の文が無い小説は、形を持たない、空虚なものになりがちです。


 地の文を書くに当たって必要なのは、5W1Hです。


 Who 誰が

 What 何を

 When いつ

 Where どこで

 Why なぜ(どんな目的で)

 How どうやって


 これらが分からないと状況が把握できません。登場人物に感情移入できなくなります。


 誰が、これはまだ分かります。「私」あるいは「主人公」という存在が言外にあるからです。しかし語らなければ容姿は分かりません。男なのか女なのか、歳はいくつなのか、どんな髪型服装をしているのか。実際には、数名のメイン・キャラクターが登場する場合がほとんどですから、一人ひとりの容姿を描写していくだけでこれはかなりの量になります。


 何を、これは説明しないと分からないです。大抵、敵や問題や状況と主人公が戦うのですから、最低限「敵を」とか「締め切りを」とか言ってくれないと分かりません。ここが分からないと小説として読むことが出来ません。まあここを省略する人はあまりいないでしょう。


 いつ、これも重要な点ですが抜け落ちがちです。今が春夏秋冬どの季節なのか。朝なのか昼なのか夕なのか夜なのか。授業中なのか放課後なのか。言われないと分かりません。


 どこで、これもうっかりと省略されてしまうことがあります。教室なのか、下校中なのか、コンビニの中なのか、あるいは異世界なのか。書き忘れることがあります。


 なぜ、これも重要です。動機付けが存在しない話ほど空虚なものはありません。何かの行動を起こす前に、彼ら彼女らの行動原理をはっきりさせておかないといけません。


 そして最後に、どうやって、です。たとえ便利な魔法が存在しているにしても、その原理がまったく不明では読者は困ります。困った末に、この作品は駄作であると認定するようになります。そうならないためにも、何らかの理屈をつけて、話を畳まなければいけません。


 そんなわけで、これらを地の文でしっかりと描写することが必要です。

 以下は、全てを満たした例です。どれがどれに当てはまるか、分かるでしょうか。



 放課後の教室で、部が発行する同人誌に載せるために、黒髪長髪のA子は悪戦苦闘しながら恋愛小説を原稿用紙に書いていた。パソコン上のワープロソフトではなく原稿用紙を使うというのは、A子のこだわりである。茶髪ショートカットのB子はその隣の椅子にまたがるように座って、メル友に向かってメールを打っている。

 A子は段落を書くたびに推敲したくなってしまう性質で、なかなか原稿が進まない。それに対し、B子は天啓があったときに、がーっと書くタイプで、普段は遊んでいる。A子は時々B子のその才能を羨んだり、妬んだりするが、B子は自分がそんなふうに思われているとは知らないらしかった。

 そこにふらりと先輩のC男が現れた。A子は上目遣いでC男に意見を求めた。「うーん、ここ人称おかしくない?」C男の文芸の才能は確かなものである。一瞬で見抜かれた拙い部分を、A子は涙目になって改稿する。B子が立って、後ろからA子を抱きしめて「よしよし、一緒に手直ししようねー」と百合っている。

 いずれにしろ締め切りまであと三日である。しかしここは薙刀高校。超常現象が跳梁跋扈ちょうりょうばっこする現世うつしよの魔界である。伏魔殿ふくまでんである。そう簡単に、無事に原稿が仕上がるとは、この場の誰も思ってはいなかった。

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