第3話 描写力の壁。

 描写力。これほど作者が切実に欲しがるものはありません。小説とは描写のかたまりです。描写がなければ小説ではありません。

 すると描写力というものを訓練する必要がありそうなものですが、多くの小説入門書では、描写力というものを、まるで天から降ってくるマナのように教えています。あるいは、才能だとか、センスの問題だとでも言わんばかりです。これは間違っています。描写力は筋肉同様、鍛えられるものです。


 話は変わって絵画の話になりますが、絵を描くには実はコツがあります。ある程度分かっている絵描きは、スケッチが終わったら、まず背景を黒か、それに近い色で塗りつぶすのです。こうすると影を描く必要がなくなります。光の当たっている部分だけ描き足せばよくなります。非常に簡単なコツです。ですが、このやりかたを知っていると知っていないのでは、仕上がった絵画の出来は大違いになります。


 小説の描写でも、これに似た、大雑把な割り切りが必要になります。


 まず底が四角い500mlのペットボトルがあり、白いキャップとは対照的に、赤いラベルと飲み残しの赤茶色の紅茶がある。ラベルにはKIR○N 午後○紅茶と印刷されている。さらに言えば、小さな字で、甘さすっきり低カロリー、ストレートティーと印字されている。ラベルの上のほうには、誰だか知らないが、中世風の帽子を被った上品な女性も印刷されている。それでどうやら、女性向けの飲料を目指しているのだな、ということがわかる。隣には、商品の細かい情報が記載されていて、名称は紅茶飲料、原材料名には砂糖類と紅茶、香料、ビタミンCと書かれている。しかしこのビタミンCは保存料として入っているのであって、ここでは特段に強調されてはいない。これはあくまで紅茶なのである。


 まあ、ここまでくどく描く必要はありませんが、描写というのはこういうものです。まず目に付くところを大雑把に描いて、次にさらに詳しいことまで書いていく。そうすると一本の紅茶のペットボトルであっても、千字とまではいかずとも、数百字を稼げるわけです。


 そして重要なことですが、これは絵画のスケッチと同様、練習することで上達します。何もどこかに出かけていく必要はありません。とにかく身近なものを書き続ければいいのです。文字でスケッチをするのです。これを繰り返すうちに、見たもの、思ったものを文字による描写に置き換える能力が、多少なりとも身に付きます。これが描写力です。


 あなたが書きたいのはファンタジーかもしれません。恋愛モノかもしれません。でも、やっぱり描写のかたまりであることは間違いありません。ほんのちょっとしたリアリティが、その作品をぴりっと引き立てるスパイスになって、読後に素晴らしい余韻を与えることもあります。


 そのためにも、まず描写力を身に付けることです。

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