第4話 想像力の壁。
さて、描写力が身に付いたとします。次に問題になるのは、想像力の壁です。
たとえば中世ヨーロッパあたりを舞台にした、オーソドックスなファンタジー小説を書こうと考えていたとします。さっそく冒険者ギルドとそれに登録している冒険者たちを登場させたいところですが、ちょっと、ちょっと待ってください。それは本当にリアリティがある物語なのでしょうか。
冒険者ギルドに関する悪評は、カクヨムの内外でよく聞かれます。なぜなら、その存在に正当な根拠が無いからです。現実の中世ヨーロッパには、商売上のギルド(たとえばパン焼きギルド!)はありましたが、冒険者のギルドというものはありませんでした。商売上、傭兵はいましたが、ドラゴンの守る金銀財宝を奪おうと夢見る冒険者はいませんでした。
仮に財宝を守るドラゴンや悪いゴブリンたちがいたとしても、本当に冒険者という職業が成り立つものでしょうか。そもそも、モンスターを倒すとお金がもらえるという仕組みはどこから来たのでしょうか。ドラゴンクエスト、ファイナルファンタジー、ソード・ワールドRPG、そして最近だとスカイリムなど、モンスター討伐のついでにお金が手に入る話はとてもたくさんあります。
ですが、それは本当に正しいのでしょうか。惰性でそうなっているだけで、実際は違うのではないでしょうか。ドラゴンはあるいはハリケーンのような単なる超自然的な災厄で、お金をもたらしてはくれないかもしれません。野良ゴブリンなど討伐しても、誰も賞金を支払わないかもしれません。微々たる報酬で、薬草を取りにいこうとしただけで、崖から落ちて死ぬかもしれません。そこには実は狼の群れが生息していて、誰も近付かない場所なのかもしれません。
何もファンタジー小説を否定しているわけではありません。ただ、想像力を膨らませれば、そこには自ずとリアリティがつきまとってくるものです。
そして中世の資料を漁っているうちに、ある日突然、ファンタジーが書けなくなる日がやってきます。膨大な歴史は、小説より奇なり。自分の想像力が、単なる三千年ぽっちの歴史に、とうてい敵わないのだと悟る日が来ます。夢で見たリアルなネタでさえも色あせ、筆を折ろうかと思う日がいつか必ず来ます。
しかしその段階を踏破し、突き抜けることができたならば、もうこっちのものです。
確かなリアリティを伴った想像力。それは描写力とあわせて、全ての作者が夢見る、魔法の力なのです。
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