ガンバレ! しんぞうくん!
毎日、規則正しく動いている心臓は、他の臓器と繋がっているようで、意外と繋がりは少なかったりする。
一にも二にも、血を送り出すという役目があり、もはやそれをする以外に仕事はあまりなかったり、もちろん、その行為が一番重要で、休むことはできないのだが。
「大丈夫か?」
それを統治する心臓も、面倒見はいい。休みをくれることは絶対にないが。
「ア……シンゾーさん!」
「どうした!?」
「隣が倒れまシタ!」
「すぐ行く!」
こうして疲れ、倒れる小人もいるが、そういう時は、すぐに心臓を呼び、栄養やら酸素やらを供給してもらえば、また動けるようになる……のだが、そのためのコンセントを持ったまま、じっと動かない小人を見つめる心臓に、不思議そうに周りの小人が首をかしげた。
「シンゾーさん?」
「……もう、がんばらなくてよくね?」
メンタルが異様に弱いのは、だいぶ傷だった。
「ガンバってくだサイ! まだガンバレマス!」
「いや、でもさ……」
いつまでも刺されないコンセントに、小人たちはついに心臓を羽交い締めにすると、自分たちの手で仲間にコンセントを差しこもうと、心臓の持つコンセントを奪おうとするが、一向に離そうとしない。
「やめろッ!! 安らかに……ゆっくり休ませてやりたいんだァッ!!」
「チカラ強ッ! 諦めて手を離してくだサイ! 離せェ~~ッ!」
一人で指一本、どうにか外しながらコンセントを奪い取ろうとするが、最後の最後まで暴れる心臓。
「離れるなんて一瞬だッ! すぐに、すぐに追いつく!」
「取レタ! 早クッ!」
この世の終わりかのような悲鳴と共に、ようやく動かなくなった小人にコンセントが差し込まれた。
***
しばらくすれば、心臓も落ち着いたようで、通常業務に戻っていた。
「心臓君」
その声に振り返れば、中年くらいの男が立っていた。
「血管さん……って、もうそんな時間か」
冠動脈、つまり心臓自身に栄養などを送るための管の点検をするという約束をしていた。心臓の区画はほとんどの管が太いが、冠動脈だけは細く詰まりやすい。
先程の騒ぎですっかり時間の感覚が抜け落ちて忘れていたが、血管は特に気にした様子もなく、黙々と作業を始めた。
「どこもかしこも、硬化が始まってて困るね……ピチピチの血管……モチモチ? んーまぁ、戻りたいねぇ……」
妙なところで悩み始めた血管だったが、座るとおもむろに携帯ゲーム機を取り出し、無言で操作し始めた。
「……血管さん」
「異常なし」
「いや、点検のことじゃなくて……それ、いつも思うんですけど、脳トレですよね?」
別に、ここで脳トレをやっていること自体に、それほど文句はない。血管は、体中に張り巡らされているため、全身が居場所でもあり、固定された居場所というものがない。そのため、足取りがつかめなくなることもたまにあり、こういった臓器のどこかにいてくれるなら、発見しやすく助かるのだ。
問題は、その脳トレの方だ。
「硬いものを柔らかくするって話題だからね。私もやってみてるんだ」
「確かに、硬い頭を柔らかくするとはいいますけど……というか、重要な部分、見事に無視しましたね」
いつからか、血管は動脈硬化が緩和されるかもと言い出し、気が付けば黙々と脳トレをやるようになっていた。
「やらないよりは、やったほうがいいと思わないかい?」
「……」
その言葉を否定はしないが、明らかに血管がやっている行為と結果は結びつかない。絶対に。
騒がず聞こえるのは脳トレの操作音だけであり、動きもしないため、本来の心臓の仕事の邪魔には全くならない。それどころか、たまにいることを忘れそうになる。
「アレ?」
ふと血管に目を向ければ、隣にもう一人、座って黙々と脳トレをやっている男がいた。
「……!!!」
その男に気がついた途端、小人は慌てて振り返り、心臓を確認すれば、周りの小人も何かあったのかと、その小人の見ていた方を見ては、その男に気がつき、慌てて心臓を確認すると、不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「そんなに慌てて……どうした?」
「ア……イヤ……」
面倒見もよく、メンタルが弱いとき以外は優しい心臓だが、ある意味、苦手、というよりも、すぐに喧嘩になる相手がいた。
それが、今、血管の隣に座っている男だ。
「ナンデモ――」
「あ、心臓君。今日も元気に働いてますね」
「脳?」
そう。脳である。見た目は、知能を司るだけあり、頭がよさそう、実際に記憶力などに関しては一番いいのだが、『
実際、脳が少し制御すれば、仕事が少しラクになる臓器を筆頭によく怒られていたりするところを見るが、悪びれることは全くなかった。曰く、ストレスのダメージは一番最初に脳にくるから、自分の負担を最小限に抑えたいそうだ。
「なんでお前がいんだよ」
「いきなり喧嘩腰? 別に心臓君に用はないですよ。またウイリスに
「だったら早く帰れよ。危ねぇだろ」
「まぁ、そうなんですけど、血管さんが一人でがんばっているなら、お手伝いしたいじゃないですか。得意分野ですし!」
ヒクリと心臓の頬が動いた。この先が分かっているというのに、こうして毎回同じように煽るのだから困る。それを毎回スルーできない心臓も大概ではあるが。
悲鳴を上げながら、爆発寸前の心臓に連動して、本物の心臓が動かないよう、小人たちはとにかく走り、配線版のβ1と書かれたコードを洗濯バサミで挟んだ。
「ふっざけんなァ!! とっとと帰れェ!!!」
ビリビリと電流が走ったように、部屋全体が震えるが、肝心な本体の機能は多少変動こそあったが、大事には至っていない。小人たちが安心する中、脳はというと、驚いた表情で心臓を見つめる。
「い、今ので破裂したらどうする気だ!?」
「元はといえば、テメェのせいだろ!」
「僕のせいじゃない! 主のせいだ!」
「人のせいにしてんじゃねぇよ!」
「君に言われたくないね!」
この口論はいったいいつ終わるのか、小人たちは困ったように息を吐き出したのだった。
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