第2話

2013年

日曜日の昼下がり、小滝橋通りを新宿方面へ歩く。

明日から7月か・・・。今年も何をするでもなく、半分終わってしまう。

歩道に人通りは少なく、車の流れもスムーズだ。

すぐ前を、手を繋いだ中国人の若いカップルが歩いている。

繋がれた手は、相手の存在を確認するかのように、常に動いている。

指を絡ませたり、手を握りあったり、その手をお互い腰に回すと、今度は外側の手を前で、繋いでいる。

まるで、肩から先が違う生き物のように、本能がおもむくままの動きが繰り返されていた。

彼らは、いや、世の中のたいていのカップルは、普通に、自然に、その行為を行っているのだ。何の意識もなく。

手のひらが、うっすらと汗ばんできていた。


大久保駅北口から徒歩10分の、そのマンションに移り住んで、もうすぐ1年になろうとしている。

オーナー夫妻が、海外転勤の間の3年半が契約期間。

元々この街に興味があったので、知り合いから、この話を持ちかけられた時は、すぐに決心した。

家賃も相場よりは安かった。

普通だったら住めるはずもない。

ちょうど長男が大学を卒業するまでの間だ。

この20年間、家を買おうとか、老後の資金とか、何も考えずに夫婦共、生きてきた。

まるで、アリとキリギリスの、キリギリスのように。


大久保通りに入ると、急に人通りが多くなる。

行き交う人々の半分以上は、外国人。

中国、韓国、ネパール、ベトナム・・・。

新大久保の駅前を過ぎたガード下で、中国人と思われる女がぶつかってきた。

キッとこちらを睨み、早口の中国語で、吐き捨てるように叫び、足早に去って行く。

とっさに、右手に提げていたバックを見る。

バックのファスナーは、半分開いてはいたが、財布は無事だった。


職安通りにある食品スーパーに向かうために、その通りに入る。

ここは、店が多いから、歩いていて楽しい。

マスコミなどによると、イケメン通りと呼ばれているらしい。

イケメン通り?どこにイケメンがいるんだか。

この1年の間、見たことない。

男は、店の外に出て、客を見送っていた。

あの男、まだいたんだ。この街、入れ替わり早いのに。

暮れの記憶が甦る。

あの時感じた、汚れたイメージが薄れていた。

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