第23話

7月31日

午後10時。

昼間、携帯をスマホに変えた。

ウツになってるヒマなんてない。

LINE、Facebook・・・必要なものを、次々とインストールしていく。

チフンのFacebookだ。

来日して、日本語学校の頃だろう。

いろいろな国の、たくさんの友達と楽しそうだ。

とてもいい笑顔をしている。

トンフーに勤めてからも、とても楽しそう。

女の子がいっぱい。

とっても自信にあふれた笑顔をしている。

チフンの声が聞きたくなった。

3回のコールのあと、チフンの声が聞こえた。

「ミッちゃん?」

「うん、チフン、ちゃんとゴハン食べてる?」

「おととい、いろいろもらったから。」

「家でゴハン食べないのに、ゴメンね。」

「いいよ。」

「明日から3日間、大島行ってくるよ。」

「大島?」

「うん、それがヨットで行くんだよ。台風の影響で、6時間ぐらいかかるらしいよ。」

「気を付けて。」

「ありがと。」

「今日、家族は?」

「ダンナと2人。黙ってゴハン食べたよ。」

「ふふ、そうか・・・。」

「チフンの声が聞きたかったから。じゃ、おやすみ。」

「おやすみ。」


8月3日

午後11時。

この3日間の大島は、悲惨だった。

逃げ場のない強い日射しと、長時間の不安定な姿勢。

顔はまだらに日焼けをし、全身筋肉痛だ。

時おり、ふくらはぎの外側がつり、七転八倒する。

チフンに電話をする。

LINEでもいいけど、今はとにかく声が聞きたかった。

コールが1回鳴り、チフンの声がした。

「ミッちゃん?」

「チフン、行ってきたよ。大変だったよ。顔が焼けて、みっともないよ。」

「そうなんだ。今、何してる?」

「韓国のパック。」

「ハハハ・・・。」

「チフンは何してる?」

「ちょっと英語の勉強。」

「そうか、ゴメンね、邪魔しちゃって。」

「いいよ。」

「明日、ゆっくり寝ようと思ったら、用事がいっぱいで忙しくなっちゃったから、あさってチフンちでお昼寝する。」

「何時にくる?」

「1時に要町。」

「いいよ。今日、家族は?」

「息子2人と一緒。何でいつも家族のこと聞くの?」

「気になるから。じゃ、おやすみ。」

「おやすみ。」


8月4日

午後2時。

家を出て、高田馬場へ向かう。

諏訪通りの信号を渡り、住宅街に入ってから、チフンに電話をする。

「ねえ、チフン。来週の月曜と火曜空いてる?」

「うーん、まだわからない。どうして?」

「旅行しようと思って。今から馬場の旅行会社行くんだ。」

「何も予定がなければ・・・。」


旅行会社で、伊豆急の指定席がセットになった、下田のホテルが一泊予約できた。

最後の1部屋だった。

10万8千円。


午後3時30分。

帰り道、チフンに電話をする。

「ねえチフン、お願いがあるの。」

「何?」

「来週の月、火を私にちょうだい。ホテルと列車のチケットとったから。」

「えっ、ちょっと、ちょっと待って。(ふふっ・・・)明日、ゆっくり相談しましょ。」

チフンはあわてている。

途中、なんか女の声が一瞬したような。

空耳かな。

でも、私にチフンを束縛する権利はない。

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