第18話

7月23日

午後6時。

「そういえばマキ、昨日チフンと連絡とれたよ。」

「そうなの?まだ日本にいたんだ。」

「うん、来月の19日に帰るって。」

「1ヶ月も何すんの?」

「わかんないけど。」

マキは、しばらく沈黙する。

「ミッちゃん、潮時って言ったよね。」

「そんなのわかってるって。じゃ、お先に。」

「お疲れ。」


線路沿いの道を歩く。

今日は、このまま真っ直ぐ、諏訪通りに出てみようか、まだ通ったことないし。

ふと、ある考えが頭に浮かんだ。

右に曲がり、いつもの坂道を登り、住宅街に入る。

ここまで来れば、電車も車の音も聞こえない。

深呼吸をして、チフンに電話をする。

留守番電話サービスの音楽が流れるが、すぐに音楽が途絶える。

「チフン?」

「はい。」

「こんばんは。あのさ、あさっての昼間空いてる?」

「あさってでしゅか?何日でしゅか?」

「25日。」

「はい、空いてましゅ。」

「水族館行こうよ。」

「えっ?」

「水族館。」

しばらく間が空く。だんだん不安になる。

「あの・・・仕事してないので、お金ないでしゅ。」

なんだ、そんな事か。

「ううん、おごるよ。」

「それは、だめでしゅ。・・・あの・・・実は、仕事をクビになりました。お金使わないように、ずっと家にいましゅ。」

「えっ?何でクビになったの?」

「オーストラリアに、英語の勉強しに行こうと思って、8月いっぱいで辞めたいと言ったら、今日でいいよと、社長に言われて・・・。」

「それって、ヒドクない?」

「ひどいでしゅ。」

「訴えたりできるんじゃないの?」

「それは無理でしゅ。」

「そうなんだ。」

「ミンソも同じように、僕の1週間前にクビになって、今、京都にいましゅ。」

「ミンソも?」

「はい。だから、自分も同じになると思ってました。」

「でも、何でいきなりオーストラリアに行こうと思ったの?」

「6月に帰った時、オーストラリアに住んでる友達夫婦に会って、話を聞いて、行こうと思いました。」

「あー、チェサで2日間帰った時ね。」

「はい。」

行動が早すぎるよ。

「ねえチフン、このまま私に連絡しないで韓国帰るつもりだったの?」

「クビになったから、みっともないでしゅ。」

「でも、何で8月19日なの?もっと早く帰らないの?」

「本当はそうしたいでしゅけど、部屋の契約が、1ヶ月前に言わないといけないので。」

「そっか。」

「僕から必ず連絡しましゅ。」

「ホント?」

「本当でしゅ。」

「わかった。でも、私もしつこく電話かけるからね。」

「はい。」

「じゃ、待ってる。バイバイ。」

通話を切る。

韓国人は、走りながら議論をする・・・か。

チフンが、自分のみじめな部分をさらけ出してくれたことが、とても嬉しかった。

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