第4話騒々しい想像

「どうしたのだね、ヒーア」

 仕事から帰って、居間に入るなり、トイフェル・ナイエヴァイトは驚いたような声を上げた。

 実際のところ、驚いていた、どころではなかった。驚愕、絶句、驚天動地………………およそ存在する言葉を並び立てたところで、彼の内心を表現するには至るまい。どうしても表現しようとするのなら、朝起きたら自分が虫になっていたときの気持ち、というのが近いだろうか。

 太陽が突然北から昇ってきたような、自分の常識に裏切られたときのような気持ち。

 そんな、彼にしては極めて珍しい精神状態で、トイフェルは彼の一人娘、ヒーア・ナイエヴァイトに駆け寄った。

「………………別に」

 ヒーアの返答もまた、彼女にしては非常に稀有な反応だった。

 木製のテーブルに片肘を突き、頬を膨らませ、明るい栗色の巻き毛を弄り、片足で床を叩く。いつもなら楽しそうに嬉しそうに輝いている、猫のような眼には、軽い怒りと、不満の色が滲んでいる。

 一目で不機嫌と分かる、娘の態度。いつもの”悪癖”は形を潜め、今日の出来事どころか夜の挨拶さえしたくない様子である。

 普段なら、トイフェルにコートを脱ぐ暇さえ与えず問答無用に話を始めるのが常なのだが、今夜はその気配もない。

「今日はまた、何か悪いことでもあったのかい?」

 疑問系の様相を呈してはいたが、トイフェルは内心確信を持っていた。良くも悪くも自分に正直な娘である。楽しいことがあれば楽しいと言うし、何もなかったのならこんな態度をとることもない。不機嫌な表情をしているということは、不機嫌にさせる何かがあったということだ。

 自分の心を透かし見たような父親の言葉に、ヒーアはため息をつくと、わずかに唇をほころばせた。

「さすがの名推理ね。すっかりお見通しかしら」

 疲れたような娘の言葉に、トイフェルは曖昧に微笑んだ。今の程度で推理などと言っては世の名探偵方に大分失礼だ、とも思ったが、流石に口に出すような真似はしなかった。

「今日は嫌な一日になりそうだわ。このままの気分で終わりを迎えたら、きっとそういう日になるわね。一日というのは寝る前の気分で決まるのだから」

 本当に暴論ばかり吐く娘である。誰に似たのか、と内心で頭を抱えつつ、「それでは」とトイフェルは口を開いた。

「まだまだ挽回できるというわけだ。私にかかればね。今日のお前の半日を、幼いお前にしたような楽しい寝物語にしてやろう。さ、いったいぜんたい、何があったのか話してみなさい」

 トイフェルの言葉に、ヒーアは意外そうに瞳を瞬かせた。父の言葉を味わうように、ゆっくりと舌を動かしている。

 それから、ようやくヒーアは、彼女らしい笑みを浮かべた。楽しみを愉しむ笑み――人のものであれ、自分のものであれ、それを飲み干してお代わりを要求するような、傍若無人な暴君の笑みを。

「パパにしては、ずいぶんとロマンチックな意見だわ。けれど、えぇ、そうね。素敵な考えだわ」

「パパにしては、というのは余計だな。しかし、気に入ったのならよかったよ」

 軽く肩をすくめるトイフェルに、ヒーアはうふふ、と蕩けるような笑い声をこぼした。やれやれ、ようやくエンジンがかかってきたようだ。

「えぇ、気に入ったわ。そうね、せっかくの不思議な話なのだし、誰にも聞かれず朽ち果てるなんて不憫だわ」

 そう言って、ヒーアは居住まいを正した。いつものように背もたれに深く身体を預け、腕を組み、足を組み、裂けるような笑みを浮かべる。

 トイフェルも椅子に腰掛けると、手を伸ばす。何処から取り出したのか、その手にはコーヒーカップが握られており、湯気を立てるコーヒーが注がれている。

「それでは、聞いていただくわ。今日私が出会った、不思議で、不自然で、なんだか騙されたような気になる出来事を」



 今日も今日とて、ヒーア・ナイエヴァイトは退屈だった。空は青く、風は過ごしやすく、行きかう人々には笑顔が絶えず、町並みには変化の兆しもない。

 つまるところ、それは昨日と同じ情景。

 恐らくは、明日も同じような情景が繰り返されるのだ。

「あぁ、退屈だわ。退屈すぎて、死んでしまいたくなるわ」

 いつも以上に大仰なヒーアの嘆きを聞きとがめたのか、通りすがる幾人かがクスクスと笑いを漏らす。少女の口癖もまた、変化の無い町の風景の一つとして住人たちに記憶されている。

 つまらない繰り返しを打破するための行為さえ、ルーチンワークに含まれてしまう。どれほどの非日常でさえ、繰り返せば日常に埋没する。

 日常とは、毒だ。足掻いても足掻かなくても変わらぬ日々など、人の精神を緩やかに腐らせるだけ。だからこそ、少女は日常を嫌悪している。例えその嫌悪すら、飲み込まれるとしても。

「はぁ………………、あら?」

 退屈を噛み殺しながら歩いていたヒーアの視界に、その喧騒は飛び込んできた。

 往来のど真ん中で、二人の男性が喧々囂々、言い争っていたのだ。

 理由は、明白。二人のちょうど真ん中に落ちている、割れた壷だろう。

「ふうん………………」

 その光景に、ヒーアは少し、考えるような仕草をする。普段ならば間違いなく、迷い無く首を突っ込むところなのだが、しかし、どうにも全然気が進まない。大きすぎる声のせいで漏れ聞こえてくる言い争いの焦点が、どちらが悪いかの責任の擦り合いというのが、正直に言ってまったく面白くない。

 まぁ、他にすることも無い。どんな駄作でも退屈よりはマシだろう。そう考え、ヒーアはその喧騒へと足を向け、

「………………おい」

「大体お前が………………、あぁん?」

 出遅れた。

 ヒーアよりも一足早く、その二人に声をかける者がいた。子供だろうか、小柄な体つきで、茶色い鳥打帽を目深に被っている。

 そのハスキーな、中性的な声に、ヒーアは聞き覚えがあった。そう思って見ると、その、線で吊られたようなしゃんとした背筋も、シャツとチョッキに包まれた矮躯にも見覚えがある。

 知らず知らず笑みを浮かべて、ヒーアは歩みを速める。凡庸と思われていた料理に予想外の隠し味が振りかけられたようである、味見をしないわけにはいくまい。

「お前たち、ここで何があった?それは、いつくらいのことだ?」

 近づくヒーアに気付いた様子も見せずに、その少年は言葉を重ねる。その物腰は淡々としていて、感情らしい感情が見えない。

「………げ、お前………」

 男のうちの一人は、その少年の正体に気がついたのだろう、奇妙な声を漏らした。男は及び腰で、出来るだけ穏便に済ましたいという祈りにも似た感情がありありと浮かんでいる。

 だが、もう一人の男は、彼ほど鋭くはないようだった。

「なんだ、小僧。大人の話に茶々入れてくんじゃねぇよ!!」

 がっちりとした体格の男は明らかに、考えるより行動が先に出るタイプのようだった。男は肩を怒らせ、少年を威嚇するように見下ろしながら怒鳴り声を上げた。

 その行動に、誰よりもう一人の男の顔から血の気が引いた。彼は、少年が何者か気が付いているのだ。慌てた様子で、先ほどまで言い争っていた男を制止した。

「よ、よせよ、そいつは、マハトだ」

「マハト………?」

 マハト。

 その名は、この町の住人にとっては禁忌にも近い名である。

 少女とも見紛う程の、線の細い儚げな美少年。感情のこもらない淡々とした口調に、人形のようにピクリともしない無表情………、彼を示す情報は多いが、住人にとっては何よりも、彼の”職務”こそが重要である。

「そいつは、あの”領主”の飼い犬だぞ………!」

 今一つその名にぴんと来ない様子の男に、もう一人の男は小声で警告する。しかしあいにく、本人としては小声のつもりなのだろうが、マハト相手には少々大きすぎる。案の定聞きとがめたらしいマハトは、しかし「………飼い犬?」と首を傾げている。相変わらず、人の悪意に疎い少年である。

「り、領主の………?」

 傍若無人だった男にとっても、その情報は重いものだったらしい。先ほどまでの威勢をわずかにそがれ、息を呑む。

 どうやら、穏便に済みそうである。慌てた様子だった男はホッとしたように、ヒーアは退屈そうに、それぞれ息を吐いた。

 マハトという少年は、感情表現と同様に人付き合いが不得手である。ものを尋ねるのも、先ほどのように不躾な言い方をしてしまうことが多い。それでもトラブルに巻き込まれにくいのは、二つの理由ゆえだ。その一つが、彼がこの町の辺り一帯を治める領主――より正確にはその奥方――の使用人であることである。

 多くの者が思い描く、支配者らしい支配者。気紛れで、強引で、傲慢で、人を人とも思わない彼女の威光は、雑事で町に出向く少年にも及んでいるのだ。

 そして、今回は稀有なことに、そのもう一つの理由も示されそうである。

「そ、そんなの関係あるかよ!!」

 引っ込みが付かないのだろう、男が拳を振り上げ、マハトの頭へと振り下ろしたのだ。

 たまに、本当にたまにだが、こういうことはある。権力者の走狗とは言え、その場に権力者自身はいないのだ。不都合な事態を見られたときや、或いは酒や麻薬で正気を失ったときなど、目の前の少年の矮躯が乗り越えやすい障害に見えてしまうときが。非常に愚かなことに。

 賢明な男は、その結末を見ることなく踵を返し走り去った。結末――勢いよく振り下ろされた拳が、少年の細腕にいともたやすく止められた結末を。

「え、あ、あれ?」

「………ふん」

 片腕で抑えられたままピクリともしない自らの腕を、男は呆けた様子で見ている。その顔を詰まらなそうな無表情で見返すと、マハトは無造作に片腕を振るった。

 成人男性としても大柄な男の身体は、それだけで宙を舞った。マハトの振るった動きそのままに、巨躯がボールか何かのように壁へと突っ込む。ボールと違ったのは、跳ね返らず壁に沿って崩れ落ちたところか。

 これが、理由の二つ目。

 少年は、『マハト』の名に相応しく、怪力と頑強さの持ち主なのだ。そこらの馬車など軽く持ち上げて投げ飛ばしてしまうし、近頃開発され、たちまち流行した自動拳銃の弾丸が指一本で弾かれたこともあった。少年曰く、『奥様の求めに応じるために必要最低限な機能』らしいが、振るわれる側からすれば、必要最低限どころか完全にオーバーキルやりすぎだろう。

 権威と、実力。その二つの組み合わせが、この町で少年が畏怖される理由なのである。

「にしても、やりすぎなんじゃない?マハト」

「………………ん、ヒーア。おはよう」

 声をかけると、少年は振り返り、礼儀正しく挨拶をする。ヒーアの事を見るガラス玉のような瞳は、無表情で、朝の快活さとは縁遠い。

「ごきげんよう、マハト」

 苦笑しつつ、ヒーアも挨拶を返した。その苦笑の意味がわからないのか、マハトはまた首を傾げた。

「それで、どうしたの、マハト。お買い物かしら。それとも、また『奥様』の退屈しのぎ?」

 冗談めかしてはいたが、ヒーアの中には確信があった。この少年が町に降りてくるのは、彼の主人たる『奥様』の命令に他ならない。

 ヒーアの問いかけに、しかしマハトは首を振った。

「いや、違う。今回も奥様の雑事だが、するべきなのは後始末だ」

「………後始末?」

 あぁ、と簡単にうなずいて、少年は、その無機質な視線を先ほど投げ捨てられて気を失っている男に向けた。その様子を少しの間観察して、ため息をつく。ヒーアも同じように男を見て、それから、ため息をついた友人へと視線を戻した。

 その、なにやらわくわくした様子のヒーアの表情にため息をつきつつ、「ヒーアにとっては業腹だろうが」とマハトは口を開いた。

「今回、奥様の退屈しのぎは終わっている。僕は、その後始末を命じられた。追跡と、回収だな」

 マハトの言葉に、ヒーアは笑い声を漏らした。マハトの言葉がやたらと物々しいというのもあったが、それ以上に、彼の指摘が的外れすぎて面白かったのだ。

「何言ってるの、マハト。いつも言っているじゃない、私は、面白ければそれでいいのよ。準備であっても、後始末であってもね」

「………そうか」

 短く言って、やれやれとばかりに首を振るマハト。その様子に、ヒーアの笑みは更に濃く、深いものになる。この友人が気が重そうにする話というのは、きっととても素晴らしいメインディッシュになるだろう。

「さあ、話して頂戴、マハト。それで本当に詰まらないようなら………、私も、腹を立てるから」

「勝手だな………。まぁ、いいが」

 本当にどうでも良さそうな無表情で、マハトは呟くと、自らの指令について語り始めた。



「お呼びでしょうか、奥様」

「お、来たか、マハト。可愛い可愛い私の従僕」

 彼女の声を聞いたとたん、マハトは顔をしかめた。傍目には全くわからないだろうし本人としても表に出すようなつもりは無かったが、それでも、そうしたい気分になった。………なぜなら、主が上機嫌だったからだ。

 短くも無い期間こなした主従関係のうちに、マハトは、ある一つの法則を導き出していた。それは単純なある一つの真理である。つまり、『主の機嫌がよいときはろくなことが起こらない』ということだ。

「ふふふ、今日は、実に良い天気だな、気持ちも晴れやかになるよ」

「それは何よりです、奥様。今日は窓の外をご覧になっていないようですね」

 淡々と呟くと、マハトはため息混じりに窓へ向かうとカーテンを閉めた。気分の良いときは要注意だが、わざわざ悪くすることもあるまい。

 そうしておいて改めて、マハトは彼の主へと向き直った。

 主………公爵夫人は、彼女の定位置である豪奢なソファーに寝転び、妖艶な笑みを浮かべていた。身に着けているのは、黒いドレス。当然だが、いくつかドレスを持っている彼女だが、その色は全て黒で統一されている。そのこだわりの意味について問い質したことは無いし、そうしたいと思うこともマハトには無い。

 顔には、いつも以上に上機嫌な笑み。マハトがカーテンを締めたことも気にしていないらしく、鼻歌さえ歌っている。

 予想以上に機嫌がいいらしい。マハトは内心でため息を吐くと、その口から出てくるであろう無理難題に対して身構えた。

「それで、何の御用でしょうか、奥様?」

「おいおい、何の用もなく呼んではいけないのか?」

 冗談めかして笑う夫人の表情に、いよいよマハトは覚悟をし始めた。これは、かつて無いほどに面倒な事態だぞ、と何処かで誰かが囁いている。兄さん方かもしれない。

「まぁもちろん、用はあるんだけどね。ふふ、かわいいお前にも、これを見せてやろうと思ってね」

 マハトの内心も知らずに――まぁ知っていても斟酌することは無いだろうが――彼女はソファーの傍らを示した。そこには、見慣れぬ大きさの四角い何かが、真っ赤な布を被って置かれている。

「じゃじゃーん。………………何してる、ほら、捲れ」

 不思議な擬音を口にすると、夫人が命令を下す。なにやら猛烈に嫌な予感がするが、命令に逆らうという選択肢はマハトには無い。躊躇いもなく近づくと、勢いよく布を剥がした。

 その下から現れた物に、しかし流石にマハトは眉をひそめた。たっぷり数秒沈黙した後、ゆっくりと、マハトは口を開いた。

「………………これは?」

「ふふん、なんだと思う?」

 困惑するマハトを楽しげに眺め、夫人は笑っている。仕方なしに、マハトは目の前のものを改めて見て、見た通りのことを口にした。

「これは………檻ですか?」

 そこにあったのは、鉄の檻だった。マハトはもちろん彼の主でさえも入りそうな大きさの、真四角の檻。磨き上げられた輝く光沢の鉄格子は見事ではあるが、しかし、檻は檻だ。彼女がここまで上機嫌になるような代物とは思えない。

 そもそも、檻なら城に幾らでもある。なにかの曰くつきのものでさえ、だ。

「ふふふ、わからないか、わからないだろう、マハト」

「はぁ」

 そう言われては確かにわからないので、マハトは素直にうなずいた。主は、果たして正気なのだろうか?

「お前、今何か失礼なことを考えなかったか?」

「はい」

「はいって。………まぁ、いいけどね。何を考えようと、考えるだけなら自由だし」

 呆れたような口調で言いつつも、しかし主の笑みは変わらない。マハトのそうした態度を、楽しんでいるようだ。

 ふふふ、と笑いながら、夫人は楽しそうに、”それ”を告げた。



「うふふ、やっぱり、楽しそうじゃない?」

 嬉しそうに楽しそうに、ヒーアは笑いながら歩く。その顔を見るとは無しに見ながら、マハトはため息を吐く。その表情は幼いながら、彼の主に良く似ていた。

「それで?その檻の中、何が入ってたの?」

「………見えなかった」

「え?」

 マハトの言葉に歩みを止め、ヒーアは振り返った。明るい栗色の巻き毛が、スカートと一緒にふわりと揺れた。

「見えなかったんだ」

 不思議そうに眼を見開くヒーアに、マハトは淡々と繰り返した。そして、彼女が口を開く前に、淡々と話を続ける。



「それはな、”見えない怪物”だ」

 自信満々に言って、しかし公爵夫人は顔をしかめた。

「そんな疑うような眼をするな、従僕。私はいつものように正気だよ」

「申し訳ありません、つい」

「まぁ、お前の気持ちもわかるがな」

 夫人は寛容にうなずくと、上機嫌で檻の中身を指し示した。

「だが、信じてもらわないとな。そうでなければ、見せる甲斐がないからな」

 見えはしないが、と続ける主に、マハトはため息を吐きつつうなずいた。信じるのは困難だが、彼女への忠誠を揺るがすほどではない。

 よし、とばかりにうなずいて、彼女は鉄格子の向こうの何かへ視線を向けた。

「これは、まぁ私が創ったんだけどさ」

「正気度は大丈夫ですか」

「なんだそれは。………私の趣味は知ってるだろ、これだ」

 そう言うと、彼女はソファーのクッションから古びた本を取り出した。装丁は半分以上風化しており、書かれた文字の大半は読み取れない。

 自慢げな彼女の様子に、マハトは肩を落とした。彼女は、自宅の書庫に眠る書物を読みふけり、そこに書かれた古びた空想の物語を読み解くのが趣味だった。そこに書かれた古の魔術とやらに手を染め、本人が工房アトリエと呼ぶそれ専用の部屋さえ用意してある。

 なにより最悪なのは、彼女に才能があったことだ――常識的に考えて不可能としか思えない空想を、空想そのままに実現させる才能が。

「その中に書いてあったんだよ、この、”見えない怪物”の創り方が」

「それで、創ったのですか?」

「そうだよ。可愛いだろう?」

 言われて、マハトは檻の向こうへと視線を向ける。言われてみれば、何者かの気配がするような気もするが、何しろ見えないのだから答えようが無い。

 黙るマハトに、少年の主は快活な笑い声をこぼした。

「そういうところが、お前の美点だよ、マハト。お前は忠実で、正直だ」

「………ありがとうございます」

「実を言うと、私も見えない」

「はぁ………、は?」

 夫人の言葉に、マハトは眼を見開いた。その様子がおかしいのか、更に笑う主人へと、マハトは質問を重ねた。

「奥様が創ったのに、奥様にも見えないのですか?」

「見えないよ。そういう風に創ったんだから」

 おいおい何言ってるんだ当たり前だろ、とでも言うように、夫人はキョトンと目を見開いた。

 こういうところが、彼女の悪癖の最たる部分だと言えた。忘れられた技術――或いは奇術――を再現することを求めるが、それをどうしようとか、それでどうなるかとか、そういったことは何も考えないのだ。文字通り、何も、だ。

 マハトは、視線を檻の向こうへと戻す。そこには、相変わらず何も見えない。

「失礼ですが………成功しているんですか、これは?『皇帝の新しい服』と言う話をご存知ですか?」

「本当に失礼だな………まぁ、いいよ。証拠はあるさ」

 ほら、と夫人は、クッションの下から布袋を放り投げた。細長いその袋は、受け取ってみると思ったよりも重い。中を覗き、マハトは軽く顔をしかめた。

「………これは?」

「檻に入れた使用人のだよ。獰猛なのだろうな、食いちぎられた」

「腕をあっさりと?」

 危険なのでは、と言いかけるマハトに、夫人はキョトンとした顔のままで「いや」と首を振った。

「腕を、じゃないよ。そこ以外が食われた」

「………そうですか」

 危険どころの話ではなさそうだ。マハトは改めて檻へと視線を向ける。そして、ふと気がついた。

「………綺麗すぎる」

「ん?」

 首を傾げる奥様に、マハトは檻を観察しながら質問した。

「いつ、これを創られたのですか?」

「昨日の夜だよ。そのまま中に入れた」

「”食事”を済ませてから?」

「うん」

 うなずく夫人に、マハトは考え込むような姿勢をとる。

「………………」

「………マハト?どうかしたのか?」

「いえ。………ところで、こいつは獰猛な割りに、静かですね」

「あぁ、なんでも、たらふく食うと一日は何も食わなくても大人しいと………ん?何してる?」

 主の言葉を聞きながら、マハトは鉄格子に近づくと、その戸を引き開けた。小さく主が「あれ、鍵は………?」などと呟いていたが、掛かっていなかった。

 そのまま中に入る。奥まで踏み込み、手を振るってみるが、空を切るばかりだ。

「………………………」

「ん、え?あれ?」

 驚いたような声を上げて、夫人は檻へと駆け寄った。中で佇むマハトを押しのけるようにして中へ入り、手探りで探す。

「え、あれ?おかしいな、たしかにここに………」

「………」

「い、いや、そんな冷めた目で見ないでよ、本当なんだって」

「……………」

「あ、あのさ、うん、たしかに、鍵は掛けなかったかもしれないけどさ、確かに居たんだって本当に」

 引きつった笑いをあげる夫人を見ながら、マハトは静かに檻を出る。

「信じてよ、マハト、私の可愛い可愛い」

「信じるとすると」

 檻を出て、マハトは格子越しの主へと話しかける。

「もう一つ問題があります、奥様」

「へ?」

 冷や汗と愛想笑いを浮かべる自身の主にマハトはその無感情な視線を向ける。恐らくは、本当にわかっていないのだろう。マハトはため息交じりで告げる。

「つまり、人一人を腕を残して平らげるような何者かが、我々の管理下を離れた、という事です。しかも、そいつは見えない、誰にも」

「え、うん。………それが?」

 やっぱり、とマハトはため息を吐く。彼女は、何もわかっていないのだ。わかる気も無いのだろうが。

「………町に向かいます。その化け物が人を食べる以上、近しい狩場に向かうでしょう」

「うん?………あ、連れ戻してくれるの?」

 夫人の顔に、さっと喜色が浮かぶ。お気に入りの玩具を買ってもらえると聞いたときの、子供のような顔つきだ。

 その、嬉しそうな表情に、マハトは今日幾度目かのため息を吐いた。主の気分を尊重するのは、いささか難しいだろう。

「………見かけたら」

「やった!」

 軽い皮肉を言ったつもりだったが、檻の中で、夫人はガッツポーズをした。普段はともかく、こういうとき、彼女は幾分か幼い言動をする癖がある。それが悪いかどうかは、マハトには判断がつかない。

 わからないことに、マハトは頓着しない。代わりに、自らが出た檻へと近づくと、その戸を無造作に閉めた。鍵は無かったが、鍵穴の付近を捻って固定する。

「え、あれ?マハト?」

「もしかしたら、戻って奥様を襲うかもしれませんので、安全のためこうさせていただきます」

「それなら、お前がいてくれれば………」

「失礼します」

 丁重に礼をすると、マハトは踵を返し、主の私室を後にした。背後で聞こえる声に視線を向けずにドアを閉める。

 窓の外へと視線を向けた。昨晩中降っていた雨は上がり、曇り空の合間から晴天が覗き始めている。少年の主の気分も、このように晴れやかであればいいのだが。

 マハトは軽く首を振ると、歩き出した。雨は幸いだ。姿が見えない怪物でも、足跡くらいは残るだろうから。



「そうして、足跡を追ってきたんだ」

 話を終えると、マハトは、自分の話の結果を確認するようにヒーアへと眼を向けた。そうして、友人の顔に浮かぶ微妙な表情に、納得したようにうなずく。

「成程。奥様の言っていた『冷めた目』というのは、そういう顔のことか」

 勉強になった、と呟くマハトに、ヒーアは言いにくそうに声を掛けた。

「あのさ、それって、騙されてるんじゃないの?奥様の暇つぶしなんじゃないかしら?」

「そうかもしれない」

 怒られるかな、とも思ったが、案外素直に、マハトはうなずいた。

「だがとりあえず、足跡はあった。………そして、痕跡も」

「足跡ねぇ、他の動物の、とかじゃないのかしら。それに、痕跡って?」

「さっき、ヒーアも見ただろう」

 マハトの言葉に、ヒーアは記憶を探り、「あぁ」と声を上げた。

「痕跡って、さっきの騒ぎのこと?あれがどうかしたの?」

「彼らは、互いに互いがぶつかって、荷物を壊したと主張している」

「それが、その、見えない怪物のせいだと?ちょっと強引じゃないかしら」

 確かに、目に見えない誰かが二人を押しのけたのだという解釈もできなくもないだろうが、それよりは、どちらかの勘違いだと思う方が現実的である。

「あの一件だけならな。………あそこでヒーアに会うまで、四つの類似の状況を確認した」

「ふうん、なるほどね」

 淡々としたマハトの言葉に、ヒーアはうなずいた。足跡が町の近くで途切れた後、その進行方向と思われる方向で起きている喧騒。関連付けるのは強引かもしれないが、一件だけというよりは不自然さは緩和される。

 それに、何よりも。

 その方が、断然おもしろい。

「うふふ」

「………ヒーアは、そんなに毎日退屈なのか?」

 本当に不思議そうな口調で、マハトは尋ねた。毎日会っている訳ではないが、会うたび会うたび彼女は退屈している気がする。

「えぇ、退屈よ。毎日毎日、似たようなことの繰り返しだわ」

「だが、同じではないだろう」

 マハトの指摘に、ヒーアはその笑みを更に深くする。

「そうね、同じではないわ。私もそれは認めるし、そう考えて毎日退屈しない人も知っているわ」

 少女の、猫のような目が宝石のように輝くのを見ながら、マハトは黙っている。黙って、ヒーアの話を聞いている。彼自身、主が似たようなことばかり言うのだ、思うところもあるのかもしれない。

「私は、そうではないというだけの話よ。私にとって、似ている日々は、同じことを繰り返すだけの日々と同じ。毎日が、何をしても同じだと、いずれ人は何もしなくなるわ」

「そうだろうか」

 ずいぶんと強引な考え方のようだが、とりあえず、マハトは話を聞き続ける。

「それは、私にとっては人類そのものの死だわ。何もしない人類なんて、そこらの草木と同じでしょう?」

「草木にも、草木の人生があるだろう」

「そうね、けどそれでは、人である意味が無いわ。私は、人でありたいのよ」

 ヒーアの言葉を噛み締めるように、マハトは沈黙している。ヒーア自身もまた、答えを求めているわけでもないのだろう。気にすることなく、歩き続ける。

 人生観なんて、人それぞれだ。誰より自分自身が納得してさえいれば、それでいいのだ。



「騒ぎは、このあたりで途切れてるけど………」

 そこは町の外れ。

 町中のところどころで起こっていた、ちょっとした不注意のような事故は、この近辺でぱったりと途切れていた。

「まぁ、この辺りは住人も少ないから、事故も起きようがないわね」

 ヒーアの言うとおり、辺りには人気が無い。すでに月も上っているような時刻であるせいもあるだろうが、近辺の建物も崩れかけて、壁やら屋根やらが無くなっている。唯一原形を留めているのは、教会らしき十字架を掲げた建物と、元は酒場だったらしい建物くらいのものだった。

「さて、どちらかしらね。雰囲気としては、教会の方かしら。月明かりの下化け物探しなんて、やっぱり教会か墓場よね」

「いや、恐らく酒場だ」

 妙に断定的なマハトの言葉に、ヒーアは不審そうな顔をする。理由を尋ねようとするより早く、マハトは崩れていたドアをあっさりと蹴破り、中に踏み込んでいく。

 続いて、騒音が響く。

 バタンバタンという、何かが暴れるような音に、ヒーアは慌てて駆け寄る。少年が負けることは無いとは思うが、それより、決着を見逃すかもしれない。

「マハト?」

 ドアのあったところから中をのぞきこむ。と、ちょうどマハトが、地面に何かを叩き付けた所だった。

 ひときわ大きな音とともに、マハトの目の前の床が陥没している。黒い液体が血の跡のように広がっているが、その主らしき姿は見えない。

 惜しかった、と思うより早く、少年がその場所へ木製のテーブルを叩きつける。テーブルは床より少し高いところで粉砕した、ようにも見えたが、暗いせいかあまり良く見えなかった。

「………倒したの?」

「あぁ」

 恐る恐る、ヒーアは近づいた。陥没した床の辺りに、そっと手を伸ばす。噛み付かれるかもしれない、とも思ったが、予想に反してその手には何も触れなかった。

「あれ?」

 最初こそ慎重だったが、徐々に大胆に動かす。陥没した床の一面を探ってみても、そこには何もないようだった。

「………マハト?」

「………言いたいことはわかるが、諦めてくれ。これはそういう生き物なんだろう」

 そういう生き物。それはつまり。

「生きてるときは透明で、死んだら霧みたいに消えてしまうの?それじゃあ、まるっきりわからないじゃない」

「………そういうことではないと思うが………まあいい」

 ヒーアの言葉に、マハトは肩をすくめた。その無表情がなぜだか無性に腹立たしく、ヒーアはその頭を全力で叩いた。

 ピクリともしなかった。



「ね、最悪じゃない?結局私は、見てもいないし、触れもしなかったわ。黒い染みだって、床下の古いお酒が漏れ出したのかもしれないわ」

 憤懣やるかたない、というヒーアの態度に、トイフェルは苦笑する。

「まぁ、マハト君が嘘を吐くような男ではないことは、知っているだろう?」

 なだめるようなトイフェルの言葉は、しかし火に油を注ぐ結果となった。ヒーアはその眼を吊り上げ、父親の顔に視線の槍を突き立てる。

「………どうした」

「それがね?」



 奥様が心配だと言うマハトは、ヒーアを町の中心近くまで送ると足早に立ち去った。その後ろ姿を見ながら、奥様とやらがどうなっていても自業自得だとヒーアは心の中で舌を出した。

 騙されたのだと、ヒーアは思っていた。証拠は無いが、それを言うなら居たという証拠も無いのだ。マハトは嘘を好んで吐く男ではないが、主人の命令であればやむ無しというタイプでもある。酒場の跡地での大立ち回りも、彼の一人芝居の可能性もあるのだ。

 どちらとも言い切れないものの、ヒーアはやや不機嫌に歩いていた。

 その帰り道で、更に不機嫌なものを見てしまった。

 一人の中年の女性が、掲示板になにやら張り紙をしていたのだ。一心不乱に張るその女性は、背後からヒーアが覗き込んでも気付く気配も無い。

「こんばんは、おばさん」

「え、あら、ヒーアちゃん、驚いたわ」

 仕方なく声をかけると、心底驚いたように女性は振り返った。大きく眼を見開くその様子は、マハトとは大違いである。

「どうかしたの?」

 あぁそうだった、驚きとはこういうものだった。新鮮な反応に寧ろ驚きつつ、ヒーアは尋ねる。すると女性は、落ち込んだ表情を浮かべた。

「うちの子が、いなくなったのよ。突然、気がついたら、いなくなっていたのよ」

「あら、それは………」

 誘拐か何かか。ヒーアは眉をひそめながら、その張り紙に眼を移す。子供の情報が書かれているのだろうと思ったからだ。

 そして、固まった。

 確かにそこには、しっかり情報が書かれていた。身長や体重、名前、行方を晦ました日時、そして、毛の色。

「………犬?」

「そうよ、そうなのよ。悪戯ばかりする子だけど、可愛い子なのよ」

「そうですか………」

 子供の誘拐の方が面白かった。そう思いながら歩き出そうとしたが、女性の会話は終わらなかった。

「本当に可愛い子でね、探しているのよ」

「はあ」

 その後矢継ぎ早に繰り出されたお犬自慢に、ヒーアは欠伸をしながら気の無い相槌を打っていた。しかし、ある話を聞いて、ヒーアはその眼を大きく見開いて驚いた。

「それでね、聞いた話だけど、町のあちこちで騒ぎを起こしたみたいなの」

「………え?」

「人にぶつかって荷物を落としたり、物を倒したり、もういろいろ。皆、可愛い犬だからって許してくれたけれど、もう、最悪よね」

「………ええ、そうね」

 本当に、心の底から、ヒーアは同意した。

 まったく、本当に、最悪だ。



「………………」

 トイフェルは、何も言えずにコーヒーカップを傾けた。曖昧な愛想笑いくらいしか、今の娘に与えられるものはなかった。

「確かに、誰の話も聞けなかったわ。気絶してしまった男もいたし、そうでなくても、マハトを見たら皆逃げてしまったもの」

「けれど、マハト君と何かが争った痕跡はあったんだろう?」

 トイフェルの言葉に、ヒーアは頬を膨らませる。

「だって、私は見ていないわ。触ったのだって、マハトだけだもの」

 ふてくされるヒーアに、トイフェルは苦笑する。常日頃、夢物語ばかり求める娘にしては、現実的な見方だと思ったからだ。

 父親として、それを歓迎するべきかもしれない、とトイフェルは思った。空想が、さして愛想のよいものではないということを、娘はそろそろ学ぶべきなのかもしれないと。

 少し悩んでから、トイフェルは口を開いた。

「なぁ、ヒーア。目に見えないし、触れられないものは、信用できない。私もそう思うし、それが正しいと思う。お前の反応は、間違っていない」

「そうでしょう?」

「だが」

 何か言いかけたヒーアを制して、トイフェルは続ける。

「マハト君は、お前にそれが居ると言ったのだろう?そして、お前が触れるに任せた。触れられなければ、嘘だと思われると知っていて、だ」

「………それは」

「あるかどうかわからないものをあると信じる必要は無い。そんなもの、信じたい者だけが信じればいいのだ。だがね、ヒーア。友の言葉を信じることは、けして恥ずかしいことでも、笑われることでもない。増して、間違っているわけが無い」

「………………」

「怪物の有無を信じるか否か、悩むのではない。悩むのなら、彼を信じるかどうかを悩みなさい。ただ、彼は信じたのだ。彼の大切な主の言葉を」

 マハトという少年はけして愚かではない。ヒーアが感じたような不審は、檻から逃げたというそのときにすでに感じたはずだ。

 だが、それでも、彼は信じた。傍若無人で自分勝手な、彼の主人の言葉を。誰に笑われてもいいという決意で、確かに信じたのだ。

「ヒーア。お前は、どうする?お前の友人の言葉を、信じるかね?」

「………………信じるわ」

 短く答えた娘に「そうか」とうなずくと、トイフェルは新聞を取り出し、読み始めた。それを見ながら、ヒーアは彼に問いかけた。

「パパは、信じてる?私の話を。鯨が空を飛んだ話や、森の木と兎がチェスで勝負した話を」

 ヒーアの言葉に、トイフェルは笑い声を上げた。新聞から顔を上げると、人当たりの良い笑顔を浮かべてヒーアにうなずく。

「あぁ、もちろん」



「………………」

 鉄格子の向こうで、奥様は拗ねたような顔でうずくまっていた。”兄さん達”が用意したのだろう、檻の前には食べ終えた食器が散乱している。

「戻りました、奥様」

 マハトの言葉に、公爵夫人はプイッと顔を背ける。その様子に、マハトはため息を吐いた。

「そう拗ねなくてもよいではないですか、奥様」

「拗ねるわ!普通拗ねるわ!寧ろ怒るわよ!!」

 マハトの言葉に、夫人は鉄格子に掴みかかりながら声を上げる。その態度に、マハトは肩をすくめる。

「奥様の身の安全を守るためです。他意はありません」

「本当でしょうね?」

 じっとりとした視線を向ける夫人の言葉を受け流して、マハトは手にした物を下ろした。

 ドスン、という音を立てて床に何かが落ちた気配がしたが、そこには何も見えない。

「捕獲しました。ずいぶん頑丈ですね」

 マハトの言葉に、夫人の表情が一瞬で明るくなる。常日頃、彼女が望んで浮かべている妖艶な笑みではない、もっと幼い、無邪気な笑み。

「生きてるの?」

「はい」

「開けて」

 言われるまでもない。マハトは檻に近づくと、捻じっていた格子を開け、主の手をとり外へ出した。

 公爵夫人はゆったりとした動作で、マハトが下ろしたあたりに近づき、そっと手を伸ばす。中空でその手は止まり、ゆっくり上下に動く。

 まるで、見えない何者かの頭を撫でるように。

「………ふふ」

 少しして、夫人は彼女の従僕に合図する。忠実な彼は、その寝そべる何かを抱えあげると、檻の中へと入れた。

 そうして、しっかりと鍵をかける。

 その背から、夫人の柔らかい手が、マハトを抱きかかえた。

「ありがとう、マハト」

 静かに告げられた、その言葉。

 何に対しての言葉か、マハトは少し考え、そして、考えないことにした。

 わからなくても、傍からは見え辛くても。

 信じたいものは、信じればいいのだ。

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