第2話 βルート

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 ある夏の昼下がり、どこにでも有りそうで実際どこにでもある、あるアパートの一室で、一人の童貞が目覚めた。

 玄奘寺孝太郎という名前のその童貞は、大学六年生というおよそどうしようもない生き物の一種であり、その他にもだらし無い、お金がない、頭があまり良くないなど様々な特徴を備えていた。

 そんな多種多様なフィーチャーを備えながら、彼が大学六年生という例えるなら三軍ベンチ球拾いとでもいうような、不毛なポジションに長年甘んじてきたのは、その特徴の中に世のため人のため、ひいては自分のためになるものが何一つなかったからである。

「……」

起きたばかりでまだ覚醒しないのか、死にかけのウーパールーパーのような顔を垂れ流している彼に、同じ一室にいた一人の男が声をかけた。

「おう、起きたんか、もう昼やぞ」

 その、孝太郎と同じコタツにもぐり、雑誌を読んでいたのは大竜二という、妙な方言を操る大学六年生である。ガタイはでかく、器は小さい。夢も希望も女性経験もないが、自信だけは異次元からこんこんと湧いてくる。彼もまた一人の男である前に、一人の童貞であった。

「知っている。なぜならここ数年間俺が昼より前に起きたことなど数えるくらいしかない。確か半年前にメダカ釣りに行った時きりじゃないか」

「……なあ孝太郎」

「なんだ?」

「俺らさ、こんな会話、前にもしなかったっけ?」

「……お前もそう思った?いや俺もなんだよ……」

「デジャヴってやつですよ。こいつは脳の誤作動で、そう感じてしまうだけですよ。普段から野良犬より頭が悪いって言われているのに、更に誤作動まで起こしてどうすんですか」

 訝しげに顔をかしげ合う二人の童貞の会話に、更にもう一人の童貞が割って入った。こんな狭い部屋に三人の童貞がうごめいているのである。淑女の皆様はこのアパートの半径一キロメートル以内に近づかない方がいい。服に魚介の匂いがついて取れなくなる。

「大体あんた達、そんなくだらない会話をしていない時がないじゃないですか。酸素の無駄遣いですから、息を止めながら喋る術を身につけるか、ずっと息を止めたまま静かに息を引き取って下さい」

 そうばっさり切り捨てたのは、萬田久一というこれも大学六年生で、休学、留年を巧みに操り、大学に根を張る事にかけては右に出るものはいない。この狭い部屋に留年のプロフェッショナルが三人も蠢いているのである。日本の未来を担う若者は、このアパートの半径一キロメートル以内に近づかない方がいい。二桁の足し算も危うくなるだろう。


                  2


「うるせえチビだなあ。こんな童貞と付合っていたら童貞が伝染る。そんな事より、そろそろゼミの時間だな。お前ら今日はどうすんの?」

「何を馬鹿なことを言っとるん?ゼミの単位を終了すれば卒業にまた一歩近づいてしまうやろが。ということでパス一」

「右に同じです。光陰矢の如し、夏の日は釣瓶落とし。僕にはまだまだ学ばければいけないことが山ほどあります。ということでパス二」

 孝太郎の呼びかけに応える二人。どうしようも無い回答である。

「じゃあ俺もパース。なんか今日は膝の調子が悪い。ここで無理をすれば次の県大会も危ういからな」

 孝太郎もどうしようも無い回答で迎え撃った。ちなみにこの男が運動系のサークルに入っている事実はない。

「それに今日咲が来るって言っとったしな。このままダラダラしとろうや」

「お、そうなのか。あいつと会うのも久しぶりな気がする……」

「咲さんもよくこんな豚小屋みたいなアパートに来ますねえ。いくらあんたらと幼馴染だからって。もしかして僕のことが好きなのかなあ」

「思いあがりも甚だしいやつだなお前。一回お前と犬の糞の写真貼ったボードを持って、街に出て百人の女性にどっちと付き合いますかって聞いて回ってやろうか」

 そんなやりとりをしていると、ポケットの中で孝太郎の携帯電話がむずがった。取り出すと、メールが届いた事を示すマークが画面に踊った。

「うひゃあ!孝太郎の百年に一度鳴るか鳴らないかの携帯が鳴ったぞ!明日は嵐や!」

「あんたの携帯にメールを送る人間なんているわけがない。これは心霊現象ですよ!あな恐ろしや!あな恐ろしや!」

 ここぞとばかりに騒ぎ立てる二人の童貞を無視し、孝太郎はメールを確認した。

 『件名:アットホームで笑顔の絶えない職場です!

  本文:初めての人にも、何年も務めているのに物覚えの悪いニート予備軍にも優しい先輩がきちんと仕事を教えます! 仕事終わりには楽しい飲み会も! 本日入れる方募集中です!ってか絶対来い。確実に来い。玄奘寺孝太郎と大竜二は何がなんでも来い。来てくれたら冴子惚れちゃうかも知れないゾ! 待ってまーす!』

 孝太郎と竜二がアルバイトとして務めている居酒屋の店長からの、今日は働けるヘルプ募集を知らせるメールだった。

「おい竜二、こんなメールが来て……」

 孝太郎が竜二の居た方向を見ると、そこには開け放たれた窓と、風に揺れるカーテンしか無かった。

「後は頼むって言って出て行っちゃいましたよ」

「くそ……あの木偶の坊が。こういう時だけ俊敏に動きやがって」

 二人は基本働くのが嫌いであった。

                  ※

  孝太郎と竜二がアルバイトとして働いている居酒屋「蟹亭」は、駅前から徒歩数十歩の、飲み屋やカラオケ屋がちょこちょこと建ち並ぶ、田舎の駅前を発展させたいという思いがようやく形になり始めつつある、可愛らしい盛り場の一角に店を構えている。

孝太郎と竜二、社会の底辺を深海魚のように這い回る二人の男を雇い入れる店など、千里眼を持った方が居てもこの店以外見つける事は難しいだろう。全ては女手一つで店を切り盛りする、女店主の器の大きさに依るところが大きい。そんなこんなで、孝太郎は今日も蟹亭の勝手口に手を掛けた。

「奥さん米屋です」

孝太郎が挨拶と共に店にはいると、開店前の客席に腰掛け、作業をしている女性が答えた。

「ああ孝太郎、来てくれてありがと。竜二は?」

「あの血も涙もない癖に筋肉だけは無駄にあるアホは来ませんぜ。本当に蟹亭の事を考えているのは俺だけです。是非この忠義の侍に、奴の給料分を上乗せしてしかるべきかと」

「本来ならあんた達二人で一人分の給料で良いくらいなのよ。来てくれたのは嬉しいけど、バカ言ってないで手伝って」

この孝太郎の雇い主となった不幸な女性は、花の二十九歳、名を冴子と言う。                  

 ティーシャツに、ジーンズとエプロンというシンプルなスタイルながら、すらっと締まったプロポーションと、切れ長の目に象徴される整った顔立ちは、武家の妻のような色気と鋭さとを携えていた。長い黒髪も色気に華を添え、更にはその胸部にたわわな膨らみを二個も備え、それらの運動が起こす作用と反作用は、男を吸い寄せる特殊な磁場を発生させていると孝太郎は睨んでいた。

 また、呼吸するようにミスを積み重ねミスのバベルの塔を日に日に増築していた孝太郎と、何をしていいか分からずただ突っ立っているだけなのだが、とりあえずで浮かべた笑顔とそのガタイの良さが不気味な協奏曲を奏で、筋肉灯台と呼ばれるにまで至った竜二の二人の面倒を見ることができるという、特注サイズの器を持った傑人でもあった。

                  *

 冴子と孝太郎が料理の仕込みを行っているうちに、他のアルバイトも出勤し、店は開店時間を迎えた。冴子と孝太郎の二人が主に厨房を受け持ち、他のスタッフが接客を担当する。厨房内でのミスの方が、客の前でやらかしたミスよりカバーしやすいと考えた冴子の苦肉の采配であったが、雨垂れ石を穿つのことわざにもあるように、蟹亭のエプロンを着けてからかれこれ三年半、孝太郎も戦力の一人と数えられるようになっていた。

 入った注文を黙々とこなしていると、いつの間にやら客席の方が騒がしい。何事かと思いながら、自分が出て行っても事態がややこしくなるだけだと珍しく客観的に自分を見る事に成功し、作業に戻ろうとした孝太郎の元に、困った顔をした冴子がやってきた。

「と、いうわけでさ。……何とかできない?ヘルプで来てもらっている上に、申し訳ないとは思うんだけど」

 冴子が言うには、酒を覚えたてと思しき大学生の男集団が、かなりやかましく騒いでいるという。他のお客の迷惑になるからと、自分や他のスタッフが注意しても治まらず、孝太郎になんとかしてもらえないかとのことだった。

 なるほどヘルプのメールを寄こすくらいで、今日は男性スタッフが孝太郎しかいなかった。冴子は、いつもの凛々しくスタッフに指示を出す一面とは裏腹に、人に面と向かって何か物を言うのが苦手な所があった。こうやってしおらしく孝太郎を頼る所が、世間でいうギャップというものであり、この二面性の差の段差に足を取られ、恋の奈落に躓き落ちていく男もいるのだろうと孝太郎は思った。

「……あい分かった。ボスのオーダーだ。何とかしてみよう」

「……ホント?ありがとう。助かるよ」

 そう言って少し安堵した表情を見せた冴子だが、次の瞬間には見てはいけない物を見てしまったかのように固まった。実際冴子の目の前には、いつの間にか上半身を顕にした孝太郎がいて、間違いなくあまり直視することをお勧めできない光景が広がっていた。

「俺の生き様!二十代最後の思い出に、その目に焼き付けておけ!」

 そう叫ぶと、孝太郎はそのままの格好で厨房から飛び出していった。

                  *

「うわーい!遊ぼうよー!」

 奇声と共に厨房から飛び出した上半身裸の生き物は、両手に生ビールの注がれたジョッキを構え、そのまま店で一番騒がしい件の席に突撃した。

「フウーヤッ!フウーヤッ!」

 孝太郎は、ただ大きな声で騒ぎたいだけの集団にまずは溶け込むため、感嘆詞のみを連発する一つの装置となった。この奇怪な生物に絡まれた大学生達は、最初こそ唖然としてみたものの、よく見るとこの闖入者は上半身裸であり、更に良く見ると、その乳首の上には矢印が書いてあり、それぞれ右、左と記載されどちらがどちらなのか一目で分かるようになっていた。

 こんな神に愛されていなさそうな生き物が現実にいるわけがない、自分達の酔いが進み過ぎたせいで見える幻覚に違い無い、このままのペースで酒に溺れていくとこの魑魅魍魎の仲間入りをしてしまうと思った若者たちは、そそくさと会計を済ませ、店内から立ち去った。

「ふう……これにて一件落着だな」

「全然落着してないわよ!いきなり上を全部脱ぐなんて何考えてるの!これじゃあの集団どころか、他のお客さんまで全部帰っちゃうわよ!」

 至極最もな正論をぶちながら、孝太郎の首根っこを掴んで冴子は厨房に引っ込んでいった。その一連を見ていた客達も、また何事もなかったのように杯を干し、料理を口に運んだ。この店では孝太郎や竜二が見せるその奇妙な生態も、メニューの一つとして捉えられているようだった。

                  *

「なんだなんだ裸の男をいきなり奥に連れ込むなど。俺は身の危険を感じているぞ」

「はあ……あんたは本当にもう……」

 食材のストックを置いてある勝手口に孝太郎を押しこみ、冴子は大きなため息をついた。

「まあいいわ……お客さんも気にしてなかったみたいだし。気にしてなかった事が本当の問題じゃないかとも思うけど、ともあれありがと。過程はともかく助かったよ」

「別に礼を言われるような事じゃない。それじゃ冴子さん。そろそろ代わりのやつが来る時間だろ。俺は上がるぜ」

 そう言って孝太郎は私服に着替え始めた。その背中に、冴子が声を掛ける。

「ねえ、孝太郎。あんたももう大学六年生でしょ。いい加減就職先なんてきまってるの?」

「おい……冴子さんよ。言葉は時としてナイフとなる事を知っておいたほうがいいぜ。でなければ大の男がめそめそと泣き出すぜ。そうなったら優しく、刺激しないようそっと慰めなくてはいけないはめになるぜ」

 胸を張って堂々と情けない事が言えるのが孝太郎の特技の一つであり、そう言いながらシャツを頭から被った。

「あんたさ、もしも行く所が決まってないんだったら、その、……うちとかどうなの?」

「……ぷうっ。ん、なんだ冴子さん。すまんが服を着ていて聞こえなかった」

「……いや、なんでもないよ。んじゃまたね、孝太郎。後あんたさっきあたしに二十代最後がどうとか言ったでしょ。給料楽しみにしててね」

 孝太郎は必死に弁明したが、給料は下がった。


                  Ⅳ


 いつも溜まっているアパートに帰り着き、開け閉めするたびに違う音色で軋み楽しませてくれるドアを開けると、孝太郎は定位置で漫画を読んでいる久一に迎えられた。

「あれ、お前ずっといたのか。竜二は?」

「別に他に行ってもすること無いですからね。竜二ならまだ帰ってませんよ」

「おし。ならばあの敵前逃亡の戦犯者に正義の鉄槌を食らわせるとしよう。プランりんごだ。準備しろ久一」

「あいあいっと。スーツはどこにありましたっけ……」

 そうしてもぞもぞうごめいているうちに、竜二が戻ってきた。孝太郎はベッドに潜り嘘臭い咳を繰り返し、スーツ姿の久一が竜二を論説を持って迎えた。

「我々はある一人の大学生の身代わりとして過酷な労働を強いられ、遂には倒れた玄奘寺孝太郎氏の権利を主張し、戦うものである!我々人間には社会的文化的に生きる権利が保証されており」

「分かった分かった皆まで言うなや。バイトのヘルプごくろうさん。昨日も食ったけど、神ラーメンでいいか?」

 そう竜二が諦め半分でぼやいた瞬間、「仮病三段」と書かれたティーシャツを着た孝太郎がベッドから飛び上がり、久一は「勝訴」と書かれた半紙を持って部屋の中を駆けまわった。

「「キャッホーイ! ラーメーン!」」

「久一は自分で払えよ」

 かくして、一行はラーメンを食いに出掛けた。


                  Ⅴ


 神ラーメンは孝太郎達が潜むアパートから徒歩五分。寂れた神社の前に、夕方から夜にかけて姿を表すラーメンの屋台である。味はともかく、あまり人が寄り付かないのと、席が丁度三席と言う理由で、彼らは夜中に足繁く通った。夜中に貪るあまり美味くないラーメンほど美味いものはない。

 ごちゃごちゃと椅子に座り込む三人に、屋台の店主が気づく。

「お、お前らか。飽きずによく来るなあ。注文は?」

「ミディアム」

「レア」

「ウェルダンで」

「ウチはステーキ屋じゃねえっての。それともチャーシューの焼き方に注文つけてんのか?どっちにしろ醤油三つな」

 店主に思い思いの注文を済ませ、三人はとりとめのない話に興じた。ラーメンの湯気があたりを包み、醤油の匂いがその薄靄の中を漂った。

「しかし、僕らももう大学六年生ですねえ」

「なんの、俺はまだまだいくで。留年と言う言葉の可能性を追及する」

「とはいえ、なーんもない六年間だったよなあ」

「おい、この時間帯にそういう方向性に話を持っていくのは止めろ。俺はすぐ精神を病むことにおいては定評がある」

「どこをどーして、こーなっちまったんでしょうねえ」

「「「……」」」

 三人を包む重苦しい沈黙に、店主が口を挟んだ。

「そんなに悩むなら、いっそ神頼みなんてどうだ? ちょっとはスッキリするかもしれんぞ」

「神頼み? マスター、いくら屋台が繁盛しないからって、僕はくそ高い壺も数珠も買いませんよ。この前十二回払いで買った見るだけで幸せになれるビデオ教材のローンだってまだ払い終わってないのに。三巻の最後あたりで、では一緒に目を閉じて瞑想を始めましょうって言われてからずっと砂嵐が続いて、今六巻目ですけど」

「おい久一よ、ここに南東の方角に飾るだけで金運が若手IT社長の如く上がる幸せの絵があるんだが、特別にお前に譲ってやってもいい。今なら吉兆の方角が一目でわかるコンパスも付いてくるぞ」

 二人でキャッキャとふざけ始めた久一と竜二を置いて、神ラーメン店主は続ける。

「裏の神社、今は寂れちまってるが、昔は結構霊験あらたかでイイカンジだったらしいぞ。お前ら丁度三人だし、詣ってみたらどうだ?」

「丁度三人ってどういう……」

 孝太郎が問いかけるも、店主は言うだけ言ってラーメンの調理に取りかかり始めてしまった。

「まあ棚からぞなもし、とも言いまして、期待しないで行った合コンで物凄い方弁のきつい娘がいてリアクションに困る事もある……、あれ、僕何を言いたかったんだっけ」

「……、お前はあまりしゃべらない方が幸せなのかもしれんな」

                  *

 ラーメンの出来上がりを待つことも兼ねて、三人は戯れに神社を詣でる事にした。いざ鳥居をくぐれば、草木は伸び放題、社の木材は腐り放題であり、故に他の参拝者もいないので祈りたい放題であった。

「こういうときは三人で願い事を合わせた方が願いの力が強くなる気がしますね」

「ゲッターロボが三人乗りなのと理屈やな」

「あ、じゃあ時間を戻すにしてくれ。俺この前久一から借りたゲームソフト洗濯しちまったんだよ。データも一緒に綺麗になっちまった」

「被害者本人が此処に居ますけど!」

「じゃあそれで決まりやな。賽銭の小銭はお前ら持っとる?」

 あくまで余興なので、軽口を叩き合いながら、三人は神前に立つ。

「お前ら幾らいれるの? 俺一円でいいと思うんだけど」

「それでいいやろ。というかそれ以上納めたくない」

「じゃあ僕も一円で。今日でこの神社の一度に納められた賽銭額の記録更新するんじゃないですか?だとしたらサービス奮発してもらわないと」

 失礼極まりない口を叩きながら、合計三円のお賽銭を投げ入れ、彼らは手を合わせた。

「時間が戻りますように!」

「……」

「……」

「……よし、無駄な時間を使った! 飯や飯!」

 そのまま三人はとぼとぼと屋台に戻り、ずるずるとラーメンを食し、ダラダラと彼らの巣穴に帰っていった。


                  Ⅵ


 三童貞が帰り、三流ラーメンの屋台も引き上げてしばらくした廃神社前に、一人の女性が通りがかった。

「あー今日も疲れた。あれー、確かあの子達の言うにはここらへんに出てるって……。今日はもう終わっちゃったのかな。仕方ない……」

 そう独りごちると、その女性は、廃神社の存在を目に止めた

「……折角だし、御参りしてみる?棚からぼた餅って言うしね」

 そう言って、参道へ繋がる石段を登り始めた。そして凸凹のある石畳を慎重に踏みしめながら、賽銭箱の前に辿り着いた。

「お賽銭は……。あら、小銭これだけしか持ってなかったっけ、……勘弁してもらおう」

 そして、ぱらぱらと三枚の硬貨を賽銭箱に撒き、手を合わせた。

「……が、……ように、いや、……なんてね」

 戯れの願い事が終わると、手を頭上で組み、軽く背筋を伸ばした。

「よし!……帰って飲んで寝よ」


                   Ⅶ 


 日は進み、孝太郎と竜二は「蟹亭」でのアルバイトの予定が入っていた。

「あー金は欲しいけど働きたくないなあ。なあ孝太郎、そこの階段の上から下まで前転で降りてってみんか?どっかしらの骨は折れるだろうから、それを俺が介抱してやるって体なら、冴子さんもバイト休んでも文句言わんやろ」

「俺にも名案があるぞ。お前がそこの泥水を一気飲みして、腹を完膚なきまでにぶっ壊すってのはどうだ?そしたら付き添いで俺も休める」

 二人がそんな不毛な会話をしているうちに、蟹亭の勝手口が見えてきた。開店してから二時間後入り、ぶちぶち文句を言いながら来た割りには、シフトに記載された時間通りの到着だった。

                   *

「あ!あんた達いいところに来た!ねえ、ちょっと頼まれてくれない?」

 店の中に入り、食材をストックしておく裏手で二人が着替えていると、慌てた様子の冴子が駆け込んで来た。

 ほんの些細な、席を立つ際に肘が当たった当たらなかったの言い合いが発展して、客席では男性客二人が激しい口論を始めてしまったという。二人共酒が入っていて、ヒートアップしてしまっており、冴子を始めとした他のスタッフの仲裁も効果が無いという。

「このままじゃ警察呼ばないといけなくなっちゃいそうなのよ。そこまで大事にもしたくないしさ。ホントいつも頼って申し訳ないんだけど」

 困り果てた様子で冴子は孝太郎と竜二に手を合わせた。

「なんや最近揉め事多いの?前も孝太郎から聞いたけどさ」

「いやしかし冴子さん。俺らはやれと言われりゃやるけどさ、あんただって女性にしちゃタッパある方だし、そんな嘗められる様な外見もしてないだろ。ビシッと言ってやりゃいいんだ。なんでそんな人に意見するのが苦手なんだ?」

「う……それは……」

 孝太郎の意見にしゅんとうなだれてしまう冴子。それを見て竜二が孝太郎の肩に手を乗せた。

「まあまあ俺らのアネゴが困っとるんや。任せてください。俺らみたいな爪弾きモンを雇ってくれた恩、此処で返しますぜ」

「何気取りだよ。……まあいいや。竜二、プランみかんだ。俺が先行する」

「あいあいっと。えーと、あれとアレはどこにやったかな……」

「いつも助かるよ……」

 自分の申し出を承諾してくれた様子の孝太郎と竜二を見て、安堵した表情を浮かべた冴子だったが、次の瞬間には見てはいけない物を見てしまったかのように固まった。実際冴子の目の前には、上半身を裸にした竜二が立っており、間違いなく見た後は医療機関で速やかな処置を受けなければいけない様な光景が広がっていた。

「行くぞ竜二!俺達の友情、見せ付けてやろうぜ!」

「おうよ!そもそも友情は成長の遅い植物である。それが友情という」

「それ今全部言う気?いいから早くいけ!」

 固まったままの冴子を置いて孝太郎は客席の方へ、竜二は勝手口へそれぞれ走り去った。

               *

「お客さん方々、喧嘩はそれくらいにして、静かに食事を楽しみませんか?テーブルトークも、行き過ぎるとマナー違反ですよ」

 そう言って孝太郎は口泡を飛ばして言い合っている二人の男性客に近づいた。

「ああ?うるせえよ」

「お前うぜえなマジ引っ込んでろよ」

 こういう類の輩は、どれに声を掛けても大抵こんな同じ反応をする。そういうマニュアルでも配られているのか?もしそうで、それに従ってるだけなのなら、ある意味礼儀正しいのかもしれない。そんなことを考えながら孝太郎は頭に手を当てて、大きく息を吐いた

「ふーっ。そのような頑なな態度を取られるのなら、こちらもそれ相応のおもてなしをさせていただきます」

 そう言うと孝太郎は、片手を高く掲げ指を鳴らした。

「先生!出番です!」

 孝太郎がそう叫ぶと、厨房の奥からそれは現れた。

「フゴーッ!フゴーッ!」

 奇声を上げながら現れたそれは、頭に紙袋を被り、その無駄に鍛えあげられた胸筋をさらけ出し、そこに孝太郎の自転車からひっぺがしたチェーンを袈裟懸けに装備し、手持ち無沙汰だったのか両の手に厨房にあったナスとキュウリを構えた、今自分の持てる能力を全てマイナスの方向に注ぎ込んだ、大竜二の集大成だった。

「先生、こいつらです!この店の治安を乱す不届き者は!」

「フゴーッ!」

 孝太郎の号令一下、見た瞬間自分の目玉が手足を生やして逃げ出しそうなその生き物を目の当たりした男性客二人は、急転直下に酔が醒めた。そしてこのままこの化物と同じ空間にいると確実に次の日の朝刊をトップで飾ってしまうだろう事を確信し、すぐさまに謝罪をし合い、そそくさと会計を済ませ店を出て行った。

それを見送りながら、二人の英雄は誇らしげに並び立った。特に他人から見ればそう誇らしげでも無いことを、さも誇らしげかのように見せるのが彼らの得意技の一つであり、そうやって自分をごまかしながら、彼らはこの世間の荒波を泳ぎ抜いてきた。

「いやーお前の本性がよく現れたいい恰好だったよ。ところでその鎖どこで調達してきたの?」

「蟹亭の駐輪所に停めてあった、黒色でハンドルに小汚いキーホールダーがついてた自転車のチェーン」

「それ俺のチャリじゃねーか!」

 さっきまでの男性客二人の代わりと言わんばかりに言い合いを始めた二人を、厨房から飛び出てきた冴子が、首根っこを掴んで奥に引きずっていった。他の酔客達も、今日の出し物がが終わりと知ると、各々の卓の上に広がる世界に戻っていった。


                 Ⅷ


「孝太郎ー。あんたっていつ見ても面白い顔してるわよねー。うふふー」

「失敬な女だな。田舎では俺が歩けば小屋の鶏達まで産気付くから鳩舎に近づくなとさえ言われた二枚目を捕まえて」

「動物にしか理解されんツラしとるって事やろ」

クローズの札が掛かった蟹亭の入口から覗けば、冴子、孝太郎、竜二の三人が、仕事終わりの軽い一杯を楽しんでいた。冴子はちょくちょく、スタッフの中でも年が近いこの二人を誘って閉まった店内で軽く杯を傾ける事があった。売り物の酒の状態を確かめるためという名目で行われるこの小宴は、一、二杯を乾かせばお開きになるのだが、時たま今日のように夜の深い時間まで延びることもあった。

「全くやってらんないわよー。何で私があんな酔っ払いの相手しなきゃなんないのよー。もう嫌よ一人でお店やるのわー。聞いてるの恭次郎ー」

「ボクは恭次郎さんじゃなくて孝太郎なんですが……」

「まーた始まったわ冴子サンの悪酔い……」

そして今日のように卓の上が酒精の匂いで濃くなってくると、冴子は度々孝太郎を恭次郎の名前で呼んだ。

冴子が孝太郎の肩に勢いよく手を回した。その胸の存在感抜群の膨らみが、衝撃を巧みに吸収するのを二の腕で感じた純潔系男子である孝太郎は、その衝撃の吸収率に驚くと共に、そういった前例が今まで極端にないため、こうなると決まって固まってしまう。

「ねー恭次郎一体いつ帰ってくんのよー。あんたが作ったお店でしょー。恭次郎なんか知らないのー?」

「こりゃ駄目や、道理が崩壊しとる」

呆れる竜二が、しなだれかかってくる冴子のセクシャルアクションに、平静を装いつつも関節にセメントを流し込まれたかのように固まる孝太郎を見やった。

「あのですからボクは恭次郎さんでなくて孝太郎、その、どっちかというと孝太郎寄りの存在なので……。その、あの、不健康じゃないかな、なんて。こんなお酒心にも体にも良くないんじゃないかな」

そう孝太郎が言葉を投げると、冴子の体が強ばった。

「何よ!良いじゃない酔っ払ってる時くらい好き勝手したって!童貞の方がよっぽど不健康よ!」

「な、何を言うんだ!失敬な!俺は只女性経験が四捨五入するとゼロになってしまうだけだ!」

「四捨五入せんでもゼロやろ」

 明白な事実を指摘されわかりやすく狼狽える孝太郎に、竜二のあまりに的確な指摘が飛んだ。

「あーもううるさい!誰も私に優しくしてくれない!もうやだ!」

そう叫ぶと、冴子は諸手を上げて卓に突っ伏し、そのまま寝息を立て始めた。

「マルフタマルマル、対象の沈黙を確認。今回は結構荒れたな。よし、片付けようや」

竜二が慣れた手つきで卓の上を片付け始め、孝太郎もそれに倣いグラスを流し場に集める。

「なあ竜二」

「なんじゃい」

「やっぱまだ冴子さん引きずってんのかね、恭次郎さんの事」

「あの様子見てもう立ち直ってるって言う奴居たら、そいつはとんでもなく有能な心理学者か、あいつはもう立ち直ってるって言うのが癖の奴かどっちかやろ」

「だけどそろそろ一年になるぜ、恭次郎さんが死んじまってから。いくら付き合ってたからって、そんなにもたれるものか?」

「俺らにゃ専門分野外やからな。男女の機微って奴は。まあこの店だって恭次郎さんが冴子さんを誘って立ち上げたんやろ?色々と複雑やろうね。冴子さんにしちゃこの店切り盛りするってことは、彼氏が置いていった連れ子を育てさせられてる気分なんやないの」

「……何とか出来ないものか」

「……何とかしてやろうって思うんや」

「まあどうしていいか皆目検討つかんがな。お前もさっき言ってたが、女性の気持ちなど専門分野外だ。別の窓口にお周り願いたい」

「……今ふと思ったんやけど、俺らに得意分野ってあるの?」

「なあ、それは今聞かなきゃいけない事か?」

「……スマン」

その後二人は黙々と撤収作業をし、冴子を蟹亭の二階にある自室に突っ込み、勝手口の錠を下ろした後鍵を花壇の定位置に埋めて、店を後にした。

   

                 Ⅸ


「なに?フランス?咲が?」

明くる日、何時もの溜まり部屋に帰り、何時もの定位置に腰を落ち着けた孝太郎を迎えたのは、突然の知らせだった。

「ええ、なんでもこの前アパートに来たときに本当は相談しようと思っていたらしいのですが、孝太郎も竜二もいなかったので、保留にしていたんですって」

久一の言葉を、竜二が引き継ぐ。

「そうこうしているうちに、会社に返事せんならん締切が来ちまって、そのまま行っちまったんやと。お前にもメールきとらん?」

孝太郎が携帯電話を開きメールを問い合わせると、どちらも孝太郎が蟹亭で働いている時間に届いている筈だったメールが着信した。孝太郎はバイト中、調理等で濡れるのを避けるため携帯を身につけないのだが、その間の電池消費を抑えるために電源を消しておく習慣が仇になったようだ。

「あのハイスペック幼なじみが。幼なじみはどじっ娘タイプが好まれるとあれほど教えておいたのに……」

「しかし海外支社に転勤?まだ入社して二年やろ?どんだけ期待されとるんやろうね」

 呟き合う孝太郎と竜二に、久一が続く。

「しかし、咲さんて本当にあんた達の幼なじみなんですか?あんた達のような顔も心も薄汚い連中と小さい頃から一緒にいて、あんな才色兼備な女性が育つものでしょうか。産地偽装の疑いがある」

 毒を吐く久一にとりあえず手近にあったものを投げつけながら、孝太郎は何故か咲と長い間会っていないような気がする自分を、不思議に感じていた。


                 Ⅹ


「それで、鈴尾っていう、願い事をするときガララニョロロするあの鈴のついた紐、あれってよく見ると元は三本あったみたいなんですね。しかも、拝殿、お参りするところですね、あそこまで続いてた筈の石畳の道も、本当は三本続いていたみたいなんです」

 太陽が何にも邪魔される事無く仕事をする真夏の昼下がり、孝太郎達の通う大学の小教室では、早苗が教室前方のホワイトボードを使い、何かを説明する声が聞こえていた。

「この事から、あの廃神社、昔は一定以上の人が参拝していたんじゃ無いか、つまりこの地域の生活の一部として機能していたんじゃないかと考えられるわけでして……」

 彼女が立つ教壇の前に置かれた長机には、男が三人、彼女の話に聞き入っているのか、静かに座っている。

「また、残存する資料の一つに、三っていう漢字が書かれた札が残ってます。これは山王信仰の神社だから、その山の字が一部読めなくなってるとも見えるんですが、あの神社、狛犬も、今の二匹じゃなくて、昔は三匹立ってたんじゃないかとか、鳥居も三本立ってたんじゃないかなんて資料もありまして、これ珍しいことで、やはり昔は違う神を祀っていて、それが地域性と、って!聞いてるんですか!」

 早苗が言葉尻をつりあげ大声を出すと、男の内二人が、夜道を一人で歩いていた所を急に後ろから声を掛けられた伊勢海老のようにビクッと跳ねた。

「もうゼミの研究本当に、本当にまずいんですからね!ちゃんと聞いててくださいよ!ていうかなんでこんな昼過ぎにそんな寝こける事が出来るんですか!」

 早苗がマーカーペンを振り回しながら、起き抜けの二人に口角泡を飛ばした。

「い、いや聞いてたぞ?うん、聞いてた。何をとは言わないが、流石に一から説明するのも野暮だし、けど、俺は聞いてた。うん」

「早苗ちゃんは俺等が寝てたと思ったかもしれんけど、ちゃんと目を閉じて、集中してたんやぜ?そして俺等の意識はこの部屋と一体になり、この部屋で起こっていることが手に取るように……」

「早苗さん、素っ頓狂な二人組は放っといて、説明して下さいな。後で僕が纏めて、僕等三人で作業を分担しておきますから」

 一人起きてメモなど取りながら真面目に聞いていた久一が、言い訳がましい二人をいなした。

「ほら!二人共、萬田先輩を見習って下さい!」

 早苗がそう言うと、孝太郎と竜二は椅子を鳴らして立ち上がり、久一に詰め寄った。

「おいてめえ。まさか内定とか、仕事決まったとか、抜け駆けしやがったから急に真面目になって、一人だけ卒業狙ってんじゃねえだろうな」

「貴様、我ら生まれた日は違えど、大学出ル日は同じ日を誓わんとした、いこいの村公園の誓いを忘れたんか!」

 二人に囲まれ、久一は溜息をつきながら言った。

「あーうるさい。二人共そろそろバイトの時間じゃないですか?」

 久一の指摘を受けて、孝太郎と竜二は顔を見合わせる。

「あ!やべ!すっかり忘れてた!後輩、久一、すまん!あとは頼む!」

「今から出てギリのチョンやなこりゃ。あとは頼んだ!お前らの事は忘れないぞ!」

 そしてわたわたと教室を飛び出していった。

「んもー!なんなの!あの二人!」

 教室の外に消えていく二人の背中に肩を震わせる早苗に、久一はシャープペンシルで頬を掻きながら声を掛けた。

「……ん、ま、まあ、二人が居ない方がいっそ集中できませんか?あいつらには僕が責任持って作業を分担しておきますから」

 早苗は、その言葉を受けて、一転首を傾けながら久一を見やった。

「そーいえば、萬田先輩って、あの二人に比べればですけど、ゼミにまあ来てくれますよね」

「……僕は真面目だからですよ」

 そう言って、久一は窓の外に視線を移した

               

                 ⅩⅠ


「いやーこないだは悪かったね。絡んじゃってさ。まあ今日は楽しく飲もうよ。おつかれー」

 今日も蟹亭の営業が終わった後、冴子、孝太郎、竜二のいつもの面子での軽い酒宴が始まった。冴子の号令の元、三人が梅酒と氷が入ったグラスを軽くぶつけ合う。氷が梅酒の中を泳ぐ音が小気味良く響いた。

 そして卓の上には、業務時間中ずっと鼻毛を出し続けていた事がばれた孝太郎が、罰として作らされたゴボウの揚げ物があった。その香ばしい香りの中で、三人は宴を楽しげに遊んだ。

「……ねー、あんたらってさー」

会話に一段落ついた頃、先程までほろ酔いで饒舌だった冴子が、少しつっかえたように二人に問いかけた。

「なんだ冴子さん、急に改まって。とうとう使えない竜二をクビにする決心がついたのか?」

「孝太郎の面を見てるだけで理不尽にムカついてくるって話やろ?それは人間として正常な反応やぜ。脚気と同じ」

「いや、あのね。あんた達さ、この店でちゃんと働く気ってある?」

冴子の申し出に、二人は双子の兄弟のように、同時に顔を見合わせた。

「ちゃんと働くって、それはアルバイトじゃなくて社員として蟹亭に雇われるってことか?」

「自分で言うのもなんやけど、冴子さん気は確かか?俺らを正規雇用しようなんて、昨日日本に来たばかりの外人に織田信長のモノマネやれって言うようなもんやぞ」

「いや一寸真面目な話ね。やっぱりさ、私一人でお店やるのそろそろきついのよ。男手も欲しいしさ。そこで考えると、一番長いスタッフってあんた達だし。恭次郎と私でこのお店つくってすぐからでしょ」

そこで冴子は自分のグラスが空になっていた事に気づき、手酌で注ぎ入れ、その液体で口を湿らせて続けた。

「お店の事分かってて、私が信頼できるかなーって思えるの、今んとこあんた達なの。真剣に考えてみて欲しいんだけど、どうかな」

冴子はそう言って二人を見つめた。一呼吸の間があって、その間にグラスの氷がカランと鳴って間を繋いだ。

「冴子さんの申し出は非常にありがたいんだが、少し」

と、最初に口を開いたのは孝太郎だったが、孝太郎が言い終わる前に竜二が自分の意を示した。

「俺でよかったらやるよ」

 竜二の返答に、冴子は目を丸くして、孝太郎は目をひん剥いて驚いた。

「大学六年卒業危うし内定無し。こんな俺ほっとくと、二十代は毎朝ハローワークの前にならんで、三十代は毎朝ハローワークの前の自販機の釣り銭を漁って、四十代になるまえにハローワークの前の木の根本で固くなっとるやろ。俺でよかったらやらせてもらうぜ」

「本当?即答してくれるなんて意外だけど、嬉しいよ。孝太郎はどう?」

孝太郎はすぐに答える事が出来なかった。そして少し逡巡した後、口を開いた。

「済まないが、少し考えさせてくれないか。有難い申し出だって事は重々、分かっているつもりだ」

答えようとするとふいに、小柄な茶髪の女性のぼやけた面影が、頭のなかにちらついた。誰だか思い出せないその娘は、何故かとても懐かしく感じた。

「……ん、そうだね。あんたの人生の事だし、ゆっくり考えて。竜二もまた今度話しよう。さ、真面目な話は終わり!呑み直そ!」

冴子はそう言ってグラスを掲げ、場を仕切り直した。孝太郎と竜二は、呑み直すという言葉に一抹の不安を覚えながらも、グラスに口をつけた。

                  *

「オラーッ!孝太、じゃなかった恭次郎!あんた全然呑んでないんじゃないの!」

「あんたもうそれ酔いとか関係ないじゃないか!途中で気づいて言い直してるじゃないか!無理矢理やってるだろ!」

二人の不安は見事に具現化し、アルコールの見えない糸に操られた冴子が君臨していた。

「おい竜二!たまにはお前代われ!何で毎回俺なんだ!」

「……あたくし一寸お花を摘んで参ります」

竜二がトイレに逃げ込んだ後も、冴子は孝太郎で遊び続けた。冴子が孝太郎にしなだれかかる度、冴子の胸に存在する右乳党と左乳党の連立性権が圧倒的な性治的圧力をもって孝太郎の二の腕を支配した。しかしその圧政に一年の間耐えてきた孝太郎はここに来て、耐性を身に付け態勢を立て直しつつあった。

「なあ、冴子さん」

「んー?なんにー?」

「……なあ、なんか悩み的なものがあるんなら、俺らに相談位してみないか?」

「んん?どうしたのいきなり真面目な顔してー。似合わないわよー。悩みねー、何でお酒ってタダじゃ呑めないのかしらねー」

「俺らに蟹亭の看板背負わせていい位信用してくれてるんだろ?だったら少し位何か言ってくれたっていいじゃないか。それとも、言えなかったのか?」

「……どういう意味?」

「冴子さん、恭次郎さんになにか言えなかったことがあったんじゃないのか?だから俺とか、享二郎さんなんて呼んで、見立てて、その」

「……プッ、アハハ!何それ!全然ファールもいい所よ」

突然笑いだした冴子に孝太郎はまごついた。そして直ぐに笑みを仕舞って俯きグラスの底を見つめ始めた冴子により戸惑った。

「全然逆。言いまくっちゃった。私なりにさ、お店をもっと良くしたいって思っただけだったんだけど。恭次郎の事も、恭次郎が作ったこのお店も大好きだったから」

 冴子はグラスに写る自分に独白するように、言葉を落とした。

「そしたら、恭次郎はいなくなっちゃった。私がお店にいっても、今日は化粧手抜きだな何て言って迎えてくれる人はいなくなっちゃった。私が言い方を間違えたのか、それとも好きになった事も間違いだったのか、分からなくなっちゃった」

そして視線を孝太郎に移し、疲れた笑顔を見せた。

「その日からね、もう人に何かを伝える事が怖くなった。私が何か意見を持ったり、言ったりしない方が上手く回るんだなって思ったの。心の言う通りじゃなくて、頭の言う通りに生きた方が良いよねって」

「……それは違うだろ」

孝太郎は絞り出す様に唸ってから、自分で自分の言葉に驚いた。なぜ自分はこんなに腹が立っているのか。ほとんど意識しない内に強い否定の言葉が口から零れていた。

「……何よ急にマジになっちゃって。あんたそういうキャラじゃないじゃん」

 それは本当にその通りだと自分でも思った。むしろ冴子の意見に賛同するタイプだと。しかし、今自分の胸の内で叫んでいるあの娘なら、誰だか分からないがひどく懐かしい気がする小柄で活発なあの少女なら、こんな時はこれからこう言うだろうと思った。

「人間が何かを好きになるのが間違いだったら、一体何が正解なんだ?人生はマルバツのテストじゃないんだ。あんたは一体誰に満点貰いたいんだ?あんたの人生を見張る試験官なんて、どこにもいないんだぜ」

冴子に言葉をぶつけているうちに、孝太郎の胸の中に何かが点った。それは子供の頃には毎日感じていたような、忘れてしまって久しいような、熱い塊だった。

「……あんたちょっと放っとけないぜ」

「ちょっと待ったぁぁぁぁー!」

冴子が孝太郎の言葉に狐につままれたような顔をした時、トイレのドアが吹き飛ばんばかりの勢いで開いた。その音に冴子と孝太郎が振り向くと、そこには右手はドアを吹き飛ばした勢いのまま掌を歌舞伎役者のように突き出し、左手はずり落ちるズボンを押さえるが尻は剥き出し、トイレで何かに襲われたような体をなした竜二が音声を上げていた。

「孝太郎この野郎便所で尻を震わせながら聞いていれば抜け駆けしやがって!冴子さんに惚れたのは俺の方が先や!」

「い、いや俺は別に惚れた腫れたの話をしていたわけでは」

「何この期に及んでしらばっくれとるんやこの年代物の童貞が!完全に告白しとったやろがいよ!」

「え、ちょっと、ちょっと待って、状況が良く分からない、お酒が足りない」

突然二人の童貞に囲まれ、戸惑いを隠せない様子の冴子は、落ち着くためグラスに手を伸ばした。しかしその伸ばした手を竜二にそっと掴まれる。

「冴子さん。貴女が俺をこの店に雇いいれてくれて、右も左も分からない俺を懲りずにめげずに面倒見てくれるうちに、俺の心は貴女のもんになっていっちまった。俺は貴女への想いをこの小さな胸の中の宝石箱にずっと仕舞っておくつもりやった。恭次郎さんもいたし。だがしかし」

竜二はそこまで言うと、孝太郎を指差した。

「こいつが出てくるんなら話は別や。万が一、今地球が逆に周り出しても有り得んことやとは思うが、孝太郎と付き合ってしまって不幸になる位やったらせめてまだ俺のほうが遥かにマシなはずや!」       

 孝太郎は急に自分に矛先が向き驚いた様子を見せたが、直ぐに席をたち冴子の手を掴む竜二の手を払いのけ向かい合った。

「なんだとこの恐怖の肉肉モンスターが!てめえ見たいな筋肉達磨と付き合ったら、冴子さんは毎週どっかの骨折って寝たきり生活だよ!」

「言うやんけ歩く生ゴミが!こうなったらどっちが冴子さんに相応しいか勝負するしかないな!」

「な、な、生ゴミ!?こんな侮辱を受けて黙っていたら玄奘寺家代々の先祖に申し訳が立たん!その勝負受けて立ったら!」

「……あのー、良かったら当事者の意見も参考にしてくれない?」

冴子はもう諦めたようにグラスを傾けた。


                  ⅩⅡ


その後孝太郎と竜二は二人ですったもんだ言い合ったあげく、一人ずつ冴子とデートをして、その出来を冴子に判定してもらう勝負をぶちあげた。冴子は苦笑しながら「どうせ休みの日は洗濯とか掃除で終わってくし」と暇潰しの気持ちで引き受けた。そして宴会の跡を片付け、二人は帰路に着いた。夜の風は、髪を鋤くように軽やかに流れ二人とすれ違っていった。

「お前、冴子さんの事好きだったのか」

「いや他のバイト連中にはバレバレやったけどね。気づいていなかったのお前だけ。一番付き合いの長い。まあでも」

そこまで喋ると竜二は言葉を一旦切り、孝太郎の方へ向き直って言った。

「お前はどうか知らんが、俺は本気やからな、意外と」

 孝太郎は、勢いで竜二と相対する事になったものの、自分は果たして冴子の事をどう思っているのかは、はっきりしないままだった。

 

                  ⅩⅢ

            

 そして日が進み、今日は孝太郎と竜二の逢引勝負、一回の表は孝太郎の攻撃だった。童貞同士のデート対決など、入れ歯のご年配の早口言葉対決より無茶だとは思うが、竜二はどうせ自分の膨れ上がった筋肉で身動きが取れず自滅するだけだと高をくくっている孝太郎は、気軽な気分で待ち合わせ場所についた。そして、そのお客様気分は一気に吹き飛ぶことになった。

「ああごめん孝太郎。あんた意外に早く来てるんだね。ちょっと待った?」

 待ち合わせ場所である銅曲輪商店街の入り口に現れた冴子は、軽そうなデニムシャツにその綺麗な足を惜しみなく出したキュロットを合わせ、いつもの店先に立つティーシャツにジーンズとはかけ離れたイメージだった。そして更に「待った?」のデート定番台詞のコンボである。ブレーンバスターからのフォールのような完璧な流れに、孝太郎は分かりやすく赤面した。

「何よ何か言ってよ。あたしみたいなオバサンがこんな足だしてるのが気にくわないって?だって暑いんだよ。服なんかもうずっと買ってないし」

「い、いやに、似合ってると思うぞ。それに冴子さん年の事言われると怒るくせに」

「自分で言うのはいいのよ。ていうか孝太郎に服誉めてもらうなんて意外。あんたそういうの苦手そうなのに」

「……そうだな。そうだった気がする」

「なによそれ。可笑し。でももっと具体的にポイントとか、頑張ってそうな所を誉めてあげると評価高いよ。お姉さんからのアドバイス」

「なにしれっとお姉さんに訂正してるんだオバ、いてっ」

冴子に頭を小突かれながら、軽い昼食をとるため、孝太郎は冴子と歩き出した。

               *

「へえ、結構雰囲気いいね、ここ。遠目から見るだけで入ったことなかったんだけど」

孝太郎は冴子を伴って喫茶チェリオのドアをくぐった。どこで一日を始めようかを考えたとき、何故かここが浮かんだのだ。まずは冴子の感触が良さそうなことに安堵しながら、席に着いた。

「冴子さんソファ席にどうぞ。ここのソファは尻の喜ぶ声が聞こえてくるくらい座り心地がいいんだ」

孝太郎の言葉に従い、冴子がぽふっと音を立ててソファに体を預ける。

「おおっ?これはいいね。なんか特殊な繊維でも織り込まれてるのかな。どこから仕入れてんだろ……。って仕事の事は考えんのやめよ。孝太郎にしちゃ珍しいわね。あんただったら、俺のデリケートな尻は木の椅子じゃ痔になるとか言って自分でさっさとソファに座っちゃいそうなもんだけど」

「俺はイタリア人が原始人に見えるくらいの紳士だからな。紳士という言葉も孝太郎が訛って生まれたものだ」

「一文字も合ってないじゃない。それよりまず飲み物頼もうよ。あたしアイスコーヒーがいいんだ。砂糖とミルクはなしね」

「ん、冴子さんもブラックのアイスが好きなのか?俺もそれ頼もうと思ってたんだ」

「そうなの、奇遇ね。へえ、付き合い長いのに、こんな簡単なことお互い知らないもんね」

「そうだな、可笑しなもんだ」

 そう言って、二人は笑い合った。

               *

 喫茶店を出てからの二人の時間も、弾んだものになった。最初は冴子の様子が気になっていた孝太郎だったが、彼女が満更でもなさそうな事が分かると、次第に自分も楽しくなり、二人はひとまず良い一日を終えることが出来た。そして日も暮れて、二人は待ち合わせた銅曲輪商店街の入り口に戻ってきた。

「うん、今日は楽しかった!こんな風に遊んだの久し振りだったなあ」

「そりゃ良かった。まあ俺で良かったら好きにガス抜きに使ってくれ」

伸びをする冴子に、孝太郎が言葉を返すと、冴子はふっと体の力を抜き、孝太郎を見つめた。

「……あんたはさ、私と居て楽しかったの?」

何時もなら茶化して答えるような問いだが、冴子の鋭くも大きい黒の瞳に見つめられると、言葉は自然にこぼれ落ちていた。

「ああ、楽しかったよ。冴子さんと居て」

冴子の頬がさっとほのかな朱に染まったかのように見えた。そして一呼吸、吸い込んで孝太郎に何か言葉を投げようとする。

「あんたさえ良かったらさ」

 そう言って冴子は言葉に詰まる。相手に伝えようとする思いが日本語の形を取らず、喉仏のあたりで言葉と感情の中間を彷徨う。言いかけて淀む冴子を訝しみ、孝太郎が言葉をかける。

「どうしたんだ?何か言いたいことがあるんじゃないのか?」

 ―どうした冴子、俺に何か言いたいことがあるんじゃないのか?

 冴子の心の中にずっと刺さったままだったその言葉が、急にゼンマイを巻かれた玩具のように騒ぎ立て始めた。そして、赤みがかった頬の色は引き、心の緞帳は静かに降り始めた。

「……ううん、何でもないの、何でもない」

 そう言って顔を伏せる。

「今日は有難う。じゃあまたお店でね」

 そう言って冴子は帰路についた。電球の寿命が切れかけている商店街の街灯が去っていく冴子の後ろ姿を明滅させた。浮かび上がっては消えていく冴子の背中を見送りながら孝太郎は呟いた。

「……あれ、こういう時って送っていくもんじゃないのか?……俺童貞力高いなー」


                  ⅩⅣ


「……それでどうなったんですか?非モテ二人のデート対決っていう、世にも奇妙な物語の結末は」

「いやーどう考えても俺の圧勝やろ。冴子さん俺とのデートの間ずっと笑顔でいてくれたしな」

「どうせお前の無駄にある腕の筋肉のシワが変な顔に見えてたとかそういうオチだろ」

 孝太郎と竜二、双方のデートが終わり、少し経ったある日。三人は今日も今日とていつものアパートで溜まっていた。その行動パターンの少なさはテントウムシといい勝負だろう。

三人が好き好きに時間を浪費していると、孝太郎と竜二の携帯電話が同時に震えた。

「お、噂をすれば冴子さんじゃないですうわ」

久一のセリフを最後まで言わせないまま、二人は充電コードを引きちぎらんばかりにそれぞれの携帯をひっ掴み、その液晶を眼孔に突き刺さんばりに凝視した。予想通り冴子からのメールが着信していたが、内容は二人が予想していたどちらの内容とも違ったものだった。

『件名:ごめん

 内容:今回の勝負は引き分けってことで。後、急で本当に申し訳ないんだけど、お店を少しの間閉めようと思います。シフトの調整とかは追って連絡します』

「……あのアマ」

 そう呟くと孝太郎は、息もつかせる間もなくアパートから転げ出て行った。そんな彼を横目で見ていた久一は、竜二の携帯を覗き込み、その後竜二の顔を覗き込んで言った。

「良いんですの?先越されちゃいますけど」

「……元から先越されてたっぽいからなあ」


                  ⅩⅤ


 竜二に引剥がされたチェーンを素人仕事で無理矢理嵌められたばかりの愛自転車ブラックヒストリー号を駆り、孝太郎は蟹亭に辿り着いた。急に運動を要求された肺が聞いてないと喚き痛む中、明かりが漏れる蟹亭の窓を認め、そのまま討ち入った。

「面倒くさいアラサー女子(笑)はいねが!」

「うわっ!だ、誰……って孝太郎?」

店の中で作業をしていた冴子は、急な来訪者に戸惑った。それを尻目に、孝太郎は詰め寄り、携帯の画面を突きつけた。

「なんだ急にこのメールは。俺と竜二がここ以外に働ける場所なんてあると思ってんのか。あんたは二匹の社会不適合者を野に放とうとしとるんだぞ。然るべき理由はあるんだろうな」

「いや、ははは……。本当ごめんね、急にお店閉めるなんて。いやね、その、私もほら、そろそろ自分の可能性を試したいというか、ちょっと海外旅行でもしてその経験でも本に書いて一発……」

「誤魔化すのはやめてくれよ。悲しくなっちまう」

「……」

 孝太郎がそう呟くと、冴子はうつむき口をつぐんだ。孝太郎は気遣うように、問いかけた。

「やっぱり恭次郎さんの事が関係してるのか?」

「……なんでそう思うの」

 冴子は俯いたまま言葉を地面に落とす。

「冴子さん、恭次郎さんが、その、亡くなってからずっと変だぞ。最近だって、アンポンタンな客が来た時なんか、俺らに丸投げしちまって。昔だったら自分で突っ込んでいって吹っ飛ばしてたじゃないか。バイトが急にさぼった時なんか、そいつの首根っこ引っ掴んで店まで背中の皮が向けて背骨が見えるくらいの勢いで引きずって来たじゃないか。それが俺らにわざわざヘルプを頼んで、気を使うように仕事頼んだりなんかして。どうしたんだよ」

「……」

「確かに最近竜二と俺とであんたと好いた惚れたなんつって変な感じだったよ。でもさ、そんなこと別に気にする事無いじゃないか。アタシみたいな高嶺の花あんた達には百年早いわよなんつってあしらっちまえばいいじゃないか。俺達と冴子さんなら簡単なことだろ。今回のことと関係ないんならそれでいいよ。でも、せめてさ、理由を聞かせてくれないか」

「……わくなったの」

「ん?」

 冴子がこぼした言葉が聞き取れず、聞き返す孝太郎。あまりにか細い冴子の声はその言葉を漏らすことすら恐れているようだった。

「……あれからずっと怖いの。恭次郎が死んでから。誰かに何かを言うとか、頼むとか、接するとか、もうそういうのが、全部」

 冴子は蛇口から垂れる水滴のように、言葉を少しずつ落とした。

「あの夜、恭次郎とお店のことで散々言い合って、私は興奮してた。いつもなら絶対言わないのに、出て行って、顔も見たくないだなんて。それで、恭次郎が、分かった。お互い少し落ち着こう、ちょっとぶらついて戻るなんて言って、お店を出て行った。あの時最後に見たあいつの困った顔、よく覚えてる」

 冴子は続ける。

「すぐに後悔した。出て行けなんて、私何言っているんだろう。戻ってきたらまず謝ろう。それで、今度こそ落ち着いてお互い話せるはず。それで解決したら二人で軽くお酒なんか飲んで、なんて考えてたけど、あいつは戻ってこなかった。ちょっとぶらついてくるだけって言ってたのに」

 冴子が吸い込む息の音が震えていた。

「あいつが事故に合ったことと関係ないのなんて分かってる。でも、もう駄目なの。あいつに店から出て行けって言ったのは私なの。もう怖い。もう、怖いの」

「……冴子さん」

 孝太郎がそう冴子の名前を口にした時、冴子が始めて孝太郎の顔を見た。

「……それに、なんでなの」

 孝太郎はその時、冴子の目から一滴の涙が頬を伝うのを見た。それはずっと我慢してきた何かが形になって溢れた一筋のように見えた。

「なんであんたのその困った顔が、あいつにそんなよく似ているのよ!」

 たたきつけられた言葉に、孝太郎は面食らうしか無かった。

「あんたも竜二も、落ち込んでたあたしの事を気遣ってくれてさ。そんであんたにも、よく色んな無茶な事頼んじゃったけど、ぶーぶー言いながら引き受けてくれたよね。嬉しかったよ。すごく助かった。でもさ」

 熱を帯びた冴子の言葉が二人しか居ない店の中に響いていた。

「その困った顔をしながら、なんでもあたしの頼みを聞いてくれるのやめてよ!そのたびにあたし、彼氏が死んですぐそんな他の男に揺れるような女じゃないのに、その筈なのに、もう、訳分かんなくなっちゃう……」

「……」

 冴子は消え入るように最後の台詞を言い終え、俯いて何かを堪えるように黙ってしまった。孝太郎は少しの間黙って、冴子を見つめ、そして言った。

「……分かった。冴子さんがそう考えて、もう休みたいって思うなら、俺からどうこうしてくれなんて言えない。済まないな。色々言わせちまって」

 そうして厨房に行き、タオルを一枚取って、冴子の横にあるテーブルの上に置いた。

「でもさ、済まないんだが、最後に一席だけ設けさせてくれよ。他のバイトにも説明しなきゃいけないだろ?色々と。セッティングは俺と竜二で全部やる。最後かも知れないから、楽しい場にするよう努力するからさ」

 冴子はタオルを取って、それで顔を覆い、そして小さく頷いた。

「今日は帰るよ。片付けに人手がいるんなら呼んでくれ」

 そう言って、孝太郎は店から出た。

                   ※

  「あら孝太郎、意外に早かったですね」

 久一の声への反応もそこそこに、孝太郎はアパートに戻るなり、窓の外を見ている竜二の肩を掴んだ。

「……どうなったんや」

 そう言い孝太郎を見返す竜二に、孝太郎ははっきり言い放った。

「竜二、青春するぞ」


                  ⅩⅥ


 それから、まず孝太郎は、神ラーメンの屋台がよく出没する廃神社はいつからか宮司が予想通り不在になっていること、その管理を屋台の店主が任されている事を調べ、廃神社の境内を一日使わせてくれるよう店主に頼んだ。録に掃除もしないくせに申し出の許諾を渋る店主に、催すイベントに集まる客に好きなだけ自慢の丼を振る舞って荒稼ぎしろと言うと、百八十度どころか勢い余って五百二十度態度を変え、快諾した。

 次に近々行われる予定の花火大会に備える山王神社に赴き、予報で雨が降ると言われ中止になった出し物で使う会場設備を借り受ける交渉を行った。山王神社ばかりスポットがあたって卑怯だと廃神社の管理人が憤慨している、この申し出を受けなければ花火大会当日山王神社境内の一番いい場所で、糞不味いラーメンの屋台を出し山王神社名物と言い張るぞと脅し、無事設備を使わせてもらう事に成功した。

 さらに久一には、冴子の店の片付けを定期的に手伝わせ、様子を伺わせていた。久一から冴子はもう普段通りに見えると一報を受けたタイミングで、孝太郎は冴子に宴の誘いをメールした。

 最後に、竜二にイベントの全貌を明かし、協力してくれるよう頭を下げた。

「俺の頭じゃこれくらいしか策が思いつかんのだ。恨むのなら俺じゃなく俺にこんな脳みそを授けて産んだ親を恨んでくれ。お前にはもしかしたらピエロになってしまう役回りを頼むことになるが、それは俺も同じだ。どう転ぶか分からんが、どうか俺の頼み、受けてくれないか」

 腕を組んで竜二は考え込み、少し黙考した後、承諾した。

「その代わり当日はお前をしこたまぶん殴っていいんやろ?どっちがどうなっても恨みっこなしやぜ」

「その言葉そっくりそのまま返すぜ。ありがとよ、リュージン」

 竜二に孝太郎がそう返したタイミングで、冴子から宴に参加をする意を表明するメールが届いた。そして孝太郎が考えた作戦当日、つまりは孝太郎達が住まう町、その夏の一大イベント、花火大会その日を迎えた。


                   ⅩⅦ


「えっと……。なんなの……これ……」

 孝太郎のメールに書いてあった内容のまま廃神社を訪れた冴子は、これから何が起こるのかを把握できずに居た。

 廃神社のいつもは雑草とミミズの死体くらいしかない境内には、五メートル四方程の舞台が鎮座ましまし、その四つの頂点にはポールが打たれ、その周りを三本のゴムひもが周っている。舞台の側面には「三度の飯より好きになる!神ラーメン」と記されていた。

 そしてその上には、「本当にいた!アマゾンの奥地から来た不死身の男!」と書かれた看板が異様な存在感を放っている。

 全く事態を飲み込めず呆然としていると、聞き覚えのある声が冴子の耳朶を打った。

「てめえ孝太郎!お前の言葉を信じて当日を迎えてみりゃあ、何だこの雀の涙ほどのギャラリーは!本当に今日は花火大会なのか!この大量に発注した麺の山どうするんだよ!大赤字だぞ!」

「うるさいうるさい!俺だって自分の人望の無さを改めて実感しショックをに打ちひしがれている真っ最中なんだぞ!死人に鞭打つような事を言うんじゃない!」

 右を見れば、全身を真っ黒に塗りたくり、上半身は裸、下半身には腰蓑のようなものを巻いた孝太郎と思しき人物が、見知らぬ男と言い争っているし、左を見れば、ボクサーそのものの恰好をした竜二が、無言でシャドーボクシングを行っている。

「あ!冴子さん。本当に来てくれたんですねえ」

「……ど、どうも」

 冴子が必死に狼狽していると、白いワイシャツに黒いスラックス、赤い蝶ネクタイという恰好をした久一と、大学生風の女の子から声を掛けられた。

「あ、ああ、久一君、と、前孝太郎のゼミ飲みかなんかの時にお店に来てくれた早苗ちゃんだよね。こんにちは」

「こ、こんにちは」

「ささ、こんなところに突っ立ってないで、観客席にどうぞ。冴子さんはチケット代サービスしますよ」

「いやあの、私は蟹亭の一時閉店の飲み会って言われて来たんだけど」

「そんなの廃神社で待ち合わせするわけ無いでしょ。只の大嘘ですよ。ほらさあさあ座って」

 促されるままに舞台横に並べられたパイプ椅子の群れに向かい、チラホラと椅子に座っているギャラリーを避けて、空いている席に座った。その中には蟹亭のバイトもいたので、適当に対応する。

 そうこうしているうちに、いつの間にか舞台袖に設置されたお立ち台に、久一がマイクを持って登っていた。

「レディース・アンド・ジェントルメン!本日はよくぞ、アマゾンが産んだ不死身の男来日ショーにご来場頂きました!私は花火大会真っ只中、本丸である山王神社にもいかず、花火の場所取りもせず、こんなボロ神社に集まる貴方達の神経を疑います!」

 早速客から野次が飛び交うが、久一は意に介さず続ける。

「しかし、私は約束いたします。そんな貴方達を心底がっかりさせお帰りいただくことを!本日のお楽しみは、私がアマゾンの奥地で見つけた不死身の男!ミスターノットダイ!その男の文字通り不死身のタフネスをたっぷりご覧頂いきましょうどうぞ!」

 冴子達が座るパイプ椅子群の向かって左側から、黒塗りの孝太郎がリングに上った。そして両腕を突き上げ叫ぶ。

「スシー!フジヤマー!」

「そして対するはこの男、神通川の荒波が産んだ筋肉もりもりの肉いアンチクショウ!筋肉ヤバ男ですどうぞ!」

 今度は向かって右側から、両腕にはめたパンチンググローブを突き合わせながら、竜二がリングに上った。

「さあ男がリングに上がればやることはひとつ!この男、ミスターノットダイが、果たしてその不死身の肉体を持つこの太ましいボディ、筋肉ヤバ男に勝てるのか!三ラウンド一本勝負!それではキックオフ!」

                  *

 まずは、黒塗りの孝太郎がパンチンググローブを嵌めた手を竜二に差し出し、握手を求める。

「日本の戦士よ、この戦いは精霊達が見ている。正々堂々と戦おう」

それに竜二が無言で応じ、同じく手を差し出す。それを見た早苗が「あ、普通に喋れる設定なんだ」と呟いた瞬間、リングから妙に小気味良い打擲音が響いた。

「ギャッハハ嘘だ馬鹿たれが!このままリングに沈めてやるわい!」

見れば孝太郎が、その身に付けている腰箕に巧みに忍ばせていたゴボウの束で、竜二を滅多打ちにしているところだった。

「てめえ孝太郎!痛い!牛蒡すごい痛い!」

「フハハ痛かろう!乾いた牛蒡は素肌に痛いだ、あ」

 そして孝太郎が高笑いを虚空に響かせた瞬間、恐るべき凶器として猛威を振るったゴボウは、真っ二つに折れ、只のキク科の多年草と化した。その瞬間、「そうれ」の叫び声と共に竜二が大砲のようなラリアットを放ち、孝太郎の喉仏を直撃した。そのまま孝太郎は注意して聞くと「ケセラセラ」とも聞こえなくもない断末魔を上げ垂直にマットへ突き刺さった。その時久一が廃神社の一角にある鐘つき堂へ走って行き、おもむろに鐘を突き鳴らした。

「あーっとここでゴングです。両者コーナーへ戻って下さい。ちなみにノットダイサイドのセコンドには神ラーメン店主、筋肉サイドには私、萬田久一がセコンドとして付きます」

 竜二は両腕を突き上げ悠々とコーナーへ帰還し、孝太郎は神ラーメン店主に足を引っ張られながらコーナーへと無言の帰還を遂げた。

 パイプ椅子のギャラリーは、孝太郎達の知り合いがほとんどなのだろう。仲間内のふざけ合いを見て、ケラケラ笑っている。冴子は落ち着きなく周りを見渡した後、隣の早苗に尋ねる。

「ねえ、未だにこの状況を把握できていないのって私だけ?」

「そ、そうですね。私だって何やってんだかって思いますけど。でも、せんぱいからは冴子さんが呆れて途中で帰ろうとしたら、お前の全女子力を持ってして止めろって言われてるんです」

「どういうつもりなのかしら」

「……さあ」

 二人が話している内に、お立ち台に戻っていた久一が、町内会のテープが貼られたマイクを握った。

「えー、今ようやくメトロノームみたいになっていたミスターノットダイ選手の首がすわったため、試合を再開いたします。第二ラウンド、はっけよい」

そう行って鐘突き堂まで走っていき「のこった!」の掛け声と共に鐘を鳴らした。

               *

それからの試合運びは主に孝太郎にとってのみ苛烈なものになっていった。孝太郎は精霊の御業と称した毒霧や金的、バリカンで頭を刈る、予備のゴボウによる打撃など様々な攻撃を竜二に敢行した。しかし如何せん地力の差は大きく、竜二の筋肉が巻き起こす強烈な攻撃により、孝太郎はぼろ雑巾のようになっていった。

「うごおっ!」

竜二の槌のようなボディーブローが孝太郎の腹を抉った。堪らず声をあげ、孝太郎が膝をつく。

その瞬間、久一が鐘突き堂にすっ飛んで行き、ゴング代わりの鐘をうち鳴らした。リングに倒れ込み動かない孝太郎を神ラーメン店主がコーナーまで背負っていき、それを見届け竜二も自分のコーナーに戻る。

「……なんだか笑えなくなってきてない?最初の方はふざけた感じだったけどさ、最後孝太郎あれちょっと血吐いてなかった?」

 冴子が心配そうに早苗に話しかけた。客席のなかも冴子と同じ思いのギャラリーが多いのか、ざわつき始めている。

「……冴子さん」

そんな周りとは対照的に、早苗は落ち着いていた。少し笑みを浮かべているようにも見える。

「男の子が頑張ってる時って、妙に可愛く見えちゃいますよね」

「……?」

要領を得ないものの、早苗がリングに向き直ってしまったので、冴子も口を紡ぐ。「……羨ましいな」の呟きも、冴子の耳には届かなかったようだ。

                   *

「えー只今リング上にて人身事故が発生しました影響で、試合運びを見合わせておりましたが、これより再開いたします。泣いても笑っても最終ラウンド、よーいドン!」

 久一の宣言により、最後のラウンドの幕が切って落とされた。背中にゴボウのムチ打ち痕が残り、毒霧を喰った目は赤く腫れ、ところどころに擦り傷があるものの、ピンピンしている竜二と、対照的にアフター5はオヤジ狩りに合うことが日課になっている係長でもこうはならないだろうと言うくらい、ズタボロの孝太郎がリング上で相対した。

 孝太郎の鼻に詰めたティッシュは真っ赤に膨れ、目の周りは青痣でメイクされ、膝は真夏の暑さに似つかわしくなくブルブル震えていた。

 孝太郎がおぼつかない手足でなんとかパンチを繰り出すものの、竜二にはあっさり躱され、右頬に強烈なフックを見舞われる。

「ゲボォッ!」

 リングへ引き倒されたかのように孝太郎が倒れる。それを竜二が、冷めたような、苛立ちの混じったような表情で見下ろした。

「……オラ、もうダウンか、孝太郎。根性見せろや」

 そう言って、竜二が追い打ちを掛けるため体を屈めようとした時、

「ねえ!もういい加減にやめなよ!何があったか知らないけど!」

 リングサイドまで駆け寄っていた冴子が二人に叫んだ。

「これ以上やると孝太郎洒落で済まなくなっちゃうよ!何かあったなら話聞くから!もう二人共止めなって!」

 詰め寄る冴子が、声を上げるのを、孝太郎は震える手で制した。

「……だ、大丈夫だって、冴子さん」

「何が大丈夫なのよ!声だって絶え絶えじゃない!」

「……俺は、死なねーから」

 その言葉を聞いて冴子がはっと息を呑む。

「そ、そんな期待してる目で俺を見るなよ。期待されるのにはこっち、な、慣れて無いんだか、ら」

 荒い息を喉から絞り出しながら、暴れる膝を押さえつけながら、孝太郎は立ち上がった。

「どんだけ期待さ、されたって、俺は死なない、よ。もちろん、竜二も、他の、奴らも。さ、冴子さんがどんだけ、俺をこき使って、も、なんかの拍子で、仮に俺にどんだけひでー事言っても、俺は大丈夫」

 孝太郎は、いつの間にか切れていた目尻から流れる血を拭った。

「俺は、大丈夫」

 冴子が口元を抑えた。孝太郎を食い入る様に見つめてしまう。竜二は黙ってリング上に佇んでいた。

「俺、馬鹿だからさ。こ、こんな感じで、体張らないと、たった、それだけ、の事、言えなかった。そんでさ、それでも、やっぱ、また不安になっちまったら、大変だから、その、その時のために」

 孝太郎は冴子に向き合った。

「俺が、そばにいてやる。俺と付き合ってくれ」

 冴子はいつの間にか自分の目から流れていた涙を止めることが出来なかった。それを拭おうともせず、何回も頷いた。

「うん……、うん……」

 そして二人の様子を認めた久一が更なるマイクパフォーマンスを重ねる。

「あーっとここで新たな恋の誕生だー!乱入者を見事射止めたミスター、もういいや面倒臭い、孝太郎選手やりま、あ、ちょっとあんたなにすんの」

 するとそのマイクを横から神ラーメン店主が毟り取り、客席に向かって叫んだ。

「縁結びの神社のすぐとなり、縁結びラーメンをよろしく!」

 二人がマイクの主導権を巡って争う中、竜二が孝太郎に近づく。

「……おめっとさん。やっぱりお前に取られちまったな」

「……竜二」

「だけどな、俺は勝負には負けたが、試合に負けるつもりは無いぜ」

「……?」

 そう言うと、竜二はファイティングポーズを取った。不穏な気配を察知した孝太郎が慌てて両手を挙げる。

「もう降参だ!降参!なんかもう試合もお開きって感じになってるじゃん!な!レフェリー、ゴング!ゴング鳴らせ!」

 そう言って久一の方を見るも、久一と神ラーメン店主はマイクの奪い合いでまだ忙しそうだった。

「お前が吹いた変な霧で目はまだ痛いし、バリカンで刈られたところは当分クレーターみたいに残りそうやし、金的なんて男としてやっちゃいけない反則技まで使ってきたよな」

「おい、落ち着け、目が怖いぞ」

「……幼なじみの前途を祝して、最後に一言だけ言わせてくれや」

 竜二がシャドーボクシングをしながら更に孝太郎との距離を詰める。

「最初に好きになったんは、俺やったんやぞー!」

 と叫びながら、孝太郎の頬を軽く小突いた。

「……まあ、事ここに至ってはしゃあない。冴子さんの事は……。おい、孝太郎?」

 孝太郎はそのダメージが決め手になり、ギリギリの所で保っていた意識が飛び、白目を剥いてリングに沈んだ。


                  ⅩⅧ


 孝太郎が目を覚ますと、廃神社には誰もおらず、後頭部に柔らかい感触を感じた。それが何か訝った次の瞬間、全身に耳には聞こえない効果音とともに激痛が走った。

「いっててて、竜二の野郎、マジで手加減なしじゃねーかあの馬鹿筋肉……」

「目覚めた?」

 その言葉は頭上すぐ上から降ってきていた。孝太郎が、その言葉の主が冴子でどうも自分は今冴子に膝枕されているようだ、という事実に行き当たるのに時間はかからなかった。

「おかげさまで、良い目覚め。なんかいい匂いもするし」

「バカ」

 二人が居る廃神社の境内に、一筋の風が吹いた。その柔らかな風でさえ孝太郎の傷には染みたが、裏腹に心地よさも感じていた。

「なあ、冴子さん」

「なに?」

「俺、冴子さんに告白して、オーケーもらったんだよな?ちょっと暴漢にボコボコにされててさ、記憶が曖昧なんだよ、冴子さんの口から、聞かせてくれないか?」

「もう」

 そう言って冴子は少し怒った顔を作って見せたが、すぐに破顔し、

「あたしみたいな高嶺の花、本当はあんたには百年早いんだから」

 そう言って、孝太郎の唇に軽く自分の唇を重ねあわせた。


         グニョン


 その時だった。聞こえないはずの音が聞こえて、見えているはずのものが見えなくなった。

 孝太郎の視界は点滅し、彩色は明滅した。冴子の声だった何かの音をを遠くに聞きながら、灰色になった景色が消えていった。

 そして、孝太郎の意識は消失した。


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