第五章 イブの記憶

 どうしてっ!

 どうしてここにいるのか。

 どうやってここまでやってきたのか。

 聞きたいことはたくさんある。

 でも、一番聞きたいことは――

 どうして、こんな姿になった私を、『私』だと認識出来るんですかっ!

 もう自分自身でも全容を認識できないほど、私は膨張してしまっている。本当に、ただの肉の塊だ。

 姿形が変わり果てた自分を、グロッケンさんは何故認識できるのですか?

 その疑問に答えるように、彼はジャケットの内ポケットから、二枚の紙を取り出した。

「いつ描いたか覚えていないんだが、こんなにそっくりな奴らが二人もいるとなると、単に俺が渡し忘れていただけなんだろうな」

 それは、二枚の似顔絵。

「姿形が変わろうとも、そいつの在り方(意志)までは変えられない。そしてこの似顔絵を俺が持っている限り、運搬が終わった後も瑕疵保証が効く。だから、こいつが最後の仕事だ。受け取ってくれ」

 グロッケンさんは似顔絵を手放すと、こう言った。

「さぁ、瑕疵保証の時間だ」

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