第五章 グロッケンの記憶

 ……何だ?

 ウエノ・シティにやって来た俺は、違和感を感じて振り向いた。だが当然、そこには誰も居ない。知り合いすらいない。

 違和感といえば、体が新品になっている。マツド・シティの改修屋に電子通貨を振り込んだ記録が残っているが、ここ最近マツド・シティに寄った記憶が無い。そもそも魔術寄りのマツド・シティに行く理由が全くない。誰かの付き添いというのなら、話は別なのだが。

 気を取り直して移動しようとしても、もう一つの違和感に俺の視線は釘付けになる。それは水面で林檎が漂っているアイコンだった。

 どうにも俺にしか見えないようなのだが、起動も削除もすることが出来ない。

 MADAというそのアプリのアクセス権はオーナー(root)にグループは全く知らないグループ(adam)が設定されていて、俺の権限では勝手に削除することも出来ないのだ。

 運搬屋を続けながら、こいつ(MADA)が保存されている外部記憶装置を気長に探すか……。

 元々仕事を探してウエノ・シティに着ていたので、決めた方針に問題がないと、俺は頷いた。ウエノ・シティはホクリクにもカンサイにも抜ける道になるので、運搬屋の仕事が見つけやすい。

 ……その前に、林檎でも食うか。

 そう思い、歩きながら、俺はジャケットの内ポケットに手を伸ばした。

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