第2話

「大丈夫ですか?」

「あ……?」


少し頭がボーっとする。


「さっきから何度か呼び掛けたんですが大丈夫ですか?」

「あー……大丈夫だ。寝てたっぽいな」


眠っちまってたか、疲れてんだな…。そりゃそうか、あの後に車で港に出て、そのまま別の港に移動、そこから空港まで移動してチャーター便で飛んで、この馬車に乗っての流れで、途中に休み無しの移動だったからな。


「申し訳ありません。少しは休憩の時間を入れるべきでしたね」

「気にしなくていいよ。急いでるのはなんとなく分かるし」


それに飛行機に乗ってた時と今寝たからな。


「そう言って頂けるとありがたいです。さてそろそろ見えてきますよ」


窓の外に目をやる。するとバカみたいにでかい壁が見える。


「なんだ、あのバカでかい壁は」

「あれは防衛のためのものです」

「防衛ってなんの為に?たかが学校なのに攻めてくるやつでもいんのか?」

「………………まぁいずれ分かりますよ」


なんか長い間が気になるが、あまり追求しても答えそうにないな。


「さてそろそろ着きますよ」


目的地についたらしく馬車が止まる。

と言っても先程の壁の外側だ。


「さて降りましょうか」

「えっ、ここでか?」

「ここからは空間転移術で移動します」

「空間転移術……?」

「まぁそちらではマジックなどでやっていますね」

「それって……瞬間移動のことか?」


テレポテーション……瞬間移動マジック。最初にいた場所から別の場所に移動する手品だ。だが手品には種や仕掛けが存在するが……。


「そうです。ですがこちらのは手練れでなくとも使えますがね」

「どういうことだ?」

「その理由はすぐに分かりますよ」


詳しい理由はまたはぐらかされてしまったので馬車から降りる、すると目の前に門が現れたのが見えた。また魔術ってやつか。


「お察しの通りです。さぁ門の中に入りましょう」


門の中へと進む。

中に入ると大きな陣が床に描かれている。その近くには一人の男がしゃがんでいる。


「用意はできていますか?」


そう声をかけると男は立ち上がり、こちらに振り向き、指を鳴らす。すると壁に掛かってるランタンが一斉に火が灯る。


「ようやく来なすったか!待ちくたびれて干からびるかと思ってたとこだ!」


スキンヘッドのガタイのいい男(漢?)がそこに立っていた。つか魔法使いでガタイがいいってありなのかな。


「魔法使いが鍛えちゃいけねぇなんて理由はねぇだろうが」

「また心読めるパターンかよ」

「んなわけないだろうが、顔に出てるんだよ」

「マジか…」

「まぁそんなことより、早速ですが移動の手配をお願いします」

「そいつならとっくに用意出来てるぜ」

「いつもながらあなたは優秀で助かります。では陣の中央に参りましょう」


言われたままに中央に立つ。門の方に目をやると馬車に乗れなかった者たちが息を切らして床に座り込んでるのが見えた気がしたが気にしないことにした。


「そんじゃ、あんたらだけでいいんだな?」

「はい、お願いします」


男は再び指を鳴らすと陣が光る。そして光は俺たちを包みこみ、俺たちの身体が薄くなってゆく。


「おい、小僧」

「なんだよ?」

「俺はゼルガだ。お前の名前は」

「……秋峰陽だ」


陣の中央から俺たちの姿が完全に消えた。


「秋峰……だと?」



転移ってのは不思議な感覚だ……この世には絶対に存在しない感覚だな。

真っ白な景色がどこまでも続いてる。それに妙な浮遊感、立ってるのか座ってるのか、落ちてるのか飛んでるのかも分からない。そんなことを考えてるとまばゆい光が俺の身体を包み込む。眩しすぎるので眼を閉じた。


俺は閉じていた眼を開くと景色が変わっていた。そこはさっきまでの建物内ではなく外。目の前には校門、その奥には校舎がある、しかも周りを見渡すと先程まで外側だったはずの巨大な壁の内側に入っている。


「いかがでしたか?」

「すげー不思議な感覚だった。少し楽しかったかな」

「そうでしょう。しかし酔わないとは……」

「いわゆる転移酔いってやつ?」

「はい。初めての方は皆、転移酔いしてましたからね」

「今は特になんともないかな」

「やはりあなたはあの方たちの息子……なんですね」

「そうなのかな?」


まぁそうなんだろう。どんな両親か知らんけど。

それより一瞬目つきが変わったのが気になるがな。


「まぁそんなことより、こちらがあなたが通う学園です」


彼が目の前の学園を指す。『聖アナスタシア学園』と言う名前らしい。校門のところにプレートがかかっている。


「これからここに通うのか」

「まぁ詳しい説明は中でしましょう」


そういって男が歩きだしたので付いていく。校門を越えようとしたあたりで空からヒュルヒュルと風を切る音が聞こえる。音ともにものすごい殺気を感じたので後ろに下がる。目の前に巨大な斧が地面にめり込む。 全身の鳥肌が総立ちした。


「お、おいおい………随分と手の込んだ歓迎の仕方じゃねぇかよ……」

「あぁ、申し訳ありません。あなたにひとつ言いそびれておりました。学園に入るには試験を受けてもらいます。目前の者に勝利してくださいね」


空から少女が降りてくる。背丈は俺より小さい、髪はショートヘアーのブラッドカラーで、赤と青の瞳でこちらを睨みながら、斧を軽々と引き抜き肩にのせて、淡々とした口調で喋り始める。


「あんたが転入生か。中々やりがいがありそうじゃない、私の一撃を避けたしな」

「あんな大振りな攻撃食らうわけねぇって…」

「まぁそりゃそうか。それより……」


少女は男の方に向いて、なにやら話し始めた。


「約束は守ってくれるんだろうな……」

「えぇ、あなたが勝てば……約束は必ず守りますよ」

「ふん……どうだかな……」


話を終えると少女はこちらに振り向き直す。


「あんたに恨みはないが……ここで死んでもらう!」


斧を振りかぶって、薙いでくるが、寸での所で斧の軌道を見切って回避する、その後も猛攻が続く。


「ちょ……待てって、俺武器を持ってないんだぞ!」

「だからどうしたんだ、素手でも戦えるだろ!」

「いやいや、無理ですって!」

「あんたは男だろう!」

「男だろうと、オカマだろうと無理なもんは無理だー!」


らちが明かないので逃げ回るしかない。


「逃げ回ってばかりでは勝てませんよ~」


心底ムカつくが確かに勝たなきゃ学園には入れない。


「逃げないで戦え!」


いやそんなことを言われても、俺、女の子と戦うの、初めてなんだよなー。

とりあえず武器から離して無力化すれば大丈夫……かな。逃げるのをやめて振り向き立ち向かう。


「ふん……いい覚悟だ。なら全力で叩き潰してやる!」


少女は斧で兜割りを行ってくるが、俺はそれを苦もなく避ける。


「そんな大振り……普通は当たらないだろ……」


素早く少女の背後に回り、武器を叩き落とし地面にねじ伏せる。


「ぐぁ……!」

「よし、これでもう動けないだろ」

「お前……!」

「わりぃな、女を傷つけるのは苦手なんだ、だから降参してくれるか?」


少女は沈黙し、しばらくしてから「ふっ……」と鼻で笑う。


「この程度で降参しろって?笑わせるな!」


その瞬間、俺は見えない何かの力に押し飛ばされる。


「くそっ……!」


なんとか空中で受け身をとり、体勢を立て直す。


「見せてやるよ……あたしの本気を……」


少女の体を黒い風が包みこむ、徐々にそれは球体状になる。中で何が起きているのかは分からないが何やらやばそうな雰囲気だ。風が止み、その中心には先程の少女がいる。だが先ほどと違い、頭に2本の角が生え、背中には悪魔っぽいの羽が生えている。手足も黒くなり、爪は長く鋭利なモノに変わっている、まるでーー


「ふふっ……悪魔みたいだと考えてるだろう?」


思考が読まれてる……?


「顔に出てるんだよ。そしてあんたの予想通りあたしは悪魔だよ」

「……」

「プロジェクト《デビルチルドレン》……悪魔の子供を人間の手で作り上げる計画。そんな愚かしい計画であたしは生まれた」

「じゃあお前は…」

「そう、お察しの通りさ。あたしの名前はNo.666……人間に作られたサタンさ!」


あれがサタン……


「ふん……驚いて声もでないか」

「ふっ……くくっ…あはははは!」

「な、なんだ?なにがおかしい!」

「だってそんな可愛い少女の姿を残して悪魔だなんて、可笑しくて腹がよじれちまう」

「なっ……ふざけるな、あたしは可愛くなんかない!」


笑い転げるのをやめて立ちなおし、一息つく。


「そうか?普通に可愛い女の子じゃん」

「くっ……お前はだけは絶対に許さん!」


手を高くあげると、少女の下に魔方陣が浮かび上がる。


「我と契約せし者よ……我が呼び声に応えよ!」


魔方陣から巨大な異形のものが現れる。


「御呼びか、主よ」

「あそこの人間を殺せ。影も形も残さずにな」

「承知した」


巨大な異形は走って近づき、踏み潰す気だ。だが陽はその場から動く気配がない。

むしろ逃げるどころか、目を瞑り、大きくため息をはく。


「やっと来たか…」


陽は目を開けて、空を見上げる。


「ふん、諦めたのか。つまらんやつだ」


少女は後ろを向く。

勝負はついたかのように思えた。


「ぐぁぁぁぁ!」


巨大な異形の叫びが響いた。少女は驚き、陽の方を見る。陽のいた場所は炎の渦に包まれている。


「おせーよ、バカ野郎」

「これでも一番乗りなのだがな」


炎の渦が消えるとそこには見知らぬ何かがいる。


「な、なんだそいつは……」

「あ?あー……何て言うかなー……」


陽はごまかす言葉を探し始めるが


「イフリートだ」

「って名乗るんかい、人が折角、誤魔化そうとしてるのによ!」

「ふっ、誤魔化しても無駄だとは思うがな」

「イフリートだと…」


男が眉を顰める、彼はどうやら大精霊がもういないことを知っているようだ。男が陽に問いかけてくる。


「何故……、イフリートが生きている」

「弱っている所を彼に保護してもらった故に生きている」

「別に俺が助けた訳じゃないんだけどな~」

「確かに発見者は違うがそこから助けたのはお主であろう」

「ま、そう言うことにしておくか」

「なるほど。ならば666よ、イフリートごと彼を消せ。」

「なっ、それは……」

「できないというのなら…どうなっても知らないぞ」

「くそっ……!」


やるしかない。そう考えた少女は巨大な異形に命令する。


「やれ、ミノタウロス!」

「承知!」


ミノタウロス呼ばれた化け物が突撃してくる。


「陽、我が力を貸す。後は自分でやると良い」

「相変わらず面倒くさがりだな」


再び炎の渦が二人を包む。


「構わない、そのままやれぇー!」

「うぉぉぉぉぉ!」


両手で炎の渦ごと、二人を潰した、そう思えたが手ごたえがない。そう思った瞬間、血飛沫が飛び散る。そしてミノタウロスは叫び、大きな両腕が地面に落ちる。少女は目を疑ったが陽の姿を見て、納得した。いつの間にか陽は手に剣を持っている。その剣は赤い刀身で炎のように揺らめいている。


「なんなんだ、その剣は……!」

「あぁ、これは『フランベルジェ』だよ。まぁ借りてるだけだけどな」

「借りている?」


そう言えば先程からイフリートの姿がない……


「まさか……」

「ご名答、イフリートがこの剣になってるんだよ」

「やはり!」


「さて、この剣の実力も分かったとは思うんだけど、まだやるか?」


確かに強靭な肉体を持つと言われるミノタウロスの両腕を一撃で切り落としたのだから、これ以上は戦う意味がない。戦っても勝てない。


「主、私はまだ…やれる!」

「いや、もういい下がって」

「しかし…!」

「いいから下がれ、ここからはあたしがやる!」

「主、…分かりました。ですが無茶はしないでください」

「分かっている。」


ミノタウロスは影になり消える。


「あーらら、これじゃ俺が悪役みたいじゃんかよ」

「そんなことはないさ。これからあたしに殺されればな!」

「いや、だからといって死にたくはないよ」


素早い動きで翻弄しつつ間合いを詰める。

陽はその場から動かずに剣も構えない。


「隙だらけだ……死ねぇぇ!」


爪で陽を切り裂く。が陽の体に傷は付いていない。


「なぜだ、なぜ攻撃を受けていない」

「ふっ、自分の手を見てみろよ」


少女は言われるがままに自分の手を見る、その手からは爪がなくなっている。

陽を見るとナイフをくるくると回して遊んでいる。


「わりぃな、武器持ってることを伝え忘れてたわ」

「くそぉ…卑怯だぞ!」

「ま、どっちにしろ。これでもう戦えないよな」


少女は体が震えながら喋り始める。


「まだだ……、まだ負けた訳じゃないもん!」

「えっ?」


少女はいきなり喋り方が変わり、喋りながら陽の体をぽかぽかと効果音が出そうな感じで殴る。


「私が負ける訳ないもん!こんなの卑怯な手を使われただけだもん!」

「お、おい……どうしたんだよ……」

「あぁ、彼女の身体は我々人間の年齢だとあなたぐらいですが、まだ精神は小学生位なのですよ」

「それも実験による影響か」

「えぇ。さて、負けは負け。残念ですが処分させていただきますね」


やっぱりかー、しかも決め台詞っぽく言ったよ、あの人。しかも女の子はまだ泣きじゃくって話しも聞いちゃいない。うーむ……仕方ないか。


「お前らの約束ってなんだよ」


まさにお約束の台詞を言わなきゃいけないのは意外と恥ずかしいな。


「あなたには関係のない話だ」


相手は結構ノリノリなんだよな、意外とこういう展開好きなのかね。


「関係ないって言われても処分するとか聞いたら気になるだろ」

「使えない物を処分するのは道具として正しい行為でしょう?」

「道具って、こいつは人じゃないか」

「話は聞いたでしょう?それは人の手によって作られた物。ならば道具も同然」

「だからって人の都合で作って、捨てるなんて勝手すぎるだろ!」

「人とはそういう生き物ですよ」


正論ではある、人はそうやって強くなっていく生き物でもあるのだ。生きるために必要なモノを得て不必要なモノを捨てるのが一般的だから。だけど


「だからと言って全ての人がそんな考えをしてる訳じゃないはずだ!」

「ではあなたがそうだとでも?」

「あぁ、俺は見捨てたりしない!」

「ふっ…、それは所詮偽善でしょう?いや、それとも自己満足とでも言った方が合っているのでしょう」

「そんなわけない、俺は心の底からそう思っている」

「自分は強い、だから弱い者を助けたい。これは自己満足以外の言い方があるのですか?」


それを言われるとぐぅのねもでない。


「あなたは助けた後の事を考えていますか?」

「それは……」

「何も考えずに助けてもただ苦しいだけでしょう?ならここで死んだ方がましじゃないですかね」


男はそう言って懐から銃を取りだし、少女に向かって撃ち放つ。


「でも……」


剣で銃弾を弾く。


「それでも俺は助けたい。救えるやつが居るなら救いたい。救った後の事なんてそれから考えりゃなんとかなる。何とかして見せる」

「くっ……貴様ぁ!」


男は再び銃を少女に向かって構える。しかし撃つ前に、手を叩く音が鳴り響く。



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