第六章 Birth of Matiew マチウ誕生
第六章 1 新たな追っ手
岩場から遠ざかるにつれ、後方の展望が開けてきた。
最後尾のステファンがふり返ると、草原にただよう朝もやをついて、岩場の上につぎつぎわき出すように盗賊たちが姿を現すのが見えた。
たくさんのひずめの音に混じって、空気をつんざくような鋭い指笛が聞こえる。
そこに仲間を呼び集めようとしているのだ。
先頭にいるのは丸刈りのダブリードらしき男だった。
「くそっ、とうとう見つかっちまったよ」
ステファンが言うと、ほかの三人も走りながら後方を見やった。
盗賊たちの数はたちまち一〇騎を越え、その後方にはさらに何頭もの馬が駆けてくる音が聞こえる。
ケルベルク城を出るときに追い散らしてきた馬は、夜明けとともにつぎつぎ見つかったのだろう。
それを回収して追ってくる者たちにちがいない。
「やつら、悠然とこっちを眺めてやがる。ぼくらが山脈にたどり着く前に追いつけるって、確信してるんだ」
「そうはさせるか」
ゴドフロアが言って馬の速度をさらに上げると、三人もそれにつづいてムチを入れた。
盗賊たちのほうも、ステファンたちに気づかれたことをさとった。
ダブリードはそこに集結した分の仲間を率いてすぐに方向を転じると、岩場を回りこんで雪崩れ落ちるように斜面を駆け下ってきた。
しかし、ステファンの眼をくぎづけにしたのはそれだけではなかった。
「あれは……何だ?」
速度を落としたステファンにつられてほかの者たちもふり返った。
まだ遠目には小さな点のようにしか見えていないが、〝それ〟は確実に近づきつつあった。
ブランカの山塊からようやく顔をのぞかせた朝陽を後方から受け、まがまがしい黒い影を白い朝もやの上に落としている、巨大なものの姿だった。
「飛空艦だ――」
ゴドフロアがうめくようにつぶやいた。
「わたしたちの行方が知られてしまったの?」
尋ねるカナリエルの声が震えている。
「わからん。たまたま捜索の手がこちらまで広がってきたのかもしれん」
「だけど、まずいよ、これは……」
ステファンの声も上ずっている。
「ああ、盗賊どもが大挙して追っている。おれたちに気づくのも時間の問題だ」
「でも、山に入ってしまえばあんなものは近づけやしませんよ」
フィオナが気丈に言う。
「そのとおりだ。うまくすれば盗賊どもの足止めになってくれるかもしれん。おれたちはひたすら山を目指すだけだ」
ゴドフロアが結論を下すと、ステファンとカナリエルもうなずき、四人はふたたび馬を疾走させた。
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