まあ、よくあること
まあ、よくあること①
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まあ、良くあるっことっすよ。
身内だと思っていた婆ちゃんが、実は見知らぬ婆ちゃんだったなんてのはね。
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年末年始を走馬灯のように駆け抜けて、やって来ました新学期!
いつものように慌しい朝ですよ。
ポルターガイストは、年末年始も関係ありませんでした。
新学期だからって手加減はありません。
割れる皿、飛び散るサラダに怒鳴る母、顔面蒼白の弟に微笑む外道シスターズ…いつも通りの平和な朝です。
俺は、パンに納豆を塗ったものに齧り付きながらちらりと『見知らぬ婆ちゃん』を見つめた。
あんな爆弾発言をしておきながら、年末年始を普段通りに過ごし平然としている姿を見るとあれは冗談だったんじゃないかと思えてならない。
いや! むしろ、そのほうが有り難い!
あの発言を聞いても、弟の剣は意味が分からなかった様で後で俺に説明を求めてきたが上手くはぐらかして置いた。
全く…剣が頭軽い子ちゃんで助かったよ!
もし理解してしまったなら、今こうして食卓を囲む事は出来なかっただろう。
「圭! あんた時間大丈夫!?」
母さんの激が飛ぶ。
「あ! やべ!」
俺は、慌てて席をたった。
やばい、やばい!
もう寮じゃないんだ、のんびりもしていられない!
『見知らぬ婆ちゃん』の件は後回しだ、今は急がないと!
新学期早々遅刻なんて、どっかのアニメみたくフラグ立てるのなんてありがちだしNe~ww
俺は、なれない通学路をバスを2本乗り継いでやっとのやっとの思いで学校にたどり着いた!
近代的なデザインの本校舎に加え、陸上用トラックを完備した人工芝のグラウンド体育館だけでも目的別に三棟完備し地下にはトレーニングジムまで完備されている。
俺は、お金持ち私立高校ならではの広々とした校舎を優雅に歩く生徒の波を掻き分けて教室を目指した。
生徒の波を掻き分けながら進むこと数分、俺と同じ方向に歩く生徒はいなくなった。
更に駆け足で進むと、そこには近代的な構造の本校舎からは想像も出来ないような粗末な外観のコンクリートむき出しの倉庫のような建物が見えてくる。
一見、倉庫に見える建物の入り口はアルミサッシがはめ込まれており、その周辺には大量の脱ぎ散らかされた靴が散乱し風呂場に良く使われているモザイク調のガラス越しに複数の人影が確認できた。
ガラッ!
俺は、
中には俺と同じ制服を着た生徒が複数いて、俺を見るなりざわっとどよめき数秒間沈黙が訪れた。
ここは、
その名も『体育科』。
この、私立尚甲学園は県内屈指の進学校だ!
近年では、ハーバード大学・マサチューセッツ工科大学など海外の有名大学に現役合格者を出すなど快進撃が続いている。
無論、『文』の快進撃が目覚しいなら『武』の方も負けてはいない。
野球部にいたっては、卒業した先輩の代にはなんと甲子園・春・夏2連覇を成し遂げプロ野球手を輩出した。
柔道部についても全国大会団体で3連覇、個人戦に置いても必ず3位以内入賞を果し10年前には現役高校生がオリンピックでゴールドメダルを取った。
その他、駅伝・ボクシング・ウエイトリフティング・等の部活があるが活躍は目覚しい。
ここで、一つ引っかかる事にお気づきだろうか?
何故こんなに、『文』も『武』も優秀な成績を治めているか?
答えは簡単だ、それは連れてくるからだ。
『特待生』
学費は、ランクによって違うが親たちには伏せられていた。
ここで、体育特待について説明しよう。
体育特待生にはランクがある。
A特待:入学試験免除・学費・寮費の全額免除。
B特待:入学試験免除・学費半額免除・寮費の免除無し。
C特待:入学試験免除ただし、学費・寮費の免除無し。
全ては大会記録及び個人の身体能力の高さで判断される。
様は強けりゃ良い、勝てれば何でも良いんだ。
二年前、俺はそんな私立尚甲学園・体育科に柔道部のB特待として入学した。
柔道を始めたのは中二の頃。
理由は、糞親父の暴力から逃れる為と近くの警察署でタダで教えてくれるっていうなんとも後ろ向きな理由。
別に…柔道が好きと言う訳では無かったが、受験をするには手遅れ過ぎる学力とあんな父親の家から早く出たいという思いから勧誘を受けて直ぐに二つ返事で入学を決めた。
まあ、入って直ぐに後悔したよ…だって地獄過ぎるから!
来る日も、来る日も、学校で寝て練習と言う名の地獄を味わい血反吐を吐く。
そんな毎日だった。
きっと、卒業までこんな感じだな…と呑気に思っていた。
が、そんな日常は突然終わりを告げた。
両親の離婚だ。
離婚に伴い、より一層金銭面で苦しくなった家計に俺の寮費を捻出するのは難しくなった。
それでも、母さんや婆ちゃんはこの二学期の最後まで何とか俺を寮に住まわせてくれた…だがもう限界だ。
『寮をでて実家から通いたいんです。』
そう、柔道部顧問に申し出た。
残るは卒業までの三学期の3ヶ月ほどだと言うのに、俺はあっさりと柔道部をクビになった。
無理も無い、部員数は100を超える柔道部その中においてB特待でありながら特に実績らしいものの無かった俺。
まあ…柔道部の部則には『部員は必ず寮に入ること』と決まりがあったし申し出る前から覚悟はあったとは言え______。
「ふう…」
俺は、クラスメイトのリアクションをみて浅くため息を付くと窓側の自分の席へ座った。
ひそひそとざわめく教室。
窓の外に目をやると、コンクリの壁が見えた。
「お前、柔道部辞めたんだってな? 今日は荷物でも取りに来たのか?」
机の前に、体重100キロは余裕で超えてる巨漢が立っていた。
180cmを超える長身が、にやつきながら俺を見下す。
『体育特待生が部活を退部した場合学校も退学する』
校則では無いが、それは『暗黙の
それをコイツは言いたいのだろう。
俺は、ニヤつく巨漢坊主を上目遣いに見上げた。
「え~! アンタぶぁか? 高校生活も残すところ3ヶ月くらいしょ~そんなときに部活辞めたていどでぇ~学校まで辞めないyo!」
静まり返る教室。
俺の態度に、一分刈りの坊主頭を青筋が覆う。
「恥ずかしくねぇのか…?」
恥? 何それマジ受けるw
「今って不況よ、ふきょー? お分かり? 意地やプライドで学校辞めてニートやるほど僕ちゃん家セレブじゃないから~『高卒』くらい取っとかないとヤバイ訳よ~おk?」
たぶん、俺の言ってる事なんて理解する気のさらさら無いであろう巨漢坊主は何か言いたげに口をもごもごさせるばかりだ。
キーンコーン。
カーンコーン。
チャイムが鳴った。
教室にいた生徒たちが、始業式の為体育館へ移動する。
「ほら、俺に構って無いで早く移動したほうが良いんじゃないか?」
俺の問いかけに、巨漢坊主は渋々歩き出した。
巨漢坊主の向ったほうには、中肉中背の坊主頭が三人。
三人そろってじろりと俺を睨みつけると、巨漢坊主と四人連れ立って教室を出て行った。
モザイクガラス越しに揺れる四つの頭を見送りながら、自分の髪を触る。
二学期中旬まで、俺もあんな感じの坊主頭だったが今じゃスポーツ狩りを少し伸ばした位になっている。
「ふうん…」
月日が流れるのは早いもんだ。
俺は誰もいなくなり間の抜けた教室にしばらくいたが、サボる気にはなれず体育館へと向った。
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