まあ、よくあること②

 始業式が終わり、通常どうり午前中の授業が終わって昼休みを迎えた。


 体育科クラスで、完全なアウトサイダーとなった俺に居場所など無い。


 重苦しい空気に耐えかねた俺は、二学期からお世話になっている”図書室”へ向うべく豪華な本館の階段を二段飛ばしで駆け上がった。


 図書室は、本館の最上階13階にある。


 エレベーターがあるにはあるが、基本生徒は使用を禁止されている為この糞長い階段を登るしかたどり着く術は無い。


 途中に倒れる力尽きたであろう特進科の生徒を尻目に、俺は余裕で階段を登っていく。


 僕ちゃん、体力だけはあるんです!


 ガラッ!


 俺は、図書室の扉を開けた。


 誰もいない。


 無理も無い…生徒の読書に対する自主性を促すには立地条件が悪すぎだ、あの糞長い階段登りきってまで訪れたいなんて思う生徒はそうそういない。


 大体、書籍なんて最近はダウンロードが主だしなかなか紙で本読もう何て物好きは少ないだろうから。


 お陰で、ここは僕ちゃんのブレイキングハートを癒す最後のオアシスとなっている。


 俺は貴重な昼休みを、木漏れ日降り注ぐお気に入りの席で迎えようと図書室に足を踏み入れ___。



 ドン!


 「かはっ!?」


 突然、みぞおちの辺りに衝撃を受けバトル漫画のような声を上げてしまった…自己嫌悪。


 「すっ、すみません! すみません!」


 可愛らしいアニメ声。

 

 元凶と思われる女子が、90度よりもかなり角度をつけながら頭を下げている。


 なにコイツどっから沸いたの?

 つか、それほぼ前屈だよね? 身体測定かよwwwwww



 「ダイジョブ! ダイジョブ! 兵器だじょー」


 「…ホントにごめんなさいいいい!」


 俺のアメリカンジョークは女子には伝わらず、更に頭を深く下げ怯えている。


 ow…軽く返すつもりがどうやら恐怖を与えてしまったようだne~ww


 「本当、大丈夫だから顔上げなってw」


 俺は出来る限り、普通に話しかけた。


 女子が恐る恐る顔を上げる。


 ち…小さい!


 え…何コレ小さくない? 150…145cm位…中等部か?


 色白の肌に、少々癖のある栗色の髪を二つに分けて緩く三つ網にして縁無しの眼鏡のから覗く瞳が今にも泣き出しそうに俺を上目遣い見上げている。


 「あ…のぅ…」


 それに、美少女アニメ声…キタコレ…。


 萌…萌えぇぇぇぇええええええええええええええええええええええええええ!!


 ビクッと、女子が体を強張らせる。


 おっと! いかん、イカン! オラの熱いパトスがほとば…何でもありません!



 「お、俺、高等部三年の玉城圭たまきけいごめんね! 怪我とかしてない?」


 怯える女子に、出来る限り興奮を抑えたつもりで自己紹介する。


 「…」


 あう…すっかり引かれてるぅ…。

 俺、結構たっぱあるし…つい最近までバリバリ柔道だったからムキムキだしぃ…幼女には刺激が強すぎるかもぉだけどぉ…凹むわぁ…。


 「…くす」


 「へ?」


 不意打ちエンジェルスマイル!?


 「ごめんなさい…大丈夫です。 私の方こそ良く見てなくて…」



 …なにコレ…惚れてまうやろ________wwwww


 その日から、俺の昼休みは薔薇色に輝いた。





 数日経ったある日の夕食。



 「ふんふんふ~ん♪」


 「なにキモイ…」



 自宅にて、鼻歌を歌いながら米を食む年上の従兄に渚が眉を潜めた。


 「兄ちゃん、学校で何かいいことあったんか?」


 けんがコロッケをかじりながら、興味心身に聞いてくる。


 今日は、『見知らぬ婆ちゃん』は寄り合いでいないし、おじさん達も母さんも残業で遅い。


 なので夕食をかこんでいるのは、爺ちゃんと俺、剣、渚、風の5人だ。


 「聞きたいか?」


 「うん! なになに!!」


 期待に瞳を輝かせる弟に、俺は満を辞して宣言する!


 「俺、彼女できたんだ! キラッ★」



 食卓の空気は、凍りついた。



 あれ? 何故?


 「ソレ、ホントに彼女?」



 眉間にシワを寄せながら、外道その①が疑惑の目を向けてくる。


 「……無理」


 外道その②も、それに続く。


 「マジで!? 彼女ってどんな感じ!??」


 弟よ、お前だけだ俺の味方は!


 「とくと聞いてくれ! 備瀬きみか《びせきみか》って言うんだ~メガネミニマム萌ボイス巨乳文学系年下彼女~二人の秘密の図書室~」


 「なんだ…エロゲーか…」


 「違げーよマジカノ!! 二次元違うから!! 現実だから!!!」


 お前までそんな目で俺を見るな!! マイブラザー!!


 ぐすん。


 飯がしょっぱく感じるぜぇ…。







 「つー訳で誰も信じてくんないの!」


 陽だまりの図書室で、俺はマイスイートハニーに愚痴をこぼした。


 俺の正面に座る彼女は、読んでいた本をパタンと閉じる。


 「私は気にしませんよ?」


 ぽちっとした桜色の唇で、にっこり微笑むマイスイート。


 キタコレ!

 迸るパトス!

 今日こそ少年は神話に________


 ガタン!


 「なんだ?」


 ちっ…折角いいとこだったのに…!


 図書室の扉がガタンとまた揺れる。


 「ナ…ナニ?」


 マイスイートが、不安そうに扉を見た。


 萌え。


 怯える顔も頂きましたぁ!!


 脳内に保存・脳内に保存・脳内に保存……。


 「何だ? 見てくるよ」


 キリッ★


 「気お付けて…」


 スイートに見送られ、俺は図書室の扉を勢い良く開けた!



 ガラッ!


 「あ”?」


 そこには、100キロは余裕で超えてる巨漢が汗だくで立ってた。


 ナニこれ…キモッ!!


 「玉城…ふしゅー……お前…ふしゅー……ここで…なに…ふしゅー……している…?」


 お前は、ダース●ーダーか!!


 100キロ超えにあの階段はきつかったとwww

 マジ受けるwww


 「お前に関係ナッシング! ほっとけ!」


 スイートとのハッピータイムを、進撃の巨漢に邪魔されたくねーですたい!


 「…部も辞めて……こんな所で油売って…後輩に示しがつかない…!」


 「あ”? それを俺に言ってどうするよ? ___柔道部主将の仲嶺一なかみねはじめ


 ビキビキと一分刈りの坊主頭に無数の血管が走る。


 「つーか、一体なんの用よ?」


 進撃の巨漢は、呼吸を整え俺を睨みつける。


 「いっ、いい気なモンだな!」


 「はぁ? ナニお前、そんな事言う為にあの階段登って此処まできたの? 暇なの?」


 俺が呆れたように背を向けると、巨漢の腕が肩を掴んだ。


 「待て!」

 「あ”?」


 振り返ると、巨漢が額から噴き出す玉の汗を拭いもせず俺を睨みつけていた。


 「お前…後、3ヶ月で卒業だぞ? それを…家庭の事情だか何だか知らないが最後まで『先輩』らしく振る舞え! お前が好き勝手に行動すればそれだけ『後輩』のモチベーションに響くんだ自覚しろ!」


 巨漢は『主将』として、俺を諭す。


 『先輩』としての責任ってやつか…確かにコイツの言ってる事は『正論』なんだろう…だから何だってんだ?


 「俺は、後輩の為に自分を犠牲にするほど人間出来ちゃいないんでね」


 僕ちゃん健全な男子高校生よ?

 おにゃの子と、図書館でいちゃつくくらいE~じゃん!


 しかも、至って健全なお付き合いですし!


 「…前々から、どうしょうも無い奴だと思っていたが…まさか此処までとは・・!情けない! だからお前の母親は旦那に捨てられるんだ!!」



 は?


 コイツ今、何つった!?





 驚く俺の顔を見て、ニタニタと巨漢が笑う。


 「正月中、お前の親父がウチの店に飲みに来てたんだよ」


 そういえば、コイツの家は居酒屋を経営していたな…ここら辺じゃ評判良く知らない者はいない。


 どうやらクソ親父は、自分が離婚された事を全て母さんに非があるかの如く話したのだろう。


 クソ親父が!


 捨てられたのはてめぇの癖に!


 「ちゃらんぽらんなお前を見て、良くわかったよ。 こんな風にしか子供を育てられない女は『離婚』されて当然だ!」



 頭の奥で何かが弾けた。


 俺は、右肩に乗るニヤつく豚の前足を素早く左手で払い振り向きざまに左手で豚の学ランの襟を掴む!


 そして、左足を豚の股に割り込ませ右手で豚の左足の膝裏を抱え一気に廊下の床にその巨体を叩き付けた!


 朽木倒し変形型くちきだおしへんけいがた


 俺の得意技。

 

 俺は、素早く起き上がり図書室に背を向けたまま扉を閉めた。


 こっから先は、マイスイートには見せれない。


 不意打ち+畳とは違うコンクリートの床に叩きつけられながらも、豚は後頭部を死守し完璧な『受身』をとる。


 流石、男子100キロ超級全国3位の男は違うね★


 「てめっ…卑怯…技をこんな事…に!」


 受身を完璧に取ったとは言え、ダメージはあるようで少し呼吸しづらそうにしながら豚は起き上がった。


 「お前…自分がなにやったか解ってんの?」



 豚が人語を喋ってる。


 ああ、お前は言っちゃいけない事言った。


 仮にそうだとしても、それはお前が言うべき事じゃない。



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