まあまあ、よくあること
まあまあ、よくあること①
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いや…まあまあ、よくある事っすよ。
初恋の相手が、10年前に教師と無理心中した女生徒の霊であったり。
身内だと信じていた爺ちゃんが、実は全然違う名前で尋ね人としてラミネートされてたり。
虫唾は走るくらい大嫌いな『命の恩人』から愛の告白を受けるなんてのはね…。
つかさぁ。
退院してからと言うもの、家の居心地が悪くてしょうがない。
普段通りの家族団らん。
いつもと変わらぬ日常。
『見知らぬ婆ちゃん』の漬物はいつも通りよく漬かっていて、『見知らぬ爺ちゃん』はいつも通り耳が遠い。
弟も外道シスターズも母さんも叔父さん達もポルターガイストも変わりない。
俺だけが違和感を感じている。
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ブツン!
壁際に追い詰められた俺の肩に、コンパスの針が突き立てられる
「っ…!」
いや…避けたから肩で済んだ、コイツは今確実に心臓を狙ってた!
学校帰り。
俺は爺ちゃんの『尋ね人』のポスターが他にも無いか捜索すべく、バスには乗らず傷の癒えない足を引きづり松葉杖を突きながらあの路地の周辺を歩いていると突然そいつは現れた。
背後からの殺気に思わず胸が高鳴ったが、振り向けばそこにいたのは俺と同じ学ランの男__。
いや、同じと言えば同じだが学ランの左胸に刺繍された校章の色が少し違う。
俺の学ランの獅子を象った校章の刺繍は『真紅』だが、目の前にいるコイツの刺繍は『紅』微妙な色の違いだがこの色の刺繍が施されていると言う事は…中等部か?
マイスイートかと思ったじゃん!
俺のトキメキ返せや中坊(死語)!
平均よりかなり背のある俺からしたら、かなり華奢で頼りない体格の少年がおもむろに口を開く。
「旧姓: 小山田
声変わり特有のハスキーな声が、俺の旧姓と新姓を確認する。
「は?」
余りに唐突な質問に俺は混乱した。
「間違いないですか?」
沈黙する俺に少年はかくんと小首を傾げる。
伸びすぎた前髪で表情は読み取れないし、何故か身の危険を感じるのに嘘はつけない雰囲気だ…。
「…ああ、確かにソレは俺の名前だけど___」
「始まして___」
少年の言葉が、被る。
「____そして、さようなら」
スパンと、子気味良い音と右足に走る激痛。
「てんめぇ…っ!」
少年の左足が俺の右足脹脛を捕らえ、薄っすら笑った顔が俺の怪我を知っていてワザと狙ったのを物語っている。
普段なら、コレくらい避けれたし食らってもどうと言う事は無かっただろう…だが今は…!
俺の体は、あっさりバランスを崩す。
ソレをあざ笑うように、少年は俺をコンクリの壁に突き飛ばした!
避ける間もなく壁に追いやられた俺が見たのは、いつの間にか少年の手に握られたコンパス___。
奴は、ソレをご丁寧に180度に開き問答無用に俺の胸…『心臓』目掛けてその針を真っ直ぐ穿つ!
俺は、認識よりも早く身を捩った事で心臓は死守したが____。
「…ちっ」
奴は、さも悔しそうに舌打ちをすると肩に刺さったコンパスを乱暴に傷の中で回転させた!
「でっ!」
「避けないで下さいよ、上手く殺せないじゃないですか?」
奴は、カクンと小首を傾げる。
「ふざけんな!!」
「ふざけてなんかいません、僕は無駄が嫌いなのでいつでも本気です」
なお悪い!!
ナニこの子!
サイコ入ってる!
え…何なの?
最近の中学生は行き成りコンパスで人を刺すの?
俺が、たった2日入院生活送ってる間に市内の治安がデトロイト並みに悪化したの?
「兎に角、動かないで下さい…安らかに死ねませんよ?」
そう言って、コンパスを引き抜こうとする奴の手を俺は素早く捕まえた。
ギリギリと、自分の腕を握りつぶさん勢いの握力に少年の顔が強張る。
「…そんな事言われて、大人しく従う馬鹿いるか!!!!」
俺は、松葉杖を放し自由になった右手の拳を握る。
少年は、掴まれた腕を外そうともがくがソレは叶わない…はは!
元柔道部の握力舐めんな!
俺は、腕を拘束したまま奴の顔面めがけて右ストレートを____。
「危ねぇ!
バキ!
側面からまさかの衝撃!
視界が少しぶれる。
なにコレ?
解せぬ。
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