まあまあ、よくあること②
が、突如として放たれた左頬へのストレートパンチの力は弱く俺は首の力だけを使って徐々に押し返す。
そして、行き成り乱入してきた第三者の顔を確認した。
「あ”?」
黒髪の短髪、黒縁眼鏡、『紅』色の刺繍の学ランを着た乱入男は、顔中に冷や汗を浮かべた。
「あ~…久しぶり~元気だった…?」
玉のような冷や汗を浮かべたまま、『あは★』っと笑うこの乱入男を俺は知っている。
「邪魔をするな!
「いやいや! だみだよぉぉぉぉ! 行き成りすぎるしょぉぉぉ!!! それ以前に人殺しダメ絶対!!!」
通り魔どもは、被害者の俺を挟んで言い合いを始めた。
「この男は、生かして置けない! 今直ぐ息の根を止める!」
「相手見て! 高校生よ? それも猛者の集団体育科の特待生よ! いくら怪我してるからって俺等じゃ無理…てか! 『殺人罪』って言葉知ってる!?」
「そんなもの、どうとでもなる」
「ならないよ! 無理だからね!」
なにコレ?
俺、被害者なのに空気扱い?
呆然とする俺を尻目に、なおも言い争いを続ける通り魔達。
「てめぇら…いい加減しろ!!!」
俺は、コンパス少年の腹に一撃を入れ地面に沈めると肩に刺さったコンパスを引き抜き遠くに投げ捨てた!
「ちょ! なに____ぐえっ!?」
俺に襟首をつかまれ、地面から少し浮き上がった通り魔その弐が情けない声を上げる。
「事情を説明して貰うぞ…
浩二と呼ばれた通り魔その弐は『ですよね~』、引きつった笑顔を浮かべる。
「うえっ…ビチャ…げほっ!!」
「うわぁ! 霧久がっ…!」
「ちっ!」
腹を押さえ嘔吐するコンパス少年を尻目に、俺は黒縁眼鏡を地面に降ろした。
「…ホント、久しぶりだね!
玉のような冷や汗を浮かべ、引きつった笑みをこぼすソイツを俺は真っ直ぐ淀んだ瞳で睨む。
「久々に遇った『いとこ』のお兄様を、お友達と二人で襲撃とは穏やかじゃねーな? 事と次第によっては容赦しねーぞコラ?」
「うえ!! マジ勘弁!」
この乱入してきた、黒縁眼鏡の名前は『
俺の『従弟』だ。
『小山田』と言う姓から察して頂くと早いが父方の身内でコイツの父親が俺の親父の兄にあたる。
制服からも分かるように、コイツは中等部…たしか二年生だっけ?
まあ、そんな事はどうでもいい。
今、問題なのは何故行き成り路上で中学生に命を狙われたかと言うことだ!
「つか、圭兄…本当に分かんないんだ…」
「はぁ? 分かる訳ないだろ? 一体何だってんだ?」
俺、今まで真面目に生きてきましたよ?
生きた人間に、命を狙われる覚えはありませんが?
「…昨日、圭兄…そこの路地で何してた?」
は?
浩二の問いに、俺の心臓が跳ねる。
昨日、俺はあの路地に爺ちゃんの尋ね人のポスターを確認し…剥がして懐に入れた…。
本来なら、その場で警察に連絡して爺ちゃんを引き渡して…ホントの居場所に返すべきだった…けど俺にはそれが…。
「圭兄はさ、霧久から『大事なモノ』を奪ったんだよ」
ゴクリ。
と、反射的に唾を飲む。
「流石に、殺すって言うのはどうかと思うけど霧久の気持ちは分かるよ…もちろん圭兄の気持ちもね…俺ならどちらも選べない…」
眼鏡のレンズを夕日が赤く染めたので、浩二の表情は読めない。
「ああ、でも相手が圭兄で助かったかも! 普通の人なら一撃で殺せちゃったからね~(笑) お陰で親友が殺人犯にならずに済んだよ! 流石、格闘技系の特待生は違うね~(笑)はぁ…俺のパーティーにも圭兄くらい強いキャラいたら攻略楽だったのにな~」
浩二は、うずくまるコンパス少年の下へ向かい苦痛に呻く背中を擦る。
「圭兄には悪いけど、この件に関して俺は霧久の味方だから…そこん所ヨロシク!」
年下の従弟は、ニヤリと笑って俺を見上げた。
「ほら、帰るよ~頑張って立とうな~」
浩二は、蹲るコンパス少年の肩を掴んだ。
「…僕に構う…ゴポッ!!」
顔面蒼白となったコンパス少年は、もはや黄色い胃液ばかりを嘔吐する。
「ほらほら~無理するから~」
そんな友人の姿を物ともせず、浩二は背中をさする。
「ほら、今日もう無理だから! 今度にしょう! な! 霧くん!」
浩二は、まるで小さ子供に言い聞かせるような口調でコンパス少年を諭す。
今度があんのか!?
冗談じゃネェ…!
「…構うか…今…すぐ」
肩を掴む浩二の腕を振り払ったコンパス少年は、覚束ない足取りでふらふらと立ち上がり俺に鋭い眼光を向ける。
俺は、思わず身構えた。
ガシ!
え?
「霧久___俺の言う事が聞けないのか___?」
目に飛び込んできたのは、浩二がコンパス少年の襟を掴んでいる後景。
俺のほうからは、浩二の後姿しか見えないのでその表情までは分からないが伸びきった前髪から覗くコンパス少年の瞳は見開かれ怯えのような物さえ感じる。
「…っく!!!」
コンパス少年は、乱暴に浩二の腕を襟から外すと俺の方を睨み付けふらふらと歩き去っていった。
「…ああ…クソ楽しい」
友人を見送る背中が、聞き捨てならない言葉を吐く。
ああ…そうだった、コイツはそういう奴だったよ。
ドsなオタク…いや、ドMをこじらせたドSなオタクそれが『小山田浩二』という少年だ。
きっと、あのサイコな狂犬も何らかの方法で調教済みなのだろう。
まだ若いのに、将来が心配だ。
「じゃ! 俺も帰るね! くれぐれも夜道の背後には気おつけて~あと、剣にもヨロシク言っといて!」
「お、おい!」
物騒な事を言いながら立ち去ろうとする浩二に、思わず声をかける。
「ナニ?」
「お前、何処まで知ってるんだ?」
黒縁眼鏡が、夕日に反射する。
「…知ってる事? そんなの圭兄が一番わかってんじゃん?」
曖昧な答えだけ残して、浩二は友人を追って足早にその場を去っていった。
「はぁぁ…」
通り魔…いや、暗殺者共が十分見えなくなるまで確認し俺はコンクリートの壁を背にその場に座り込んだ。
疲れた…壮絶に…。
気を抜くと同時に、ズクンとコンパスで刺された肩の傷が疼く。
「ちっ…」
厄介な事になった…何でだよ…爺ちゃん…。
あまりの事に、頭が追いつかずその場にしゃがみ込んでいると…遠くのほうからチリンチリンと聞き覚えのある音がしだいに此方に近づき俺の前で止まった。
「こんな所で何やってるか~?」
頭上から、気の抜けた声が降ってくる。
顔を上げると、目の前に30代前半の男の姿。
浅黒い肌に、土建業の作業員御用達のニッカボッカを着用し頭には白いタオルを鉢巻ののように巻いたその人は人懐っこい笑顔を浮かべている。
「博叔父さん…」
俺は、力なく笑う。
『見知らぬ婆ちゃん』の家で一緒に暮らしている『
母さんの弟に当る人で、小さい頃から何かと俺や剣の事を可愛がってくれて裏表の無いとても穏やかな性格の人だ。
母さん曰く、コレで仕事が長続きせずパチンコ癖が無ければパーフェクトなのに…との事。
そんな、博叔父さんは今日も仕事帰りにパチンコに行ったらしい。
背後に停められた愛車のママチャリの籠には、今日の戦利品がこんもりと詰まれている。
「大丈夫かぁ? 血ぃ出てるやしぇ!?」
俺の右足を見て、博叔父さんが声を荒げた。
あ…肩だけじゃなく、どうやら脹脛の傷も開いたらしい…。
「早く乗れ! 急がんと!!」
体格の大きめの俺を、博叔父さんは軽々と立たせママチャリの後ろに座らせる。
流石、土建業なかなかのマッスル。
博叔父さんは、俺に松葉杖を持たせると『落ちるなよ』と言って猛然とペダルをこぎ出した。
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