まあ、よくあること④
事実、その場では比嘉の奇妙な行動は一笑にふされたが…そこからが凄かった。
始まりは、見向きもされなかった”目安箱”に入った一通の依頼。
それを皮切りに、比嘉の下には様々な人が集う。
元々、ファンクラブなんて地盤がありそれも手伝ったのかも知れない。
集まる様々な依頼を、仲間と力を合わせ解決して行く姿はまるでどこぞのマンガやアニメの主人公そのもので遂には学校の外の問題にも首を突っ込みそれすらも解決してまわる。
『正義の味方』
いつしか比嘉はそんな風に呼ばれた。
そんな、『正義の味方』の最新ミッションは恐らく『家庭事情で部活を退部し捻くれた哀れなクラスメイトの更正』だろう。
嗚呼、うぜぇ!!
きっと、コイツを主人公にしたストーリーじゃ俺はへそ曲げた嫌な奴できっと最後に涙を流しながら『ありがとう』とか言ってハッピーエンドだ!!
おげぇぇえぇぇ!!
「……ねぇ! ちょっと! ねぇってば!!」
しつこく呼ばれ、俺はやっと脳内シェルターから引き戻された。
「何だよ?」
比嘉は、いかにも俺の事が心配ですって顔をしている。
「仲嶺の言った事なんか気にしちゃ駄目よ…」
ドクン。
と、心臓が跳ねる。
お前も十分地雷踏んでんぞ?
「私に力になれる事があったら言って…」
比嘉の真剣な瞳が、俺の無気力な目を捉える。
そうきたか…。
確かに、お前に願えば事は上手く運ぶのかもしれない。
きっと、その方が良いに決まってる。
けどな、その言葉だけは絶対に言わない。
「お願い…私、おやま…っつ…!」
比嘉が慌てて口を押さえる。
「ごめん」
比嘉が呼ぼうとしたのは俺の『旧姓』。
ま、二学期まではその名前だったのが行き成り『玉城』に変わったんだ無理も無い。
「めんどいから下の名前で呼べ」
そう言うと、比嘉の顔に眩しい笑みがこぼれる。
まて! まさか俺が心を許したとかそんな事思ってないよな?
「圭! 私、アンタの力になりたい!」
キラキラと瞳を輝かせ比嘉が、俺の手を取る。
ゾク…。
っと背筋に悪寒が走り、体中を鳥肌が覆い軽い吐き気を感じる。
ああ…きっとこれが、『虫唾が走る』って事なんだろう。
傍目から見れば、学校一の美女に手を握られるラッキー野郎にしか見えないんだろうな…。
俺が、『願い事』をするまで手を離さないつもりなのか比嘉はより一層力強く手を握ってくる。
不快で堪らないな…。
…仕方ない。
これは自分で調べるつもりだったが、あの言葉を言うよりマシだ。
「ホントに力になるんだな?」
「もちろん!」
「じゃあさ…一つ頼むわ」
………。
…………!
比嘉が呆けたような顔をする。
っぷwwwww
テラワロスwwwwwwwww
俺は、湧き上がる笑いを必死に封じ込め真顔を保つ。
その位、比嘉にとって俺の言葉は予想外だったようだ。
「…無理か?」
俺は、ワザとがっかりしたような表情を作った。
「え? ううん! 大丈夫よ! そのくらい朝飯前なんだから!」
比嘉は、明らかに狼狽している。
ふうん…数多の依頼をこなして来た比嘉でもこの手の物は初めてなんだろうか?
「備瀬きみか…さん…ね、分かった」
比嘉は、スカートのポケットからメモ帳を取り出すとマイスイートの名前を書いた。
「一年生で間違いない?」
「ああ」
さらさらとペンが走る。
恥ずかしい話。
マイスイートと付き合って一週間になるが、俺は彼女のメアドもクラスも専攻も知らない。
今日こんな事になって、怖がらせてしまい謝罪をしようにも成す術が無かった。
特進の一年クラスをしらみつぶしに探せば良いんだろうが、つい最近まで柔道漬のごつい体育科の3年生がそんな所をうろついたんでは返って問題に成りかねないし…何よりマイスイートに迷惑がかかる。
そこで、なにやら期待していた『正義の味方』にお望み通り『依頼』をかけた訳だ。
『一年に在籍している備瀬きみかのクラスと専攻を調べて欲しい』
いやぁ、馬鹿となんとかは使いようって言うだろ?
キーンコーン
カーンコーン
カーンコーン
カーンコーン
終業のチャイムが鳴る。
「じゃ、頼むな!」
俺は、メモを取る比嘉を残してその場を立ち去った。
比嘉、俺はお前が死ぬほど嫌いだ。
だから、お前が望むようなフラグは死んでも立てねーよ。
*****************
不慣れな、バスを二本乗り次ぎ俺はやっと家についた。
いやぁ、ムカつく一日だったなぁ。
ま、最後の比嘉の顔はマジ受けたけどなwwww
家に入ろうと、俺はドアノブに手をかける_______ん?
庭の方から、なにやら会話が聞こえる…。
俺は、家には入らずそのまま庭の方へ回った。
「あ、兄ちゃん! お帰り!」
縁側に、爺ちゃんと弟の剣の姿。
俺のほうをチラリと見て、直ぐに真剣な顔で爺ちゃんの手元に視線を落とす剣。
怯えてない弟を見るのは久しぶりだ。
「何やってんだ?」
「お守りだって!」
お守り?
近寄ってみると、爺ちゃんの手元にはハンドボール位ありそうな大きな貝殻が握られておりそれを太さ5mm程の細い紐で器用に縛っていく。
流石、元漁師! 紐扱いに慣れている!
まるで、SMに出てきそうな細やかな亀甲を貝殻に施す爺ちゃん。
俺も、習いたいなぁ……。
「兄ちゃん?」
「はっ!!」
い…イカン! 俺の煩悩が!
「あ、いや…貝殻で魔よけとか作れんだなぁってさ!HAHAHAHAww」
「これね、クモ貝って言うんだって!」
クモ貝…爺ちゃんが手早く紐をかける貝は、多分巻貝の仲間だと思うが長らく陸に放置されていたのか白っぽく変色していて縁には、7本の角のような突起がありなかなかゴツイ姿をしていた。
「これをね、家の前に吊るして置くと『魔物』が寄ってこなくなるって!!」
剣は、ものすごく嬉しそうに瞳を輝かせる。
弟よ…そんなに期待するのはどうだろうか?
「それにね! 見て見て!!」
剣は、自分の首に下げている物を俺に見せた。
それは、小さな直径3~4cm程の小さなクモ貝。
その、小さなクモ貝は細い真鍮で細やかな亀甲が施されそれが金色のボールチェーンに通されている。
「なにコレ!? かっけぇ!?」
「でしょ!! 爺ちゃんに造って貰ったんだ~」
爺ちゃんマジパネェ!?
あ。
「兄ちゃん?」
急に黙り込んだ俺に、剣が怪訝な顔をする。
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