第17話 誇り一つを胸に秘め
…―何を妥協しても譲れないものがある。
普段は白く明るい地下通路に警報が鳴り響き、赤く点滅して緊急事態が発生したことを伝えている。その中を飛び交う怒号と銃撃音。
襲撃者は自らの覚悟を示す様に、普段はあまり袖を通さない黒い上着を纏い、その全身を黒い制服で覆って奪った軽機関銃を手に、咆哮を上げながら引き金を引いて前進し続ける。
そんな彼らの額には紫色の宝玉が嵌ったコントロール・サークレットがあり、彼らが纏う制服とサークレットが彼らはセグヴァ・アルヴァリエ・スクールの学生なのだと告げている。
セグヴァ・スクールで個人専用のコントロール・サークレットが支給されている者。それは実戦訓練を受ける資格のある学生達であり、その大部分が最上級生である四年生だった。
彼らが撃ち殺しているのは昨日まで親しく話していた警備員、そして教官やスクールに残っていた卒業生達だった。
つい昨日まで教えを乞うていた相手を、今日彼らは撃ち殺す。自らの目的を果たす為に。何を譲ってもこれだけは譲れない。たとえ自らの命を散らしてでも、これだけは譲れない。
だからと、彼らは自らの前進を阻む者達を撃ち殺し、時には投げ飛ばして最奥を目指す。この先に在るであろうラグマ・アルタを目指して。
多くの同級生が死んでいく。…相手は自分達より遥かに実力が上だ。それも仕方の無い事なのだと、彼らは友人達の屍を踏み越えて更に奥へと進んで行く。
親しかった教官や卒業生達を撃ち殺し、多くの友人を撃ち殺され、それでも彼らは進む。このスクールを好きにさせない為に。武力に訴えてでもスクールの施設を占拠する。
これ以上理事会の好きにさせてはならない。…このまま何もしなければ、どのみち多くの友人や教官達を喪う事になるのだ。それだけは絶対に嫌だ。だからと、彼らは進み続ける。
何故このような事になったのか。たとえアルヴァリエになるのが強制であったとしても、それでもスクールでの生活は楽しかった。スクールに居る間は嫌な過去も忘れられた。
楽しかったのだ。…心の底から、本当に。
しかし、それはもう過去の事だ。友人の怒号や絶叫、銃撃音が飛び交う中、先頭を走っていた学生の一人が叫ぶ。急げ。残る武器庫は後三つだと。
その先にラグマ・アルタが収容されている格納庫がある筈だ。だからそこまではと、彼らは歯を食い縛って親しかった者達へと銃口を向けて撃ち殺す。
無残な屍となった者達を踏み越えて、真っ赤な血に塗れた地下通路を彼らは行く。だが、まだ涙を流せる時は遠い。まだ戦わなければならない。泣いている場合ではないのだ。
ここで自分達が大敗を喫すれば、武器庫と格納庫を襲撃した自分達は処分を免れないだろう。…従わない者は銃殺。残りの者達は戦地へと飛ばされて、おそらく二度と戻れない。
これが自分達だけであれば我慢できる。…でも、その下には下級生達が続いているのだ。自分達より遥かに未熟で、何も知らない下級生達。
彼らだけは守りたい。まだ彼らにはこのスクールで学ぶ事がある筈だ。
その機会を失わせてなるものか。…だからと、彼らはスクールの武器庫から奪った武器を手に戦い続ける。眼前で友人が撃ち殺されても、親しかった教官達を撃ち殺してでも。
自分達の後ろに続く下級生達を守る為に。アルヴァリエとしての誇りを守る為に。
絶対にラグマ・アルタを人殺しの道具になどさせるものか。我らアルヴァリエはそんな事をする為に在るのではない。…少なくとも、スクール所属の我らは違う筈だ。
だからと、彼らは地獄と化した血に塗れた道を行く。自らの理想と大きく懸け離れた現実に利用されないように。それを子供の愚行だと笑うのなら笑うが良い。
我らには我らの目指す道がある。その為ならば、敢えて今は手を汚そう。…いつかきっと現実を変えられる日が来る。そう信じて。
今は信じるより他に無かった。…乱闘を繰り広げながら彼らが進む度、その動きに沿って涙の滴が零れ落ちる。そしてそれを振り払うように咆哮を上げて前進し続ける。
まだ彼らに陽の光が差す日は遠い。それでも尚、彼らは光無き道を行く。…いつかきっと光が差す。ただそれだけを合言葉にして。
今はそれ以外に無いのだから。…もうそれ以外に方法は無い。もう無いのだから――。
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