第14話 スクールのアルヴァリエ
世界情勢が不穏に成りつつある中、やはりここセグヴァ・アルヴァリエ・スクールの中は平和そのものだった。…ただし、何も知らない下級生だけではあるが。
そうして第一セクターの周辺に広がるカラフルなパラソルの下、まさに平和を代表するかのようにお馴染みの人物が腰掛けていた。尤も一人欠けてはいるが。
燦々と照り付ける太陽の元、ヴェインとカイスはパラソルを日除け代わりに座っていた。ただし、二人の表情は陽気とは程遠く、沈痛な面持ちをして互いに有らぬ方を向いている。
男二人が澱んだ空気を発してテーブルに座るパラソル下とは大きく異なり、パラソルの上に広がる大空は実に良い天気である。雲一つ無い青天だ。
相変わらずヴェインの手元にはクマのぬいぐるみが置かれており、そこから青白い光が漏れて立体コンピュータを形成している。…しかも現在の彼は何故か普段より二割増しで強面。それなのにクリーム色をしたクマのぬいぐるみ。この似合わなさは実に素晴らしい。
まぁそんな事はどうでも良い。そうカイスは嘆息しつつ、飲んでいたソーダ水のストローから口を離す。…因みにグラスは持ち上げていない。口だけ動かして飲んでいたのである。
そして微妙におかしな雰囲気を互いに発している原因を指摘するかのように、カイスは情けない表情を浮かべつつヴェインに言うのだった。
「…あのさ、ヴェイン。さっきから指が全然動いてないよ? どうせ何もしてないんだろ? だったらさ、諦めて電源落としなよ。僕の眼にはカモフラージュにしか見えないんだけど」
そう呆れ交じりに言われて、指だけを立体キーボードに沿えていたヴェインはぴたりと動きを止めて、眉間に更なる皺を寄せながらカイスへと言っていった。
「そういうお前こそ。物を飲む時はせめてグラスを持て。…無作法だぞ」
「…うっ」
ヴェインから手厳しい指摘をされて、カイスは何も言い返せず言葉に詰まってしまった。だが互いに指摘し合ってもやはり指を動かせず、そのまま微妙な雰囲気が流れ続ける。
二人が手や指を動かしたがらない理由。それは先日二人が犯した校則違反にあった。先日アキラから発信された救難信号の事を知り、これから実戦訓練だという上級生達に無理を言って、訓練機であるラグマ・アルタに乗せて貰った事がばれてしまったのだ。
その所為で二人は一週間もの謹慎処分を食らい、学生寮にある自室で先ほどまで大量に出された課題をこなしていた。…そうして現在、二人はようやく陽の目を拝めたのである。
しかもこの課題、今時珍しくも手書きが条件だったのだ。数十冊も出されたノートに一体どれだけペンを走らせただろうか。あの時の事を思い出すと全身が震えそうである。
利き腕は数日前から腱鞘炎を訴え始め、しかしどうにか湿布だけで回避する事が出来た。だがあの時の事を思い出すと、何故か極度の疲労と鈍痛が蘇って来るから恐ろしい。
そういった事情でヴェインはコンピュータを全く操作できず、カイスもまたソーダ水が入ったグラスを持ち上げられず、口だけを動かしてストローを銜えて飲んでいるのである。
全く持って情けない限りである。あれしきの課題で音を上げてしまうとは。
だがそんな事よりもと、カイスはソーダ水を一口飲んだ後でヴェインへと訊ねていく。
「…まだ理事会から連絡は来ないの? あれからかなり経つのに――」
二人が無断で訓練機を使用した事が発覚して三日後、二人は一週間もの謹慎処分を言い渡された。そして次の日、ようやく外に出られた二人はこうして登校を許されたのである。
つまりは、である。あれから十日以上経過しているのだ。…それなのに何も無いなんて。
そう不安そうに漏らすカイスの言葉を聞いて、ヴェインはディスプレイから顔を上げて頭を振りながらそれに答えていく。
「まぁ仕方あるまい。どうせ応じる気など無いのだ。何といっても相手はガイア諸国連合軍。それだけなら良かったのだが、あの時現れたラグマ・アルタの所属先が悪かった」
「所属先?」
不思議に思ってカイスが訊ねると、ヴェインは頷きながら話を続ける。
「ああ。…あの特徴的な色が幸いした。あの機体はガイア軍の中でも悪名高い部隊の所属だ。紅焔の狼と言うそうでな。紅焔の狼は遊撃部隊という性質から何処にでも現れる。…そして相手が先の戦で多大な損害を被っていようと容赦せず、根元から破壊していくそうだぞ」
そんな凄まじいヴェインの説明を聞いて、カイスは「うぇ」と変な声を出して言っていく。
「何だよ、それ。…滅茶苦茶ヤバい連中じゃん。…アキラはどうしてそんなのに態々捕まるのさ。せめて捕まるならもっとマシな連中に捕まれば良いのに」
「…いや、捕まること自体がどうかと俺は思うぞ?」
思わずヴェインはそう突っ込んでしまい、まぁ確かにと漏らしつつ説明を続ける。
「そしてこれは余談なのだが、どうやら急激に戦況が変化しつつあるようなんだ。それまで拮抗していた戦況が突然クェリス軍…つまり多国籍軍側に傾き、イスヴァニア軍側であるガイア諸国連合軍が北に追い上げられている。…話はここからが重要なのだが」
「なに?」
何故かヴェインはそこで言葉を切り、体をカイスの方に傾けながら小声で続けていった。
「戦況が激変した原因だが、スクールにあるのではないかという噂が立っている。…しかもこの噂、前線の兵士達―特にガイア諸国連合軍側の兵士が言っているようなんだ。この流れからするに、俺は理事会が一枚噛んでいるのだと思う。…何処のスクールの理事会かまでは分からんが、そう考えるのが自然だろう」
「…って、冗談だろう? だってその戦争、国同士の戦争じゃないか。相手はガルーダじゃないんだよ? スクールはガルーダを追い払う為に在る。その筈なのに――」
信じられないとカイスが漏らすと、ヴェインもそれに頷きながら言っていく。
「俺だってそう思いたいさ。…だが、可能性としては濃厚だと思う。もしそうだとすれば、アキラの件に関して何の返答も無いのも頷ける。そんな悠長な状況ではないからな」
「だからってそんな――」
そんな理由で学生を見捨てるのか。…そうカイスが言い掛けた時である。いきなり横から華奢な腕が伸びて来て、カイスのソーダ水を持ち上げてガバガバと飲み始めたのは。
「…あ、あの?」
しかし相手はそんなカイスの言葉に耳を貸さず、音を立ててソーダ水を飲み続けている。そしてグラスが空になると、持っていたグラスをテーブルに置いて満面に微笑んできた。
「ぷは~っ! …あ~、生き返ったわ。有り難うな、そこの綺麗なお姉さん!」
「「……」」
突然現れたボーイッシュな少女(だと思う)からそう言われて、咄嗟に二人は反応できず沈黙していた。だがヴェインは少女から発せられた言葉にはたと気付き、眼を瞬かせながらカイスを見つめていって「…お姉さん?」と思わず呟いていた。
するとカイスもようやく我に返り、怒りで顔を赤らめさせながら少女に言い返していた。
「誰が「お姉さん」だよ! 僕は男だ。お・と・こ! 見れば判るだろ!」
だが少女には意外だったのか、「え?」と声を上げてマジマジとカイスを見つめていき、只管と唸りながら首を傾げて残念そうに漏らしてくる。
「…え~。チョー残念やな。…勿体無い。こんなに美人やのに男やなんて詐欺やわ。…あ、何ならこれを機に性転換したら? 今時珍しくないし、あんたなら絶対モテるって。うちが太鼓判を捺したるわ。…うん、間違いない!」
何故か嬉しそうにとんでもない事を言われて、最早カイスは項垂れるしかない。ヴェインは少女の発言を聞いて懸命に笑いを堪えており、どうにか笑い声を漏らさないよう必死だ。
カイスはそんなヴェインに肘鉄を食らわせていき、続いて少女へと改めて言っていった。
「別にモテなくても良いよ! …もう、変な太鼓判を捺さないでよ。あれ、そういえばさ。君が着てる制服ってここのじゃないよね。…確かその制服ってユーライア・スクールのじゃなかったっけ? でもさ、確かユーライアって――」
そうカイスが言い掛けると、その言葉を引き継ぐ様にヴェインも言っていく。
「ああ、ここより遥か北の大地。ノア大陸に在るゲルド渓谷の中にある筈だ。それが何故」
「…あ~、まぁな。よう知っとるな」
少女は居心地悪そうに漏らすと、胸の奥底から吐き出す様に溜息を付いていった。少女が着ている制服はセグヴァ・スクールの物とは違い、全体的に厚手でどちらかといえば戦闘服に近い形状をしていた。下は黒皮で複数のポケットが付いたズボン。そして同じ黒皮をしたジャンパーに白いタンクトップ。因みに首からはドッグタグらしき二枚の認識票。
…間違いない。彼女が着ているのはユーライア・アルヴァリエ・スクールの制服だ。
小柄な体に似合わない物々しい制服ではあるが、彼女が醸し出す雰囲気と何故か合っているから不思議だ。そして少女は短く刈り上げたオレンジ色の髪を揺らしつつ、「…なはは」と困り顔で笑いながら青い双眸を揺らしている。
だがしかしと彼女は表情を引き締めていき、二人が座るテーブルへと着きながら周りに聞かれぬよう声を潜めながら二人に言っていった。
「…あんたらな、何こんな場所でとんでもない話をしてんねん。こんな人通りの多い場所で物騒な話をして、もし誰かに聞かれたら事やろ。下手したら殺される。幾らここがスクールでもヤバい事には違いないんやから気を付けなあかん。…ええな?」
「「……」」
そう言われて、思わず二人は顔を見合わせていた。確かに穏やかな話はしていなかったが、だからと云って殺される事は流石に無いだろう。ただ世界情勢の話をしていただけなのに。
そんな二人の様子を見て、少女はもしやと顔を顰めていた。そして仕方ないと深々と溜息を付いていき、二人の頭を無理やり掴んで引っ張り寄せて小声で喋り始める。
「ええか、よく聞けよ? うちが通ってたユーライアな、もう授業を受けられんのや」
まず先にと少女がそれだけを告げると、ヴェインは眉根を寄せながら思わず言っていた。
「…ああ。もしかしてお前、アルヴァリエに成れなかったのか? 時々あるらしいからな。身体検査をクリアしたのに、移植したモナド細胞が消滅してしまう例が。なら仕方ないな」
「ちゃうわ、このボケッ!」
ある意味大変失礼な物言いに、少女は即行で突っ込んでヴェインの頭を叩いていく。だが自らに言い聞かせる様に頭を振っていき、少女は眉尻を跳ね上げながら話を続けていった。
「ホンマに失礼なやっちゃな~。…人の話はよく聞くもんや。授業どころや無くなったんや。突然全員に自分専用のコントロール・サークレットが配られてな。操縦する訓練機まで割り当てられたんや。…まだ半年しか授業を受けとらん一年生にまでやぞ? おかしいやろ」
「それは…確かに」
苦々しくヴェインが言うと、「やろ?」と頷きながら少女は続ける。
「しかも出撃先はイスヴァニア王国内。基本的に学生は足を踏み入れられん地域や。うちら学生は危険区域に指定されてる地域には入れんからな。…そんで帰って来た先輩達の顔は真っ青。これは何かあるぞってなって、一部の者で結託してスクールが管理するサーバーに侵入したんや。そうしたら大変なもんが出て来てしもうた。そんなもあってうちはここまで逃げて来たんや。これはやばいって分かったからな。…もう分かったやろ。悪い事は言わん。あんたらが話しとるのはそういう内容や。誰かに聞かれたら大変や。まだ死にたくないやろ」
「「……」」
ある意味強烈な内容に、ヴェインとカイスは自らの表情が強張っていくのを感じていた。だが、少女が言わんとする意味は嫌というほど理解できた。…だからこそ余計に怖かった。
少女の話は先ほど二人が話していた内容と通じていた。おそらく少女は偶々近場を歩いていたら二人の会話が聞こえたら、親切心で実情を教えてくれたに違いない。
でもこれで分かった。…どれだけ待っても理事会から返答が来ない理由が。ユーライアが何らかの理由でスクール協定を破り、その為にセグヴァの理事会も荒れているのだろう。
それにしても今更な話だと、思わず二人は呆れた瞬間だった。確かに多くのアルヴァリエを輩出するスクールには様々な制約が課せられている。それこそスクール協定だ。
協定があるからこそ、何処のスクールも表向きは戦争に加担できなかった。…だからこそ卒業したアルヴァリエを各地へと派遣するという名目で各国へと買収し、知らぬ間に買収されたアルヴァリエは相手国の命令に従うしかない立場に追い遣られるのである。
お馬鹿なアキラは知らなかったようだが、情報収集が得意なヴェインはスクールに入学する以前からそれを知っていた。カイスも然りだ。
まぁアキラの場合は戦争孤児として施設で育ったようなので仕方ないかも知れないが、戦争の無い土地で育ったヴェインが知っているのは流石と言えよう。因みにカイスの方は紛争が絶えない地域で育ったらしいが、彼自身はエリート軍人の家に生まれた為、スクールの内情はむしろ常識の範囲だったと言う。…だがそれにしてもと、二人は思う。
三人の中で最も戦争を嫌っているであろう人物が軍に捕まっている。あまりにもそれは皮肉な話であり、滑稽とすら思える事だった。
アキラの左腕には古い傷痕があった。…あれは明らかに戦争で負ったものだろう。だからこそと、二人は密かに決意する。助けたいと思うのが友達じゃないか、と。
全く以って気恥ずかしい理由ではあるがと、二人は突き合わせていた顔を離していって、同じように座り直している少女に向かってヴェインは言うのだった。
「忠告感謝する。だが俺達にも譲れない事情がある。本当はな、俺達はいつも三人なんだ。三人でここに座って、いつも三人で馬鹿話をしていた。…だから迎えに行ってやらなければならないんだ。あいつと約束したからな」
「……」
そんなヴェインの言葉を聞いて、カイスは寂しげな顔をしていた。そして言葉を引き継ぐべく、苦笑しながら視線を少女へと向けていった。
「その三人目からね。…「待ってる」ってそう言われたんだ。僕達が迎えに来てくれるのを待ってるからって言われたんだよ。だからさ、迎えに行ってあげたいんだ。その三人目をね」
「…あんたら」
まさに冗談にならない話をされて、少女は思わず絶句していた。だが二人の眼差しが真剣なものだと分かると、少女は深々と溜息を付いて諦めるように言うのだった。
「…成程、忠告するだけ無駄やったって事やな。それにしてもあんたら、豪気やね。その話からするに、多分その三人目が居る場所は――」
おそらく先ほど話した危険区域の事であろう。暗に少女が告げると、ヴェインとカイスは無言で少女の言葉に頷いていく。
少女はそれを見て、仕方ない数度目になる溜息を付いていた。そして諦める様にテーブルを立ち掛けて…何故かヴェインに片腕を捕まれて立ち止まるしかなかった。
「…って、なんでうちの腕を掴むねん」
「まぁそう急ぐな。ほら、ここのメニュー表をやろう。好きなものを頼め」
「はぁ?」
突然ヴェインから変な事を言われて、少女は素っ頓狂な声を上げていた。そんなヴェインの行動をカイスは理解したらしく、満面の笑みを浮かべて自らも少女へと言っていく。
「そうだね。折角だし食べていきなよ。ここは僕達が奢るよ?」
「…って、あんたら。もしかして――」
少女はようやくここで気付き、嫌そうな顔をして苦々しい声を発していた。だがこのまま逃げられる筈も無く、親切心で関わってしまった自分を呪うしかなかった。
やがて少女は長々と溜息を付いていき、ヴェインが差し出しているメニュー表を乱暴に毟り取っていって、ならばと腰を据えてメニュー表に眼を通し始める。そして言うのだった。
「…ホンマに何でも良いんやね?」
「「……」」
にやりと笑いながら告げる少女の様子に、何故か二人は嫌な予感を覚えて沈黙していた。すると少女は捲し立てるようにデザート欄の商品を右から左へと読み上げていき、それを聞いたヴェインが慌てて「おい、一つずつ頼め!」と透かさず制止していく。
言われて少女は「…仕方ないなぁ」と諦めて、ならばと三つほど読み上げてヴェインへと無言で要求していく。つまり「買って来い」である。
ヴェインは仕方ないと席を立ち、建物内にある学食へと向かってしおしおと歩いて行く。そんなヴェインの後ろ姿を見て、少しだけカイスが同情したのは言わずもがなだ。
だが少女はからからと笑いながら「うちを買収するんやったら、この程度はせんとな」と胸を張りながら言っている。…ここでカイスは少しだけ思った。女性を買収する為に食べ物を選んだのは間違いだったかも知れない、と。
しかも彼女もアルヴァリエだ。普通の女性と胃袋の大きさが同じだと思わない方が良い。そう今更に気付きはしたが、当然ながら後の祭りだった。
そうしてヴェインが戻って来るのを二人で待ちつつ、カイスは思わずと云った風に己の心情を語るように少女に向かって話していた。
「僕らだって本当は分かってるんだ。…スクールを卒業したら離れ離れになる。そして次に会う時は敵同士かも知れない。だから今くらい良いじゃないかって僕は思うんだ。…でもね、その三人目はちょっとお馬鹿さんでさ。そんなこと微塵も考えてなさそうなんだよ。ずっと友達で居られるって思ってる。…そりゃ馬鹿だなって少しは思うよ? でもさ――」
「……」
悲しげにカイスから語られて、少女は成程と納得しながらカイスへと言っていた。
「好きなんやね、その三人目さんが。やったら胸を張ればええやん。誰も責めたりせんよ。こんな情勢下や。誰か大切に想える人が居るのは凄く幸せな事や。それに学生であるうちらの世間的な立場は「スクール所属のアルヴァリエ」や。つまりは、や。うちらは地上を守る守護者であり、人々を救い導く救世主なんや。そんなうちらが友情を貫いて何が悪い。誰かに文句を言われる筋合いはない。危険な場所に居る友達を救い出す。それだけや」
「…、うん。ありがとう、ありがとう。本当に――」
涙ぐんでカイスが言うと、少女は慌てて「ええって!」と恥ずかしそうに赤面していく。だがヴェインもカイスも、少女の善意がどれだけ有り難いか嫌というほど理解していた。
これだけ危険を孕んだ情勢下で下手に動けば、おそらく今度は謹慎処分程度では済まされないだろう。…最悪の場合、その場で命を落とす事も覚悟しなければならない。
それなのにとカイスが涙ぐんでいると、少女が険しい顔をして頭を振りつつ言ってくる。
「うちらスクールに所属するアルヴァリエこそ真のアルヴァリエであり、あんな気狂い共が真のアルヴァリエである筈が無い。…卒業したあいつらは人をどれだけ殺しても何とも思わん。うちらは軍の狗に成り下がった屑共とは違う。あんたもそう思わんか」
「…うん、そうだね」
全く以ってその通りだとカイスが頷くと、少女はそれに満足げに微笑んでいく。そうして大きなトレーを手に戻って来たヴェインを見て、少女は眼を輝かせて諸手を上げていく。
因みに少女が注文したのは「チョコバナナクレープ」「モンブランケーキ」「抹茶&チョコパフェ(特大)」であった。…見ているだけでも胸焼けを起こしそうな内容である。
しかし、これからが本番だった。彼女は見る間にそれを平らげていき、次々とヴェインに新たなデザートを注文していく。そして気付いた時には十品目近くに上っており、手元には食べ終えた食器や包装紙だけが残された。
だがそれでも足りなかったらしく、更にヴェインへと頼もうとした所で「もう止せ!」と二人から止められてしまい、彼女は不満そうにしながらも食べるのを止めたのだった。
こうして彼女―リィナ・アスタロトを交えた二人はすぐに作戦を練って、直ちに実行へと移すべく決行日の取り決めを始めていく。
しかし彼女から名前を聞いた際、何となく彼女と名前が不釣り合いに感じたヴェインは思わず「名前は可愛いのにな」と漏らしてしまい、直後に彼女が繰り出したエルボーに彼が伸されたのは言うまでもない。
…因みにカイスは、その光景を呆れ顔で見つめるに留めた。
やはり君子は危うきに近寄らず、であろう。そうしみじみ思うカイスなのだった。
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