なに読んでるんですか?
セリーナさんの治療法を模索し、かなりの時が経ったが未だ治療法は見つかっていない。時を追うごとに、薄まっていく自信。
医療魔術師として、手も足も出ない。その事実がのしかかってきて、苛立ちは増す。そして……仮に治せなかった時は……オータムに……
「うわあああああああああああっ!」
「ど、どーしたんですかジーク先生!」
バカラ帝国国立図書館で、右隣に座っているサリーがびっくりしたの表情をしている。
「はぁ、はぁ……夢か……」
嫌な夢だった……オータムにボッコボコに殴られる夢。
「……要するに寝ていたわけですね?」
左隣のオータムが満面の笑みで問いかける。
結果、正夢。廊下でボッコボコ。
「ちゃんと調べてくださいよ! そのために、シフト開けたんですから」
ひとしきり俺を殴り終えたオータムがため息をつく。
ロスとオータム、そして俺がいない診療所にはロスとザックスがアリエたちと奮闘している。バカラ帝国国立図書館は診療所から三日掛かる。本当はロスと俺が来るのがベストだったが、さすがに2人同時には抜けられない。1週間毎に、手分けして行き来している状態だ。
「しかし……なんだ、この膨大な書籍の数は」
そう言って辺りをぐるりと見渡す。
本、本、本。至る所に本しかなかった。
「さすがは大陸一の図書館ってとこですかね。燃えてきました」
元バカラ帝国出身のサリーは、両手に拳を握って本を漁る。彼女は元々かなりの読書家だ。医療書の類しか読まないオータムとは違って、様々なジャンルの本を読破している。
「……って、サリー。それ持ってるの歴史書じゃない」
オータムは、目敏く指摘。
「あらっ? ヒントが隠されているのは医療書だけじゃないと思いますけど。バカラ帝国初代皇帝はタイム・ア・ルーラの能力者だったって逸話もありますし。案外そういうところから、治療法って見つかったりするんじゃないですか?」
とサリーがキチンと反論。オータムはその真っ当さに反省する形となった。
「ところで、ジーク先生は、なに読んでるんですか?」
サリーが興味深げに近づく。
「えっと……恋愛小説」
・・・
「ふっ……違うぞ、オータム。俺は単にこれが読みたいから読んでるんじゃない。サリーと同じだ。発想の転換。これは、医療魔術師と患者とのラブ・アバンチュール物語。こういう架空の病気を治療する医療魔術師モノを読むことによって実際の病気と照らし合わせて治療法を発見しようという俺の壮大なこころみーー」
即刻の半処刑。公開でボッコボコ。
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