治療法を探せ
すぐに、セリーナさんの治療対策の検討に入った。とは言っても、朝はいつも通り患者の治療を行って、夕方にセリーナさんの触診を思い浮かべて糸口を模索する。一度触診しただけだが、あの感触は忘れられない。どこを触っても魔力がどこにもない。その時は、鳥肌が立っていたが表情には出さぬよう必死に抑えていた。
今、想像して数パターン治療に入る。
まず、自分にある魔力をすべて注ぐパターン。一瞬、爆発的な魔力を注ぎ込むショック療法。それで、何らかの反応が出るようだったらそこから探る。
「どう?」
そうロスに尋ねる。
「……うーん。望み薄じゃないかなぁ」
「やっぱりか」
思わず目を開けて唸る。
ロスには仕事終わりの一時間、治療法の相談に付き合って貰っている。
診察をしたのは俺だけなので必然的にサポート側に回っているが、今回の場合は知識量で上回るロスの方が適任なのだろう。
「じゃあ、魔力のない治療法でやるとかっ!」
「……魔力のない治療法って?」
・・・
翌日、
「あっ、すいません。忘れてください」
その瞬間、嫌な沈黙が流れた。
確かに一日考えた末、何にも思い浮かばいことをぶちまけたのだからこんな空気にもなる。
「なんか……兄さんって行き当たりばったりだよね」
ロスがグサリと刺す。
そうなのだ。今まで、患者の治療は山ほど行ってきたが座学などほとんどしたことがない。あくまで、膨大な患者を診てきたからその知識不足をカバーしたに過ぎない。
「ねえ、やっぱり僕らの知識だけじゃ限界があるよ。このノアシュタイン城の書物はすべて把握してるし」
「え゛っ!? あれ、全部?」
城内には書物庫があり、小規模の図書館と変らぬほどの規模を誇る。
「うん。だからさ、バカラ帝国国立図書館に行ってきなよ」
「バカラ帝国国立図書館……」
聞いただけで頭が痛くなってくる。
『そこに歴史の全ての事柄が描かれている。そんな場所を創ろう』かつて、バカラ帝国建国者のシルヴァ=ローザリオンが提唱し建設を指示した。そんな彼の意志を引き継いでいるその図書館は、大陸最大の規模を誇る。
本か……読むと最初の5ページほどで睡魔が襲ってくると言うあの本か。
「ちょっと、考えてみる」
そう、濁してロスから逃げた。
・・・
「……なに、寝てるんですか?」
目をあけると、オータムが天使のような微笑みを浮かべていた。
「いや……その……ロスが帝国国立図書館に行った方がいいって言うから、試しにこの書物庫で医学書でも――」
「を! 枕にして寝てたんですか?」
「……」
「……」
ギャー―――――――――!
「痛い痛い! ヘッドロック痛いって!」
「なんで寝てるんですか! 睡眠学習ですか! 帝国国立図書館にわざわざ眠りに行くんですか!」
「痛痛痛痛痛っ―――――――! 目が覚めました! 凄く覚めましたこれ以上ないくらい目が覚めました!」
「いいえっ! あなたは目が覚めてません。生まれた時からずっと目が覚めてません! この前のカッコイイ言葉はなんだったんですか! 私がどんな想いでみんなのスケジュール調整したと思っているんですか!」
そのヘッドロックは俺の脳天をこれ以上ないくらい刺激する。
と言うか、並の人間だったら確実に死んでるぞこれ。
「すいませーん! これ以上ないくらいすいませーん!」
・・・
「と、いう訳で帝国国立図書館には行きません」
「……なにが、という訳なのか全然わかっていませんが」
ロスがこれ以上ないくらい冷たい目で見る。
「だ、だって睡魔が! 医療書読むと睡魔が!」
「……はぁ。まあ、兄さんって医療書読み耽るって性質じゃないしね」
ため息をつきながら、ロスは納得する様子をみせた。
……いったい、何度目だろうか。できのいい弟にガッカリされたのは。
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