決着はジャイアントスイング


 グリスとジャシャーンの死闘はそれから三〇分ほど戦い続けた。何回も魔法壁を破ってジャシャーンに攻撃を仕掛けるが、その度にジャシャーンは新しい魔法壁を張る。そして、強大な魔法を次々とグリスに浴びせていく。


 一方、俺はサシャと共に応援しながらお茶をしている。


「ジーク先生ぇ、デザートいかがですか?」


「あっ、ああ。ありがとう」


 そう言って綺麗な小箱に入ったアイスを取って食べる。


 グリスとジャシャーンが闘っている最中、こんなにくつろいでいいものか大いに疑問はあるが、唯の性悪不思議娘であるサシャと戦う気にはなれない。そうなってくると、やることは観戦ぐらいしかない。


 二人の対決は、徐々にグリスに傾いていく。さすがは無尽蔵のスタミナと鋼の肉体を持つゴブリンだ。ジャシャーンの強力な魔法を何発もまともに浴びているのに、怯まず魔法壁を力づくで叩きつぶしていく。


「はぁ……はぁ……さすがは、グリスじゃのう。恐ろしいほど頑丈な奴じゃ」


 息をきらしながら、ジャシャーンが笑う。


「ぜぇ……ぜぇ……あんたの地獄のようなシゴキのおかげだよ。新人の俺に容赦なく炎だ氷だ雷だと浴びせてきやがって」


 グリスは息をいきらしながらも不敵に笑い返す。奴はかつてジャシャーンと共にノーザル防衛団で働いていたらしい。恐らくその時のことだろうか。


「ふぉっふぉっ……頼もしくなりおって。しかし、ワシも今回の武闘会は負けるわけにはいかん……負けるわけにはいかん理由があるのじゃ」


 そう言ってかつてないほど両手に魔力を込め出すジャシャーン。


「くっ……かつてないほど本気だなじじい」


「当たり前じゃ! このワシのデリケートゾーンにやっと一筋の光明が……この機会、逃すわけにはいかんのじゃ!」


 じ、じじいも毛生え薬を狙ってやがったのか。

 ジャシャーンは、先ほどの数倍ほどある炎の塊を両手から発生させた。


「極大灼熱魔法サウザントフレア……これを喰らえば、いくらグリスだろうと一瞬にして灰と化すじゃろう」


 ……なんつー恐ろしいじじいだ。その魔力もそうだが、自分のデリケートゾーンのために、かつての同僚を殺すことも厭わないとは。

 しかし、グリスには申し訳ないが、その気持ちは痛いほどわかる。


 対するグリスはさして動揺を見せず、その鋼の肉体を益々膨張させて完全防備態勢を取った。


「耐えて見せる……じじいの魔法が勝てば、死。耐えられれば俺の勝ちだ」


 さすがは……戦闘民族。強敵に血が沸き立っているようだ。


「ほほっ……ではいくぞー! 極大灼熱魔法サウザントーー」


 ジャシャーンが叫び、大きく手を振り下ろそうとした時、急に崩れ落ちて倒れた。


「……ったたた……ギックリ……腰が……」


 そう言いながらうめき声をあげるジャシャーン。


 ……とにもかくにも、ジャシャーンには勝った。


「た……助けてくれー!」


 誰が助けるかくそじじい。

 ジャイアントスイングで容赦なく場外に放り投げた。


 さて、残りはサシャだけだが……こいつは果たして戦う気があるのだろうか。


 サシャはしばらくジャシャーンのもだえ苦しむ様子を眺めていたが、やがてこちらを向いて笑った。


「さぁて、サーシャが……いっけない、それは秘密だった。サシャがあなたたちのお相手をします。ウフフフフ」


 ……なにが?


「えい! えい! やぁ……はぁ……はぁ……やぁ! とぉ」


 そう言いながら俺に向かって黒魔術をかける……が、全然効かない。


「……ふぅ、くだらん。さっさと片付けろジーク」


「ええっ! お、俺がやるの?」


「他に誰がいる?」


 そう言い捨ててグリスは場外へ出て腕を組む。

 ……ううっ……俺が女の子を倒すの? 

 サシャは未だに一生懸命俺に黒魔術をかけている……つもりなのだが、ダメージは哀しいほどに、ない。


「じゃあ……ほい」


 かるーく魔法をかけたつもりだった。常人が数メートル吹き飛ぶ程度の。しかし、サシャは予想以上に魔法防御がなかった。一〇メートルほど吹き飛び、場外の壁に叩きつけられた。

 な……なんでここに来たんだこいつは。


 一向に起き上がらないサシャ……そして……怖いぐらい静まり返る会場。

 すぐに駆け寄って治療しようとすると突然、マーサさんが会場から飛び出してきた。


「サーシャ! サーシャ!」


 そう言って何度も何度もサシャを揺り動かすマーサさん。


「いや、ただの脳震盪だと思うからすぐに治る――」


「悪魔! この悪魔がサーシャを……サーシャを……」


 そう言って叫ぶマーサさん。

 は……ハメられた。


 なんで、こんな弱い女の子を出場させるのか不思議に思ってたがマーサさんの差し金だったのか。

「この外道がぁ! か弱い女の子に暴力振るうなんて最低だよ!」「そーよ、だいたいあんたさっきから何もしてないじゃない」「帰れ―! 帰れ―!」


 口々に観客が罵倒する。


 もともと『アナン公国大聖堂破壊事件』でブーイングを浴びていたが、さらに物なども飛んできたので急いで控室に戻る羽目になった。


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