そーゆーとこだぞっ!
二週間後、アナン公国は王都レッセルバルムでテーゼ女王の生誕祭が執り行われた。
街路にはレシウスの花がいつもより一層咲き乱れている。
数多くの屋台が開かれ、花、果物、工芸品などが売り出されている。多くの人々が往来し広場ではあらゆる催しが開かれていた。
初日のメインイベントは武闘会。その会場は王都レッセルバルムの中心地に設置されており、開始前にも関わらず、多くの人で溢れていた。
その開会式で景品の発表。優勝者は例年と同様、一等景品はアナン公国宝物庫の中から好きな宝を選べる権利。で、二等が毛生え薬。三等以下も豪華景品だったが俺には毛生え薬しか見えない。
『毛生え薬が二等?』と思った人は死ねばいいと思う。少なくとも、俺はそんな人の気持ちがわからぬ化け物の治療は断固、お断りだ。
心なしか、参加者も全般的に毛髪がうす……デリケートな方々が多いような気がしている。
受付締切の一時間前。イライラしながら奴を待つ。
「遅いな……なにをやってるんだ」
ストレスは毛根によくないのに……まさかこのまま来ないってことは――
「来ないんじゃないですか? 忙しい方ですし、ジーク先生に構ってる暇なかったりして」
オータムが不機嫌そうにつぶやく。
「なんでそういうことを言うんだよ」
「ふーんっだ」
そう言って、そっぽを向くオータム。
その機嫌はこの二週間、一向に戻ってはいない。
その時、奴は来た。一際異彩を放ったゴブリン。
次期ゼノ族族長のグリス。ゴブリンと人間の大きさはほとんど変わらないのだが、その体は他のゴブリンより一際大きく、鋼のような筋肉がそれを覆っていた。
「ったく、シエッタ先生もゴブリン使いが荒い」
不機嫌そうにつぶやくグリス。
「事情は聞いてるな? 早速、武闘会の説明を――」
「嫌に決まってるだろう」
グリスは、さも当然かのように答える。
「またまたー! ゴブリンの冗談はわかりにくいからやめてくれよ」
センスがないんだよなぁ。元々真面目すぎる種族だからさ。
「……冗談じゃない。嫌だ」
「……」
「……」
「えっ……マジで?」
グリスは深く頷く。
「えええええええっ! な、なんで?」
「……俺が『嫌だ』と言う理由は一五六個ある」
お、多い……
「俺がお前に何したって言うんだ!」
「そ、そういうとこだぞ貴様! お前の胸に手を当てて聞いてみろ!」
「……すまん、なにも思い浮かばん」
「そーゆーとこだっ!」
グリスが壮絶に拳骨を喰らわせてきた。
身体が地面にめり込み、思わず意識が途絶えそうになる。
「グリスさん。ジーク先生に協力したくない気持ち私には凄くわかります。すっごく、す――――――――――――――――――っごく、わかります」
そ、そんなに協調するなよ。
オータムは師匠であるグリスを兄のように慕っている。
「オータムも苦労してるんだな」
そう言ってグリスはオータムの頭を優しく撫でた。
嬉しそうに微笑むオータムに少し胸が疼く。
「でも! この武闘会にどうしても勝たないといけないんです。グリスさんの力が必要なんです。お願いします」
オータムはそう言って深々と頭を下げた。
「……別にお前の為じゃないからなジーク。オータムの為だ」
そう言ってぶっきらぼうに背中を見せるグリス。
「またまたぁ。相変わらずのツンデレゴブリンだなぁ。そもそも、引き受けてくれないんならここに来てないだろうし」
「……そーゆーとこだ! そーゆーとこが圧倒的に嫌いなんだよぉ!」
と、雄叫びと共に二度目の拳骨を浴びたところで、グリスは武闘会の参加者名簿にサインした。
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