第35話 俺は二度死ぬ
探知系の魔法使いを捜索するために、事情を一通りラーマさんに説明した。
「……なるほど。ジーク先生が医療魔術師じゃなくなるなんて私は考えられません。喜んで協力させて頂きます」
そう言って両手で俺の手をギュッと握るラーマさん。
両腕で挟まれた豊満な胸が修道服越しで強調され……わざとではない。決してワザとではないのだが、視線がそこに釘付けになってしまうではないか―(棒読み)
「わぁ、ラーマさん。ありがとうございまーす」
透き通るような綺麗な声の方に視線を移すと、オータムが満面の笑みで佇んでいた。
あっ……俺、死ぬわ。
「いえ、私なんかでそんなお役にたてるなら。それに……私、その方を知っているんです」
ラーマさんの言葉を受けても、まだその話を信用しきれない。大方、探知能力者を語る偽者か占い師程度の輩であろう。
決して彼女の言葉を信用してない訳じゃない。しかし、すでに確認されている探知系の魔法使いは厳重に保護されており一般の平民が気軽に依頼できるはずもない。
一説によると(と言うより、魔術広報社『ラジエッタ』の記事によると)、アナン公国、バカラ帝国、バーネストロ共和国には各々最低一人はいるが、三王の密約で国家を揺るがすほどの有事以外はその能力を使用しないと言う取り決めがされているらしい。
あのアナン公国女王であるテーゼ=トワイライトが中心となって推進されたこの条約は締結までにおよそ10年の歳月を要した。
なぜテーゼ女王がそこまでこの条約に固執したかは、あらゆる推論がなされている。
擁護派は、こう言う。
『人格者である彼女は、基本的人権を探知系の魔法使いに与えるために、この条約を締結したのだ』と。
反対派は、こう言う。
『彼女は探知系の魔法使いを恐れている。他国がその能力を使い、アナン公国を陥れる危険をなくすために彼女はこの条約を半ば強引に認めさせたのだ』と。
もちろん真偽は彼女の頭の中だけにあり、定かではない。
だが、少なくとも彼女と会った印象だけで言うと後者が正しいと俺は思っている。
そして、それだけ厳重に保護されている探知系の魔法者は各国による監視が一日中目を光らせている。
ゴードンさんが『探し物を導いてくれる女性がいる』というあいまいな表現を使ったのはそのためだ。いやそれはむしろアナン騎士団長であり、人格者である彼の精一杯の葛藤の末の発言だと言っていい。
もし、探知系の魔法者だと知れば彼は立場上、保護を余儀しなくてはいけない。
しかし、それは対象者を鳥籠の中に入れることと同義だ。
生活状況にもよるとは思うが、そんな生活を望むものは少ないだろう。
「その人は、今どこに?」
偽者や占い師程度の輩であっても、その繋がりで情報を聞けるかもしれない。今はそれしか手がかりがないのだから。
何より、ラーマさんの情報だ。絶対に喜ぶ。『わぁー、会えた会えた。さすがはラーマさん。出来る女は違うねぇ』とこれみよがしに手をギュッと握る。
「……実は、その方はこのリアルイン修道院にいるんです」
はい偽者―。
どんだけトントン拍子に見つかんだよ。どんだけ予定調和設定だよ。まあ、ラーマさんはすぐに人の話信じちゃう純粋な子だから仕方ないかもしれないが。
「あの……ラーマさん。いくらなんでもそんな都合よく――「バカ野郎オータム! ラーマさんがいるって言ってるだろう! いるに決まってるんだよ!」
反論しようとしたオータムを慌てて止める。
「バカやっ……そうですね、まあ今はそれしか手がかりないし。是非案内お願いします。ラーマさん。あっ、あとジーク先生」
天使のような微笑みを浮かべてオータムの唇が俺の耳元に近づいた。
「後で……覚えといてくださいね」
あっ……俺、二回死ぬわ。
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